味方を自爆特攻させる気満々のクズ女 VS 激重ヤンデレ女 作:人間として終わってる人
懐かしい景色が見える。
忘れかけた記憶が蘇るように感情が込み上げてくる。
王都は昔より随分賑やかで活気があった。
私はボロボロの体で一人、王都をフラフラと歩いた。
私のことを怪訝そうな表情で見つめる人々の視線が突き刺さる。
でも、今はただ命より大切な人の為に歩いた。
やっと辿り着いた教会。
地下室の鍵は示し合わせたかのように開いていた。
その部屋にネルは眠っている。
「はぁ……はぁ……」
息が苦しい。一歩ずつ踏み出す足が痛む。
苦しくて辛くて、でも目の前にある大切なもの。
地下室の奥にはネルの遺体が見えた。
完璧な保存状態だった。
きっと教会の人達が総力を上げて守り抜いてくれたもの。
嫌いだったけど、こういう時は本当に頼りになる人達だった。
「ネル……」
私は一歩踏み出した。
グラッと視界が揺れて、その場で倒れ込んでしまう。
頭が痛くて視界が揺れている。
目を閉じれば意識を失ってしまう。
だから、私は手を伸ばした。
もうすぐで、もうすぐでネルに会える。
私は必死に手を伸ばし、手で床を這いずった。
爪が床に食いこんで血が流れる。
爪が剥がれて激痛が走る。
でも、私は進み続けた。
私はあまりに情けない姿のまま、ネルの顔に触れた。
ネルの寝顔は昔のまま変わらない。
変わったのは私だけ。
あまりに長い時間を過ごしすぎた。
ネルのいない世界で。
「もうすぐ会える……」
私はネルの頬に手を当てる。
冷たい体温が伝わる。
嬉しくて涙が溢れる。
私の大切な人。やっと見つけた生きる理由。
「私の命……ネルにあげるよ」
私は小さく笑った。
結局、ネルには伝えなかったっけ。
私が死んでも生き返れること。
そして、誰も知らない情報もある。
私が命を誰かに与えられること。
命を司る命の勇者。
その能力は一つだけではなかった。
この力を使うことは無いと思っていた。
でも、今は命より大切な人がいるから。
「起きて……」
ネルの唇に触れる。
柔らかいネルの唇の感触。
嬉しかった。
光が辺りを包み込み、あの時みたいにネルの顔だけが視界に映った。
私の命が消えていく。
終わりが迫っていた。
「……ミラ……さん……?」
意識が途切れる間際、ネルが目を開いた。
思わず嗚咽が漏れて、涙がとめどなく零れる。
会いたかった。ずっとネルに会いたかった。
私は残った力でネルを抱き締めた。
「ネル……好きだよ……」
私はただそう言って、目を閉じた。
あまりに幸せな死だった。
こんなに幸せに死ねるなら、最初からやれば良かった。
でも、これから生きるネルには平和な世界を残したかった。
死ぬのが怖かった。
何よりも怖かった。
だから味方を自爆特攻させる気満々だった。
でも、今は違う。
こんなに死ぬことが幸せなんて知らなかった。
ネルのために死ねたなら、どれだけ幸せなことだろう。
意識が薄れていく。
最後に見えたのは涙が流すネルの顔。
「バカ!! 何してるんですかっ!?」
次の瞬間、頬にめちゃくちゃ痛みが走る。
めちゃくちゃ痛い。
私はあまりの驚きに目を開く。
え? え? ビンタされた??
私は困惑しながらも、ネルを見つめる。
「ミラさんが死んだら意味ないじゃないですか!!」
ネルは涙をボロボロと零しながら、もう一度私をビンタした。
どの魔獣の攻撃より痛かった。
ありえないくらい痛かった。
というか普通に全力でビンタしてるよね??
「ま、待って? 落ち着いて?」
「落ち着けません! ダメです! な、何とかしてください! 半分とかに分けれないんですか!?」
ネルは迫真の表情で私に迫る。
もう一度ビンタが飛んできそうで少し怖かった。
「い、いや、半分ってそれじゃあネルは1年も生きられないよ……?」
「いいです。ミラさんと一緒なら……と、とにかくやってください!! じゃないとまたビンタしますよ!?」
ネルは普通にキレながら私を睨む。
馬鹿みたいに泣きまくってるくせに、強気なネルに圧倒される。
私は何とか手を伸ばし、ネルの言う通りにしてみる。
「え? あ、あれ……?」
辺りが光を包み込む。
私の命が消えて、半分だけ私の心臓に残った。
普通に二つに分けれた……。
「ミラさん!! やりました……!!」
私が困惑していると、ネルが私に飛びついてくる。
久しぶりの人の体温が体を包み込む。
泣きそうになって私は顔を抑える。
「ネル……会いたかった……」
私は震える声でそう呟いた。
「はい……でも、それからはずっと一緒です。死ぬ時までずっと」
ネルは私の手を掴み、そう言って満面の笑みで笑った。
その表情に心臓がドキッと跳ねる。
「うん……死ぬまでずっと……」
私はネルに見られながらも涙をボロボロと流す。
そして、ネルの手を握り返した。
*
「ねぇ、ミラさん。約束覚えてますか?」
「え……? 約束……? なんだっけ……」
「ずっと向こう側の知らない国に行くことですよ! なんで忘れちゃうんですか!?」
「あ、ああ……そんな話してたね……」
「じゃあ、行きましょう。2人で……」
「うん」
私はそう答えて、温かいネルの手を繋いだ。
嬉しそうなネルの表情が見えて、私も嬉しかった。
きっと短い間だけど、ネルのいる世界で私は生きてる。