Aことミュオソティスの能力は《The Administrator》。内容としてはB以下の部下である従騎士達の能力の把握及び統制である。これだけ聞くと具体的な効果が分からないが、実際に起こる事としては撤退や戦況打開の為に部下を転移させるという能力だ。また、部下達とリアルタイムで連絡を取り合うことも出来る。これは妨害電波や物理的な障害などによる影響を受けない。他にも色々と機能はあるが、それは本稿の趣旨から逸脱する為、割愛させていただく。
「で、これが生き残りか?」
「そうだよ、ベラちゃん。でも、あんまり話は聞けそうにないな。皆怖くて震えちゃってる」
「Z、今は一応任務中だ。できれば
「あ、ごめんね、A」
ベラちゃんとは、Dの事である。Dの名前はベラドンナといい、縮めてベラである。因みに、Lはフラガリア、Pはアザレアだ。
なお、ベラドンナをベラちゃんと呼ぶのは
答えは彼女の能力にある。《The Zillion》。それがコスモスの能力だ。分身を生み出すという単純な能力ながら、その数は名前の通り『無数』である。コスモスはこの能力で身体を増やし、四人を一気に運んだのだろう。探す際にも分身による人海戦術を用いている。
「うう……悪魔め! これもお前達が仕組んだことなんだろう!」
「おん?」
と、アウトドア用の格好をした男が従騎士達を指差して叫んだ。どうやら山菜を取りにこの森を訪れたようだが……どうやら森での惨劇を従騎士のせいだと思っているらしい。見れば、救出された人々は大なり小なり従騎士達に恐怖の視線を向けている。
まあ、死体が出ないのはここに住んでいる従騎士達のせいだとすれば筋は通るのだが、残念ながら真実は違う。
「おいおい……守護天使様相手になんつー言い草だ」
「うるさい! お前達が悪い! お前達のような道具が上等な暮らししやがって!」
「何言ってんのコノヒト」
支離滅裂という言葉の実例として使えそうな破綻した論理を展開する男。兵器への嫌悪と従騎士達の暮らしへの羨望と森で体験した恐怖が合わさって完全に暴走しているようだ。
確かにアイリスの家の後ろ盾もあり、従騎士達はそれなりに贅沢な暮らしをしている。そもそも、拠点を用意する能力を持つ騎士もいるため、自分達の住環境は自分達で整備できるのもあるが。
「こちらはお前達を不法侵入で警察に突き出す用意がある。向こうがマトモに捜査するかは分からんがね。とはいえ、逮捕されるだけでも君達には多少痛手だろう。我々が羨ましく思えるほどに、生活に困窮しているようだからな」
「お……前……!」
「良い憎悪だ。憎悪とは恐怖から生まれるもの。従騎士の武器は剣ばかりではない。時に恐怖は最適の武器となる。特にお前達のような粗忽者に対しては、な」
歴史は、共和政体であろうと他の如何なる政体であろうと、国家というものにとって嫉妬による中傷ほど害を及ぼすものはないと教えてくれる。そして、それを放置したままだと、これによる危険が想像を超えて増大する事も。
本来、この手の中傷による害を排除するためには、法的に告発できる手段を確立させておくのが常道なのだが……生憎と法は騎士に優しくないようだ。
ミュオソティスは威圧を解除してこう言った。
「しかしまあ、良いだろう。我々は君達をもてなすとしよう。ちょうど昼食の時間だからな。おあつらえ向きの能力を持つ者がいる。H、彼らに食事の用意を」
「は、はい!」
Hと呼ばれたメイド、サルビアが返事をする。伏せ目がちで声も小さいが、歩き方や姿勢は一流のメイドのそれだ。
彼女の能力は《The Home》。拠点と食糧を生成する能力だ。この屋敷自体、彼女の能力によって生成したものである。戦争において無限に食糧を生成できる能力など、有用どころの話ではない。また、彼女一人の存在で屋敷の維持も何もかもできるため、実はただ暮らしてゆくだけなら金銭面での援助はあまり必要ない。それに、いざとなれば金を集める方法もある。
生存者達は訝し気にしていたが、空腹に耐えるのも限界だったのだろう。案内された食卓で食事を貪り始めた。その中で色々と聞き出す事ができたため、抜粋して記しておく。
曰く、ブリキの巨人に襲われて心臓を抜かれた者がいる。
曰く、仲間が案山子に捕まって脳を吸われた。
曰く、血走った眼をしたライオンを見た。
曰く、勝手に動く操り人形を見た。
なかでも最も興味深いのは、別の世界に繋がったという証言だ。その世界は見渡す限りエメラルドに囲まれ、蜂や鴉人や小人、更にエメラルドで出来た機械達が跋扈していたという。
罵倒混じりの証言ではあったが、聞きたいことが聞けた従騎士達は謝礼として宝石を渡し、屋敷の正面玄関から街へと送っていった。フラガリアとアザレアを護衛に付けて。まあ、殆ど監視目的だが。
その後、ミュオソティスは通信がつながった仲間に意見を聞いた。
「Y、どう思う?」
『ブリキ、案山子、ライオン、エメラルドの世界……検索にヒットするのは『オズの魔法使い』ですね』
「やはりか。となると、操り人形はドロシーか? 死体が見つからないのは別の世界へと運ばれたからだろう。D達が遭遇した蜂と鴉と
「よくドロシーって分かったな。仮にそうだとしたら胸糞悪いぜ」
「消去法だ。私としてもあまり良い気分ではない」
ミュオソティスの発言に、ベラドンナはげんなりとした様子で答えた。
「随分と血生臭い童話だな。子供に聞かせるには攻撃力が高すぎる……童話って元からそういうものか。というか、なんで北米の童話の存在が欧州の小国に出てくんだよ……」
「怪異は場所を選ばんからな。日本にドラゴンが現れる事もあるし、その逆も然りだ。これほど有名な童話ならば、何処に現れてもおかしくないだろう。それよりも事態の解決方法を考えねばな。Y、オズの魔法使いとは対話が可能だと思うか?」
『望み薄ですね。元の童話ではただの老詐欺師ですが、今回は正体が不明です。そもそも実体を持つ存在かも分からない』
「概念的な存在という事か」
『あくまで可能性ですが』
「そうでない事を祈りたいものだ。対処が面倒だからな」
『全くですね』
「今回はB、C、D、Jを連れて行く。しかし、一応YやXも準備はしておいてくれ。念の為、な」
『A自らが赴くのですか?』
「話し合いで済むならばそれに越したことはないだろう。まあ、保険のようなものだ。戦闘になってもいいような面子だしな。来客があれば適当にあしらってくれ」
『了解しました』
そう言って、ミュオソティスは通信を切る。
まさか自分達の足元で、怪異どころか異世界まで生まれているとは……ミュオソティスは、自分達に管理権を渡すか、もっと早い段階で知らせてくれと、人間達に溜息を吐いた。
「まあ、十中八九戦闘になるだろうがね……The balance distinguishes not between gold and lead. 敵対するというならば葬るまでだ。場合によっては平等に死を与えようではないか」
The balance distinguishes not between gold and lead.とは、アイリスの座右の銘であり、和訳すれば『天秤は金も鉛も区別しない』である。元は人間の平等を説く
ミュオソティス達従騎士はそれを悪とは思わない。むしろ、彼女を見習ってもう少し自分達の生に貪欲になってみようとすら思った。自らの生を肯定するとは、他者、特に相容れないものを裁くという事である。ミュオソティス達は今まで謙虚に、自虐的に過ぎたのだ。
眼前に敵が存在する間くらいは、傲慢となろうではないか。