燃え尽きた惑星の上で   作:ただの誰か

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最終話 燃え尽きた惑星の上で

 

 

「カーラはこれからどうするんですか?」

少女がカーラに尋ねる。

 

「しばらくはあのバカどもの面倒みるさ……落ち着いたら……まぁまたひと眠りするよ。コーラルだってまた50年後はどうなってるかわからない。流石に2度あることは3度あるなんてことは止めてほしいがね」

「……コーラルは完全に消え去ったのではないのですか?」

「アーキバスがかき集めた集積コーラルは焼き払った……ただ、あれはこの土地から湧いたものだろ。それが全部消えたとも思えなくてね……私たちが生きておいて、コーラルだけ絶滅したなんてことは……おそらくないだろ……命ってのはそういうもんさ。一度生まれたものは、そう簡単には死なない……ウォルター風に言うとまぁそんなところか」

少女もカーラと同じことを思った、自分たちだけが生きておいて、コーラルだけが消え去るなんてことはないだろう。

『なにもかも燃え尽きれば』話は違ったのかもしれない。この惑星から人もコーラルも、命あるものすべてが無くなる。そちらのほうが世界としても正しかったのではないか。なぜか、自分たちが燃え尽きず、生きている。それは少し不自然で間違っているのではないか。そんな気もしていた。

 

(間違いだとしても……構いません……)

それでも自分たちはこうして生きている。生きたいたいと思っている。その事実は今更変えられようもなかった。

 

「じゃあ、今度は50年後にお会いしましょう」少女は笑いながら言う。

「あぁ、ちゃんと出迎えておくれよ」

カーラはそう言って抱きしめたあと、少女を送り出す。少女は数歩下がり、カーラはそのまま背後にあったヘリに乗り込む。ヘリはカーラを乗せた後飛び立っていく。

 

その姿をイグアスはヘッドブリンガーのコクピットから眺めている。身体が治るまで居候させてもらい、機体の修理までしてもらった。散々世話になってしまったし、自分も挨拶位したほうがいいような気もしていたが、少女とカーラのふたりにわって入るのも気が引けて、このようにコクピットに引きこもっていた。

 

そのイグアスにメッセージが届く。カーラからであった。

『あの子を頼んだよアホのチンピラ』

その短いメッセージに苦笑しながら、イグアスもメッセージを吹き込む。

『任せとけ年増のババァ』

相手も向こうで苦い笑いをしてくれればいい。そんなことを考えながらメッセージを送信する。

そうしている間に、少女のほうもスティールヘイズに乗り込み出発する準備を完了させている。

 

「それじゃあ行くか」そう言ってイグアスは、氷の大地の上にヘッドブリンガーを走らせた。

 

 

 

 

私の乗ったスティールヘイズがイグアスのヘッドブリンガーに追従する。結局またこの氷の大地に戻ってきてしまった。私はそれでいい。この先どうなってしまっても、私はたぶん納得できる。ヘッドブリンガーのほうを見る。イグアスは納得できるのだろうか……もしかしたら、今も出来ていないのかもしれない。この惑星にあるのは取り残され、終わった世界だ。

 

「畜生……またあの野郎の世話にならなきゃいけねぇのか……」

通信越しにイグアスが愚痴る。

「カーラ達の所に残るという方法もありましたが」

「インテリぶった薬中どもに比べたらまだあっちのがマシだ。……まぁこれからこの惑星で生きていくならあっちのほうがいいだろ。『商売をするなら狂人相手はやめておけ』っていうしな」

「それは誰の言葉ですか?」

「うさんくせぇ詐欺師の言葉だ。その昔、ヴォルタが習ってる横で聞いた」

そう言ってイグアスは通信越しに笑う。もしかしたら、昔の一場面でも思い出しているのかもしれない。

 

「レッドガンに居た頃は楽しかったですか?」

なんとなく、私は聞く。

「はぁ!?楽しいわけねぇだろ!!……俺がどれだけミシガンのくそ親父にしごかれたと思ってんだよ!!」

「その割には随分楽しそうに笑っていましたので」

「そりゃぁ……中には楽しかったこともあるさ。敵をぶっ倒して、同僚とバカ騒ぎして、ダチとあれこれ愚痴りあって………………あぁ……そうか……ゴミみてぇなとこと思ってたが……結構楽しかったんだな、俺……」

感慨深くイグアスが呟く。

「てめぇのほうはどうだったんだよ」

今度はイグアスのほうが聞く。

 

私は自分の過去を思い返す。といっても私にはイグアスと違って大した記憶なんてない、思い出せるのはウォルターに拾われたとこからだ。ウォルターの猟犬として生きた時間。鍛えられ、敵を倒し、褒めれる。猟犬の私にはそれが喜びであった。

 

そして、友達にも出会った。『エア』という名前の友達だ。彼女と一緒にいるも楽しかった。色んな話をして、爆発を見て花火だなんて言ったりして。……そう、友達だったのだ。もしかしたらウォルターではなく、彼女の願いを聞いた世界もあり得たのかもしれない。……でもそうはならなかった……切り捨てて、名前まで貰って、それでも私はいまでも彼女が友達でいてほしくて……もし、彼女にもあの世で会えたらなんて謝ればいいのか……私が死ぬまでに考えておこう。

 

ほかにもたくさんの出会いがあった、カーラやチャティ。ラスティも私に気をかけてくれた。よくわからない人やおかしな人、とても強い人、色んな人がいた。そこをLOADER4と共に猟犬として駆け抜けた日々は楽しいというのは違うのかもしれない、それでも……

「大切な思い出です」

私はそう答える。その解答にイグアスは笑いながら「そうかよ」とだけ言った。

 

そうして、しばらく沈黙が続く。急にイグアスが黙った。なにか考え事でもしているのだろうか。そうやって時間をかけたあと、イグアスはやっと口を開いた。

「エア、あとどのくらいでつく」

どうでもいいような内容だった。私は反射的に「おそらく5時間ほどかと」と目的地まで残り時間を報告したあと、おかしなことに気づく。

 

今彼はなんと言ったか。『エア』そうやって私を呼んだ。野良犬でも、てめぇでも、おまえでもなく、『エア』と私を呼んでくれた。初めて私の名前を、私に向かって呼んでくれた。

「イグアス。もう一度言ってください」

私ははしゃぐ心のままそう言う。ここがコクピットのなかでなければ抱き着いてしまったかもしれない。

「…………エア……」イグアスは消え入りそうな声で言う。

「もう一度」調子にのって私はまた要求する。

「うるせぇ!名前呼ばれたくらいでそんなにはしゃぐな!!」

そうやってイグアスは声を荒げ、まだ黙りこくる。

今あの人はどんな顔しているのだろうか、きっと恥ずかしがってるに違いない。だからこうやって通信越しに言ったのであろう。本当に、素直じゃなくて、ひねくれもので……可愛い人だ。私はそんな風に思い笑った。

 

 

 

 

「ほら、やはり戻ってきた」

偉そうに言っているのではないのだが、偉そうに聞こえるオールマインドの声を聞きイグアスはうんざりした。オールマインドの言った通り戻ってくる羽目になったのだから、素直に受け止めてもよさそうなものだが、素直さというのはイグアスという人間にはほど遠いものであった。

 

イグアスと少女は、結局最初にいた港に戻ってきていた。どこに行ってもよかったのだが、この惑星で生きることを考えたとき、一番頼りになりそうだったのが、いま目の前に居る相手であるのは否めなかった。

以前は銃声まで響いていた港も、かなり秩序が形成され、今では海上輸送用の船が動く姿も見受けれられる。

 

「仕方がなかったってやつだ。てめぇのとこに戻りたくて戻ったわけじゃねぇ」

「まぁそう言うな。前も言ったろ? 不味いフィーカでも飲み慣れれば、それが恋しくなる」

その言葉を聞き、イグアスは少し思いつくことがあった。意趣返しには丁度いい。中々にいい思い付きだとイグアスは自分を褒める。

「おい、エア。こいつにフィーカを奢ってやれ」

イグアスは後ろにいる少女にそう言い、少女も柔らかい笑顔で「はい、わかりました」と準備を進める。

 

オールマインドはその姿を興味深く見る。しばらく出ている間に随分と変わったと思っていた。以前は無表情だった少女が、今ではどこにでもいる少女のようだ。人間らしい。そのようなことを考え、少し笑う。(やはり、コーラルは燃えて正解だった)心でそう呟き、かつてオールマインドと呼ばれたシステムに思いを馳せる。感慨深く思い返す程度には、彼とそれには共有した時間があった。

 

 

オールマインドがしばらく思い出に浸っている間に、少女がフィーカを淹れてやってくる。オールマインドはしばらく香りをかぐそぶりをした後、それを口につける。

「……これは……うまいな」少し驚いたような表情をしながら言う。

「まずいフィーカよりこっちのほうがいいだろ」

イグアスはしてやったりという笑顔で笑っている。本人としては一本取ってやったという意識なのだが、オールマインドとしてはこんな惑星で楽しみを見出して、それを自慢している姿はどちらかというと安心感につながった。

 

泥水じゃないフィーカだって出てくるのである。捨てられた惑星ではあるが、消えゆくだけの命しかないとは限らないのかもしれない。元より最後まであながうつもりであったが、もう少し前向きに、やれるだけはやってみるかという気持ちも湧いた。

 

「あぁ、こいつは一本取られたよ」

イグアスの自慢気な表情に笑いながらオールマインドも返した。

 

 

 

オールマインドに預けていた大型車両に乗り込み、イグアスと少女は氷の大地を走る。戻ってきてみれば、早速の仕事があった。といっても毎度のごとく頼まれたのは食料集めである。残された食料物資やミールワームの回収。大した仕事でもないが、今のこの惑星には大切な仕事でもある。全部取りつくしたらどうするつもりなのか。イグアスは一瞬そんなことを考えるが、すぐに自分の頭ではどうにもならないことだと、放り投げた。難しいことは、それこそオールマインドにでも考えさせておけばいい。

 

イグアスはぼんやりなしながら、窓の外の景色を眺める。いつの間にか空に赤さは無くなり、どこまでも青い空と、なにもない氷の平原が見える。なにもない。ただしく、そのように言える環境であった。

(なんでこうなっちまったかなぁ……)

今でも後悔がないわけではなかった。出ていくチャンスを逃したことを完全に割り切れたわけではない。この惑星から出て、AC乗りとしてを宇宙を駆けまわる人生。そのほうが、これまで考えてきた人生の予想図としては正しくはある。なにもない惑星で、食い物の心配ごとをする人生。随分と予想より遠くに来てしまったとイグアスは思った。

 

そんなイグアスにフィーカが差し出される。もう慣れ親しんだ、落ち着く香りだ。イグアスはいつものように手にとり、口にする。うまいと思えた。他人に自慢気に振舞う程度はそう感じている。

「今日のものはどうでしょうか」少女が聞く。

「……まぁまぁじゃねぇか」イグアスはいつものように答える。

それを聞いた少女は、お決まりの流れに対して微笑みを浮かべ、自分もシートに座り、フィーカをすする。

 

イグアスは横目でそれを見る。無造作な白みがかった銀髪に、深く輝く赤色の目、微笑むような表情。少し目を奪われる。

「どうしました?」視線に気づいた少女が聞く。

「なんでもねぇよ」イグアスは視線をそらし、また窓の外を見る。

相変わらず窓の外に映る風景になにもない。それでも、そこまで悪い気分ではなかった。

 

(なんもない燃え尽きた惑星だが……まぁこいつがいるか……)そんなことを考え、イグアスは静かに笑った。

 

 

 

 

 

いつものように、私たちは車両に揺られながら、氷の大地を走る。しばらくこのような生活をしてきたが、氷の上を走るのは今回の作業で終わる。オールマインド曰く、もう少ししたら私たちもここからベリウスのほうに移るらしい。この我が家も、ベリウスのほうにお引越しだ。

 

今度はカーゴランチャーじゃなくて船に乗せてくれるらしい。海に揺られる船旅というのも少し楽しみにはしている。優雅な旅とまでは行かないだろうけど、それでも特別な時間に出来ればと思う。

 

そして、今日も特別な日だ。少し怖くて、少し楽しみな……そんな日。

私は今日もフィーカを淹れる。そしてこれがフィーカを淹れる最後の日だ。一杯のフィーカを淹れ、シートに腰かけているイグアスのほうに持っていく。いつも通りイグアスは受け取り、自然とそのまま口に運ぶ。美味しそうに飲んでくれている。私は立ったままそれを眺める。

 

「……どうした?てめぇのは?」イグアスがそう聞く。

「ありません。それで最後です」

私がそう言い、イグアスは驚いた表情を浮かべカップを見る。

当たり前だ。ローストした豆は無限にあるわけじゃない。毎日のように二人で飲んでいればいつかはなくなる。それが今日だ。

 

「…………そうか……じゃあ半分はてめぇに……」イグアスがそう言いかけるが私はそれを制し、「あなたが飲んでください」と言う。イグアスは一瞬考えたようだが、そのままフィーカに口をつける。味わって飲んでいるようだ。私はそれをじっと見つめる。

 

イグアスが飲み終わったあと、私は尋ねた。いつもの言葉だ。

「今日のものはどうでしたか?」

そう聞かれたらイグアスは、恥ずかしそうに顔をそらす。格好つけたことを言う時の、いつもの癖だ。

「今日のは……うまかった」

知っています。あなたははじめて言葉にだしたけど、私はずっとそのことを知っていた。

「今日だけですか」

私はからかうように聞く。

イグアスはうんざりしたような表情を浮かべたが、諦めたように口を開く。

「……てめぇの淹れるフィーカは……うまかった……今日も……その前のもさ」

その言葉を確認し、私は「はい、知っていました」と返す。それを聞いたイグアスは、からかわれて怒っているような、このやりとりが嬉しいような、そんな表情を浮かべる。

 

私は座っているイグアスの膝の上に無理やり腰かける。「おい」とイグアスは驚いているが、関係ない。今日くらい甘えさせてくれたっていいじゃないか。今の私はこうやってあなたに甘えることだってできる。

そのままイグアスの胸に顔をうずめる。イグアスはもう文句も言わずに流れに身を任せて、私の身体に腕をまわしている。

 

フィーカがなくなっても大丈夫だ。私はこうやってあなたの腕の中にいられる。なにも終わりになんてならない。だからやっと、今まで置きっぱなしにしてきた言葉を言おうと思う。

「イグアス……私、あなたのことが好きなんですよ。知っていましたか?」

そう言って見上げるようにイグアスの顔を見る。その言葉を聞きイグアスは驚いたような表情を浮かべている。

「……お前……今更かよ」そう言って笑いだす。

そう、今更だ。こうやって抱き合っていられるような関係になって、やっと私はこの言葉が言えた。

タイミングがなかったとかそういうわけじゃない。ただ……なぜか妙に恥ずかしくて、なかなかその一歩が踏み出せなくて、本当に受け入れてもらえるか不安で……口に出すのが怖かったのだ。この言葉を出すのはとても勇気がいる。今だって、すごく勇気を出して言葉に出した。

 

イグアスが笑い、その間、私はしばらく彼の体温を感じる。この時間が愛おしい。これが、今の私にとってのすべてだ。

 

イグアスは笑い終わったあと思いついたように言った。

「また、フィーカを飲もうぜ」

「以前貰った粉末であれば、まだ……」

「ちげぇよ……また豆を挽いたやつをさ」

「それは……難しいかと……」

この惑星にあのようなものがまだ残っているのだろうか。少なくとも、今まで散々集めた物資の中には残っていなかった。

 

「関係ねぇ。どうやってでもまたあれを飲む。それが目標だ」

イグアスは感情任せにそう言い切る。そういう人なのだ。なんでも感情で物事を決めてしまう。そして、そんな人を私は好きになった。

「私たちの目標ですね」

「あぁ……俺たちの目標だ」

私はイグアスの腕の中から、窓の向こうの景色を見る。蒼く透き通る空に、白い大地、そこに私がいて、イグアスがいて、これまでの思い出があって、これから作る思い出もある。

 

この燃え尽きた惑星には私の全てがあった。

 

 

 

 




すごいダメな誤字直してくれた人ありがとうございます。

次で終わります。
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