迷宮漂流記   作:乾燥海藻類

12 / 17
第10話 「忍者」

「今回は地下五階を探索する。余裕があれば六階まで行く」

 

セズマールさんが売ってくれたのは、七階までに出現する敵の情報だけだった。地図は自分で描くものらしい。まあ、最初に言われたことだな。

だが隅々まで探索する(地図を埋める)必要性は感じない。

俺の目指すところは七階なのだ。

 

「そういやアルテから聞いたが、新しい呪文を開発してるんだって?」

「ん? ああ、だがちょっと無理そうだ」

 

迷宮に潜る度に試していたのだが、正直できる気がしない。センスのないやつは一生できねぇって言ってたし、俺には無理そうだ。

 

「そうか。まあ気を落とすな。新しい呪文なんて、歴史に名が残るほどの偉業だからな」

 

慰めてくれているのだろうか。まあダメで元々って感じだったし、できなくてもやっぱりなぁとしか思わなかったけどな。あんなモン、一部の天才以外無理だわ。プロスペローさんに相談した時も、頭おかしいんじゃないですか、と言われたし。

 

地下五階に着いた。ここから本格的な探索の始まりだ。

まずはパーティ全体に呪文をかける。

 

「不思議なモンだな。浮いてるとは思えねぇ」

 

ウルマはつま先を地面にぶつけるが、触れる直前で鉄靴は無音のまま跳ね返されている。

第四階梯呪文、《浮遊(リトフェイト)》の効果だ。地面の上に、見えない地面を作る、といった感じか。走ることもできるし、踏ん張ることもできる。

足音がしないので奇襲に遭い難く、落とし穴(シュート)を完全に防いでくれる。

地下五階、俺たちパーティにとって、未踏の領域だ。

 

「油断せずに行こう」

 

アルテがウルマがコクンとうなずく。

これまで油断していたというわけではないのだが、気を引き締めるために敢えて言葉にしたのだ。

"光明(ミルワ)"で視界を確保しながら慎重に進む。

 

「……開けるぞ」

 

先頭を行くウルマが後方を振り返って確認を取る。

最初の扉。出てきたのは……。

 

狂犬(アタックドッグ)……いや」

「一回り大きいな。殺人狼(キラーウルフ)だ。速いぞ」

 

素早い動きで翻弄し、爪と牙で攻め立ててくる戦い方だ。毒や麻痺などの特殊攻撃は持っていないので、この階層では比較的対処しやすい相手だ。

 

「三体か。落ち着いて対処すれば、それほど難敵ではない。俺はアルテを護りながら迎撃する。おまえは、好きに暴れろ」

「了解!」

 

ウルマが中央の一体に切り込む。だがキラーウルフは散開して、ウルマを囲むような陣形をとった。

 

「ちぃ、やっぱ速ぇな」

 

剣の柄を握り直しながら、ウルマは唇を舐める。

敵をウルマに絞ったようだが、こちらを無視とは気に入らんな。

 

炎よ来たれ(ヘーアー・ラーイ・ターザンメ)!」

 

飛来する炎の飛礫を、キラーウルフはその俊敏な動きで回避するが――

 

「空中じゃあ動けねぇよな」

 

跳躍中にウルマの斬撃により真っ二つにされた。凄まじい切れ味だな。たしかにあれなら、竜の鱗も斬り裂けるかもしれん。

 

「残り二体!」

 

仲間を殺られて激昂したのか、二体のキラーウルフは喉を鳴らしながらウルマに襲い掛かった。だがウルマは盾を巧みに使い、冷静に対処して瞬く間に二体のキラーウルフを斬り伏せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地下五階で厄介な敵は、石化蜥蜴(メデューサリザード)悪霊(スピリット)あたりだろう。

前者は石化という面倒な状態異常攻撃を得意とし、後者は霊体ゆえに物理攻撃の通りが悪い。幸い、俺とウルマはどちらも魔法武器を使用しているため、然程の減衰はないが、やはりどちらも呪文で一掃してしまうのが手っ取り早い。

やはり対策がわかっているとやりやすいな。

五階は特に問題なく抜けられそうだ。

 

「しかし、思いのほか呪文を使わされたな」

「石化するよりはマシ、と考えるしかないのかねぇ」

 

六階へ下りる階段の前で、ウルマは忌々しそうにつぶやいた。

 

「だが呪文ってのは、貴重なんだろう。乱発しすぎなんじゃあないのか」

「まだ大丈夫だ。しかし、徘徊する怪物(ワンダリングモンスター)を考えれば、そろそろ帰還を考えるべきかもしれん」

 

まだ行けるはもう危ない。迷宮探索の鉄則だな。

 

「地図は埋まっていないが、六階までの道筋(ルート)はできた。ここで引き返してもいいが、少し六階も見ておきたい。二人とも、いけるか?」

「うん。大丈夫」

「まかせろ」

 

迷宮では体力だけではなく、集中力や精神力もじりじりと削られていく。ただでさえ初めての区画、未踏領域を探索しているのだ。

見えないところで疲弊しているのかもしれない。

 

「六階の、玄室をひとつ開けたら帰還しよう」

 

階段を下りていく。

地下六階。雰囲気はそれほど変わった様子はない。

まずは、真っ直ぐ進む。まだ扉はない。突き当りを右に。

 

「なにかあるぞ」

 

先頭を行くウルマがぴたりと止まり、回廊の先を剣先で示した。

ゆっくりと近づいていく。それは潰れた死体だった。

アルテが息を呑んだ。やはり何度見ても、死体というのは慣れないものらしい。しかもこの死体は、尋常な死に方ではなかった。

 

「これは……踏みつぶされたのか?」

「足首がひしゃげているな。足首を掴まれて、叩きつけられたのかもしれん」

「だとすれば、人型の怪物だな。しかもかなりのデカブツだ」

 

となると巨人系かね。炎の巨人(ファイアジャイアント)土の巨人(アースジャイアント)、そいつらかもしれない。

 

「この死体、かなり古いわね」

 

アルテの言う通り、かなり年季の入った死体に見える。尤も、迷宮というのは時の流れすら曖昧になるようで、地上と同じ時間の流れなのかすら不明だが。

 

「とりあえず、回収しよう」

 

袋に死体を詰める。その袋を担いで、俺たちは帰還した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死体袋を寺院に持ち込み、シスター・アイニッキに渡す。六階での死体回収願いは出されていなかった。そこまで行く冒険者は、最近ではほとんどいないらしい。

 

「どういたしますか?」

 

シスター・アイニッキが、天使のような微笑みで問いかけてきた。

蘇生するには喜捨が必要だ。おそらくこの冒険者は古すぎて、宿屋に預けていた荷物さえ処分されているだろう。だが六階まで行ける実力者と考えると、返済は難しくあるまい。

なんなら、仲間に誘ってもいい。

 

アルテとウルマの了承を得て、俺は蘇生をお願いした。

シスター・アイニッキが扉の奥に消えていく。

そこで蘇生の儀式が行われるのだ。

 

「うまくいくかしら?」

 

アルテは足をぶらぶらさせながらつぶやいた。蘇生の成否(シスター・アイニッキが言うには失敗ではないらしいが)は、術者の技量もあるが、やはり運任せだ。

 

「運があれば助かるだろうよ。あたしは、どんなやつか気になるな」

「成功すればいいけど、もし失敗して灰になったら、もう一度お願いするの?」

「さて、どうするかな」

 

灰からの蘇生は、死体からの蘇生以上に難易度が高い。しかも、喜捨の額も増える。上手くいっても返してくれる保証もなければ、失敗して消滅(ロスト)すればこちらの丸損だ。

喜捨の額から考えても、高位の冒険者であるのは間違いない。だが仲間になってくれるという保証はない。そもそも、どんな人間かすらもわからないのだ。

 

「こんにゃろめー!!」

 

そんなことを考えていると、扉の奥から叫び声が聞こえてきた。

 

「こんにゃろ?」

「くくっ、蘇生は成功したみたいだな」

 

アルテがきょとんとしながら復唱の言葉を漏らし、ウルマはくつくつと笑っていた。

上半身はほとんど原型を留めていなかったのだが、あそこからでも復活できるんだな。まあ灰からでも蘇生できるし、今さらか。

しばらくして、奥の扉がバンッと開かれた。

 

「くのいちシノブ、華麗に復活でござる!」

 

扉から出てきたのは、苦笑いするシスター・アイニッキと、小柄な黒髪の少女だった。

思ったより濃いぃのが出てきたな。どうすんだ、コレ。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。