――電磁波の洞窟 B6F
「ここが最下層……よし、ダンジョン部分はB5Fまでっと」
「生息するポケモンはコラッタ、ニドラン♀、エレキッド、ビリリダマ、プラスル、マイナン、ポチエナの計7種類……うん、これ以外のポケモンはいないっぽいね」
モモイとミドリがメモ帳に何やら書き留めている。視線を交わすこともなく、それぞれの手元でペンを走らせている様子からして、互いの言葉に応じて記録を照らし合わせているのだろう。この洞窟内で得た断片的な情報を丁寧に整理し、理解を深めようとしているのが見て取れた。
「なにしてるの?」
「資料を纏めているんです。あとで、ゲームを作るときに使えるように……」
「ゲーム……?」
「はい……私たちはゲーム開発の仕事をしていまして。いつ、どんな形で急に新作を作ることになるか分からないので、普段から定期的にあれこれアイデアを集めて、それについて話し合ったりしているんです」
ゲームという、この世界にはそぐわない言葉にハルトは首を傾げる。言っては悪いが、ポケモン広場を見る限りでは、ゲームが開発されるほど、この世界の技術水準が高いようには見えない。それなのに「ゲーム開発」とはどういうことなのか――そんな疑問に応じるように、ふふん! とモモイが自慢げに無い胸を張った。
「改めて……私はGKB、シナリオライターのモモイ!」
「私はミドリ。イラストレーターで、ルールブックのビジュアル全般を担当してます」
「それとここにいないけど、企画周りを担当してる私たちの社長、ノコッチのユズを含めて……」
「「私たちが、ゲーム開発会社『GKB』だよ!」」
「ルルブ……ああ、そういうことか」
納得したように頷くハルト。まだ全貌を理解できたわけではないが、彼女たちの肩書きから察するに――おそらく、彼女たちが作っているゲームとはテーブルトークRPGのことだ。
いわゆる、テーブルゲームのジャンルのひとつ。ゲーム機などのコンピュータを使わずに、紙や鉛筆、サイコロなどの道具を用いて、人間同士の会話とルールブックに記載されたルールに従って進行する対話型のロールプレイングゲーム。
そう考えれば、電子機器類が発達していない(と思われる)この世界に、「ゲーム」という文化があるのもおかしくはない。
「よしっ! じゃあメモも取ったことだし、地上に戻るとしよっか!」
「うん、帰ったら情報整理だね。次のアイデア会議用の締め切り日も近いし……」
目的は果たしたとばかりに――いや、事実、ここまで来た時点で目的は果たせたのだろう。この洞窟を踏破し、生息するポケモンたちの情報を収集し、貴重な資料としての価値を備えた記録にまで昇華させたのだから。モモイとミドリは互いに軽く頷き合うと、十分な成果を得られた満足感と次なる準備への意志をその瞳に宿しつつ、ハルトたちの方へくるりと向き直った。
ハルトが救助隊バッジを取り出す。彼の意志を読み取ったかのように、バッジは柔らかな光を灯し――瞬く間に、不思議な力が四人を包み込む。眩い閃光が迸り、そのまま彼らは地上へと転送されていった。
――ペリッパー連絡所
「今日はありがとうございました。今度、また護衛をお願いしますね。皆さん」
「完成したら、関係者用の特別版を送るから……今度、プレイした感想を聞かせてね!」
モモイとミドリとは洞窟の出口で別れることになった。短い間だったが、彼女たちとの冒険は新鮮で、どこか賑やかな余韻を残していた。別れ際、依頼の報酬として、マクノシタの姿が大きく描かれた銀色のチケット――ホンキチケットAと、200ポケを渡されたハルトたちは、それらを道具袋に収めると、残る二人の依頼者が待っているはずのペリッパー連絡所へと足を運んだ。
「……あ」
掲示板の横を通り過ぎる際、ふと視線を向けたハルトは、小さく声を漏らした。
今朝、目を付けていた最後の依頼――掲示板の隅に貼られていた『小さな森での救助依頼』の紙が無くなっていた。どうやら、誰かが引き受けてくれたようだ。その事実に、胸の奥に残っていた小さなわだかまりがすっと消えていく。……気が付けば、肩の力もすっかり抜けていた。
「? どうしたの?」
「ううん、なんでもないよ」
こちらを振り向き、きょとんとした眼差しを向けてくるローリエに、曖昧な笑みを返す。それ以上を語ることなく、いつもの調子を装うように歩き出すと――目を瞬かせつつ、何気ない様子でローリエも後ろに続いてきた。
「おお……」
陽の光を背に、ハルトは木製の扉をぎぃ……と押し開けた。木材の軋む柔らかな音が足元から伝わり、ほんのり潮の匂いを含んだ空気が、建物の中に満ちているのが感じ取れる。外観からは想像のつかなかった内装に、わずかに目を見張りながら――その視線を、建物全体の細部に至るまでなぞるように、ゆっくりと巡らせる。
「(まるでファンタジー作品に出てくる冒険者ギルドみたいだ……)」
入口正面には窓口があり、その後ろには、色とりどりの紙が留められたコルクボードや、事務用の机、手紙の仕分けに使われる棚などが整然と並んでいる。これだけを見れば、町の郵便局や役所のような実務的な施設を想像するかもしれないが――それに加えて、受付手前には年季の入った丸い木製テーブルが四つ配置され、それぞれに椅子が四脚ずつ備えられている。さらに、建物の隅には木箱やタルが積まれ、実用性と雑然さの同居する、どこか非日常的な空間を形作っていた。
「あら、誰がやってきたのかと思えば……」
突然の声に振り向けば、丸テーブルの一つに、見覚えのある顔が二つ並んでいた。
そこにいたのは、今日の冒険で救助した二人の女性――ピンキーとカンナ。こっちこっちと言わんばかりに手を振るピンキーの傍ら、カンナは湯気の立つカップをそっとテーブルに置くと、控えめに一礼する。彼女の所作には、確かな礼節と感謝の念が込められていた。
「……先ほどは助けていただいて、ありがとうございました」
「どういたしまして」
「あの、実は。不躾ですが、ひとつ、お願いしたいことがありまして……」
「お願い?」
躊躇いがちに、カンナはコクリと頷く。
「……私を、お二人の救助隊に加えていただけませんか?」
「え?」
その提案はあまりに予想外で、ハルトとローリエは思わず顔を見合わせる。
「それは……もちろん、嬉しいけど」
「本当に? その……私たち、まだ駆け出しで……」
「構いません。……以前、別の救助隊を志望しましたが、その顔で不安がる人の前に立つような仕事は難しいと言われ……自分に愛想がないのは自覚しているのですが。やはり諦めきれず……」
カンナの言葉に含まれた諦念の色を、二人は黙って受け止める。どこか自信なげに伏せられた視線に、微かにではあるが、長く胸の内に燻っていた想いの尾が見えたような気がした。
改めて、彼女の容姿をまじまじと見つめる。確かに、目つきには鋭さがあり、ともすれば冷たい印象を受けかねない。言われてみれば、近寄りがたい雰囲気があるかもしれないが――それでも、人を怯えさせるほど恐ろしい顔には見えなかった。
「お二人に助けられ……改めて思いました。私も、誰かを助ける救助隊の一員になりたい、と」
「……!」
『私、そんなポケモンたちを助けたい。ポケモンたちが安心して暮らせる世の中にしたいの』
――それは、ローリエが救助隊を立ち上げた理由と同じものだった。ローリエは胸の奥を震わせながらハルトの方を振り返る。彼女の視線を受けたハルトもまた、無言のまま頷いた。……考えていることは同じらしい。言葉にせずとも、二人の胸にある想いはひとつだった。
「……分かった。けど、ひとつだけ条件がある」
「条件、ですか……?」
「その畏まった口調はやめて、素の喋り方で話してほしい。これから仲間になるんだからさ」
てっきり厳しい試験や課題を出されるのかと思っていたのだろう。思わぬ言葉に、カンナは驚いたように目を瞬かせる。条件――という響きに身構えていた彼女の表情から、次第に緊張の色が薄らいでいくのを、ハルトは見逃さなかった。
「分かり……いや、分かった。……改めて、ポチエナのカンナだ。以後、よろしく頼む」
「こちらこそ……よろしく、カンナ」
真っ直ぐに見つめ合いながら、二人は力強く手を握り合う。新たな仲間との絆を確かめるように繋がれた掌には、これからを共に歩むという確かな意志が宿っていた。
チーム:アーカイブス
ハルト(ヒトカゲ) Lv.7
・りゅうのいかり
・はじけるほのお
・かみつく
・ひっかく
・ひのこ New!!
ローリエ(チコリータ) Lv.8
・げんしのちから
・はっぱカッター
・たいあたり
・くさむすび
カンナ(ポチエナ) Lv.7 New!!
・たいあたり
・とおぼえ
・すなかけ
・バークアウト
・さしおさえ
おまけ
カンナ:進化前ということで、1年生のすがた(仮)。
GKB:原作初期のゲーム開発部。但し、資料価値もあってゲームが売れている。