「……ウォルター……エア……」
私は返答のない相手を呼び続ける。誰も応えてはくれない。私はウォルターの依頼を終わらせた。コーラルに火をつけた。これで私は自由になったらしい。
自由……そんなもの欲しくもなかった。
ウォルターは自分で選べと言っていた。そのたびに私は困った。選ぶのはむずかしい。選ぶの大変だ。選ぶのは心が痛い……選ぶのは……不安なのだ。不安でたまらない。それでも選んだ。ウォルターは指示ではなく依頼といった、その依頼を私は選んだ。初めて本気で悩んで決めた。
そうして初めて出来た友達も失った。
選ぶのはとても苦しいのだ。
これからどうすればいいのか何もわからない。
最後のウォルターのメッセージを何度も聞き直す。
『これからのお前の選択が……お前自身の可能性を広げることを祈る』
なにを選択すればいいの?私の可能性ってなんなの?何も浮かばない。何もわからないのだ。
何もわからない。何も知らない。それが私だ。強化人間C4-621、それでなくなった私になにがあるというのか。何もない空っぽがあるだけだ。
また、ウォルターの指示が欲しい。私に意味を与えてほしい。どんな内容でもいい。どんな敵だってやっつける。どんな作戦だってやりとげる。
指示が……命令が欲しい。空っぽの私はそれがなければ生きていけない。
「……ウォルター……指示を……」
私は届かない願いをつぶやき続ける。誰もそれに返してはくれない。
空が燃えている。比喩ではない。男が眺める空は文字通り燃えていた。
企業たちがこぞって手に入れようとしたコーラルは火がつけられ、全てが燃えている。殺し合い、奪い合いをした結果がこれだ。企業、封鎖機構、ルビコニアン、結局誰もが負けた。勝利者は誰か?そんなことを考え男は笑う。
「あいつに決まってる」
誰が勝利者なのか、男はすぐに思い浮かんだ。すべてを叩き潰して、何もかもを台無しにする。そんなことをするのも、そんなことが出来るのもこの惑星には一人しかいない。そう確信していた。
男は愛機ヘッドブリンガーを起動する。火の入った機体が体の一部になったような錯覚を覚える。
かつてないほどに調子が良かった。以前から悩まされていた耳鳴りも、もう聞こえない。すべてが燃えて、何もかもから解き放たれた。そんな気分だった。
「行くんですかイグアス先輩?」
通信が入る。
「せっかく拾った命でしょ?」
通信先の相手は引き止めるというより、あきれたような口調だった。
「負けたまま終わるつもりはねぇ……今度こそ俺が勝つ」
イグアスと呼ばれた男が応える。
「仮にレイヴンがあれを引き起こしたとして、生きてると思ってるんですか?」
「……はっ……生きてないわけがない。あの野良犬がそう簡単にくたばるかよ」
イグアスはそう言い切る。それは半ば願望だったのかもしれない。冷静に考えれば通信先の相手の言葉のほうが正しいのであろう。目指すべき相手があの炎の中心にいたとしたら、生存など望めるはずもない。だとしても彼は止まる気などなかった。
「てめぇも行くか?レッドガンの仇だろあいつは?」
今度はイグアスが通信先の相手に尋ねる。
「冗談でしょ……俺は拾った命を捨てる気ないですよ……弟たちに仕送りだってしなきゃならないんだ。負け犬らしくこの惑星からしっぽ巻いて逃げます」
話しているふたりは言葉の通り負け犬であった。イグアスは親企業のベイラムのやりように嫌気がさし、所属していたレッドガンから逃げ出した。その後単機でレイヴンに挑むもあっさり敗北。九死に一生を得たのは運が良かっただけだ。
通信相手は部隊からはぐれ、穴倉の中を孤立無援でさまよった。そうしている間にレッドガンも壊滅。偶然合流した二人のその後はアーキバスから隠れ回る日々。負け犬以外のなにものでもなかった。
そして、今日を迎えた。今となってはベイラムもアーキバスもない。この惑星中が彼らに構っている暇はなかった。今ならば誰も追ってきはしない。負け犬ならば負け犬らしく逃げ出せばいい。通信先の相手はそれで良しとした。
対してイグアスは負け犬のまま終わる気などなかった。そのために行くと決めていた。
「お前はそうすりゃいい。俺は行く」
「はぁ……狂ってますよ先輩」
「上等じゃねぇか。負け犬のまま終わるくらいなら狂犬のがマシだ」
イグアスはそう捨て吐き、ブースターに火を入れる。目的地は決まっている。あの燃える空の中心だ。
「…………そうですか……それじゃあここでお別れです……ご武運を
最後に懐かしい呼び名が聞こえた。
「……あばよ
イグアスも相応しい呼び名で返した。
今更この二人に許される呼び名ではなかったのかもしれない。それでも彼らは最後にそう呼び合った。どのような仕打ちを受けたとしても、どのような最後を迎えたにせよ、レッドガンという組織は彼らにとっての青春であった。
イグアスは氷の大地を進む。かつてここで争い合ったものたちはもうどこにもいない。死ぬか、逃げるか、どちらにせよここに居たいと思うものなどいないであろう。大地が割れ、世界が燃えている。地獄を連想させる風景だった。その地獄の中心に目指すべき相手がいる、その妄想ともいえる確信をもって機体を走らせる。
そして、それはいた。
安っぽいRaD製のフレーム、ベイラム製のアサルトライフルとタキガワ製のパルスブレード。特別なものはなにもないその機体。その特別でもない機体にすべてが屈した。イグアス本人もレッドガンも企業も封鎖機構もこの惑星の誰もが、それを駆る独立傭兵一人に負けたのだ。
そのただ一人の勝利者の前にイグアスはいた。
それがまだ健在であったことも、イグアスがそれに出会うことが出来たのも、奇跡のような確率だ。しかし、事実として彼らは向かい合っている。
「よぉ……野良犬……」
イグアスは目の前の相手に通信を繋ぐ。返答はない。いつものことだ。味方になったときも、敵になったときも、その相手から返答があったことはなかった。それは承知のうえで独り言のように言葉を続ける。
「……レッドガンの仇討ちってわけでもない……もちろん誰かからの依頼なんてもんでもない……」
イグアスがその相手と戦わなければいけない理由などなかった。もうこのコーラルを巡る戦いは終わった話だ。抜け出した古巣の仇討ちなんてことも言うつもりはない。もっと言ってしまえば今となっては恨みすらなかった。頭上で燃えるコーラルの火を見て以来、妙にすがすがしい。暗い思いなどもうなにもなかった。あるのは純粋で透明な気持ちだけだ。
「それでも……今日こそ俺が勝つ……」
ただこの相手に勝つ。それだけのシンプルな意思を伝え、イグアスは引き金を引いた。
ヘッドブリンガーから放たれる弾丸が目の前の機体のフレームをかすめる。円形状の外装によりはじかれてはいるが、確実にダメージは蓄積させていた。
(勝てる……)
イグアスはそう確信する。もともと最初の時点で相手は満身創痍ではあった。武装だって両手の二つしか機能していなかったし、機体の損傷だって目に取れるレベルだ。自身が有利に始まった戦いなのは間違いない。あともう一押しのリスクも必要とせず、このまま続ければ間違いなく勝利を手にすることが出来る。
(……勝つのか……俺は……)
だというのに、イグアスは苛立ちを覚えていた。
正確性の欠片もない相手から射撃を回避し、反射的にこちらからも射撃を返す。また当たった。相手の機体がグラつく。その姿を忌々しそうにイグアスは見つめる。
(なんだよこれは……)
相手が傷ついているのは見ればわかる。これまで戦い続きであったであろうことも理解している。疲労だってあるだろう。だとしても、目の前の相手がこれほどまでに力ない姿であっていいはずがなかった。
(そうじゃないだろ……)
数々の戦場を勝利したあいつが、レッドガンを単身で壊滅させたあいつが、この惑星を燃やしつくしたあいつが、『自分が憧れてしまったあいつ』が、こんなものであっていいはずがなかった。
「てめぇは!そんなもんじゃねぇだろ!」
イグアスは激昂しブースターの出力を上げその相手に突撃する。なんの得もない行為だ。このまま射撃戦を続ければ目の前の機体はいずれ崩れ落ちる。しかし、そんな終わり方をイグアスは求めていなかった。だからこそ前に出る、相手のブレードが届く場所に、自分を殺せるであろう場所に身を置く。身を削られない勝利など求めていない。イグアスは『戦った』うえでの勝ちを求めていた。
相手との距離が近づき、イグアスは神経を尖らせる。ブレードで迎撃するか、はたまた一度機体を横にすべらせ回避するか、あいつなら逆に正面から機体をぶつけてくることもあり得る。様々な状況をシミュレートしながら最高速で機体を走らせる。
そしてその相手は……なんの動きをとることもなく、その突撃をまともに受けた。
イグアスのヘッドブリンガーに圧し掛かられる形で相手の機体は地面に倒れこむ。反撃どころか、もはや動く気さえ感じられなかった。
「…………冗談じゃねぇ……冗談じゃねぇぞ!」
イグアスは吠えた。狂ったように吠え掛かった。
「動け!戦え!どいつもこいつも倒してきたんだろ!今度だってそうしろよ!俺を殺してみろ!出来るだろてめぇなら!」
別に殺されたいわけではない。殺す気の相手に勝たなければなんの意味もないのだ。そのために生き延びて、そのためにここまで来た。しかし、その相手にはもはや戦意などない。まるで抜け殻のようであった。
その抜け柄が口を開いた。
「……指示を……ウォルター……」
子供のような声色。子供が怯えるような、悲しむような、そんな声だった。
イグアスは耳を疑った。初めて聞いた仇敵の声は明らかに今まで想像してきたものとは違った。
消耗しきった相手の機体のコクピットをヘッドブリンガーの手ではぎ取る。モニターにコクピット内部の姿が映し出される。
そこにはただの少女がいた。白みがかった銀色の髪に、華奢な体。その体を丸めて震えている。震えながらうわ言のように呟き続けている。
「……ウォルター……命令をください……私に……指示を……」
あらゆる勢力を打倒した無敵の独立傭兵の姿はそこにはない。怯え、震えている少女が目の前にいる。
そうして狂犬ははじめて野良犬と出会った。
撃墜された。それでも私はまだ生きている。もう動かない『LOADER4』から引きずりだされ、相手のコクピットに移された。狭いコクピットのなかだ。相手は私を腕に抱えたまま機体を操縦している。
「くそがくそがくそが……」
不機嫌そうに苛立っているのはわかる。何について苛立っているのかはわからない。そうえいばこの人はいつも苛立っていたような気がする。
そして、今回は私が負けた。負けたら死ぬものと思っていた。もう死んでもいいと思っていた。なのに私は生きている。なぜ生きているのだろうか。なぜこの人は私を殺さないのだろうか。今までの言葉を聞く限り、私のことを嫌っているはずなのに。
悪路に入ったのか、機体が揺れる。私を支えている腕に少しだけ力が込められる。
「あまり動くんじゃねぇ野良犬!鬱陶しい!掴まってろ!…………くそが……なんだよこれは……」
相変わらず機嫌は悪そうだ。口調もウォルターやエアと違ってまるで優しくない。
なのにこの人はなぜ優しく私の体を支えているのだろうか。
なにもわからない。ただ、言われるままにその人の腕にしがみついた。
イグアスは廃墟の窓から空を眺める。相変わらず空は燃えている。発火の中心部とは随分と距離をとったと思ったが、風景はあまり変わっていないように感じた。どこまで行っても砕けた地面と、燃える空が見える。そもそも燃えているという表現だが、実際の炎とはまた違う現象なのかもしれない。真っ赤な空に対して、相変わらず氷の大地の気温は低い。
イグアスは拾ってきた少女とふたり、中央氷原にある適当な廃墟に身を寄せていた。誰もかれも逃げ出してしまったあとだ。生存者がいたとしても海を越え大陸の反対にでも行っているであろう。彼らが一時的に体を休める場所はどこにでもあった。安全とは言いがたい。地形は変化し時折地響きがする。燃えるコーラルの下にいては人体にどのような影響が出るかもわからない。イグアスはその点については深く考えていない。この惑星のどこに行ってもそんなもの。そう割り切っていた。
彼にとって問題はそのことではなく目の前の少女であった。
(どうすりゃいい……)
少女は逃げようともせず、身じろぎ一つさせず地面に座っている。
改めてイグアスは少女のほうを確認する。
少女といっていいくらいの相貌に見えた。酒の飲める年頃の少し前と言ったところか。体型も小柄で華奢。パイロットスーツごしでも線の細さがわかる。無造作な銀髪のおかげで赤色の瞳が随分目立つ。見かけは悪くない。イグアスが想像してきた仇敵の姿とはなにもかもが違った。
少女は一向に固まったままだ。イグアスのほうもどうしたものか考えあぐねている。
(……俺はこいつをどうしたいんだ?)
殺したかった、倒したかった、勝ちたかった……憧れていたのだ。不本意でも、認めがたくても、あの無敵の独立傭兵に憧れていた。その清算をするために惑星が燃えた後でさえ戦いを挑んだ。
その相手がこうしていま目の前に生身で座っている。
戦いに挑む前のすがすがしい気持ちは消え去っていた。なにもかもにイラつく。相手がこんな少女であったことも、その相手がろくに戦う気がなかったことも、それで自分が勝ってしまったことも、全てに腹がたった。
(……なぜ拾ってきた?)
自分でもわからなかった。うまく言葉にできない。ただ、これで終わりということだけは認められなかったということであろう。あの場に動かない機体と一緒に少女を放置して生き残れるとは思えない。
イグアスは大きくため息をつき頭をかく。少女のほうはずっと同じ姿勢のままだ。何を考えているのかもわからない表情でイグアスを見ている。あるいはなにも考えてないのではないかともイグアスには思えた。
どうすべきか相変わらずわからない。何を語っていいのかもわからない。そんな状況に嫌気がさして、イグアスは考えるのをやめた。もともとそういうことが得意な性質ではないのだ。食事をとって寝てしまおう。そう決めた。
イグアスは手持ちのレーションをポケットから取り出す。砂の塊に砂糖を混ぜたようなものだ。口に入れるのも躊躇われるが、食べないわけにもいかなかった。明日はまともな食事でも探しながら移動しよう。そんなことを考えながら齧る。ザラザラとする感触が不快だ。
地面に座っている少女にも同じものを投げる。
少女は受け取ることもせず、地面に転がったそれを不思議そうに見つめる。その態度にイグアスはまたいらつく。
「毒なんざ入ってねぇ。いいから食えよ」
「それは命令ですか?」
イグアスの言葉に少女は妙な言葉を返す。
「……っ……そうだよ!命令だ!……俺が勝ったんだ。俺の言うことを聞いてろ」
その言葉にイグアスはろくに思考せずに返答する。彼からしてみれば特別に意味のある会話には感じなかった。強いていうなら自分の口から出た『俺が勝った』という言葉にイラつきを覚えたくらいだ。
「わかりました。食事を開始します」
少女はイグアスの言葉の通り食事をはじめる。
相変わらず何を考えているのかはわからないが、少し和らいだ表情に見えた。
「……うまいか?それ?」
それを見たイグアスは少し不思議そうに尋ねた。
「わかりません」
少女はそんな言葉を返した。
空は相変わらず燃えている。地獄の風景だ。そんななかで、二人の間の空気は間の抜けたものだった。
私は横になったまま部屋の反対のほうを見る。イグアスはいびきをかいて寝ている。人間が目のまえで寝ているというだけでも少し不思議な感覚であった。そういえばウォルターの寝顔も見たことはなかった。
あの人が今の私の飼い主になるのだろうか。命令を与えてくれるのだからそうなのであろう。
……少し安心した。
また、私を飼ってくれる人がいた。指示を出してくれる人がいた。これで私は生きていける。なにもない空っぽの私でも生きていけるはずだ。
「……ごめんなさい……ウォルター……」
私は小さくつぶやく。
たぶん、ウォルターが望んだように私は生きられない。何かを選んで、自分で進むことが出来ない。
怖いのだ。自分で選ぶことが。やってくる結果が。
誰かに指示を貰うのは……安心できる。
イグアスもウォルターのような優しい飼い主になってくれるだろうか。
アーキバスに捕らえられていたときみたいに、痛いのは出来れば嫌だ。
次も優しい飼い主であってほしい。そうであれば嬉しい。そんな風に思った。
(……よく寝たな……)
イグアスが目を覚ます。頭を悩ませていた耳鳴りや、逃亡生活で最近はろくに眠れていなかった。イグアスにとっては久々の熟睡であった。
あくびをしながら身体を起こす。眠気眼で窓のほうを見る。空が燃えていた。眠りが深すぎたせいか、寝起きの頭はろくに働かない。どういう状況であったか?考えながら部屋を見渡す。そうすると、少女が一人寝床のすぐそばで座っていたことにやっと気づいた。イグアスは驚いて少しのけぞる。
少女は無表情のままイグアスのほうを見ている。
寝る前の記憶が戻ってくる。面倒な状況であったのがやっと思い出せた。
イグアスは少女のほうを見る。少女は相変わらず黙ったままこちらを見つめている。何を考えているのかまったく理解できなかった。
「……ちっ……なにか言えよ」
嫌味なようにイグアスが言う。その言葉を聞き少女は少し悩んだような表情をする。数秒後やっと思いついたのか口を開いた。
「おはようございます」
気の抜けた言葉だった。
「はぁ……長々悩んだ末に出てきた言葉がそれかよ……」
「間違っていましたか?」
「…………間違っちゃいねぇよ」
相手にするのも面倒といわんばかりに体を起こす。
相変わらずは空の上ではコーラルが燃えている。今更離れたところでどうなるものとも思えなかったが、それでも遠ざかるべきだろうと考えた。あれの中心から離れていけば、生き残っている人間に出会える可能性もある。いまのこの惑星の状況も確認したかった。
イグアスは黙って立ち上がり廃墟から出る。無言の少女も後ろからついていく。
背後の足音を聞き億劫になる。少女は嫌がるそぶりすら見せずに付いてくる。いっそ逃げ出してくれたほうが気が楽であった。そうであれば、追う気はないし、おそらくそう悪い気分にもならないと思った。
(まぁ今の状況じゃ逃げるに逃げられねぇか……)
被災した地域に取り残された状況ではある。被災してないない場所がこの惑星にないにしても、逃げるなら人が活動している場所でするだろう。そう勝手に納得した。
イグアスはヘッドブリンガーに乗り込む。シートに腰を下ろし機体の起動にかかる。その姿を少女はコクピットの外から見ている。中に入っていいのかわからず躊躇っているように見えた。
「……ちっ……いいぞ。入れ」
その姿を見て、不機嫌そうにイグアスが言う。
少女はその言葉を聞き、昨日運ばれたときのようにイグアスの腕の中に収まる。改めて華奢な体だとイグアスは思った。それ以上のことは考えない。ほとんど無意識ではあるが、自分と少女との関係に対して線引きをした。イグアス本人とって、仇敵との戦いはまだなにも終わってはいないのだ。
機体を起こし、出発する。どこまでも空は燃えている。それでもその中心から反対の方向へ機体を走らせる。戦闘機動ではないため、ほとんど自動操縦である。それにしても人一人抱えての移動は負担に感じた。
「邪魔くせぇ……」
イグアスがつぶやく。
もう一機何かが欲しい。そうすればこの荷物を抱えずに住む。欲を言えば移送用のヘリがいい。あれは生活拠点としても使える。まともなベッドで久しぶりに眠りたい。どうせ誰もが逃げ出したあとだ。どこかに一台くらいあるのではないか。そんなことを考える。
「……ごめんなさい」
あれこれと考えている中で、腕の中の少女が言った。イグアスの呟きに対しての返答としては随分タイミングが遅かった。抱きかかえているような体勢では表情は見えないし、声色も感情を感じさせない。申し訳なく思って言っているのかもわからなかった。
(面倒くせぇ……)
今度は口に出さない。
腕の中に少女がいることも、それについて謝ってくることもイグアスには面倒にしか感じられなかった。
少なくともいまのこの移動をいつまでも続けていく気にはなれない。イグアスはそう思いながらため息をついた。
至らぬ点があるかもしれませんがよろしくお願いいたします