燃え尽きた惑星の上で   作:ただの誰か

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10話 私はフィーカを淹れられます

イグアスに急かされて、私は身支度を整える。新しい仕事のためにこの施設を離れるらしい。必要なものだけを手早くバッグに入れていく。といっても、食料などの必需品はもう機体のほうに移したあとなので、大した量があるわけでもない。手早く自分の荷物をまとめ、最後にミルとローストした豆の詰まった袋を入れる。いつまの間にか豆の量も随分と減ってしまっている。毎日ふたりで飲んでいるのだから、それも当たり前の話だ。

 

減ってしまった分は、これまで私とイグアスが二人で歩んできた日々だ。それは私にとってかけがないものなのだろう。しかし、減っていく豆は、その日々が目に見えて無くなっていってるような錯覚も与えてくる。この豆が無くなった時、どうなるのか考えると怖い。無くなると同時になにかも終わってしまうのではないか、そんな感覚に襲われる。

 

嫌な妄想に憑りつかれそうになり、私はそれを隠すようにバッグを閉じる。不吉な未来のことなど考えたくもなかった。

 

バッグを持ち、寝泊りした部屋から出て機体のもとへと向かう。機体の周りではイグアスが施設の人たちに「世話になった」と笑顔で挨拶をしている。出ていくことに未練はないみたいだ。その姿が私は少し悲しい。

 

私は未練がある。危険のない仕事をし、ふたりでフィーカを楽しむ生活。ずっとそうである保証がないのはわかっている。それでもここでの生活は私にとって未練であった。そして、イグアスが同じようにそのことを未練に思ってくれないのが私には悲しかった。

 

 

 

 

しばらく滞在した施設を後にし、イグアスたちは廃墟をかき分け機体を走らせる。どこまでいっても無人の世界が見える。たまに見かける人影は全て死体だ。人の集まっている場所では忘れがちになっていたが、燃え尽きて捨てられる惑星であることをイグアスは改めて思い返した。

 

(……こんな惑星いられるか……)

この惑星にはもうなにもない。人も資源もない、戦争すらもうできはしないのだろう。外とは完全に閉ざされ、取り残されたものたちが文字通り土着となって朽ち果てる。そんな終わりきった世界だ。そんな場所で自分を終わらせるなんてことは、認められなかった。

(あいつ……やっぱり連れてきてよかったな)

港のキャンプでオールマインドに唆されたとき、そのまま置いていかなくてよかったとイグアスは思った。

自分の憧れた相手もこんなところで朽ちていかせるわけにはいかない。全てがうまくいけば、ふたりで惑星から抜け出し、また新しい戦いを探せばいい。どうせ宇宙には争いが溢れている。そして、少女をまた羽ばたかせるのだ。自分が憧れてしまった存在をまたもう一度。

 

いつの間にか敵として対峙したいという意識はイグアスから消えていた。ただ、憧れという存在を維持することでイグアスは満足しようとしている。それは、その憧れがなかば虚像になりかけていることを、無意識に感じ取っていたからかもしれない。

 

 

 

「仕事の内容を送っとく。お前も確認しとけ」

イグアスはレッドから送られてきた情報を、少女のほうにも転送する。送られてきたものに少女は目を通す。仕事の内容は標的の撃墜。標的は封鎖機構の特務機体をアーキバスが改修したもの。それらの情報を目にとおした少女は、思わず機体の足を止める。

スティールヘイズの足が止まり、それに気づいたイグアスも自身のヘッドブリンガーを静止させる。

「どうした?トラブルか?」

何があったのかと尋ねイグアスにたいして、少女は震えた声で返す。

「ダメです……この仕事はダメですイグアス。断りましょう」

少女の言葉にイグアスは驚く。少女が自分の決めた行動に異を唱えたことについてもあるが、なによりその震えるような声色が一番引っかかった。まるで怯えているようではないか。

「なにがダメだってんだ。敵をぶっ倒すだけだ。あ?あれか?生体ユニットだのなんだのが組みこまれてるってのが気になったのか?」

そのような情報があったと思う。それにたいして気が引けてるのかとイグアスは勝手に判断する。

「生体ユニットなんてもはや人間じゃねぇ。相手は機械と思え。そうすりゃお前だって気がねなく撃てるだろ」

 

イグアスの言葉にたいして、少女はコクピットのなかで一人首を振っていた。

(違うんですイグアス。撃てるとか撃てないとかそういう話じゃない……)

少女が問題にしていてはイグアスが考えているようなことではなかった。

(今の私たちでは、あれには勝てない)

 

少女の危惧はシンプルな話であった。単純に勝てない。それだけである。

少女はかつて戦った、封鎖機構の特務機体『バルテウス』のことを思い出す。空を埋め尽くすようなミサイルの弾幕に、強固なパルスアーマー、火炎放射器などのその他火器。それらを備えたうえで高速で飛行するその機体。少女が戦ったなかでも、強敵と言って間違いない相手だ。それらにさらに改良が加えられているというのだ。今の自分たちに勝てる道理などなかった。イグアスの腕前とヘッドブリンガーでどうにかなる相手ではないし、少女に至ってはその辺のスクラップのような相手に苦戦するのが現状である。

撃墜されるスティールヘイズとヘッドブリンガーの姿を想像してしまう。それを考えるだけで、少女は機体を前に進めることすらできなくなった。

 

勝てない。それをどう伝えればいいのか、少女は言葉に詰まる。『もう自分は弱くて勝てません。だから一緒に逃げましょう』そんなことを伝えるわけにはいかない。

 

「てめぇ……何か言えよ」

イグアスのイラついた声が響く。しかし少女はなにも口に出すことはできない。ただなにを言えばいいかわからず混乱するだけで、なんの打開策も見つからない。

 

そんな時だった、双方の機体のレーダーに反応があった。上空からの反応だ。二人は言い争いをやめ、レーダーに映る機影を注視する。まだ、標的のいる地点ではない。想定外の出来事であった。そうやって身構えるふたりの予想に反して、接近する機影から、随分フランクな通信が飛んできた。

「やぁビジター。まだ、ちゃんと元気に生きてるかい?」

その通信は少女のかつての仲間、シンダー・カーラからのものであった。

 

 

 

 

ザイレムに手動操艦で特効する羽目にはなったが、カーラは生きることを諦めたわけではなかった。出来る限りの手をうち、なんとか命を繋いでいた。その後カーラは根城であるグリッド086 に帰還し、部下とともに移送用のヘリで中央氷原へと向かった。目的は少女の回収。誰も彼も逃げ出すような世界の中で好き好んで危険なほうへと向かっていくのだから、RaDの面々は少々頭のネジが外れているところがあった。

 

カーラは少女の生存まではほとんど考えていなかった。機体を見つけることすら期待してはいなかったかもしれない。それでも彼女は何もやらないまま、諦めてしまうような性分ではなかった。『仮に死体になっていたとしても、自分たちに付き合わせてしまった少女の弔いくらいはしてやるべきであろう』なんてことを考えながら、探索を行った。

 

そして、奇跡的にも少女の機体は発見された。ただ問題であったのは、その機体の主である少女の姿がなかったことだ。

カーラは機体のログから、最後に戦闘を行い、コクピットから少女を引きずりだしたのが、かつてレッドガンに所属していたイグアスであることを突き止めた。おそらく少女はイグアスと共に行動している。そのことがわかってからはひたすら少女たちを追う日々だ。

 

人の集まる港に行き、オールマインドを名乗る怪しげな男に話を聞き、ヘリを飛ばし続け、やっと少女たちへと追いついた。

 

ヘリが二人の機体前に着陸しカーラはヘリから飛び出てくる。イグアスと少女も機体から降りてそれを出迎える。

「ビジター!よく生きていたもんだね!」

そう言いながらカーラは嬉しそうに少女を抱きしめる。その身体の感触をしばらく確かめてから、やっと離して少女の顔を覗く。

「カーラも……よくご無事で……」

そう言いながら少女は涙を浮かべている。それを見てカーラは驚く。自分が生きてることに対して、少女が涙を流している。しかも、その表情は嬉しさや安堵が混ざったような複雑なものだ。今まで自分が接していた少女とはなにもかも違った。

「イグアス、紹介します。私の仲間だったカーラです」

カーラが面を食らってる間に、少女は嬉しそうに後ろで眺めていた男に声をかける。

「RaDの親玉だろ。聞いたことくらいは俺にだってある」

「でも会って話すのははじめてではないですか?ちゃんと紹介します。こちらに来てください」

「……ちっ……わかったよ……」

 

少女は楽しそうに男を呼ぶ。カーラからしてみれば信じられないような光景であった。表情もなく、ただ任務をこなすためだけに存在していたような少女が、嬉しそうに男に声をかけ手招きしている。自分が知っている少女と同じ人物であるのか、疑問すら湧いてきていた。

「カーラ、彼はイグアスです。今の私の飼い主です」

嬉しそうに少女はそう言う。まるでそれが喜ばしいことであるかのような口調だ。隣にいる頭の悪そうなチンピラそのものような男は、罰の悪そうな顔で目をそらしている。

(これまた、随分とおかしなことになったもんだね……)

カーラは心の中でそう呟いた。

 

 

 

イグアスと少女はカーラのヘリに乗り込み、これまでの経緯を話した。といっても語るのはもっぱら少女のほうで、イグアスのほうはばつが悪そうに相槌をうつだけである。イグアスからしてみるとどうも居心地が悪かった。少女はまるで自分がとてつもなく素晴らしい人間であるかのように語るのである。優しくしてもらえた、人に役立つ仕事をしてきた、談笑しながら食事をした、一緒に毎日フィーカを楽しんできた……。

そうやって嬉しそうに語る少女とイグアスには温度差がある。イグアスは自分の人間性をなんら評価していなかったし、そのような部分を評価されたいと思ってきたこともなかった。イグアスが評価してほしいのはAC乗りとしての自分である。ただ、イグアスは、嬉しそうに語る少女を遮るようなこともしなかった。

 

「そうだ、フィーカを淹れましょう。カーラにも是非飲んでもらいたいです。イグアス、構いませんか?」

「……いいんじゃねぇか」

イグアスから許可を貰い、少女はいつも使っている豆とミルを取り出す。

「それなら、ヘリの給湯室を使ったらいい。水くらいはうちから出さないとね」カーラがそう言う。

 

少女はカーラの申し出を受け取り、喋っていた部屋を出て、給湯室のほうへと向かった。部屋にはイグアスとカーラの二人が残される。

少女が出ていくのを確認した後、すかさずカーラが口を開いた。

「随分可愛がってたみたいだねあの子のこと」

「別に可愛がっちゃいねぇよ……あいつが勝手に勘違いしているだけだ」

そのイグアスの返答にカーラの表情が固まる。

「…………あんた本気で言ってんのかい?」

「あ?……本気だよ何か文句でもあるか?」

「……まぁあんたがそう言うならそれでもいいさ」

イグアスは少女が語った内容を否定したわけではない。少女が語った内容は概ね事実ということになる。一緒に食事をし、趣味を楽しみ、今ではお揃いかのようなジャケットまで羽織っている。これでも『可愛がっちゃいない』というイグアスは傍から見れば随分と滑稽ではあった。

 

「ともかく、感謝してるよ。あんたが拾ってくれたおかげであの子は無事こうしてる。表情も愛らしくなったしね。あの鉄仮面も嫌いじゃなかったが……今のほうがやっぱり人間らしくはある」

カーラの知る少女は、人としての表情を見せるようなものではなかった。飼い主に忠実なきちんと訓練された猟犬。まさにそのような感じであった。今の少女は違う、嬉しそうに男について語り、自発的にフィーカを淹れる提案までする。

「散々付き合わせちまったからね……これからの余生くらい、人並に過ごさせてやりたいもんさ」

カーラは自傷気味に言う。カーラとしても少女に自分たちの仕事を付き合わせたことは負い目のようなものがあった。元を辿れば、少女の元の飼い主が保護しなけば、こうして生きてすらいなかった可能性もあるのだが、それでもあのような大量殺戮の片棒を担がせてしまったことに変わりはない。今更虫の良い話なのはわかりつつも、少女の今後は少しくらい明るいものにしてやりたかった。

そういう意味ではカーラはイグアスに世辞を抜きに感謝している。あの少女が笑顔を作って、楽しそうにしているのは、イグアスの影響あってではある。ただカーラ個人の気持ちを言えば、『こんなチンピラに……』と思うのも本音なところだった。

 

「今更よく言ぜ。人並だのなんて言える状況かよ」

イグアスの言葉に苦笑いでカーラは応える。実際彼の言った通り、今のこの惑星は人並に過ごすという言葉からほど遠かった。

「それに、俺のほうは文句だってある。てめぇらがあいつにあんな事させたせいで、あいつ今新兵病にかかっちまって、難儀してるんだ」

「……新兵病?」

「あぁ、人が撃てねぇってよぉ……おかげで実戦じゃ雑魚ども相手に手こずるざまだ」

イグアスは文句を言うかのように、カーラに今の少女の症状を説明する。人が撃てないせいで、動きが悪い。格下相手でも苦戦する様で腹がたつ。ミサイルから逃げまわり、攻撃の精確性もない。あいつならもっとやれるはず。このようなことをフラストレーションを晴らすかのようにまくしたてる。

 

それを聞いたカーラは、少しおかしさを覚えた。人が撃てないというだけであるなら、少女がそこまでの劣化をみせるような気はしない。少女の腕前であれば、格下相手ならば殺さずに倒すくらいのことはやってのけるはずだ。

 

それよりも思いつく原因がカーラにはあった。不思議なのは、目の前の男がまるでそのことに触れようとしないことである。

「ちょっと待っておくれ……あんた、おかしいとは思わないのか?」

カーラが文句を続けていたイグアスに割り込む。

「は?……なにがだよ?てめぇらのせいだろ」

「いや、別に私たちのことを擁護しようだなんて思っちゃいないさ。ただねぇ……あの子が弱くなっちまったのなら、もっとわかりやすい要因があるだろ」

カーラのその言葉にイグアスの表情が固まった。嫌な予感が身体中に広がる。

 

「鍛えられた猟犬を、散々甘やかして普通の女の子みたいにしてやったのはあんたじゃないかい。あの子が弱くなったとしたら、それは猟犬から人間にしてやったからだろう」

目をそらし続けてきた現実がイグアスに突きつけられる。思い返せば心当たりなどいくらでもあった。それでも気づかないように自分を騙し続けてきた。自分の憧れ(レイヴン)がバカな自分のせいで失われた。そう理解したくなかったのだ。

 

そのとき、物が落ちる音が聞こえた。カーラとイグアスは同時にそちらの方を向く。向いた先には青ざめた表情でふたりを見ている少女がいた。

 

 

 

 

私は給湯室でフィーカを淹れる。これをカーラに飲んで貰うことが今から楽しみだ。昔に比べると随分とうまく淹れられるようになったと思う。イグアスからも一度だけ褒めてもらえた。カーラもきっと気に入ってくれるはずだ。

 

カーラが私たちを見つけてくれほんとうによかった。あのまま、勝てない相手に向かっていくことになっていたら、どうなっていたか考えるのも恐ろしい。こうやって、フィーカを淹れることだって出来なくなっていただろう。

カーラが居ればきっともっと他の手段があるはずだ。あんな危ない仕事をしなくても、惑星を脱出できるかもしれない。イグアスも簡単な手段があるならきっと納得してくれるはずだ。なにもかもうまくいく。きっとそうなる。

 

私はカップにフィーカを入れ、部屋へと戻る。皆で楽しくフィーカを飲みながら、これからについて語ればいい。そんな都合のいい妄想をしながら、私は部屋へと入る。ちょうど、カーラが喋っている言葉が聞こえた。

『あの子が弱くなったとしたら、それは猟犬から人間にしてやったからだろう』

その言葉に私の身体が固まる。せっかく淹れたフィーカのカップも落としてしまう。イグアスがこちらを見ている。私が必死に隠そうとしていた事実を知り、なにを思っているのだろうか。

 

先ほどの都合のいい妄想は既に消え去った。私が捨てられてしまうときが、突然に訪れた。

 

 

イグアスは固まったまま動かない、私もどうすればいいかわらずただうつむくことしかできない。助けを求めるかのようにカーラのほうを見る。彼女は悠然とタバコに火をつけながら私たちを眺めている。自分が出した言葉で私たちはこんなことになってしまったというのに、助け舟を出す気はなさそうだ。

 

どのくらい無言の時間が続いただろうか。私はなんとか沈黙を破り、口を開く。

「……た、確かに今の私が以前に比べて弱くなったことは否めません……でも、それだってまた訓練すればきっと元通りに……」

なれるわけがない。カーラが言ったように、私はもう猟犬ではない。戦闘の恐怖に震える、情けなくて弱い人間だ。それでも私は言いつくろうように言葉を続ける。

 

「シミュレーターでの戦闘を思い出してください。元通りに戦えるようになれば私はあなたよりずっと強くいられる」

私の言葉を無視するかのように、イグアスがゆらゆらと立ち上がる。私のほうに目は向けない。そのまま重そうな足取りで歩き始める。

私はそれを止めるために必死に言葉を紡ぐ。

「仮に元通りにならなくても、戦闘以外の任務であれば問題なくこなせます。これまでも、回収作業や、ワームの捕獲をしてきました」

イグアスは私のほうを見ずに、出口の扉のほうへと歩いていく。

「……え……あ……」

イグアスを止めるための言葉が続かない。それでも必死に言葉を探す。

「掃除ができます!洗濯だってやれます!」

出てくる言葉はもう、どれも役に立たないものだ。イグアスは元よりそんなものを求めてはいない。

歩きながら、イグアスが口を開いた。何もかもに失望したような冷たい声だった。

「……次はそこにいる女の指示を聞いてろ……そいつが新しい飼い主だ……俺にはついてくるな……」

「……いや……嫌です!」私は懇願するようにイグアスに向かってあゆみ寄ろうとする。

「命令だ!」イグアスの声が響き、その足も止まる。命令と言われてしまうと、もう私にどうすることもできない。命令を聞くという行為が私に染みついてしまっている。

 

そのままイグアスは部屋を出るため扉を開ける。

 

ダメだ。嫌だ。ここで止めなくてはならない。カーラが飼い主で嫌なわけではない。私はただ、あなたと離れたくないのだ。

 

「フィーカを淹れられます!」

ふり絞って出てきた言葉がこれだった。なにか考えたわけではない。心が自然とその言葉を口にさせていた。一瞬イグアスの足が止まる。しかし一瞬だけだった、イグアスはそのまま部屋の扉を抜けて歩いていく。

それでも私は言葉を続ける。

「粉末を溶かすだけじゃない!ミルを使ってフィーカを淹れるんです!あなたがくれたミルで!最初はうまくて出来なかったけど……この前はあなただって褒めてくれた!……そうです!……ACなんてうまく動かせなくても!私は上手にフィーカを淹れられるんです!」

私がいくら言葉を紡いでも、もうイグアスの姿は見えもしない。

「私は……フィーカを淹れられるんです……」

泣きながら私はその場にへたり込む。

イグアスにとって、もう私なんて何の価値もないのかもしれない。彼が求めていたのが猟犬のレイヴンなのはわかっている。ただそれでも……人間の(エア)だって求められたかった。価値があるって言ってほしかった。

 

フィーカだってほんとは好きじゃなかったのも知っています。だって、最初に飲んだときの顔と、最近飲んだとき顔は全然違うんだもの。でも今は……美味しそうに飲んでくれるじゃないですか。悪くないって言ってくれたじゃないですか。そのことに価値がないなんて思いたくなかった。

 

イグアス……あなたにとって私は猟犬のレイヴンが全てではないとダメなのですか?人間の(エア)ではダメなのですか?

 

私はその場で泣き続ける。外からACが飛び立って行く音が聞こえた。その音を聞くと、さらに私は涙がこぼれる。イグアスはもう行ってしまった。

 

 

無敵の独立傭兵(レイヴン)でいられなかった役立たずの(エア)は、こうして捨てられた。

 

 

 

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