燃え尽きた惑星の上で   作:ただの誰か

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4話 自称オールマインドとスティールヘイズ

 

 

翌日、イグアスと少女はキャンプの一角に来ていた。周囲にはいくつかコンテナが並び、そこそこの人数がそこで働いているのが見受けられる。

 

イグアスと少女はキャンプにある仮設テントに通される。少し不用心な気もしたが、話を聞く限り仕事をする人間がいるのは間違いない。ならば自分たちがどうこうされることもないだろう。イグアスはそう雑な判断をして二人で中に入った。本音を言えば見張りとして少女を一人外に残しておくことのほうが怖かったところもある。

 

 

仮設テントの中には男が一人いた。頭も性格も良さそうな顔をしていた、イグアスは一目で苦手なタイプだと思った。片足には雑な義足がされている。最近失ったもののように見える。

 

男はにっこりとした表情で2人を迎え入れたが、顔を見た瞬間少し固まる。随分驚いていたようだった。しかし、すぐさま表情を戻し、挨拶をする。

「俺がオールマインドだ。よろしく頼む」

「……イグアスだ」面倒そうな態度でイグアスが返す。「エアです」少女のほうもいつも通り無表情のままだ。不愛想なふたりであった。

 

話の前にと2人の前に黒い液体が差し出される。「フィーカを奢ってやろう」オールマインドと名乗った男は人の良さそうな笑顔で言う。イグアスは少し躊躇ったあと口につける。ひたすら苦い泥のような液体に思わず顔をしかめた。そのまま隣の少女にも顔を向ける。少女は不思議そうな顔をしながらそれを飲んでいた。それを見て、イグアスもさらに口に含む、相変わらず酷い味だったが、苦いものを飲めるほうが偉いという子供じみた意識がイグアスにはあった。

 

「……これは美味しいものなのでしょうか?……」少女は不思議そうな表情のまま尋ねる。

「……これがうめぇんだよ」イグアスはやけくそ気味に答えた。無意味な強がりというやつだ。

 

その様子を傍から見ていた男が笑った。2人のやり取りが随分愉快に見えたらしい。

「いや……生きてみるもんだな。やはり人間ってのはこういうものだ」

妙なセリフを吐いて男はしばらく笑っていた。本当になにか思うところがあったのかもしれない。イグアスと少女はその様子をぽかんとした表情で見ていた。

 

「それで、なんでオールマインドなんだよ?」イグアスが尋ねた。

その質問にオールマインドと名乗る男は少し苦笑いをする。

「……あれとも……まぁ色々あったもんでね……もういないし、名前くらい俺が貰ってやろうって思っただけさ」男は義足になった足をさすりながら答える。

「答えにゃなってねぇな」

はぐらかすような物言いにイグアスは納得がいっていなかった。そんなイグアスに対して男は、イグアスの隣にいる少女を指さしながら言った。

「余計なことはお互い詮索しない。そのほうがいいだろ?」

それは、暗に少女を知っていると意味であった。

「……てめぇ」

イグアスは腰にある拳銃に手をかける。ほとんど無意識の行動だった。守る義理もないはずの少女のために自分がどれほど危険なことしようとしているのか、頭は働いていなかった。

 

その様子を見て男は両手をあげ、苦笑しながら返す。

「別に事を構えるつもりなんてない。仕事を頼みたいだけだ。話は聞いてるだろ」

そう言われて、イグアスは睨んだまま、拳銃から手を離した。

「わかって貰えると助かる。実際こっちとしても仕事を受けてくれる人間がいないと困るんだ」男は話を続ける。

 

男は依頼の説明をはじめる。といっても仕事の内容は昨日聞いた通りだった。コーラル汚染が高い場所からの物資の回収。それだけだ。惑星がこの状況とはいえ、銃弾で殺し合うことに比べれば簡単な任務と言える。

 

「……依頼はわかった。そんで報酬のほうは」イグアスとしては、問題なのはそちらだった。

「ベリウスのほうへの移動手段……聞いてないか?」

「それがある保証がねぇ……仕事が終わったあとにやっぱり報酬はありませんでした。なんてのはごめんだ」

いまのジリ貧の状況を考えれば、そちらのほうが自然とすら思えた。

「……うーん……そいつは難しいな。この手段は俺としてもとっておきだ。依頼が完了するまでは手札は晒したくない」男はなぜか少女のほうをちらりと見ながら言葉を続ける。

「……そうだ。代わりに担保を渡す。これでどうだ?」

男はこれで決まりだといわんばかりの笑顔でそう言った。

 

 

 

オールマインドと名乗る男に案内され、イグアスと少女はとある機体の前に来ていた。

「……こいつは……」

青みがかった細身の装甲。前傾な姿勢と極端な脚部そのせいで随分アンバランスなように見える。イグアスも記憶にある機体だった。

「スティールヘイズ……」少女がつぶやく。

かつてV.Ⅳ(ヴェスパーフォー)と呼ばれた男の愛機が目の前にあった。

 

 

「友人からの預かりものというか……まぁお下がりを置いていったというのが正しいか。こいつが担保でどうだ。仕事を受けてくれればこいつを貸し出そう」

男の言葉を聞き、イグアスは少し迷う。悪い話ではないように聞こえた。そもそも大した仕事ではないし、仮に報酬がなかったとしても、それなりのACが一機手に入れば儲けものな気がした。

 

ちらりと少女のほうを見る。相変わらず何を考えているかわからない表情をしているが、少女はずっと目の前の機体を見つめていた。

 

(こいつにもACがあったほうがなにかと便利か)

どう転ぶにせよ、機動性の高いACが二機あればできる手段はぐっと増える。それこそ戦闘が行われる可能性だって今後あるかもしれない。

 

そしてなにより、

(ACがあればまたこいつは戦える……)そのことがイグアスの頭によぎった。自分と死闘を繰り広げる少女の姿が頭のなかを駆け巡る。その光景は、熾烈で無意味で居心地がいいように思えた。

 

「……はっ……」

こんな状況になってまで、少女との戦いを求めている自分に気づき、イグアスは鼻で笑う。バカらしい話に心躍らせる自分が滑稽でならなかった。

 

 

イグアスは結局仕事を受けることにした。まずは担保として与えられた機体のチェックを少女に命じる。少女はすぐにスティールヘイズに乗り込み、起動させる。起動は問題なく行われた。

 

「動きそうか?」イグアスは少女の機体に通信を入れる

「やってみます」少女が応える。

そう言われ、少女が乗った機体が空へと舞い上がる。

「問題ないように思われます」

「……粗悪品掴まされたらたまったもんじゃねぇ……お前しばらく試運転してこい。間違ってもキャンプの上飛ぶなよ」

「わかりました」

そうして、少女の乗ったスティールヘイズはキャンプから離れていく。軽快な機動だった。かなりの速度が出ているように見える。イグアスからしてみると、随分軽い機体のように思えた。

 

「流石だな。かなりピーキーな機体だと思うが、一発であれほど乗りこなすか」オールマインドと名乗る男が口を開く。素直に感心している様子だ。

イグアスはその態度がやはり少し気にいらなかった。

「なんであれのことを知ってる」

「俺はアーキバスにいた。それで大体わかるだろ」イグアスの質問に対して男は苦笑いをしながら答える。

「てめぇ……」

「そう睨むなよ。俺はなにもしちゃいない」

 

レイヴンがアーキバスに囚われていたという話は、それなりに有名だった。機密扱いだったため、それほど大々的に発表はされなかったが、人の口に戸は立てられない。イグアスだってそのことくらいは知っていた。

 

アーキバスでは再教育というものを受けていたとされている。具体的なことはイグアスに知る由もなかったが、ろくでもない内容なのは予想がついた。ベイラムだって捕虜の扱いは下劣としか言いようがなかった。さらに性根が悪いアーキバスなら猶更に酷いだろう。そんなことを思った。

 

改めてそんなことを考え、イグアスは妙にイラついた。あの少女がアーキバスに好き勝手にされたことに対して、不機嫌になっている。殺し合いたかったり、傷つけられたことに憤慨したり、イグアスにとっての少女の存在は、複雑なものとなっていた。

 

「アーキバスに関連してたやつなら、顔を知っているやつもいる。気を付けたほうがいい……まぁどのくらい生き残ってるかは知らないがね」

「随分肩をもってくれるな」男の言葉にイグアスは皮肉じみた口調で返す。

「アーキバスにいたってならあいつに恨みの一つくらいあるだろ?」

 

アーキバスからしてみれば一人勝ちだったコーラルを巡る戦いを最後の最後でちゃぶ台返しされた形になる。一つどころかどれだけ恨みがあるかも計り知れない。

 

「アーキバスが大損したことについては別にどうでもいいさ。元より味方でもない」本当にアーキバスについてはどうでもいいというような口ぶりだった。

 

「恨みが一つもないって言ったら……まぁ、それは嘘になるか……友人も討ち取られた……しかし……」

少し声が詰まるが、そのまま男は言葉を続ける。

 

「コーラルを燃やしたことは、俺は間違いじゃないと思ってる」

 

男は大真面目にそんな言葉を口にした。イグアスは信じられないといった表情でそれを見ている。誰がどう見ても、少女が行ったことは災厄である。惑星が燃え、周辺星域にまで被害が出ているらしい。イグアスですらそれは大きな過ちとして認識している。

 

「冗談か?」イグアスが聞き返す。

「大まじめさ。ラスティのやつには悪いが……コーラルは燃えて正解だった」

「どれだけ被害が出たかわかって言ってんのか?」

「この惑星が燃えた程度で済んだと思っているよ。少なくとも……人間は人間らしくこの宇宙でまだ生存できる」

 

オールマインドと名乗る男はまた義足になった足をさすりながら言う。迂遠な言葉にイグアスはうんざりするが、まだ聞きたいこともあった。

 

「……オールマインドっていったいなんだったんだ?」

 

オールマインド。イグアスにとっても気になる存在ではあった。ベイラムから逃げ出す少し前に接触があり、その後はパーツや情報の供給を受けた。少女に撃墜されたあと、また再起できたのもオールマインドのおかげである。そしてその後もいくつか補給を受けることもあったが、いつの間にか通信すら出来ない状態になっている。イグアスとしてみれば、なぜ自分に接触してきたのか、今でも少しは気にかかる話ではあった。

 

「詮索はなしって話だったろ?」

「でもコーラルが燃えて云々と関係ねぇこともないんだろ?その態度見るに」

イグアスは男がさする義足を指さす。男はそれを見て、また苦笑いを浮かべる。

「まぁ今更の話さ……強いて言えることがあるとしたら、オールマインドと呼ばれたシステムはもうこの世にない……俺が知る限りではね」

 

感慨深そうに言う男を見て、イグアスは追及することをやめる。実際言われた通り、今更の話であった。オールマインドというものがどのような陰謀が関わっていたかも、目の前の男がそれとどのような関係であったかも、全ては終わった話であり、今のイグアスには関りのない話だ。今のイグアスが頭を悩まさなければいけないのは、他人の昔話ではなく、今の自分と少女についてであった。

 

 

 

 

私は スティールヘイズの機動を確かめる。速い機体だと思った。随分と軽くバランスも悪く見えるが、動きはじめると頼りなさは感じない。ラスティというあのパイロットによく似ている。なんとなくそんなことを思った。

 

もし、あの人が生きて、いまこの機体に乗っている私を見たらなにを言うのだろうか。恨み事を言っている姿は想像できない。たぶん喜んでくれるのだろう。そういう人だった。

 

あの人は私にとってなんだったのだろうか。戦友と言ってくれた。友達だろうか?……それもやはり違う気がする。味方として助け合い、敵として殺し合い、それでも悪意は感じない関係だった。『戦友』その言葉が一番合っているのかもしれない。戦いの中で、何か通じあえていた……と思う。私の妄想かもしれないが、そうであってほしい。

 

……イグアスは私にとってなんだろうか……ラスティと同じように、味方にも、敵にもなった。しかし、あの人は戦友という感じはしない。態度が違うからだろうか、言葉が違うからだろうか。わからない。戦いというものを通して、イグアスとなにかを分かり合えた気はしない。今もどういう人なのかわからないことだらけだ。きっとイグアスと私は戦友ではないのだと思う。

 

そう言ったらたぶんイグアスは怒るのだろう。「もう一度戦え」そんなことを言い出すかもしれない。

 

でも……私はイグアスとは戦いたくない。

イグアスが私との戦いに納得してないのくらいはわかってる。もう一度本気で戦うことを望んでるのも知っている。だけど、もう私はイグアスとは戦いたくない。仮に命令されたらどうすればいいだろうか。……きっとすごく困るだろう。そういう意味ではエアと同じだ。ウォルターもそう。カーラやチャティもそういう対象だった。友達?仲間?……そういうことなのだろうか。やはりわからない。

 

この気持ちを私はまだうまく言葉にできない。

もっと私がエアのように賢くなれば、うまく言葉にできるだろうか?

 

 

 

 

 

 

少女の乗った機体が戻ってくる。垂直の状態で降下し着陸する。静かな動きだった。機体の脚部をよほどうまく使わなければこれほど静かにはならない。改めて少女の技量が見て取れた。

 

少女が機体から降りる。

「なるほど、大したものだ」オールマインドと名乗る男は少女にそう言う。少女は少し考えたあと「ありがとうございます」と言った。言葉と違って表情は全く嬉しそうでもなかった。少女はイグアスの前まで歩き報告を行う。

 

「問題なく稼働すると思います」

「……そうか。じゃあ貰っていくか」

イグアスとオールマインドと名乗る男はいくつか言葉を交わし、それで契約完了ということになった。

 

もう用はないとばかりにイグアスはこの場所から離れようとしたが、珍しいことに少女が自発的に他の行動をした。

「イグアス、少し待っていてもらえますか」少女はそういうと、先ほどあっていた男のテントのほうに向かった。

(なんだぁ珍しい……)イグアスはそう思いながら少女を見送る。

 

数分程度で少女は戻ってきた。手には黒い粉末の瓶詰が握られている。

「……なんだよそれ?」イグアスが聞く。

「フィーカの粉末です。分けていただきました」

相変わらず表情は変えないが、心なしか少し嬉しそうな声色で少女は言う。粉末の入った瓶を大事そうに抱えている。

 

「なんだよ、あんなもんがそんな気にいったのか?」

「いえ、あまり美味しいとは思いませんでした」

少女からしてみたら、あの液体は好ましいものではなかった。苦味以外によくわからないというのが正直な感想だ。

 

「でも……イグアスには美味しいのですよね?」

 

そう言う少女の顔はほんの少し笑顔に見えた。少女が初めて見せた笑顔だったかもしれない。それを見てイグアスは罰の悪そうに顔をそらす。「いくぞ」そう言って先に歩き出す。後ろからは少女が付いてくる足音が聞こえる。

 

(調子が狂うな……)イグアスはそんなことを思った。

 

少女のその行動も、少女の笑顔も、見ていられなかった。かつて想像した仇敵から離れすぎている。そのことが、うまく消化できていない。怒っているのか、苛立たしいのか、失望しているのか……喜んでいるのか。自分の感情すら理解が追いついていなかった。

 

(……とりあえず……あのにげぇ液体を不味いとはもう言えねぇな……)

そんなことを考えてため息をつく。これからしばらくあの苦味に耐えなければいけないことだけはイグアスにも分かった。

 

 

 

 

 

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