――ペリッパー連絡所
「あそこがペリッパー連絡所だよ」
遠くまで海を見渡せる岬に、目的の建物はあった。潮風を受ける斜面の上、青空の下に立つその建物は、どこか愉快な顔つきをしている。ペリッパーの顔を模した外観で、入口は大きなくちばしの下側に設けられていた。ひときわ目を引く鮮やかな黄色――くちばしの色が、建物の印象を決定づけている。そして、丸みを帯びた頭頂部にはわずかに土が盛られ、そこから緑がひょっこりと顔を覗かせていた。
「ここには、あちこちで困ってるポケモンたちの情報が集まってくるんだ。ほら、見て、あの掲示板! あそこに救助の依頼が貼り出されるんだよ」
へぇ、と声を漏らしながら、ハルトは建物の正面に設けられた掲示板を覗き込んだ。そこには、手書きの依頼文がいくつも貼られており、それぞれにポケモンたちの切実な願いや困りごとが書き記されていた。
『依頼主:エレキッドのスズミ
場所 :小さな森 B2F
目的 :助けてほしいです
お礼 :ホンキチケットA 』
『依頼主:タマタマのピンキー
場所 :電磁波の洞窟 B2F
目的 :あたいを助けて
お礼 :ピーピーマックス 』
『依頼主:ポチエナのカンナ
場所 :電磁波の洞窟 B3F
目的 :助けてほしいです
お礼 :にじいろグミ 』
『依頼主:プラスルのモモイ & マイナンのミドリ
場所 :電磁波の洞窟 B6F
目的 :最下層までつれてって
お礼 :ホンキチケットA 』
ぱっと見たところ、この辺りの依頼が、今の自分たちに引き受けられそうなもの――といったところだろうか。この四つなら場所もよく知っているし、道中の様子もおおよそ見当がつく。迷うことも、手こずることも少ないだろう。
「ねっ? いろいろ書いてあったでしょ?」
「うん……じゃあ、ここから選べばいいんだよね?」
「そういうこと!」
ハルトの確認に、ローリエは力強く頷いた。目を輝かせたまま掲示板の方へ視線を向け、言葉を続ける。
「とにかく、最初のうちはここの依頼をこなしていこうよ。そうすれば、私たちのチームも少しずつ名前が売れて……そのうちポストにも依頼が来るんじゃないかな」
「なるほど……」
となれば、問題はどの依頼を受けるか、ということになる。できれば、先の四つ全てを引き受けたいところだが、全ての依頼が同じ場所というわけではない。小さな森はポケモン広場からそれほど離れていないため、一日で四つ全てを終えるのも不可能ではないかもしれないが……。
「(……いや、無理は良くないよね。時間や体力だって、無限にあるわけじゃないんだし……)」
ミイラ取りがミイラになる、ということわざがある。助けに行ったはずが、助けられる側になってしまう――そんな事態は避けなければならない。確かに、今の自分たちでも全ての依頼をこなせるかもしれないが、無理を押してまで挑むべきではない。何より、自分たちの他にも救助隊はいるのだ。やはりここは堅実に行くべきだろう。
「……よし、この三つにしよっか」
「うん、いいと思う!」
悩んだ末に選んだのは、『電磁波の洞窟』に関する三件の依頼だった。後ろ髪を引かれる思いもなくはないが、これが最善だと自分に言い聞かせる。一歩ずつ、できることから――今は、それが何よりも大切なのだ。
「そうと決まれば、さっそく出発だねっ!」
「うん。でもその前に――まずはポケモン広場で準備していこう」
――ポケモン広場
現在、二人の持つ道具袋に入る道具の数は、合計で32――決して少なくはないが、余裕があるとも言いがたい。リンゴなどの食料に、オレンの実やピーピーリカバーといった回復アイテムを無計画に詰め込んでいたら、それだけであっという間に空きがなくなってしまう。
「これで全部ね? 確かに預かったわ。ここに預けておけば、まず間違いはないから安心して」
なので、今回の冒険では使わないだろう道具を、ガルーラの倉庫に預けることにした。電磁波の洞窟は最下層がB6Fと、それほど深い階層を持つダンジョンではない。食料も、普通のリンゴを数個持っていけば十分だろうと考え、昨日、依頼のお礼で貰った大きなリンゴは倉庫に預けた。タネ類に関しても用途に応じて必要なものだけを選別する。
預けた道具を、クランがえっほえっほと小さな体で大切そうに運んでいく。微笑ましい仕事ぶりをしばし温かい目で見つめてから、二人は今度、カクレオン商店の方へと足を向けた。
「フヒ、カクレオン商店へようこそダ。探し物はなにカナ?」
「護衛依頼もあるから……オレンの実は多めに持っておいた方がいいよね?」
「うん、そう思う。……すみません、オレンの実はいくらですか?」
「フム、オレンの実だネ。ひとつ25ポケダヨ。いくつ欲しいのカナ?」
所持金は約1500ポケ、手元にあるオレンの実は3個。昨日潜った感覚に加え、護衛依頼がある点も考慮すれば――生息するポケモンの種類や強さ、遭遇頻度を踏まえて、必要な数は……。
「……オレンの実を3個ください」
「フヒ、毎度ありダ。救助隊を始めたのダロウ? これからも贔屓にしてくれると嬉しいヨ」
保険も含め、6つもあれば十分だろう。そう判断したハルトは、手渡された3個のオレンの実を受け取り、丁寧に道具袋の隙間へと詰め込んでいく。これで回復アイテムの準備は万端。残るは、もしもの時に備えて手持ちのお金を預けること――冒険前の最後の準備として、二人はペルシアン銀行へと足を向ける。
「ラウラちゃん。お金を預けに来たんだけど……」
「分かった。いくら預かる?」
「えっと……」
これから冒険に向かうとなれば、余分なお金を持ち歩くのは得策ではない。もし途中で倒れたりすれば、他の持ち物とともに所持金を丸ごと失ってしまう。
そこで、ハルトとローリエは財布の中身をそのまま取り出し、まとめてラウラに差し出した。
慣れた手つきで受け取った彼女は、ざっと目を通すと無言で帳簿に記録をつける。その動きからは、預かった金額の多寡に左右されない、仕事人としての確かな貫禄と熟練が滲み出ていた。
「これ、サービス。セツニャから渡すように言われてる」
そう言ってラウラが差し出したのは、手のひらにすっぽり収まるひとつのオレンの実だった。思いがけない贈り物に、ハルトは小さく目を見張る。これなら先に銀行へ寄っていれば、購入数を減らせたかもしれない――などと考えもしたが、すぐに打ち消す。回復アイテムはいくつあっても困らないし、何よりこうして気にかけてもらえたことが素直に嬉しかった。ありがたく受け取ったハルトは、改めて、この広場の温かさをしみじみ感じていた。
「ありがとう」
「またね、ラウラちゃん!」
「ん、また」
倉庫、商店、銀行――必要な準備は一通り済ませた。持ち物を見直し、道具袋の重みを手で確かめながら、二人は広場の外れにある救助隊基地まで戻ってきた。拠点の前で一息ついたのち、広場の外へと続く道の前に立つ。
「よし。それじゃあ、まずは電磁波の洞窟まで行こう」
「うんっ!」
頷き合い、二人は同時に駆け出した。目指すは依頼の現場である電磁波の洞窟。一歩を踏み出したその足取りに迷いはなく、ただ確かに、救助隊としての第一歩を踏みしめていった。
チーム:アーカイブス
ハルト(ヒトカゲ) Lv.5
・りゅうのいかり
・はじけるほのお
・かみつく
・ひっかく
ローリエ(チコリータ) Lv.6
・げんしのちから
・はっぱカッター
・たいあたり
・くさむすび
依頼主の元ネタ
エレキッド娘 :スズミ 元ネタ:ブルーアーカイブより『守月スズミ』
タマタマ娘 :ピンキー 元ネタ:マリオストーリーより『ピンキー』
ポチエナ娘 :カンナ 元ネタ:ブルーアーカイブより『尾刃カンナ』
プラスル娘 :モモイ 元ネタ:ブルーアーカイブより『才羽モモイ』
マイナン娘 :ミドリ 元ネタ:ブルーアーカイブより『才羽ミドリ』