味方を自爆特攻させる気満々のクズ女 VS 激重ヤンデレ女 作:人間として終わってる人
1日目。
王都の郊外まで行くと、知らない光景が広がっていた。
うじゃうじゃ魔獣がいて、気持ち悪かった。
その中を進むのは気が引けた。
まぁでも、やらなきゃいけないんだけど。
これから長い旅になる。
日付感覚を失わないように日記をつけようと思う。
多分、色んなものを旅で失うと思うけど、忘れたくないものは沢山あるから。
6日目。
持ってきた食料は簡単に尽きちゃった。
まぁでもまだ余裕はある。回復薬も残ってる。
そのはずなのに苦しくて堪らない。
人と話さないって言うのがここまで辛いとは思わなかった。
一人でずっと戦い続けるのは、想像以上に苦しかった。
誰かの体温が恋しい。
でも、ネルの分まで頑張らなくちゃ……。
19日目。
今日は魔獣を沢山殺した。
もう殺しすぎて分かんないくらい。
返り血のせいで服が汚くなってる。
水浴びをする余裕もないし、どうしようもない。
回復薬も全部使い終わった。
もうこれからは現地で調達するしか方法は無い。
そう考えると気が遠くなる。
まだ長い旅は始まったばかりなのに。
もう何年もこの地獄で過ごしてたみたい。
35日目。
最近、意識が朦朧としている。
夢の中にいるみたいに体が浮いているみたい。
いくら殺しても殺しても、ずっと魔獣は現れる。
この地獄で私は生きている。
もう1ヶ月も寝てないらしい。
まぁこの土地で眠ることは死を意味するから当たり前なんだけど。
それでも、時々目を閉じると思い出す。
あの日のこと。幸せだった日のことを。
それが私の頑張る理由。
もう忘れそうになるほど遠い昔のように感じるけど。
93日目。
ここまで来ると全く植物が見当たらない。
あまりに不毛すぎる土地まで来てしまっていた。
食べるものが全く見つからない。
恐る恐る魔獣の死体を食べてみた。
めちゃくちゃ不味かった。ありえないくらい。
でも、腹は膨れた。
これで何とか死ぬことは無さそう。
121日目。
眠い。もう目を閉じれば意識を失いそう。
でも、寝たら死ぬ。
きっと体が安心して、そのまま死んじゃう。
それだけは分かった。
だから私は目を無理矢理開いた。
本当に苦しい時は、腕を傷つければ目が少しだけ覚めた。
そのせいで傷が残ってしまうけど、それでも良い。
血だらけになってる方が、まだ生きることができた。
私は血を流しながら前に進んだ。
162日目。
私は何の為に前に進むんだろう。
もう思い出せない。
私が人間だった頃の記憶が思い出せない。
ずっと生まれた時から、この場所にいるみたいな感覚になる。
大切だった人の名前が思い出せなかった。
かけがえのない記憶が欠落しつつあった。
でも、それでも覚えてる。誰かの顔。
前髪が長めで、私の好みの黒髪の女の子。
もう名前は分からないけど、私は知ってる。
私はその子のために頑張ってるんだ。多分。
256日目。
時々、幻覚を見る。
知らない誰かが私の手を掴んでる。
温かい体温が伝わって、少し嬉しくなる。
知らない三人の顔が目の前にある気がした。
私の前を行く三人は、大切で誰よりも生きて欲しい人。
もう思い出せないけど、きっと私は好きだったんだ。
あの瞬間が、もう遠い過去の時間が。
273日目。
辛くて苦しくて、カバンの中身を漁ってみた。
そしたらよく分からない紙切れを見つけた。
ネル……それにエイラとミリナ。
知らない人の情報がビッシリ刻まれていた。
それを読んでみると、何故か胸が苦しくなった。
無性に涙が溢れて、尚更苦しくて辛くなった。
でも、不思議と嫌な気持ちはしなかった。
私は私の生きる理由を少しだけ思い出した気がした。
302日目。
魔王城に辿り着いた。
案外呆気なかった。
永遠に届かないと思っていたけど、すぐ目の前にゴールがあった。
もうすぐ終わりだ。
いや、まだ半分だ。
帰り道もあるから。
だから、待っててね。
私の知らない愛する人。
*
意識が遠のく。
頭が痛くて、もう楽になれと悪魔が叫ぶ。
私の目の前には魔王の死体が転がっていた。
私は目的を果たした。
いや、まだ途中だ。まだこれでやっと半分。
フラフラとした足取りで、私は歩き始めた。
「…………帰らなきゃ」
そう呟き、一歩踏み出す。
その瞬間、足がもつれて地面に叩きつけられる。
満身創痍の体が最後の衝撃により、完全に停止する。
ここで死ぬんだ。
そう思った。
私はゆっくりと目を閉じた。
すると、あの時の知らない記憶が蘇った。
あの地平線の先には知らない国があるらしい。
そんな話を誰かがしていた。
「…………っっ」
不意に首元の首輪に目が行く。
どこで手に入れたかも知らない首輪。
でも、少し温かい誰かの体温が残っている気がした。
きっと、この体温は……ネルだ。
私は首輪を握り締め、目を開く。
そして、何とか立ち上がった。
まだ途中だから。
この命はネルの分まで残しておかないと……。
私は再び歩き始めた。
長い長い道のり。
それでも、頑張れる理由があった。
ネルの分まで生きないと。