ポケ娘 不思議のダンジョン   作:ゲーマーN

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13F 梟の夜鳴声

 ――ポケモン広場

 

 ムツカの店を後にし、雑踏で賑わうポケモン広場の一角を歩いていたところ、不意に「ぐぅううううーー」と、誰かのお腹の虫が盛大に鳴り響いた。

 

「少し早いけど、そろそろ夕御飯にしよっか?」

 

「賛成! 近くのお店は、っと……」

 

 ハルトの提案を受け、真っ先に頷いたのはローリエだった。彼女は道沿いに立ち並ぶ建物の数々をぐるりと見渡し、ちょうど良さそうなお店がないかと目を走らせる──と、そこへカンナの声が飛んできた。

 

「この辺りに馴染みの店がある。……ついて来てくれ。味も雰囲気も悪くない店だ」

 

 カンナの案内で、一行は彼女が馴染みにしているという店へと向かう。道行く人々とすれ違いながら歩くこと数分ほど、辿り着いたのは『夜木兎食堂』――隅っこにデフォルメされたヨルノズクが描かれた、どこか愛嬌のある看板が目を引く、小さな屋台だった。

 

「いらっしゃいませ! ご注文は……って、あっ、カンナさん! 今日は友達と一緒なの?」

 

 屋台の中を覗き込むと、あどけない笑顔を浮かべた女性が迎えてくれた。店の名前と看板の絵から予想はしていたが、やはりこの店の主はヨルノズクのようだ。茶色の和服に身を包む彼女の背中からは、ヨルノズクのそれと同じ一対の翼が生えている。

 

「ああ、ミスティア。……すまないが、3人分の席は空いているか?」

 

「大丈夫だよ! キョウコ、お客さんを席に案内してあげて!」

 

「はーい! こちらへどうぞ~!」

 

 カンナとの付き合いが長いのか、ミスティアと呼ばれたその女性は気心の知れた様子で親しげに応じると、もう一人の店員に声をかけた。いそいそと駆け寄ってきたのは、小柄で軽やかな身のこなしを見せる女の子。耳介の縁に黒い帯状の模様があるピンク色の耳からして、おそらくブルーだろう彼女は、元気一杯に身振り手振りを交えながら、ハルトたちを空いている席へと案内する。

 

「こちらがメニューです!」

 

 差し出されたメニューを開くと、おにぎりや味噌汁、冷奴といった定番のものから、八目鰻の蒲焼のような変わり種の一品まで、和食を中心とした料理がずらりと並んでいた。

 そう言えば、ポケモン世界には鳥や牛、豚といった普通の動物は存在しないはずだが、これらの料理の食材はどこから仕入れているのだろうか――とハルトは疑問に思ったものの、お腹の虫が今はご飯だと催促するように鳴いたため、余計な考えはひとまず脇に置いておくことにした。

 

「オススメは?」

 

「八目鰻の蒲焼だよ! おでんも美味しいけど、オススメはやっぱりコレ!」

 

「ここの蒲焼は、他と一味も二味も違うんだよなぁ……八目鰻と一緒に烏龍茶を飲むと、口の中の脂と一緒に一日の疲れも流してくれる気がして……」

 

 うんうん、と相槌を打つカンナの表情は、まさにご満悦そのもの。目を輝かせ、口元にはヨダレまでこぼれている。どうやら、それほどまでにここの蒲焼がお気に入りらしく、言葉に詰まることもなく、その魅力を次から次へと語り続けている。

 常連の彼女がここまで言うのならば――と、ハルトとローリエも八目鰻の蒲焼を注文し、烏龍茶も併せて3つ頼んだ。注文を取り終えたキョウコは小走りに屋台の方へと戻っていく。

 

「やっつめ・う~なぎの・さ~ばきかた~♪」

 

 しばらくして、可愛らしい歌声がハルトたちの席にまで届いてきた。それに釣られて目を向けると、ミスティアが料理を作る傍らで、上機嫌に八目鰻の歌を口ずさんでいる姿が視界に入る。包丁がまな板を叩く「トントントン」という音が、屋台の下から柔らかく響いていた。

 ほんのわずかに手元が顔を覗かせているだけだったが、ポケモンとして高い視力を得た今のハルトには、彼女が捌いているものがどんな見た目をしているのか、はっきりと見て取れた。

 

「うわぁ……」

 

「……あ、怖かったら見ないでいいよ。でも、見た目がアレなほうが美味しいのよね~!」

 

 顎を持たず、その口は吸盤状。ウナギのように細長い体をしており、8つの目――正確には、鰓孔が7つ並んでおり、本来の目と合わせて八つ目に見える――と、言葉を選ばず言えば非常にグロテスクな見た目をしている。

 しかし、食材としての品質は折り紙付きなのだろう。屋台から漂う香りには、本物の鰻の蒲焼にも引けを取らない、思わず生唾を飲み込んでしまうほどに食欲をそそるものがあった。

 

「はい、お待ちどおさま! 八目鰻の蒲焼と烏龍茶三人前よ!」

 

 キョウコがお盆で運んできたのは、串に刺された八目鰻の蒲焼と、冷たい烏龍茶が三つずつ。ほどよく焦げ目のついた蒲焼には、照り焼きの甘辛いタレがたっぷりとかけられ、香ばしい匂いがふわりと鼻腔をくすぐる。淡い琥珀色の液体がなみなみと注がれたグラスには、細かな水滴がにじんでおり、陽の落ちかけた広場の空気の中で、それだけがひときわ涼を感じさせてくれた。

 

「それじゃ、かんぱーい!」

 

「「かんぱーいっ!」」

 

 カチン、とグラスをぶつけあう。まずは一口、冷たい烏龍茶を喉へと流し込む。涼やかな苦味が口内をさっと洗い、火照った身体の奥までひんやりと冷やしてくれた。

 続けて、焼き鳥のように串に刺さった蒲焼を手に取り、串の先から大きくひとかじり。ほろりと崩れる柔らかな身から溢れる脂の旨味と、甘辛いタレの味が舌の上で混ざり合い、何とも言えない幸福感が口いっぱいに広がる。

 

「美味しーっ!」

 

「こんなに美味しい蒲焼、初めて食べたかも……」

 

 絶品、それ以外の言葉が見つからない。ちょっとお高めの鰻の蒲焼を食べたこともあるが、それと比べても見劣りしない――むしろ、上回ると言っても過言ではない味わいだった。

 

「そうだろう? ……それに、冷える日にはおでんも格別なんだ。ここのはな、じっくり時間をかけて仕込んだ牛筋が柔らかくて、味もよく染みている。特製烏龍茶との相性も抜群だぞ」

 

「へぇ、そうなんだ……。今はあんまり贅沢できないけど、いつか懐に余裕ができたら、山盛りのおでんを思いっきり食べてみたいなぁ……」

 

「そのためにも……明日からまた一緒に頑張ろうね!」

 

 蒲焼だけでは流石に足りなかったため、追加でおでんを注文した。温かな湯気とともに届くその一皿が、疲れた体にじんわりと染み渡っていく。話題は自然と日常の些細なことに移り、和やかな空気が広がった。そうして食事を楽しみながら時を過ごすうち、気がつけば皿の上の蒲焼はあと一口を残すのみとなっていた。冷めないうちに食べ切ろうと、最後にもう一度烏龍茶で口の中をさっぱりとさせてから、串に残った最後の一切れを頬張る。

 

「……ごちそうさまでした」

 

 と口を揃えて、三人は同時に手を合わせた。心から満足の行く料理だった。席を立ち、お勘定を済ませ、ミスティアに美味しい料理のお礼を告げる。そして、そう遠くないうちに再び味わえるであろう彼女の料理を楽しみにしながら、屋台を後にしたのだった。




チーム:アーカイブス

ハルト(ヒトカゲ) Lv.7
・りゅうのいかり
・はじけるほのお
・かみつく
・ひっかく
・ひのこ

ローリエ(チコリータ) Lv.8
・げんしのちから
・はっぱカッター
・たいあたり
・くさむすび

カンナ(ポチエナ) Lv.7
・たいあたり
・とおぼえ
・すなかけ
・バークアウト
・さしおさえ



登場人物
ヨルノズク娘 :ミスティア   元ネタ:東方Projectより『ミスティア・ローレライ』
ブルー娘   :キョウコ    元ネタ:東方Projectより『幽谷響子』



TIPS:
ポケ。
ポケダン世界における通貨。ダンジョンで拾ったり、依頼の報酬として手に入る。
本作では、普通のリンゴ1個の価格が25ポケであることから、1ポケはおおよそ10円相当の価値と設定している。
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