月夜の森の従騎士   作:三文小説家

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大鴉

 現れたのはブリキの木こり。外見としては完全に鎧かロボットだが、木こりである。片手に斧を持ち、そして胸部には空洞がある。その空洞からは血液と思われる赤い液体が(したた)っていた。

 

「も~。いきなり女の子にセクハラなんて、駄目だぞ♪」

 

 木こりの攻撃を華麗に回避したLは冗談めかしてそう言った。滴る赤い液体から考えて、犠牲者の末路は想像に難くない。セクハラどころの話ではないが、Lに恐れは感じられない。

 

 Lに与えられた能力は《The Luck》。最大30秒先の未来を予測する事が出来る。更に危険が迫った場合は自動で発動する為、彼女に奇襲は通用しない。巨体の割には静かに行動する木こりの攻撃を回避できたのはこの能力によるものだ。

 

「Pが前に。Lは後衛だ」

「いつでも行けるわよ!」

「はいはーい。Dは?」

「中衛だ。剣伸ばせっからな」

 

 Lは木こりの斧による横薙ぎの攻撃を背面飛びで回避し、右手に持つマシンガンで銃撃する。その合間を縫うようにDの大剣が伸長して木こりの身体を突く。更に跳躍して武器を振り下ろすPの攻撃がクリーンヒットした。Pの武器は中央で分裂したバイクであり、主な攻撃部分はタイヤである。

 

 そして、木こりが僅かに怯んだ隙にLのマシンガンによるヘッドショットが炸裂した。

 

「見た目通り硬いわねー。タイヤがノコギリ仕様じゃなかったら気が遠くなる作業になってたわよ」

「P、そろそろ変われ。相手のクールタイムも終了らしい」

「あら……了解」

 

 Pはタイヤから円形の飛刃を飛ばして離脱する。入れ替わるようにDが大剣を振り下ろした。それも、Pが入れた亀裂に沿うように。大きく仰け反る木こりだが、相手もただではやられず、Pに斧を投げつけてきた。

 

「やば!」

「大丈夫」

 

 しかし、Lの銃撃により斧は弾き返される。Lは既に未来を読み、木こりの苦し紛れの一撃を見抜いていた。

 

「ありがとう! 助かったわ!」

「どういたしまして」

「だが、木こりは逃げちまったぜ……攻撃は遅えのに逃げ足だけは速え」

 

 木こりは一瞬の隙を突いて逃げてしまっていた。中途半端に取り逃がしたのが悔やまれる。部屋に湧いたゴキブリを見逃した気分だ。

 

「まあゆっくりやろうよ。あと30秒で一日が終わるわけじゃないんだし?」

「私がいれば屋敷までは帰れるからね。夜になっても遭難しないよ!」

「ね、願わくば夜には帰りたいな~、なんて」

「盛り上がってるところ悪いが、今回は運に見放されたみてえだぜ、Lさんよ。既に囲まれてる」

「マジ!?」

 

 見れば、大量の蜂や鴉人や小人(マンチキン)に囲まれていた。Lの能力《The Luck》は危機に対して自動発動する。しかし、それは大抵直接自分や味方を攻撃された時であり、今のように囲まれるという状況には適用されない。

 

「随分渋滞しちゃって……」

「ま、所詮雑魚だ。気負わずに行くぜ」

「そうだね~。ま、飛んでるのは任せてよ」

 

 Lがそう言って蜂に対して発砲するのと、蜂が針を発射するのは同時だった。蜂の大きさは人間ほどもあり、針に貫かれれば良くて重症。しかし、結局毒で死ぬという凶悪な攻撃であるが、Lは未来余地を使って(ことごと)く撃ち落とし、更には本体も墜落させてゆく。

 

「おっと、君は迷子かな?」

 

 マンチキンの一体がLに噛みつこうとするが、Lは跳躍して回避。そしてその場で錐揉み回転して蜂を何匹か撃ち落とすと、マンチキンの頭に踵落としをして仕留めた。

 

「L!」

「了解、P!」

 

 バイクに乗って突っ込んできたPの手をLが掴み、二人乗りの状態になる。そして、敵の中を疾走しながらマシンガンを連射した。

 

「派手にやってんな。俺の出番は無さそうだぜ」

 

 走り回る二人を見て、Dは煙草を取り出した。森の中で吸っていたら怒られそうだが、ポイ捨てしなければ問題ないだろう。だが、煙草の火が半分ほども行かない内にLとPは鴉人以外の敵を殲滅し終えた。

 

「あ、一人サボって煙草吸ってる」

「やること無かったんだよ。下手に邪魔するわけにもいかねえしな」

 

 LがDに文句を言うが、本気で怒っているわけではなく、あくまで冗談の範疇なのだろう。その間に鴉人が大鎌をDに向かって振り下ろすが、Dは大剣を使って跳ね返す。

 

「ま、アイツらは俺がやるかね」

「任せたわ」

 

 鴉人は真空波を飛ばしてくるが、Dは難なく大剣で切り落とす。Dの調律文字(オーダー)は《The Divide》。様々な刃を操り、敵を切り裂く能力だ。その中でも最も使いやすく、使用頻度が高いのが伸縮・屈折可能な大剣の魔道具である。

 

「大鴉か……アイリスに教えられた詩を思い出すぜ。俺は恋人を無くした覚えなんざねえけどな」

「いたこともないでしょ」

「そう言う内容の詩があんだよ」

 

 Dは自分達を救ってくれた公爵令嬢が読んでいた詩を思い出す。心乱れる主人公のもとに人語を喋る大鴉が謎めいた訪問をし、主人公はひたひたと狂気に陥っていくという、なんとも暗い内容の詩だったが……基本的に明るく善良な彼女がこのような暗い文学を嗜む事は意外であった。

 

『貴様らが明るい日の目を見る事は、もう二度とない』

 

 首領と思われる大柄な鴉人が言葉を発する。前述の米国の詩に登場するのと同じセリフなのは偶然か否か……しかし、従騎士達は動じなかった。

 

「へえ、お前口が付いてたのか?」

『もう二度とない』

「もうネタ切れかよ」

 

 同じ言葉を繰り返すだけの存在とかした大鴉との会話をDは総奏に打ち切った。あわよくば情報を引き出そうと思ったが、この様子では無理そうである。

 

 まず、襲い掛かって来る小型の双剣持ち鴉人を二、三度撃ち合っていなし、別の小型鴉人の銃撃を伸ばした刃で防いだ。

 

「雑魚はお任せあれー」

「張り切ってるところ悪いが、L、コイツ等の目的は俺みてえだぜ。ネタ切れ発言が気に障ったかね」

「そっかー。あ、また周囲に雑魚が」

「そっちは任せた」

 

 Dはそう言うと、双剣持ちの鴉人に掌底を喰らわせ、逆手に持ち替えた大剣で連続攻撃を加える。その後、斬撃を伴う宙返りで別個体の銃撃を回避し、空中で刃を伸ばして銃持ちを迎撃、その後、着地と同時に一回転するように大剣を一閃した。

 

 その一連の攻撃で小型の鴉人は殲滅出来た。

 

「お前は多少骨があるみてえだな」

 

 大鎌―――柄の両端に刃が付いているため両刃鎌と呼ぶべきかもしれないが、それで防御する大鴉に、Dは刺突の構えで相対する。そして、

 

「甘えよ」

 

 刺突攻撃を繰り出した直後に大鴉は鎌で攻撃を受け、そこから反撃しようとするが、Dはそれすらも読み、逆に刃を屈折させて大鴉に傷をつけた。

 

『もう二度とない!』

「おもしれえのは二回までだって知らねえのか。聞き飽きたぜ」

 

 鎌を回転させて、鴉の羽根を伴う渦のような魔力刃を飛ばしてくる大鴉にDは嘲笑するように言い放つ。無論、魔力刃は《The Divide》で切り裂いて霧散させた。その後も、右から左から振り下ろされ、切り上げる鎌の攻撃を余裕の表情で弾いていくD。

 

 そしてとうとう、Dの大剣が大鴉の鎌を弾き飛ばした。

 

「The end」

 

 Dは渾身の一撃を大鴉に叩きこむ。

 

『もう二度と……ない』

 

 大鴉はそう言って地に伏した。「最後までそれかよ」とDはぼやいたが、これで敵の討伐は終了した。

 

 と、そこでミュオソティスから通信が入る。

 

「どうした、A」

〝D、L、P、一度戻ってくれ。Zが生き残りを連れてきた。情報を整理したい〟

「「「了解」」」

 

 三人は疑うことなく帰還した。取り逃がした木こりについても報告しなければならない。今回の事件は長くなりそうだと思いながら、Aことミュオソティスの能力で屋敷に戻る。

 




 備忘録

〉大鴉

 エドガー・アラン・ポーの物語詩が元ネタ。心乱れる主人公(語り手)の元に、人間の言葉を喋る大鴉が謎めいた訪問をし、主人公はひたひたと狂気に陥っていくという筋。主人公は恋人を失って嘆き悲しんでいる。大鴉はパラス(アテーナー)の胸像の上に止まり、「Nevermore(二度とない)」という言葉を繰り返し、主人公の悲嘆をさらに募らせる。
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