迷宮漂流記   作:乾燥海藻類

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第08話 「緑鱗の竜」

先の冒険では地下三階まで下った。三階の敵は獣系が多かった。(カピバラ)(コヨーテ)(ワーベア)など。あと、もちろんウサギもいた。

鼠は素早い上に、爪や牙で攻撃してくる油断ならない敵だ。熊は鼠ほど機敏ではないが、侮れない膂力で攻撃してくる。犬は熊ほどのパワーはないが、鼠を上回る速度でこちらを翻弄してくる。

虫系もいたな。ヒュージスパイダー、ボーリングビートル。

アルテが大層嫌がっていた。まあ俺も、虫は苦手だが。

 

戦利品は、二階とあまり変わりはなかった。稼ぐという意味では、ウサギにさえ気をつけていればいい二階の方がいいのかもしれない。たまにクリーピングコインも出てくるし。

さっさと四階へ行った方がいいのかもしれないな。ウルマとも相談してみよう。

 

「準備はいいか?」

「いいわよ。行きましょ」

 

アルテとともに部屋を出る。階下に目を向けると、ウルマの姿があった。

珍しいな、宿屋にまで迎えに来るとは。つか初めてじゃないか?

そう思っていると、ウルマの隣に二人の人物がいることに気づいた。壮年の男と、年若い女の子だ。

 

「おはよう。朝からすまんが、少しいいか?」

 

開口一番にウルマが言った。隣の二人がペコリと頭を下げる。

 

「何か、トラブルか?」

「それをこれから話す。受けるかどうかは、あんたが判断してくれ」

「わかった。朝飯を食いながらでもいいかな?」

「はい。ありがとうございます」

 

まだ受けると言ったわけでもないのに、女の子はまた頭を下げた。場所をテーブルに移す。料理が運ばれてくる間に、軽く情報を交換し合った。

この二人は、ウルマの前のパーティメンバーらしい。壮年の男が盗賊のレルゲン、女の子が僧侶のユナ。

そしてもう一人、戦士のルークというのがいたらしいが、それが今回の話題だった。

 

「四階で、ガスドラゴンに殺られちまったらしい」

 

ウルマがバツの悪そうな顔で言った。ウルマが前のパーティを抜けた理由は、彼らが一階で財宝漁りをするパーティだったからだが、最初からそうではなかったらしい。

最初の頃、そのルークという少年は、迷宮を制覇すると豪語していたようで、その意気に惹かれてウルマはパーティ入りした。

 

しかし、二階でウサギの奇襲に遭って死んだ。ウルマがウサギと聞いて苦い顔をしたのは、その時のことを思い出していたのかもしれない。

ルークは運よく蘇生には成功した。だがその時の恐怖が残ったのか、ルークは一階で小銭稼ぎをするようになった。日銭を稼いで、酒を呷る。そこらにいる凡百の冒険者と同じだ。ウルマはいずれ恐怖を克服するだろうと期待していたのだが、その様子もなく、仕方なくウルマはパーティを抜けることにしたのだという。

 

「前に進み続けるウルマを見て、悔しかったんでしょうね。ルークはもう一度、下層を目指すことにしたの。それが、なんていうか、上手く行き過ぎたみたいで……」

「それで、一気に四階か。なんにしても、三人で行くのは無茶だろう。せめてもう一人、いや六人揃えるのが定石だろうに」

 

頭をぼりぼりとかきながらウルマは言った。俺たちも三人なんだが、今は言わなくてもいいか。

まあたしかに前衛が一人というのは、少々危なっかしいな。盗賊が前衛を務める場合もあるが。

魔術師がいないのは、まあ普通だ。魔術師自体が少ないし、魔術師は(MP)切れすると役に立たんからな。

 

「依頼は、死体の捜索ですか?」

 

レルゲンさんとユナさんが、神妙な顔で頷いた。

やっぱりか。寺院に依頼すると高いからな。しかも、すぐにやってくれるとは限らない。基本的に、寺院は冒険者から嫌われてる。守銭奴、というやつもいるくらいだ。まあ気持ちもわからないではない。蘇生に失敗しても、お金は返してくれないからな。

 

――失敗などではありません! 神に価値ある生だと認められたのです! やり直す必要はないと……

 

なんかシスター・アイニッキの声が聞こえたような気がする。

まあそれは置いといて、地下四階は俺たちにとっても未踏領域なんだがな。ああ、だからウルマは、俺の判断に任せると言ったのか。

 

「殺られたのは、どのあたりですか?」

「えーっと、入り口から真っ直ぐ進んで、ここを曲がって……」

 

レルゲンさんが地図を広げ、指でなぞっていく。

 

「……このあたりだ」

「なるほど。素直に見つかればいいんですが、迷宮に呑まれていれば探すのに時間がかかるかもしれません」

 

死体は時間が経ちすぎると迷宮に呑まれて、別の場所に出現(ポップ)する。そしてこの時間というのが曖昧で、一定の時間ではないのだ。階層も関係しているらしい。下層に行けば行くほど、迷宮に呑まれる確率が上がるのだとか。

 

「受けるのか?」

 

問いかけてきたのはウルマだった。

 

「俺はそのつもりだが……どうだ?」

「うん。わたしもいいよ」

 

アルテも賛同してくれた。

 

「ありがとうございます!」

「恩に着る」

 

ユナさんとレルゲンさんが頭を下げた。ウルマもまた、ホッとしたような表情を浮かべていた。やはり、なんだかんだで気になっていたのだろう。

 

「この地図、お借りしてもいいですか?」

「ああ。写しは取ってあるから、やるよ」

「ありがとうございます」

 

地図を懐にしまう。ウルマが二人に視線を向けた。

 

「あいつを助けた後、おまえらはどうするつもりだ?」

「故郷に戻るように、説得する。ルークも、懲りたと思うから」

 

ウルマの問いに、ユナさんはうつむきながら答えた。

二人を送り出した後、俺たちは迷宮の四階へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつはパン屋の息子だったんだよ」

 

四階に向かう途中、ウルマはルークのことを語り出した。

 

「死ぬまでパンを焼き続ける人生なんて嫌だと、神官見習いだったユナと一緒に故郷を飛び出したんだとさ」

「継げる家があるだけマシだと思うけどなぁ」

「若い頃は、怪物退治や英雄譚に憧れるモンさ」

 

と、苦笑するようにウルマは返した。

地下一階から三階までを駆け抜けて、俺たちは四階へ到着した。

探索する際の隊列は、前衛がウルマ、真ん中にアルテを置いて、後衛に俺がつく。これでウサギの奇襲でアルテが殺られる可能性は低くなる。

一応、ネックガードはつけているが、あいつら跳躍力がすごいから眉間に爪を突き刺してこようとする時もあるのだ。本当に油断ならない。

 

「とりあえず、地図の場所まで行ってみよう」

 

二階以降で気をつけなければならないのは、何をおいてもウサギの奇襲だ。

ウサギの尻尾という、ウサギ避けのアクセサリーを身に着けていても、好戦的なウサギは躊躇なく襲い掛かってくる。

これを着けていれば安心というわけではないのだ。それに玄室からは普通に出てくるし。まあ奇襲じゃないだけマシなんだが。

 

地図を確認しながら、ルークが殺された場所まで行く。だがその場所にルークはいなかった。これで、四階を探し回らなければならなくなった。それから体感で三時間くらいかけて四階を回ったが、ルークの死体は見つからなかった。

 

だが死体はふたつ見つかった。ドワーフとレーアだ。

ドワーフの男は首筋に大きな傷があり、レーアの男は黒焦げになっていた。

ドワーフは爪か牙で殺られたのかな。レーアはガスドラゴンか、ほかのブレスを吐く怪物に殺られたんだろう。

捨て置くのもなんなので、持って帰ることにした。もしかしたら、寺院に回収願いが出されているのかもしれないし。

 

今日の探索は、これで切り上げることにした。

それにしても、今日は一度もウサギに襲われなかったな。もしかしたら、四階にはウサギが出ないのかもしれない。

だとすれば四階の方が稼ぎやすい……いや、ガスドラゴンがいるんだったな。やはり、迷宮で気が休まる場所なんてないんだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寺院に持っていったふたつの死体は回収願いが出されていた。彼らのパーティから回収代を受け取り、俺たちはいつものように酒場へと向かった。

 

「あいつも運が悪いね」

 

火酒を呷りながら、ウルマは言った。

 

「ガスドラゴンか?」

「ああ。遭遇率は低いはずなんだ。だってのに、いきなり遭遇するなんてな」

「だが危険な分、見返りは大きいのかもしれんぞ」

 

具体的に何を落とすのかは知らんが。それに、ドラゴンと戦った経験というのは、大きいと思うし。まあ、勝てればの話だが。

 

竜殺しの魔剣(ドラゴンスレイヤー)とか、落としたりするのかしら?」

 

と、アルテが無邪気そうに言った。

ドラゴンがドラゴンスレイヤーを落とすのか。本当に宝箱から出てきたら(ドロップしたら)笑える話だな。

一回目の捜索は空振りに終わった。

 

その後、二回、三回、四回と捜索を行ったが、いずれも空振りだった。

根気よくやるしないか、と覚悟を決め始めた五回目の捜索で、ついに俺たちは出会った、

玄室の奥に横臥していた巨体が、こちらに向かって鎌首をもたげる。

フシュゥゥゥ、という不気味な息遣いが空気を震わせた。

緑の鱗……ガスドラゴンだ。

 

 

 

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