迷宮漂流記   作:乾燥海藻類

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第07話 「二人目」

「あんたがジョンかい?」

 

いつものように探索を終え、アルテと酒場で夕食をとっていると、小柄な女性が話しかけてきた。

背丈はアルテより頭ひとつ分くらい高い。だが体格は正反対でがっしりしている。

腕も脚も太く、屈強な肉体なのは一目瞭然だった。

鉱人(ドワーフ)だ。

 

「そうだが、なにか用かな?」

「張り紙を見た。戦士の募集は、まだ受け付けてるかい?」

「ふむ。では食べながら話そうか。お互い聞きたいこと、確認したいこともあるでしょう」

「ああ。おーい、姉ちゃん! 麦酒(エール)を頼む!」

 

女給に注文を告げ、ドワーフの女性は俺の正面に腰掛けた。

 

「あたしはウルマ。見ての通り、ドワーフの戦士だ」

「俺はジョン。こっちはパーティメンバーのアルテ。僧侶だ」

 

俺が紹介すると、アルテは挨拶して頭を下げた。

 

「張り紙にも書いてあった通り、俺たちは下層を目指すためにメンバーを募集している。一階で財宝漁りをするつもりはない。それはいいかい?」

「ああ。あたしももっと稼ぎたくてね。望むところさ。おっ、きたね。ちょいと失礼」

 

断りを入れて、ウルマは運ばれてきたエールをグイッと呷った。

 

「では、報酬について説明しよう。財宝の中で、特に欲しいものがなければ一旦全て換金。その後、一割をパーティの資金として貯蓄(プール)する。残りの九割を頭割りだ。三人なら三等分ということになる」

「貢献度とかは、関係なしか?」

「それをやると、揉める原因になる。うちは頭割りが原則だ。納得できないなら、お断りするしかない」

 

彼女の言いたいこともわかる。戦士というのは、常に前線で命を張っている。後方に構えることの多い魔術師や僧侶と同じ取り分というのは、納得できない人間もいるだろう。

ウルマはあごに手を当てて考え始めた。

 

「……パーティ資金というのは、具体的にどんな使い道だ?」

「傷薬や毒消しなどの消耗品や、蘇生費用もそうだな。要するに、パーティにとって必要なものを買う金だと考えてもらっていい」

「最終的には六人揃えるのか?」

「六人にこだわるつもりはないが、厳しいと感じてきたら人数は増やすつもりだ。その場合、全員の賛同は得るから安心してくれ。勝手にメンバーを増やしたりはしない」

 

メンバーを増やすことを決めたのは、本格的に七階を目指すためだ。やはりソロでは限界がある。単純に手数が増えるだけでも、戦術の幅が広がる。宝箱を空ける回数だって、俺一人じゃあ九回が限界だ。

アルテが加入して、"透視(カルフォ)"を覚えてからは、宝箱を空けられる回数も増えた。

地下三階へ行けば、さらに敵は強くなる。その時のために、前衛を募集していたのだ。

 

「わかった。その条件でいい。組んでくれるか?」

「ああ。キミはどうだ?」

「うん。わたしもいいよ。よろしく、ウルマさん」

「呼び捨てで構わないよ」

 

二人が握手を交わす。続いて俺もウルマと握手を交わした。

 

「新メンバー加入の祝いだ。ここは俺が持つから、好きなだけ食ってくれ」

「おっ、気前がいいね。じゃあお言葉に甘えて……おーい、姉ちゃん! 注文たのまぁ!」

 

ウルマはニカッと笑い、どんどん肉料理を注文していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明くる日、俺たちは三人で迷宮に潜った。

まずは戦い方や連携を確かめるために、一階で何度か戦闘をした。

ウルマの戦い方は、剣と盾を(つか)ったオーソドックスなスタイルだった。変わったところといえば、盾が大盾だったことくらいか。

 

ドワーフ(あたしら)只人や圃人(あんたら)みたいに機敏には動けない。受けたり、受け流したり、そうやって戦う」

 

回避より防御に振ったタイプか。

 

「やっぱり《睡眠(カティノ)》があると全然違うね。楽でいい」

 

複数の敵を一気に無力化できるからな。小炎(ハリト)よりも効率が良い。睡眠(カティノ)を使えて、初めて魔術師は魔術師扱いされる。睡眠(カティノ)を使えない魔術師は見向きもされないらしい。

 

「前のパーティに魔術師はいなかったの?」

「ああ。戦士が二人、僧侶と盗賊が一人ずつの四人パーティさ。しかし、あんたはなんなんだ? アルテが僧侶なのはわかる。あんた、戦い方は盗賊っぽいが、呪文も使う。戦闘ではどういう立ち位置なのかわからん」

「基本的には前衛だ。今のところはな。今後、前衛が増えるようなら、後衛に回るかもしれん。ついでに言うと、一応僧侶呪文も使える」

「ますますわからんな。それじゃあ、司教じゃないか」

 

こちらをジロジロと見つめながら、ウルマは嘆息した。どう見ても、司教には見えなかったのだろう。

 

「両方の呪文を使えるからといって、司教とは限らないさ」

「……というと?」

「職業なんてのは、冒険者としての役割をわかりやすくするための符号にすぎん。魔術師だってその気になれば僧侶呪文も覚えられるし、剣だって振れるようになる」

 

そもそも盗賊が職業ってのが、なんかもやもやする。せめて斥候(スカウト)とか野伏(レンジャー)じゃない?

あと戦い方が盗賊っぽいって、褒められてる気がしないな。速さでかく乱しているって意味だとは思うが。

 

「そんなモンかね」

「そんなモンさ。さぁ、次の玄室だ」

 

戦い方の形も、一応は出来てきた。俺とウルマが前衛、アルテが後方で援護。最近は補助呪文も覚えたので、戦闘では置物というわけでもない。

 

「特に問題はなさそうだな。今日はこれくらいにして、明日は二階、行けそうなら三階まで行ってみるか。ウルマは、何かあるか?」

「いや、大丈夫だ。思ったよりいい感じでびっくりしてるよ。まあ追い剥ぎ(ブッシュワッカー)にも出会わなかったしな」

「そんな怪物がいるの?」

 

アルテはきょとんとしてウルマに問いかけた。まあ今のところ俺も出会ったことはない。もしかしたら、あの尾行に気づかず迷宮に入っていれば、遭遇することになっていたかもしれないが。

迷宮の外だから襲ってもいいというわけでもないけどな。いや、よく考えなくても、外で襲う方がマズいだろ。やっぱこの街って、治安悪いよな。法がどうこうっつーか、そもそも冒険者同士の(いさか)いを取り締まる気がないような感じだ。

 

「ブッシュワッカーってのは、冒険者を襲う冒険者のことさ」

「え、でも、迷宮の中でほかの冒険者を襲うのはルールで禁止よね?」

「迷宮の中はルール無用だろ」

 

にべもなくウルマは言い放った。一応、建前としてそういう規則はある。だが"悪"の冒険者が律儀に守ったりはしないわな。

少しだけ、アルテの顔色が悪くなった。

まあ迷宮の中でほかの冒険者と出会うことは稀だ。というのも、迷宮の中では認識阻害が働いているようで、他者の存在がわかりにくくなっているらしい。だから奇襲も受けやすい。

死体だって、探す気がないと意外と見つからない。

 

「ま、それはともかく、一階だからな。下で通じるかどうかは、やってみないとわからんね」

「とりあえず、ウサギの奇襲に気をつけておけばいい」

「ああ、ウサギか……ウサギな……」

 

ああいう素早い相手は苦手なのだろう。だがウルマは反応が悪いわけじゃない。盾を上手く遣えば、攻撃を防ぐことは難しくないだろう。

迷宮を出て、馴染みの店に行き、店主のドワーフに戦利品を渡す。

 

「なあ、解毒の呪文ってあるよな」

「ん? ああ、解毒(ラツモフィス)か。それがどうかしたか?」

 

ウルマの質問に答える。僧侶の第四階梯呪文だ。意外と高い階梯なんだよな。

 

「そいつを極めると、解毒のほかに、状態異常攻撃に対する抵抗力を上げて、おまけにパーティ全体の体力も回復させるって聞いたんだが、本当か?」

「……は?」

 

思わず呆けた声が出てしまった。それじゃあ、施療(ディアル)快復(マディアル)の立場がないじゃないか。完治(マディ)は、まだ使い分けもできるが。

そもそも極めるってなんだ。俺は回復屋で何度となく薬石(ディオス)を使ってきたが、回復量が上がったようには思えんぞ。熟練度なんてないんだよ、たぶん。

 

「ウルマ、それは嘘だ」

「……ああ、やっぱりか。まあ、そんな都合良くはいかねぇよな」

 

そう言って、ウルマはぼりぼりと頭をかいた。戦士や盗賊など、魔法の知識がない人間には判別できないからな。もしそれが本当なら、神様が調整をミスったとしか思えんよ。

そんな馬鹿話をしている間に精算は終わり、俺たちは酒場へ向かった。

 

「くぅ~、冒険の後の一杯はたまらねぇな!」

 

ウルマは火酒を豪快に飲み干した。その隣で、アルテがエールを舐めるようにチビチビと飲んでいる。

 

「そういえばさ、ウルマはもっと稼ぎたいからってウチに来たのよね。どうしてお金が必要なの?」

 

聞きにくいことをズバッと聞くんだな。お金が必要な理由って、大体がマイナスな理由だぞ。

だがウルマは気を悪くした様子もなく、淡々と語り出した。

 

「白金鉱って知ってるか?」

「ううん」

 

ウルマの問いに、アルテはふるふると首を横に振った。ウルマの視線がこちらを向くが、俺も両手の手のひらを天に向け、首を傾げた。

というか、金属なのか鉱石なのか、よくわからん名称だな。鉄鉱石みたいなものだろうか。

 

「まあ、かなりのレアモノだからな。ほとんど市場には出回らないらしい。たまに出たとしても高値で取引されている。そんな時に、金を持ってなくて買えませんでしたじゃあ、間抜けもいいとこだろ?」

「つまり、その白金鉱を買うために金を貯めているわけか」

「それもあるが、親父が言うには白金鉱は怪物からとれるらしいんだよ。鉱山からとれる類の物じゃねぇらしいんだ」

「へぇ、どんな怪物からとれるかはわかってるの?」

 

アルテに問われると、ウルマは少しだけ表情を歪めた。

 

「正確にはわかっていない。悪魔系か精霊系の怪物の核だとは言われているが……まあ出てくるとすりゃあ、迷宮の下層だろう。それも目的のひとつだな。で、二人が迷宮に潜る理由はなんだ?」

「わたしは普通のことよ。迷宮で稼いで、家族に仕送り」

 

アルテはすでに借金を返し終えていた。元々大金というわけでもなかったしな。

 

「俺は、借金だな。まあ大半は返し終わったが」

 

クリーピングコインには稼がせてもらった。だがやはり、出現率は低いな。あれを目当てに二階の玄室を回るというのは、あまり現実的じゃない。

 

「……一応聞くが、ヤベェところから借りてるとかじゃないよな?」

「ああ、それは心配ない」

 

むしろ、この街で一番の有名人と言っても過言ではない人だからな。

小さく笑みを浮かべて、俺は蜂蜜酒を嚥下した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰かが、俺を見下ろしている。

柔らかな笑みで、瞳は紅玉(ルビー)のように輝いていた。

これは、夢だ。なんとなくそれがわかった。

 

俺の記憶じゃない。この身体に残された、記憶の残滓だろう。

視界が暗転する。

今度は、逆だ。俺が先ほどの女性を見下ろしている。

ベッドに横たわった彼女の顔色は死人のように白かった。いや、たぶん、死んでいるのだろう。

 

俺の手が、彼女の顔に触れた。

真言(トゥルーワード)が紡がれ、手の平が淡く光り始める。魔法が発動する前兆だ。

そして、光が溢れ、彼女は……灰になった。

 

 

 

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