――ペリッパー連絡所*1
今度こそ何事もなく連絡所に到着した三人は、早速掲示板に張り出されている依頼に目を通していく。ざっと流し見た限り、今の実力でも十分達成可能だろうと思われるものは、以下の四件。
『依頼主:キノココのクリオ
場所 :小さな森 B2F
目的 :おにんぎょうを探してほしい
お礼 :プチふっかつタネ 』
『依頼主:ポッポのナツ
場所 :電磁波の洞窟 B2F
目的 :おやつにリンゴを
お礼 :ピーピーマックス 』
『依頼主:ヒマナッツのミネバ
場所 :電磁波の洞窟 B3F
目的 :助けてください
お礼 :セカイイチ 』
『依頼主:ビリリダマのハルカ
場所 :電磁波の洞窟 B4F
目的 :アル様を探しています
お礼 :いりょくガツン 』
因みに、人探しなど本来階層が特定できないはずの依頼で目的地が判明しているのは、エスパータイプやゴーストタイプなど、念視能力を持つポケモンの協力によるものだ。ジョウト地方のジムリーダー・マツバのように、ポケモン世界には人間にも同様の異能持ちはいたりする。
「どれにする?」
単純に効率、合理性だけを求めるならば、今日も電磁波の洞窟に向かうのが最適解だろう。依頼が三件も集中しており、移動の手間も報酬の内容も申し分ない。敵の分布や内部の情報という面でも、昨日一昨日と探索経験が有るという点は大きい。実績・報酬・情報――多くの面から、それ以外を選ぶ理由はない。しかし……
「(……お人形、か)」
曰く、妹のクリコが無くしたピッピにんぎょうを探してほしい、と。同名の人形は、逃げられない状態にされた時でも確実に逃げられるようになる道具として知られているが――おそらくこの依頼内容からして、そうした特殊な効果のあるものではなく、人形遊び用のただの玩具だろう。
「……」
とはいえ、それが大切なものではないということにはならない。自分でも覚えていないような幼い頃には、ハルトもお気に入りのクマのぬいぐるみを肌身離さず持ち歩いていたと、両親から聞かされたことがある。だがある日、保育園からの帰り道でなくしてしまったそうだ。道すがらどこかに落としてしまったのか、気付いた時にはもう手元になかったらしい。探しても見つからず、代わりにと同じものを買ってきても、「違う!」と大泣きした――そう、苦笑混じりに語っていた。
他の誰かには大した価値のないモノでも、本人にとってはかけがえのない宝物、なんてことは珍しくもない。それはきっと、ポケモンだって同じはず。そして何より――困っている誰かを助けたいという想いは、決して理屈だけで割り切れるものではない。
或いは、別の救助隊が解決してくれるかもしれないが、それでも、このまま見て見ぬふりで終わらせてしまったら、間違いなく後悔することになる――そんな確信にも似た予感があった。
「(……よし)」
結局の所、最初から結論は決まっていたのかもしれない。その上で、他の可能性と天秤に掛けてみたのだろうが……頭では最善手とわかっていても、心がそちらを向いていないのであれば意味がない。例え非合理と言われようと、感情を押し殺した判断で未来を掴むよりも、納得の行く選択で少しでも悔いのないように生きていきたい。……多分、自分にはその方が合っている。
「僕はこれにしようと思うんだけど……どう思う?」
「うんっ、いいと思う!」
「私も異論はない」
二人とも、考える素振りもなくすぐに同意を返してくれた。彼女たちからすれば、ただ依頼をひとつ選んだだけに過ぎないのかもしれないが――胸の奥がふっと温かくなる。それじゃあ、と掲示板から依頼書を一枚剥がしたハルトは、仲間たちと共にペリッパー連絡所を後にした。
――小さな森*2
ポケモン広場の北、ナマズンの池に流れ込む川を遡った先に広がる、名の通りに小さな森。木々の数も少なく、下草も疎ら。森というより林といった方が正しいかもしれない。以前は幼いポケモンたちの遊び場だったが、三日前の件から大人のポケモンたちが警戒するようになったせいか、今は閑散としている。唯一の音といえば、木立の隙間を通り抜ける風の囁きくらいなものだ。
「ここ……三日前に、僕たちが初めて会ったところだね」
ナマズンの池のような大きな水場ではなく、ただ窪地に水が溜まっただけの浅い水辺。幾筋もの切り傷が幹に刻まれた一本の樹。周囲に散らばる苔むした岩や折れた枝――どれも記憶にあるものばかりだ。
「そうだね……。何度声をかけても全然起きないし、あの時はホントにびっくりしたんだから」
「あはは……僕も驚いたよ。起きたら、見知らぬ女の子の顔が目の前にあるんだもん」
それも、こんな美少女の――と、心の中でそっと付け加える。初対面の時にも思ったが、改めて見ても、その整った顔立ちと明るい笑顔には目を奪われる。人間だった頃には、女の子と付き合ったこともなければ、接点すらほとんどなかったのだから、なおさらだ。
尤も、本人の前で言えるはずもない。だからこそ、おくびにも出さず、話題を変えるように洞穴のある方向へと視線を移した。
「……さてと。それじゃ行こうか。B2Fだったよね」
気を取り直したハルトが歩き出し、仲間たちもそれに続く。程なくして洞穴の入口となっている地割れの跡に辿り着いた三人は、躊躇うことなく薄明の差す裂け目の奥へと足を踏み入れた。
――小さな森 B2F
レベルが倍以上、仲間も一人多くなった今のハルトたちが苦戦するはずもなく、襲ってくる野生のポケモンをしばき倒しながら下層へと進んでいく。無論、道具の収集も怠らない。何時、何が必要になるか分からない以上、集められるものは可能な限り回収しておく。
「止まれ!!」
「ヒマッ!?」
本来なら、命中した相手の特攻を必ず1段階下げる技――バークアウト。しかし、カンナのこわいかお(技ではない)との相乗効果によるものか、対峙するヒマナッツは足を止めてしまう。
「”ひのこ”!」
そこへ、小さな炎が降り注ぐ。バークアウトでダメージを負っていたこともあり、効果抜群の一撃を受けたヒマナッツは瀕死状態に追い込まれる。残心を忘れず、ヒマナッツの姿が完全に掻き消えるのを見届けてから、ハルトとカンナの二人は「……ふぅ」と息をついた。
「この調子なら連携は問題ないかな」
「ああ。場数を踏めば練度も上がるだろう。……あとは」
「お人形を見つけるだけだね!」
薄いピンクの体に小さな背中の羽と丸まった尻尾が特徴のようせいポケモン――ピッピ。その姿を模した人形なら、こんな土と岩だらけの洞穴では大層目立つだろうと、歩きながら部屋や通路の隅々まで注意深く探し回る。
野生のポケモンが拾っている可能性もあるため、まずは対話の意思を示しつつ、それでも襲ってくるようなら容赦なく返り討ちに――その繰り返しが続いていく。
「あっ、あれって……」
不意に声を上げたローリエの視線の先――そこには確かに、ピッピの見た目をした人形が落ちていた。埃を被って若干汚れてはいるものの、元の形はしっかりと保たれている。とても可愛らしいその人形を拾い上げたローリエは、パタパタと土埃を払ってから道具袋の中にしまい込む。
「……依頼達成、だな」
「きっと、依頼主の妹も喜んでくれるよね!」
「うん。そうに決まってるよ」
三人は踵を返し、元来た道を引き返していく。途中でエンカウントした野生のポケモンたちを蹴散らしつつ地上を目指し、およそ二十分ほどが過ぎた頃――無事に洞穴の入口へと辿り着いた。
チーム:アーカイブス
ハルト(ヒトカゲ) Lv.11
・りゅうのいかり
・はじけるほのお
・かみつく
・ひっかく
・ひのこ
・ドラゴンクロー
・えんまく
ローリエ(チコリータ) Lv.13
・げんしのちから
・はっぱカッター
・たいあたり
・くさむすび
・どくのこな
・こうごうせい
カンナ(ポチエナ) Lv.10
・たいあたり
・とおぼえ
・すなかけ
・バークアウト
・さしおさえ
・かみつく
依頼主の元ネタ
キノココ息 :クリオ 元ネタ:マリオストーリーより『クリオ』
キノココ娘 :クリコ 元ネタ:マリオストーリーより『クリコ』
ポッポ娘 :ナツ 元ネタ:ブルーアーカイブより『柚鳥ナツ』
ヒマナッツ娘 :ミネバ 元ネタ:機動戦士Zガンダムより『ミネバ・ラオ・ザビ』
ビリリダマ娘 :ハルカ 元ネタ:ブルーアーカイブより『伊草ハルカ』