――マクノシタ訓練所
「うむ! よく頑張ったでござる」
訓練を終え、訓練所の入口まで戻ってきたハルトたち三人へと、既に待ち構えていたシショーがゆるりと姿を現した。咳き込みながらも、その口調には真っ直ぐな労いの色が滲んでいた。
短いながらも力と技の限りを尽くした訓練に三人はすっかり疲れ果てていたが、それでもどこか晴れやかな面持ちをしている。実戦さながらの内容は予想以上に身体へ負担を残していたが、それ以上に得るものがあった。小さな達成感と、自分が一歩強くなれたという実感が、胸の内にじんわりと湧き上がる。
「「「ありがとうございました!」」」
「またいつでも訓練しにくるとよいでござる。ゴホ……」
深く礼をした三人は、肩を軽く回して身体をほぐしながら、訓練所を後にした。朝方よりも少しだけ高く昇った陽の光を浴びながら、ポケモン広場の大通りを北に向かって歩いていく。
「……疲れたぁ」
「マクノシタ訓練所……噂には聞いていたが、想像以上に厳しい訓練だったな」
「休憩無しの無限組手だもんねぇ……」
ローリエの言葉通り、ハルトたちは一切の手加減なく、絶え間なく現れるポケモンたちとの連戦を強いられた。わずかな休憩すら許されない苛烈さは、もはや本物のダンジョンすらも凌駕するもので、気を抜けば敵に囲まれ、そのまま倒されかねないほどだった。
「……ふぅ、どこかで一息入れようか」
「うんっ!」
「あぁ、賛成だ」
十分な休息を挟まずにダンジョン探索に繰り出せば、集中力も判断力も鈍り、あっという間に悲惨な結末を迎えることになるだろう。消耗しきった今の状態では、どれほど小規模な依頼であっても油断は禁物だ。今は無理をせず、まずは体を休めて体力と気力を回復させるべきだろう。
「あぁ……困ったなぁ……。何処へ行ったんだろ……」
「……なんか困ってそうな人がいるね」
「休憩は後回しか」
「この声、何処からだろう?」
――と、そう考えて適当な場所を探していた三人だったが、どこからともなく聞こえてきた声に足を止める。耳を澄ませると、何やら途方に暮れているような男の声が微かに届いてきた。
辺りに視線を巡らせて声の主を探していた矢先――先頭に立っていたハルトが、不意に何かとぶつかった。
「痛っ!」
「ああっ! ごめんなさい! ごめんなさい!」
「……あ、いや。僕の方こそごめんね」
ゴーグル帽子に青と白の翼――衝突の勢いで尻餅をついたハルトのすぐ前には、同じく地面に座り込んだ青年の姿があった。毎朝配達に来るペリッパーを思わせる服装と翼の配色だが、翼は随分と小ぶりだ。おそらく、目の前の彼は進化前にあたるキャモメなのだろう。
「本当にごめんなさい! 探し物をしていたもので……前を見ていませんでした」
「探し物?」
「はい、私はパレッタと言います。ペリッパー連絡所で手紙を運ぶ仕事をしているのですが……」
キャモメの青年――パレッタは何かを言いかけたが、すぐに唇を閉ざした。泳ぐ視線は逡巡の色を帯びつつ、やがてハルトの胸元――救助隊バッジに止まる。短い沈黙を経て、所在なげに俯いた彼は、後ろめたさを滲ませながら口を開いた。
「そのぅ……実は今、配達中の手紙を無くして困っているんです」
「……失礼ながら、それは郵便屋にあるまじき失態では?」
「……あなたの仰るとおりです。本当に、言い訳のしようもありません……」
あまりにあんまりな事情に、カンナの眉がぴくりと動いた。彼女も最初は何とか言葉を飲み込もうとしたが、流石に堪えきれず、思わず苦言が口を突いて出てしまう。パレッタ自身、言われる前から自覚はあったらしく、ばつが悪そうな表情のまま、こちらをまっすぐ見つめ返してきた。
「このポケモン広場の何処かで落としたと思うんですが、なかなか見つからなくて……もし見つけたらでいいので、教えていただけますか……?」
ポケモンたちを助けたい――それが、ハルトたち三人に共通する救助隊活動の理由だ。依頼の内容や大小に関係なく、困っている誰かの力になりたいという想いは、彼らの行動の根幹にある。
もちろん、配達中の手紙を無くしたという彼に思うところがないわけではない。だが――今、目の前で必死に助けを求めるその姿に、厳しい言葉だけをぶつけるのは、違うのではないかとも思ったのだ。何より――
「……うん。分かった」
――本当に困っている彼を、見捨てることはできない。
「僕たちにも手伝わせてほしい」
「ほっ、本当ですか!? あっ……ありがとうございます!」
「気にしないで。困っている時はお互い様だよ!」
「……ああ、ローリエの言う通りだ」
ハルトの申し出に、パレッタの顔がぱっと明るくなった。救われたようなその表情に、ローリエも自然と頷きながら笑みを浮かべる。カンナもほんの一瞬だけ目を伏せたものの、波立つ心を内に収めたかのように顔を上げると、小さく息を吐いて同意の言葉を添えた。
「それじゃあ、まずは手紙の特徴を教えてくれるかな?」
「は、はい……分かりました。ええと、無くしてしまった手紙は3通あって……」
パレッタから無くした手紙についての情報を聞き終えた三人は、互いに顔を見合わせ、一拍置いてから頷き合う。それから、ポケモン広場全体を眺めながら、今後の動きについて話し始めた。
「3通か……なら、手分けして広場を見て回った方が良さそうだね」
「そうだな。私は東の方を見てくる。連絡所からの道中に落ちているかもしれない」
「じゃあ私は西側に行こうかな」
「それなら僕は北の方向を探してみるよ」
「私は広場の南を探していますんで……その、すみませんが、どうかよろしくお願いします」
またあとで、と最後にハルトが声をかけると、ローリエとカンナはそれぞれ頷きを返す。パレッタも申し訳なさそうに頭を下げ、南の方角へと足を向ける。四人は短い言葉を交わし、打ち合わせ通りの方向へと散り散りになっていった。
チーム:アーカイブス
ハルト(ヒトカゲ) Lv.11
・りゅうのいかり
・はじけるほのお
・かみつく
・ひっかく
・ひのこ
・ドラゴンクロー
・えんまく
ローリエ(チコリータ) Lv.13
・げんしのちから
・はっぱカッター
・たいあたり
・くさむすび
・どくのこな
・こうごうせい
カンナ(ポチエナ) Lv.10
・たいあたり
・とおぼえ
・すなかけ
・バークアウト
・さしおさえ
・かみつく
登場人物
キャモメ息 :パレッタ 元ネタ:マリオストーリーより『パレッタ』