月夜の森の従騎士   作:三文小説家

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 オズ編、本格的に戦闘開始。


エメラルドの世界

「なるほど、確かに一面緑だな」

 

 Aが踏み入れたその空間は確かに、エメラルドの世界というに相応しい様相であった。至る所に緑色の結晶があり、ビルなどの人工物も散見されるが、それも結晶で構成されている。

 

「怪異というには、いやに近代的だね。まあ、前時代的でなければならない理由も無いのだけど。それにしても、うん、壮観だ。僕としても、これほどの量のエメラルドは見たことが無い」

 

 その光景を見て、Jことエリカが嘆息する。彼女の能力は《The Jewel》。色々と権能はあるが、名前の通り宝石に関する能力であるというのは間違いない。少なくとも、エリカの手にかかれば、本物か偽物かの判別はつく。

 

「やはり本物なのか? J」

「そうだね。Be3Al2O18。立派なエメラルドだよ。売れば相当な額になるだろうね。勿論、僕の能力も使える」

「Jにとっては天国のような環境でしょうね。私は絶望感が凄まじいですが」

「オメエはいっつも絶望してんな、C」

「私が境界を維持しているのだからもう少し頑張れ、C」

 

 突起状に突き出る結晶を見上げながらロープを取り出すCことミントにツッコむのはBことアネモネである。彼女の能力は《The Borderline》。このような異界を展開する怪異には非常に有効な能力である。この空間を開くだけでなく、出入り口を維持するためにも役に立つ。

 

「おっと、早速敵が来なすったぜ。話し合いは期待できなさそうだな」

「ああ、絶望的な光景ですね」

「ジルコニアにすらならないだろ、コイツ等じゃ。どうする? 僕がやろうか?」

「ではお願いします。援護はしますよ」

 

 ミュオソティス達は既にマンチキンに囲まれていた。エリカが指を鳴らして全員に宝石の粒子を付与する。この粒子は敵の攻撃を反射するというもので、ちょうど礫を飛ばしてきたマンチキンが攻撃を反射されて倒れていた。

 

「分かってると思うけど、あくまで反射するのは飛び道具だけだからね?」

「知っています。攻撃魔法テンプレート-1、発動」

 

 ミントが宙に浮かぶ本から魔弾を放つ。彼女の能力は《The Chronicle》。魔法や敵の技を記録する事が出来る。それらは彼女の本の中に《年代記》という形で記され、編纂されるのだ。

 

 ミントはマンチキン達を魔弾で撃ち抜いていく。その傍らでエリカが宝石で作った弾丸を銃で発射していた。よく見れば、その銃すらも宝石で作られている。

 

「その辺のエメラルドから作ってみたけど、この見た目じゃ、宝石と言うよりはステンドグラスだね。とはいえ、強度は十分だ。それにこの美しさ! 美術品として部屋に飾るも―――」

「口じゃなくて手動かせ」

「はいはい分かってるよ、D。それ」

 

 エリカは撃った弾丸の形を変え、マンチキンを拘束する。それをベラドンナが切り裂いた。更にエリカは俊敏に移動し、宝石の銃で敵を撃ち抜いていく。ついでに帽子からのこぎり状のダイヤモンドの刃が飛び出し、目に見える敵を一掃した。

 

「僕の宝石は美しい。返り血すらつかないほどにね」

「はいはい。地上の敵は一掃しましたが、空中から新手です」

「おっと……」

 

 ミントの言う通り、今度は蜂の群れが彼女等を襲う。だが、従騎士達に絶望の表情は無い。彼女等にとって、こんなことは街でアンケートを取られた程度のハプニングだ。

 

「攻撃魔法テンプレート-4、発動」

 

 ミントがそう唱えると、本から光線のような魔法が放たれる。一定範囲を一斉に薙ぎ払うこの攻撃は多数相手には相性がいい。更に、この攻撃で隊列が乱れた蜂の兵隊たちを魔法の壁が挟み込む。

 

「ふん、所詮は虫けらか。これでは、私が求める境界など得る事が出来ない!」

「……来世に期待だね」

 

 壁を出現させたのはアネモネだった。彼女の能力《The Borderline》は境界に干渉する他にも、境界を出現させることも出来る。それが先の壁。攻撃性の結界だった。

アネモネは生と死の境界を求めて戦闘に参加している。そのためならば痛みすらも歓迎し、完全にOFFにできる痛覚システムすら常に全開にして戦場に出る。

彼女は期待していたのだ。生存者達が証言した恐ろしく残酷な出来事。そんな光景を作り出せる敵ならば、自分の求めるものを提供できるかもしれない。

 

 だが、違った。蜂やマンチキンでは、アネモネの求めるものなど提供できない。

 

「こうなれば話し合いなど選択肢にも上がらん。さあ、敵はここにいるぞ! 排除したいだろう! 叩き潰したいだろう! ならば強者を寄越せ! 精鋭を! 英雄を寄越したらどうだ!? この程度の雑兵では、我々を食い止める事などできないぞ!」

「おいおい……むやみやたらに煽るんじゃないよ。仕事増えるの僕達なんだけど?」

「絶望です。完全にハイになってるじゃないですか。高いのは投身自殺する場所だけで十分なんですよ。巻き込まれる身にもなってくださいよ、全く……」

 

 エリカとミントはアネモネの狂態にぼやく。しかし、統率者であるミュオソティスはむしろ楽しそうにアネモネを評価した。

 

「はは、いいじゃないか。敵に意思があるなら話しくらいは聞いてやるのが私のスタンスだが……そもそも話す気が無いというのならば仕方あるまい。だから私も改めて命令を下す事にしよう。目の前の敵を全て殺せ。私の通る道を作れ。旧日本海軍に倣え。見敵必殺だ!」

「ここ数週間で最悪の日です……」

 

 結局Aことミュオソティスも、もはや殲滅に傾いていた。彼女は軍人にしては優しい性格ではあるが、敵対したと判断すればその思考は殲滅に傾くのである。なお、見敵必殺について、ミュオソティスは「中国語ではないぞ?」と冗談交じりに補足したことがある。中国語だと全く逆の意味合いになるらしい……

 

 とにもかくにも従騎士達は邪魔な敵だけを排除してエメラルドの国の奥に進んでいった。奥に進めば進むほどにエメラルドの結晶の比率が上がってゆく。元々は何か別の場所だったのかもしれないが、今は見る影もない。月夜の森の全貌は従騎士達も把握できていないが、小規模な都市の廃墟でもあったのだろうか。

 

 そして、一行はアネモネの求めていた強敵に出会う。

 

 

 

 

 

 一方、従騎士の住む屋敷の方では蜂の大群の襲撃に遭っていた。

 

「きゃー!? お(うち)が虫だらけです~!」

 

 サルビアは窓ガラスを割って入ってくる人間大の蜂にナイフを投げつけ処理しながら悲鳴を上げる。せっかく掃除したのに、今は虫の死骸と体液で床が汚れてしまっている。戦闘が終わったらまた掃除しなければならない。

 

 サルビアは憂鬱な気分になりながらもナイフを投げ続ける。まず前列二匹を撃ち落とし、後ろの三匹目に回し蹴りを加え、その回転の勢いのまま周囲にナイフを撒き散らし、最後は床から生やした大砲で一網打尽にする。

 

 サルビアの能力《The Home》は防衛用の壁や大砲、設置型の銃火器も出現させる事が出来る。そのため、襲撃に遭って即座に屋敷内のシェルターを下ろし、外側の廊下以外は被害は軽微だったりする。そして、外側の廊下では他の従騎士が迎撃に当たっていた。

 

 今なお夥しい数の蜂の大半は設置型のマシンガンや大砲が迎撃しており、なんでも有りに思えるこの能力だが、サルビア曰く「要塞だってお家ですよね……?」とのこと。家なら何でも作れてしまうこの能力の恐ろしさをミュオソティスは改めて実感した。

 

「熱反応……? マズいです!」

 

 サルビアは蜂が何匹か集まっているのを目撃して、咄嗟に防壁を生成する。案の定、その大群は熱線を放つ。おそらくミツバチに見られる熱殺蜂球の応用だろう。実はサルビアも大群に囲まれた事が有り、その時は投げナイフで蹴散らしていた。囲む前にやられると分かった蜂達は、サルビアの視界外で事を起こしたのだが、あえなく防壁で防がれた。

 

「良い熱量ネエ。虫けらにしてはやるじゃないノ」

「マリーゴールドさん!」

「今は任務中……なのカシラ? 分からないけど、でも、できれば調律文字(オーダー)で呼んで欲しいワ。どんな存在でも燃やし尽くす、アタシだけに許されたこの情熱的熱量の〝F〟を!」

「あ、はい……」

 

 マリーゴールドはどこか道化師を彷彿とさせる赤い衣装で風船を持ってサルビアの下に現れた。そして、その風船は彼女の後方に飛んで行き、

 

「Bomb!」

 

 大量の蜂を巻き込んで爆発する。マリーゴールドの調律文字(オーダー)はF。能力名は《The Fireworks》。爆弾や爆破、熱や炎を用いて戦場を制圧する能力だ。

 

「ここ最近任務が無くて身体が訛っちゃってるノ。久々に烈しい運動、したいワァ」

「お、お家は壊さないでくださいね……?」

 

 サルビアは戦々恐々としながらマリーゴールドの援護に回った。

 




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