味方を自爆特攻させる気満々のクズ女 VS 激重ヤンデレ女 作:人間として終わってる人
命の勇者 ミラ。
彼女は私が勇者に選ばれた頃から、既に英雄と呼ばれていた。
いくつもの緊急クエストを解決し、人類に多大なる貢献を齎した。
今考えると笑ってしまうくらいありえない状況。
でも、それは事実だった。
ミラは『7度だけ生き返れる』という最大の長所を持っていた。
命の勇者の力は、他の勇者の力とは明らかに一線を画していた。
人の身に余るほどの力を、彼女は全て人類のために使っていた。
私がミラを知った時点で、彼女は5回の生き返りを経験していた。
最初の生き返りを除く、4回全てでミラは輝かしい功績を残した。
見る人が見れば、それぞれ別人が達成したかのような異例の戦績。
ミラを知った日から、私の憧れは彼女になった。
彼女のような勇者になれれば、どれほど嬉しいことか。
私はそう願って、見習い勇者として訓練を必死に受け続けた。
それから数年、ミラの功績が途端に少なくなった。
4回の輝かしい功績が影を落とすように、ミラは勇者としての活動をしなくなっていった。
今思えば、理由は明白だった。
彼女は死にたくなかったんだ。
彼女は、人の身に余る力を持ってしまった。
5度の死というのは、普通の人間が経験して耐えられることではない。
死の度に、死の絶望と苦痛を味わうことになる。
その強力すぎる力の代償として、彼女は遥かに大きな恐怖と苦痛を背負っていた。
そしていつしか彼女は戦うことを止めていた。
私はその事に気づけなかった。
ミラを一人の人間ではなく、一人の英雄として見ていた。
でも、今は痛いほどミラの気持ちが分かった。
「………………」
寝息を立てるミラに触れる。
もう昔みたいに愛おしさを感じながら、ミラの寝顔を見ることはできない。
私は裏切られて救われて、もうあの頃に後戻りはできないから。
それでも、どこまでもクズなのに稀に優しくなるミラを見ると胸が苦しくなる。
その小さな体にどれほどの苦痛と絶望を背負ってきたのか。
既にミラは何回もの死を経験してきた。
その1回でも、私が代わりに死ねることができたなら。
私がミラを知った時から、彼女は変わったようで変わってない。
根っこはずっと私の知ってる英雄のまま。
ミラが本当にクズでどうしようも無い奴だったら、こんな気持ちにならなかったのに。
思わず溜息を吐いた。
*
2日連続で気絶してしまった。
目を開くと今度は知らない天井があった。
私、何してたんだっけ。
記憶が朦朧としてて頭が痛い。
「……あ」
体を起こそうとすると上手くいかない。
左手に視線をやると、そこにはあるはずの物がなかった。
やっと思い出した。
私は厄災の攻撃を正面から受けて、気を失ったんだった。
ネルを見捨てて逃げればよかったのに。
私、本当に何がしたいんだろう。
私は何とかして体を起こした。
慣れない右手だけの動作に少し不快感を覚える。
「もう起きないかと思ってた」
すると、ベッドの横からミリナの声が聞こえてきた。
私はその声を聞いて少し安心した。
良かった。生きてたんだ。
誰かが厄災を倒してくれたのかな。
それとも私がちゃんと殺しきれてたか。
どっちか分からないけど、ともかく安心した。
「よかった。生きてたんだ」
私はミリナの方を見て、そう呟く。
ミリナは俯いたまま私の顔を見ようとはしなかった。
「あんたは昔からちっとも変わってないわね」
ミリナは俯いたまま言葉を絞り出した。
その声は震えていて、ミリナは少し息苦しそうだった。
私はこの表情を見たことがあった。
あの時もこんな顔してた。
「騙すならちゃんと完璧に騙しなさいよ。性悪バカ女」
ミリナは私の体を引っ張り、胸に抱き寄せた。
一瞬だけ見えたミリナの表情はグチャグチャで少し面白かった。
土砂崩れみたいに泣いてて、あの時と全く同じ顔をしてた。
「あと何回残ってるの?」
ミリナは強めに私を抱き締めたままそう尋ねた。
「あと1回だけ」
私は小さくそう呟いた。
すると、ミリナの体が微かに震え始めた。
苦しそうに鼻水を啜り、息を吸い込んだ。
「あと1回って……バカじゃないの? あんなに残ってたのに、あれだけ逃げる機会はあったのに」
ミリナは小さく溜息を吐いた。
うん、私もそう思う。
ネルを捨てればこんなことにならなかったし、ミリナを見捨てていればあと2回死ねたし。
もう私の手には1回しか残ってない。
その1回も左腕がない状態では、長くは生き残れない。
そうなれば本当に終わりが見えてくる。
幾らでもあると思ってた命の終わりが、目の前まで迫っていた。
そのことを考えると、どうしようもなく怖くなる。
「私と一緒に逃げて、全部捨てて一緒に暮らさない……?」
すると、ミリナは私から手を離し、そんなことを言った。
私はミリナの言葉の意図が分からなかった。
「そんなことしたら女神様に殺されちゃうよ?」
「……そうね」
私がやんわりとミリナの提案を断ると、ミリナは顔を背けた。
そして、私の体から離れて立ち上がる。
「もう私も逃げるのは止める。あんたが変わらないなら、私もそれに向き合うわ」
ミリナはそう言って私の目をじっと見つめる。
無表情すぎて何を考えているのか分からない。
ただミリナの真っ赤に腫れた目が、私を熱の篭った瞳で見つめていた。
「私もまだ諦めてないから。あんたのこと」
ミリナはそう言い残すと、部屋を後にした。
ミリナの去り際の言葉に少し胸がドキッと跳ねる。
今まで考えないようにしてたけど、少しだけ分かった気がする。
「私って……女の子が好きなの?」
心臓の辺りに手を当ててみると、まだ心臓の鼓動は収まらない。
そんなはずないと思ってても、なんか無性に胸騒ぎがした。
*
結局、命に別状は全く無かった。
私が展開した防御魔法は完璧で、その効果範囲外だった左腕だけが無くなった。
それだけの話だった。
まぁ死んだわけじゃないし、左腕は利き腕じゃないしね。
私は不幸中の幸いを噛み締める。
ともかく生きてて良かった。
私は慣れない足取りで、いつもの宿に帰る。
なんかバランスが変なんだよね。
私は扉を開き、久しぶりに感じる自分の部屋に入った。
「……ふふ」
部屋からはネルの匂いがした。
嫌いじゃない匂いだった。
今、この世界にネルはまだいる。
ネルは死んでない。
私は何故か安心してしまう。
ネルが生きてること。
ネルの匂いを感じても、罪悪感がないこと。
そのことがどうしようもなく嬉しかった。
「私、何がしたいんだっけ……」
机に乱雑に置かれていた紙切れを見つめる。
散々練りに練った計画。
結局、私はパーティーメンバーを裏切れなかった。
どこまで行っても、私は覚悟のない弱い私のまま。