燃え尽きた惑星の上で   作:ただの誰か

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エピローグ

 

「ボス、お連れしました」

「ありがとう、あとは私が」

部下を下がらせ、目の前の女性に向き会う。私にとっては50年ぶりの、彼女にとっては1年も経っていない再会だろうか。

「なんだい、あんまり変わってないじゃないかビジター」

「その世辞は流石に無理がありますよ、カーラ」

老婆になった私は笑いながらカーラを出迎えた。

 

私はカーラを連れて施設の中を歩く。今の私の仕事場だ。

「来る道中で聞いたが、今はあんたがRaDのボスだって?」

「……えぇ、成り行きでそうなっただけではあるんですが……」

50年もあれば色々なことがある。この捨てられた惑星で歳を食えば、それなりに顔見知りも増え、縁も繋がる。年寄りなんてのはとくに担がれやすい。その結果、私は特に技術者というわけでもないのに、今や技術者集団のRaDの代表だ。

 

今のRaDの施設を私はカーラに案内する。といってもカーラの時とは随分と毛色が変わってしまった。いまのRaDの主力製品は機械部品ではなくて、ミールワームのプラントだ。

「少量だけ湧き出るコーラルで、なんとか育成しています。これでもうちが一番大手なんですよ」

「そうかい……」

カーラは苦い顔をして呟く。コーラルに対してやはり思うところはあるのだろう。

「それで……3度目は必要そうかい?」

「大丈夫です。そうしないためにも、生きているもので消費し続けています。一か所に集中させないようにも気を使って……まぁオールマインドの受け売りなのですが」

この惑星に残ったものの肩書は、一応『要注意廃星監視員』なんてものになっているらしい。これは、オールマインドが大昔に星外企業などと折衝して決まったと聞いている。『この惑星が爆弾だとしたら見張りの人間がいるだろう』そう言ってやったとか。

 

ともかくこの惑星に残ったものはコーラルの監視と消費が一応の仕事ということになる。といっても外からなにか支援があるわけでもないし、惑星の人間が外にでることもできない。ここはあくまで廃星だ。イグアス風に言うなら『土着になることくらい許してやるから、二度と面倒をかけるな』とでも言ったところか。

 

というわけで私たちはせっせと残りカスのようなコーラルを消費して生きている。そうして限られた資源で優先されるのは食料の生産だ。RaDがいつの間にかワーム育成が本業になってしまったのも仕方がない。

そうやって私たちは少ない資源で食いつなぎ、なんとか今日まで生きている。人口もろくに増えないし、恐らく今後発展していくビジョンもない。精一杯頑張ってやっと現状維持だ。まぁ、この惑星にとっても、惑星の外にとっても、それが一番良いのかもしれない。

 

そのようなことをカーラに説明する。

 

「まぁ……3度目がないのなら、私はそれでいいよ。やっと肩の荷を降ろせる」

たぶんカーラの言葉は本心であったのであろう。カーラだって、またあの火が見たいわけではないはずだ。

 

「それであのチンピラはどうした?」カーラが聞く。

「亡くなりました。5年ほど前です」

私の答えにカーラはすこしまずいといった表情に変わるが、私は慌てて訂正する。

「気にしないでください。この惑星で70超えて死んだのですから、十分生きましたよ」

私は笑って言う。ほんとのことを言うと、まだ時々寂しさだってあるのだけれど、それは秘密だ。若い女性に老婆が泣きごとなど言っては恰好がつかない。

 

「それよりも、話したいことが沢山あるんです」

話したいことは山ほどあった。

 

 

「あの人は死ぬまで愛してるの一言も言ってくれませんでした……え?違います愚痴じゃないです。のろけですこの話は。そういうとこが可愛いかったんですよ。……他にも……」

「末の子にウォルターと名づけたらそれはもう出来が良い子に育って……いえ親バカじゃないです。本当の話です。……次のオールマインドになるらしいんですけど、いまのオールマインドがそれはもう長生きで、今でも働いています。……そうです、あの時からずっと生きてて……」

「長生きと言えば、RaDにはまだ『無敵のラミー』がいますよ。俺は無敵だって言って今でも見張りやっています。……役に立っていたかって?……それはまぁいいじゃないですか……」

「これは初孫の写真です。顔つきは私によく似ているんですけど、随分と不愛想な子で……何言ってるんですか。私はこの子ほど不愛想じゃなかったですよ。……なんで笑うんですか……」

 

施設を案内する道中で、私は好き勝手に喋りつづける。50年もあったのだ、どれだけ話そうと語りきれるものでもない。

 

そうしている間に、私は目当ての部屋に到着する。

「ここを見てほしかったんです」

「へぇ……面白いものが見れるかい?」

「驚かせる自信はあります」

 

そう言って、私は扉を開ける。中には青々しい緑が一面に広がる。

「……こいつは」

カーラも随分と驚いている。

 

「すべて豆の木です。すごいでしょ?フィーカのために育てたんです」

「どうしたんだいこれ……」

「もう何十年も前の話になります。大変だったんですよ……この廃星に苗木を持ち込むときにもひと悶着ありました。私もACに乗って飛び回って……」

私は過去を懐かしみながら語る。思えばACに乗って戦闘をしたのはあれが最後かもしれない。

 

「それでやっと手に入れた苗木を育てるのも散々苦労しました。なんとかプラントで育ててるんですが……これを育てるの、凄く効率が悪いんです。……いまでもフィーカ1杯とワーム由来の食料3日分が同じくらいの価格なのに、あのときはもっと辛かった……それこそ、フィーカを1杯飲むのに一月食べれるくらいのエネルギーを消費してたかもしれません」

あの頃は少ない資源を無駄使いして随分と白い目で見られたものだ。別にあのときの私達はそれほど偉い地位であったわけでもない。

 

「そんなことだから周りからの協力もほとんどなくて……最初のプラントを作るときには動力すらなかったんです」

「でも、こうして出来てるじゃないか……どうしたんだい?」

 

カーラにそう言われ、私はプラントの奥を指さす。そこにはあちこちコードに繋がれたACが一機ある。『ヘッドブリンガー』。あの人の……大切な機体だ。

 

「あれが最初の動力です……私のスティールヘイズでもよかった……だけどあの人は……『俺の機体でやる』って聞かなくて……」

あの時のことを思い出す。身を削るような表情の癖に、決して譲ろうとしなかった。あの人なりのケジメだったのかもしれない。過去の自分とお別れをするための儀式。その気持ちはわかる。私もLOADER4とサヨナラして心にケジメをつけた。

 

それでも私は、あのときに、涙が溢れそうなのを歯を食いしばって必死に我慢していたあの人の顔を忘れられない。

 

そのことを思い返すと、あの人との記憶がどんどん溢れてくる。

はじめて自分たちで作った豆でフィーカを淹れたこと、子供と大喧嘩してふてくされたこと、孫を抱いてどんな風にしていいかわからないような顔をしていたこと、若い子たち相手にシミュレーターで手ほどきをして、威張りちらしていたこと……私を置いて、先に逝ってしまったこと……。

 

いつの間にか涙が流れていた。年甲斐もなく人前で涙するなんて、恥ずかしくなり私は顔を拭う。

 

 

「それじゃあカーラ。『私達』のフィーカを御馳走します」

そう言って私は笑顔を作る。私は鎮座するヘッドブリンガーの前に置いてあるテーブルまで、カーラを案内し、フィーカを淹れる。ここが、私とあの人のお気に入りの場所だ。

 

フィーカを淹れる私を見て、カーラが尋ねた。

「ビジター、あんた幸せだったかい」

わかりきっている質問だ。

きっと私は許されないのだろう。若いころに沢山の罪を犯してしまった。あの世に行ったら地獄行きなのも決まってる。それでも……

 

「幸せでした。……私は……幸せに生きました」

 

この燃え尽きた惑星の一番の幸せ者が私だ。

そんなこと思い、カーラに出来上がったフィーカを手渡す。カーラはそれを飲み美味しそうにしている。当たり前だ美味しいに決まっている。

 

私も自分のものに口をつける。うん、これは世界で一番美味しい。そんなことを思いながら、近くにあるヘッドブリンガーを見上げる。

 

「だって……あなたと私で作ったんですもんね……」

 

私は小さくそう呟いた。ここにはいないあなたに届きますように。

 

 




これで終わりです。
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