迷宮漂流記   作:乾燥海藻類

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第11話 「三人目」

「ドーモ、各々方がそれがしを助けてくれたのですな。感謝するでござる」

 

俺たちの手を順番に取り、ぶんぶんと振りながら彼女は感謝の意を伝えた。

蘇生したばかりだってのに、元気なことだ。

とりあえず自己紹介が終わったので、死因を訊いてみることにした。

 

「鬼の奇襲を受けたのでござる」

「六階の鬼っつーと」

鬼王(オーガロード)だな。そいつに奇襲で殺られたのか」

 

俺の呟きに、シノブは否定の意を示した。巨人ではなく鬼だったか。

 

「まずゼシル殿が殺されたのでござる。敵は三体で、隊形も分断されたでござる。そこでリーダーは撤退を決めたのでござるが、それがしが殿(しんがり)を任されたのでござる。名誉でござるよ」

「いや、おまえそれ捨てご……」

「ウルマ、シッ!」

 

アルテが小さく警句を発し、ウルマの口を塞いだ。だが一概に捨て駒とも言い切れない。殿は相応の実力がないと務まらないからな。

俺たちがその事態に陥ったら、やはり殿は俺がやることになるだろう。実力でいえばウルマなのだが、彼女は鈍足だからな。時間稼ぎは出来ても、自分が逃走するというのは難しい気がする。

ちなみに、ゼシルというのはパーティの魔術師らしい。

 

「それで、殺られたのか」

「不覚を取り申した。ですが幸運にも二度目の生を拾うことが叶いました。もう一度仲間ととも鬼を討つでござるよ!」

「それなんだが、おまえ死んだのがいつか覚えてるか?」

 

問いかけたのはウルマだった。シノブは少し考えたあと、死んだであろう年を口にした。それは、今から十年ほど前だった。ウルマがその事実を告げると、シノブは呆然と天を仰いだ。

 

「では、仲間はもう……」

「どうだろうな。可能性は、ないこともないが……」

 

魔術師や僧侶なら、老いた冒険者というのも珍しくない。タック和尚も、それなりに高齢だしな。

あまり言いたくないが、霊廟も探した方がいいかもしれない。霊廟には灰となった冒険者の骨壺と、魂すら消滅(ロスト)した冒険者の名簿が保管されている。灰ならばまだ復活の可能性はあるが、魂が消滅していれば、それは本当の意味での『死』だ。

 

「少し街を調べてくるでござる。あ、蘇生代は必ず返済するでござるよ」

「ああ、別に急がなくてもいいぞ」

 

ペコリと頭を下げて、シノブは寺院を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから五日後、俺たちはシノブと再会した。

 

「霊廟にゼシル殿の名前があったでござるよ」

「蘇生は失敗していたか。ほかのメンバーは?」

「行方知れずでござる」

 

寺院には引き取り手のない、名前もわからない遺体が何体か保管されている。その中にいるのか、あるいはもうとっくに街を離れてしまったか。

 

「そもそもおまえ、何の目的でこの街に来たんだ?」

 

火酒を飲みながら、ウルマが問う。

求めるものは、人それぞれだろう。金、強さ、栄誉、伝説の武器、などなど。

 

「迷宮に眠る、伝説の刀でござるよ。それを持ち帰ることで、それがしは火影(ほかげ)の頭領になれるでござる」

「ホカゲ?」

「こっちでいうところの、氏族(クラン)のようなものでござるよ」

「ふーん」

 

興味なさげに、ウルマは生返事を返した。頭領(リーダー)というのに興味がないのだろう。まあリーダーって色々と面倒だからな。

それにしても、伝説の刀か。ウィザードリィで刀といえば……。

 

「ムラマサ、か?」

「知っているでござるか!?」

「うぉっ!?」

 

いきなりシノブの顔が近づいてきた。吐息を感じられるくらいの距離だ。

 

「近いわシノブちゃん!」

「むぎゅっ!?」

 

間に割って入ってきたのは、アルテの手の平だ。シノブの顔面を包み込み、椅子へと戻す。

 

「すまないでござる。ちょっと興奮してしまったでござるよ。して、そのムラマサというのは……」

「俺も、名前を知っているくらいだ。実際にあるのかどうかは、わからんよ」

「そうでござるか。でも銘がわかっただけでも収穫でござるよ」

「つーかよ、十年も経ってるんだ。もう次の頭領は決まってるんじゃねぇのか?」

 

と、水を差すようにウルマは言った。まあその可能性はたしかにあるが。

 

「どうでござろうな。それがしが出立する時、火影様は三十代でした。病に倒れでもしない限りは、まだ現役でござるよ。ほかの者に先を越されている可能性はありますが、なんにせよ、手ぶらで帰るわけにはいかんでござる」

「なら、もう一度迷宮に潜るのか?」

「無論でござる。まずは仲間集めからでござるな」

 

どうやら、諦めるつもりはないようだ。

 

「だがなぁ、下層に挑もうっていう気概のあるパーティは、そんなにいねぇぞ」

「そうでござるか? 五日ほどこの街を探索しておりましたが、実力のある方々はそれなりに見受けられましたが……」

「そういうやつらは、もうパーティが固まっちまってる。そこに入り込むってのは、無理とは言わんが、なかなか難しいんじゃねぇかな」

 

単純に分け前が減るという問題もあるが、そういうパーティはもう戦術や隊形なんかが固まっていることが多い。仲間を募集するにしても、欠員(・・)が出てからだろう。

それも、戦士がいなくなれば戦士を、魔術師がいなくなれば魔術師を募集する場合がほとんどだ。

そして忍者がいるパーティは、俺の知る限りひとつしかない。しかも、その忍者は死にそうにない。

 

「で、相談なんだが……」

 

ウルマがチラリと視線を向ける。やはり誘うのは、(リーダー)がいいってことなんだろう。意外と立ててくれているのだ。

 

「ウチのパーティに加入しないか?」

「よいのでござるか?」

「ああ。キミには借金を返してもらいたいし、近くにいればとりっぱぐれないですむ」

「なるほど。合理的でござるな」

 

シノブはクスリと笑った。

 

「では、よろしくおねがいするでござる」

「ああ、よろしく」

「よろしくな」

「よろしく、シノブちゃん!」

 

こうして、俺たちのパーティに新たな仲間が加わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなわけで俺たちは、シノブの装備を調えるべく武具屋めぐりをしているわけだが……。

 

「まさか忍刀(しのびがたな)が一本も見つからぬとは……」

「まあ、まずカタナが少ねぇからな」

 

休日には武具の手入れや品定めをしているというウルマは、この街のすべての武具屋を出入りしていた。

忍刀は一般的な刀と違い、反りが少ない直刀である。刀身もやや短めで、室内でも取り回しやすいように作られているのだ。迷宮で使うには、たしかに長物よりは向いているのかもしれない。

ショートソードでも代用はできるが、シノブは気に入らないようだ。

 

「仕方ねぇ。気は進まねぇが、あそこに行ってみるか」

 

そしてやってきたのは、キャットロブ商店だった。

 

「邪魔するよ」

 

と、中に入ってみたものの、店内はがらんとしていた。

 

「誰もいないでござるな」

「店主が趣味でやっているような店だからな」

「それにしたって不用心じゃない?」

 

アルテも以前にこの店に来たことはあるが、それ以来足が遠のいていた。俺たちが主に利用しているのは、最初にセズマールさんから紹介されたドワーフの経営している店だ。

 

「この店には、触れただけで発狂するような物騒な武器もあるからな。盗人も近寄らんさ。おまえらも、見るのはいいが、迂闊に触れるなよ」

 

以前に来た時も思ったが、禍々しい魔力の波動を持った武器が普通に置いてあるからな。しかもよく見ないと気づかないから(たち)が悪い。

 

「それに、噂じゃあこの店で無法を働く者は、精霊に殺されるらしい」

「精霊?」

「四大精霊と契約して、店番をさせてるんだと。ま、噂だ」

 

さして興味もなさそうに、ウルマはひらひらと手を振った。続けて言う。

 

「ああ、そのへんのなら大丈夫だと思うぞ」

 

大事そうに飾ってあるのは、高価な武器かヤバい武器のどちらかだ、とウルマは続けた。

 

「……忍刀はなさそうでござるな」

「みたいだな」

「むっ、あれはシュリケンではござらぬか」

 

シノブが棚の上段に視線を向けた。とその時……。

 

「ニセモノだがな」

 

扉の奥から盲目の店主が姿を現した。

 

「……ニセモノ、でござるか」

「ああ。呪いが付与されていない、ただの投げナイフだ」

 

シュリケンが投げナイフと言われると、なんかしっくりこないな。忍具(にんぐ)とか投擲武器って(くく)りの方がいい気もするけど、まあ変なこだわりなんだろう。

 

「呪いの武器か。穏やかじゃねぇな」

「持ち主に対するものではない。相手に対して発動するものだ。発動すれば、一撃で相手を絶命させる」

 

致命的な一撃(クリティカルヒット)というやつか。

 

「それは置いてないのでござるか?」

「ホンモノは、そう簡単には手に入らんさ。おまえ、新顔だな」

「この度ジョン殿の一党に加わることとなった、シノブでござる。よろしくお願いするでござるよ」

「あんまりよろしくしたくはない店だがな」

「言ってくれるじゃないか、鉱人(ドワーフ)

 

タック和尚もこの店のことは好きじゃないみたいだったし、ドワーフとは相性が悪いのかもしれない。

 

「ところで店主殿、オーガロードを殺せる武器は置いてあるでござるか?」

「オーガロードなど、どんな武器でも殺せるだろう」

 

興味なさげに、キャットロブさんは告げた。たしかにオーガロードの恐るべきところはその膂力であり、皮膚はドラゴンのように硬くはない。少し切れ味の良い武器なら普通に倒せるだろう。

 

「だがあえてというのなら……しばし待て」

 

キャットロブさんは奥に姿を消し、ほどなくして戻ってきた。

一抱えほどもある包みの中から出てきたのは、巨大な三日月刀(シミター)だった。たしかに切れ味は良さそうではあるが……。

 

「ちょっと大きすぎるでござるな」

 

刀身だけでもシノブの身長と同じくらいはある。巨漢が振り回すならまだしも、シノブが持つには少し大きすぎる。

 

「もう少し小回りの利く武器はないでござるか?」

「贅沢な小娘だ」

 

そう言って、キャットロブさんはもう一振りの刀をもうひとつの包みから取り出した。それは、先のシミターを一回り小さくしたような刀だった。

シノブはマジマジとその刀を眺めている。反応は悪くないようだ。

 

「銘は何というでござるか」

「オルクボルグだ」

「オルクボルグ。不思議な響きでござるな」

「オルク……森人(エルフ)語か。たしか……ゴブリンだったか?」

 

ぼそりとウルマが呟いた。そういえば、キャットロブさんはエルフだったな。

 

「ゴブリン? オーガではないのでござるか?」

小鬼(ちいさい)大鬼(おおきい)かの違いだろう。鬼は鬼だ」

 

種族的には同じ、と言いたいのだろう。猫と虎みたいなものだろうか。

シノブは無言でオルクボルグを見つめている。納得したかどうかはわからないが、刀自体は気に入ったようだ。

武器はあれで決まりのようだな。あとは……。

 

 

「防具か」

「あ、鎧は不要でござるよ」

「なに?」

「鎧に守られているという安心感は、動きを鈍くするでござる」

「でもおまえ、それで一回死んでるじゃねぇか」

「んがっ!?」

 

ウルマの鋭いツッコミを受けて、シノブは押し黙った。

 

「革鎧くらいならいいんじゃないの? そんなに重くないよ?」

 

とアルテが提案するが、やはりシノブは気が進まないようだった。

 

「……無理強いするつもりはないぞ。いきなり戦闘スタイルを変えると、かえって戸惑うからな」

「そうでござるな。心配してくれるのはありがたいでござるが、それがしは今まで通りの戦い方でいくでござるよ」

 

結局、防具はなしで、オルクボルグと、シュリケンをいくつか購入することになった。

シュリケンはともかく、オルクボルグは結構な値段だった。

 

 

 

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