味方を自爆特攻させる気満々のクズ女 VS 激重ヤンデレ女   作:人間として終わってる人

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21話 なんで?

 緊急クエストが発生した場所は、王都から少し離れた郊外。

 しかし、王都の目と鼻の先とも言える場所だった。

 勇者達はこんな場所に来るまで厄災の接近を許していた。

 それはつまり人類存続の危機が存在するレベルの緊急事態。

 

 ともかく私達はその場所へ向かった。

 なんとか私は厄災から一番離れた場所で、逃れてきた魔獣を仕留める役割にしてもらった。

 まあ私は色々王国側に貸しがあるからそういう交渉が可能だった。

 

 でも、死の危険があることは確かだった。

 地平線の先には厄災の姿がうっすら見えた。

 私がギリギリ視認できる距離に、最悪の存在がいた。

 

 

「……あ」

 

 指定された場所に遅れて二人が姿を現した。

 エイラはいつも通り……いや、流石に緊張したような面持ちで現れた。

 ネルはというと昨日のこともあってか、私はネルの顔を直視はできなかった。

 それでも、多分無表情であることはチラッと見て分かった。

 

 怒っているのか恨んでいるのか、いずれにせよバレてしまったことに変わりなかった。

 遺恨の残るパーティーで、この危機を乗り越えられるのだろうか。

 不安のせいで胸がざわつく。

 

「…………」

 

 無言のままネルは私の前に立った。

 いつものように私と手を繋ぐことはなく、距離を取ったまま戦闘態勢に入っていた。

 そのことに胸がズキっと痛む。

 いつもとは違った。

 あれを見られた時から、私とネルはいつもの関係には戻れなかった。

 

「あれ? いつもと少し違いますね」

 

 そんなことを知らないエイラは、いつものように私の左手を掴んだ。

 温かい感触が私の手を包み、少し安心してしまう。

 しかし、エイラの手は微かに震えていた。

 

「ふふっ、これってチャンスですかね……?」

 

 エイラは上目遣いで笑顔を浮かべる。

 私はエイラの言葉に息を詰まらせてしまった。

 この三人の中で私の計画を知らないのはエイラだけ。

 エイラだけが未だに騙されている状態だった。

 

 私は胸のモヤモヤが取れないまま、エイラに笑顔を向けることはできなかった。

 

「ミラさんも少し変みたいです。私、お邪魔でしたかね……」

 

 エイラはそんな私の心境を読み取るように、手を離した。

 温かい感触が消え、何故か心が一気に不安に襲われる。

 いつの間にかエイラは私の少し後ろに立っていた。

 

 ネルともエイラとも少し距離ができていた。

 

「始まったわよ」

 

 すると、遠くの方で戦況を確認していたミリナが戻ってきた。

 どうやら、先陣の勇者パーティーが厄災との戦闘を始めたようだ。

 

 先陣を切る勇者パーティーは決まっている。

 王国最強と呼ばれる『無印の勇者』。

 3つの厄災を討伐した英雄。

 人類の希望たる存在こそ、無印の勇者だった。

 

 私の元まで厄災が到達するということは、彼女達の敗北を意味していた。

 それはできるだけ考えたくないシナリオだった。

 

 そんなことを考えているうちに、遥か後方にいる私たちの元へ衝撃波が届いた。

 轟音と砂塵が舞い始め、辺り一帯が異様な雰囲気に包まれる。

 そして、地平線の先から魔獣の群れが現れた。

 

 徐々に数を減らすも、私たちの元へ到達する魔獣は一匹や二匹ではなかった。

 多くの魔獣が私たちの元まで到達した。

 

「───はぁっ!!」

 

 辿り着いた魔獣は一匹残らずミリナがトドメを刺していった。

 ネルもそれに加勢するように魔法を放ち続けた。

 いつもの形は崩れていなかった。

 そのことに若干の希望を感じる。

 

 その次の瞬間、辺りを一際大きな振動が襲った。

 地震のような振動は大地と大気をビリビリと揺らした。

 あまりに異様な空気に体が震える。

 

「…………はぁはぁ」

 

 何故か呼吸が荒くなり、嫌な予感が頭を埋め尽くす。

 私の前で戦うネルとミリナに視線を移す。

 二人は全く動じることなく、魔獣を倒し続けていた。

 

 私は何を恐れているんだろう。

 厄災がここまで来るなら逃げればいいだけだ。

 4人で逃げればいいだけ。

 女神様だって厄災相手の敵前逃亡くらいは許してくれるはずだ。

 そう頭では分かっていた。

 しかし、体の震えは収まらなかった。

 

「ミラさん……? 大丈夫ですか?」

 

 すると、すぐ後ろからエイラの声が聞こえてくる。

 私はその声に安心して……。

 エイラの方を振り返ろうとした瞬間だった。

 

 視界が暗くなり、大きな影が辺りを覆った。

 すぐさま顔を上げると、そこには魔獣が立っていた。

 

「────ッッ!?」

 

 いや、魔獣ではない。

 目の前の魔獣は私の身長の数倍はあった。

 こんな魔獣いるはずがない。

 だとすれば、私の目の前に突如現れたのは───

 

《厄災》だった。

 

 頭が真っ白になるより先に、私はエイラの方を振り返った。

 エイラは私から少しだけ離れた距離にいた。

 あの距離なら……厄災のターゲットにはなっていない。

 そのことを悟ると何故か安心してしまった。

 

 私の頭上では厄災が既に牙を振り下ろそうとしていた。

 エイラが攻撃範囲内にいないことを安心してしまったばかりに、私は棒立ちのまま動けなかった。

 

「ミラっ!!!」

 

 その瞬間、全身が吹き飛ばされ、足が地面に叩きつけられる。

 必死に顔を上げると、歯を食いしばって走るミリナがいた。

 ミリナはそのとんでもないスピードで私を引きずっていた。

 靴が脱げて、靴下すらも地面に擦れてボロボロになってしまう。

 

 ミリナは少し距離の離れた場所で私のことを放り投げた。

 

「馬鹿!! 死にたいの!?」

 

 ミリナは苦しそうな顔で私を怒鳴った。

 その言葉にハッと私は目を覚ました。

 私は厄災の方に視線を移す。

 厄災は既にあの場所からは消えてきた。

 ゾッと心臓が止まるような感覚に陥る。

 

「ど、どこに……!?」

 

 辺りを見渡しても、厄災の姿が捉えられない。

 いつの間にか私の隣にいたはずのミリナが何かに吹き飛ばされる。

 ミリナは遥か先へ吹き飛ばされ、地面に何度も打ち付けられる。

 

 これが厄災だった。

 ありえないほどの理不尽の具現化。

 

 私は恐怖で竦む足をひっ叩いた。

 生きなければ、このピンチを乗り越えなければならない。

 何としても私は生き延びなくちゃダメだ。

 

 私は久しぶりに剣を構え、厄災を睨む。

 

 恐らく、コイツは空間を自由に移動できる能力を持っている。

 私の視界からすぐ消えた理由もそれで説明がつく。

 

 私は吹き飛ばされているミリナに視線を移す。

 厄災は無防備な状態のはずのミリナに追い討ちをかけることはなかった。

 というか追い討ちがなければ、既にミリナは戦闘不能にまで追いやられていることだろう。

 

 それならば狙いは……。

 

「私……だよね」

 

 そう呟くと、その瞬間私の目の前が再び暗くなる。

 そして、目の前に巨大な厄災が現れた。

 

 厄災は本能的に『魔獣全体の利益』となることを優先する。

 そのため知能が高い厄災であればあるほど、魔獣の脅威となるものを残酷なほど効率的に狙う。

 その対象が私であることは明らかだった。

 

 最悪だ。厄災を前にして逃げることもできない。

 コイツは地の果てまで容易に私に追いつけてしまう。

 こいつを殺すかターゲットを変えさせない限り、私は死ぬ。

 

 私はすぐさま厄災と距離を取る。

 そして、なんとか攻略の糸口を探ろうとする。

 

「……な、なんで?」

 

 厄災は距離を詰めてくる……そう考えていた。

 しかし、厄災は私から少し離れた場所から動かなかった。

 そして、やがて大きく口を開く。

 凶悪な牙が顕になり、大気が揺れ始める。

 ガラスが割れるような音が辺りに響き、厄災は口から魔力を解き放った。

 

 全く私のいる方向とは別の角度に、厄災は魔力の波動を放った。

 辺りが一面青白く照らされ、風が吹き荒れる。

 直線上の地面が抉れ、爆音が耳をつんざく。

 

 しかし、放たれた方向は私と全く別の場所。

 私は困惑しながらも、全ての可能性に備えた。

 

「はぁぁ!?!?」

 

 数秒後、その波動はゲートのような魔法障壁に吸い込まれ、私の目の前に現れた。

 空間を操る能力。

 それは分かっていたけれど、まさかそんな芸当ができるとは思わなかった。

 

「それは……なしだろ……」

 

 私は間一髪で波動を躱した。

 しかし、羽織っていたローブは散り散りに焼け落ちてしまった、

 あれに当たれば確実に死ぬ。

 その上、どこからでも出現させられるクソ機能付き。

 

「──ミラさんを傷つけないで……ッ!!」

 

 私が厄災のチート能力に狼狽えていると、私の遥か遠くにいたネルの声が聞こえてきた。

 その叫び声とともに視界を覆うほど大きな火球が厄災に放たれた。

 とんでもない火力と効果範囲。

 あれが当たれば厄災といえど、ただでは済まない。

 

 しかし、残念なことに明らかに遅かった。

 弾速が遅すぎた。

 普通の魔獣であれば、この程度の弾速でもあの巨体であれば避けることはできない。

 しかし、コイツには空間を操る能力がある。

 

「……あ……れ?」

 

 しかし、目の前の厄災はネルの火球を避けることはできなかった。

 能力を発動させることもなく、火球を正面から受けてしまった。

 厄災は地面に叩きつけられ、苦しそうに藻掻く。

 

 見つけた。こいつの弱点。

 能力の連発はできない。

 つまり、能力を使ったあとは致命的な隙がある。

 

 私は再び剣を握り直した。

 

 しかし、既に遅かった。

 目の前の厄災の標的は、私からネルの方へ向いていた。

 いつの間にか、厄災は立ち上がってすぐネルの目の前に瞬間移動していた。

 

「え……?」

 

 何故か私の頭は真っ白になる。

 いや、待て落ち着け。

 図らずも成功してた。

 ターゲットが移り、私が逃げられる隙ができた。

 

 ネルを無視して逃げれば、私は生き延びる。

 それだけの簡単なこと。

 

 私は握り直した剣を、その場に放り投げた。

 

 命拾いした。

 私は間一髪で助かったんだ。

 

 でも、ズキっと胸が痛む。

 今までにないほど深く突き刺さるような痛みが走った。

 

 

 私は……何がしたかったんだっけ。

 生き延びて……生き延びて……それからは……。

 

 私の視線の先ではネルが簡単に吹き飛ばされていた。

 そして、トドメのチートビームを厄災はネルに放とうとしていた。

 きっとネルは避けられない。

 あの身体能力では目の前の出現するあの攻撃を避けるのは不可能だ。

 

 でも、それは私の計画通り。

 そのはずだった。

 そのはずなのに……。

 

 私はどうしても手を伸ばしてしまった。

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