ポケ娘 不思議のダンジョン   作:ゲーマーN

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第1部 救助隊SDX
1F 始まりの出会い


 ――???

 

 闇に包まれた意識の中で、不意に呼びかけが耳を掠めた。誰だろう? 柔らかい声に導かれるように、閉じられていた瞼がゆっくりと開いていく。

 

「……ねえ。……ねえ起きて。起きてってば」

 

 飛び込んできたのは、木漏れ日の揺れる見覚えのない森だった。草の匂いと、頬を優しく撫でる風が混ざり合い、不思議な安らぎを運んでくる。そして――もう一つ。自分を覗き込む女の子の真紅の瞳が、すぐ目の前にあった。

 若草色の髪をポニーテールにまとめた、年の頃にして十代半ばくらいの女の子だ。白いブラウスに、これまた若葉の装いを思わせる緑色のカーディガンを羽織っている。

 

「あ、気がついた! 良かった~!!」

 

「う、うーん……ここは……」

 

「君、ここで倒れてたんだよ。起きてくれてよかったあ!」

 

 女の子はほっとしたように深く息を吐き、その様子を見ながら、辺りに目を向ける。森の中の小さな空き地。柔らかな緑の絨毯に仰向けに横たわり、空からは穏やかな光が差し込んでいる。

 

「私はローリエ。チコリータのローリエ。よろしくね!」

 

「……チコリータ? どこからどう見ても、人間にしか見えないけど……」

 

「え? 人間? 面白い冗談だね! 私はポケモンだよ?」

 

 ポケットモンスター、縮めてポケモン。この星の不思議な不思議な生き物。空、海、森、街の中と、世界中の至るところでその姿を見ることができる。日本人であれば、誰もが一度は耳にしたことがあるだろう有名な言葉だ。

 目の前の女の子は、自分がチコリータ――架空の生物であるはずのポケモンだと、はっきりと言い切った。気合いの入ったなりきりさんかな、と考えたのだが……。

 

「あ、信じてないでしょ! じゃあ見せてあげるよ! ”はっぱカッター”!!」

 

 むっとした様子で立ち上がると、ローリエは右腕を一本の樹に向ける。するとその腕から、まるで手品のように何枚もの葉っぱが放たれる。そして目にも止まらぬ速さで樹に命中、葉っぱの刃が幹に幾筋もの切り傷を刻んだ。

 

「ね? どう? これで信じてくれた?」

 

「……あ、ああ……うん」

 

「良かった。……で、君は? 見たところ、ヒトカゲみたいだけど……」

 

 え? と声を漏らし、自らの身体に視線を落とす。どこか違和感がある――まじまじと体中を確かめてみた。見覚えのない服だが、袖や首周りにオレンジのラインが入った、黄色いフード付きトレーナーに身を包んでいるのはいい。だが、腰の上から人間には存在しない奇妙な部位が伸びており、その先端にぼうっと小さな炎が灯っている。

 ヒトカゲ――とかげポケモン。尻尾の炎は命の灯火。生まれた時から尻尾に炎が灯っている。炎が消えた時、その命は終わってしまう。……ふと、ポケモン図鑑の説明が脳裏をよぎる。

 

「(ホ、ホントだ……この尻尾、確かにヒトカゲになっている!?)」

 

「ねぇ名前は? 名前はなんていうの?」

 

「名前……? えっと、僕の名前はハルトだよ」

 

「ハルトくんかあ。じゃあよろしくね!」

 

 屈託のない笑顔で手を差し出し、握手を求めてくるローリエ。まるで雲ひとつない空のように澄みきった笑みに戸惑いを覚えながらも、ハルトもそっと手を伸ばす。互いの手が触れた瞬間、ぱっと花が咲くように表情を綻ばせ、彼女はその手をぎゅっと嬉しそうに握り返してきた。

 

「キャ、キャタピーちゃん……! 大丈夫っすか、キャタピーちゃん!?」

 

「あれ? あっちから声が……」

 

 ――その時。少し離れたところから、誰かの声が聞こえてきた。ローリエとともに振り返ると、白と黒の美しい二対四枚の翅を羽ばたかせ、空を飛ぶ一人の少女が視界に入る。羽の形や色合いからして、おそらくはバタフリーだろうと当たりを付ける。

 どうやら彼女の方もハルトたちに気付いたようで、羽音を高めると一直線に空を切り、勢いよく空き地へと舞い降りてきた。

 

「どうしたの?」

 

「た、大変なんすよ! うちのキャタピーちゃんが洞穴に落っこちちゃったっす!」

 

「え!?」

 

「なんだって!?」

 

「急に地面が割れて、その中にキャタピーちゃんが!!」

 

 キャタピー――いもむしポケモン。赤い触角から臭いを出して敵を追い払う。脱皮を繰り返し、大きくなる。その分類名、そして幼虫のような外見からも想像できるように、やがて蛹となり、羽化すると白い蝶のような姿へと変わる――それが、最終進化形にあたるバタフリーだ。

 やはり蝶の羽を持つ少女はバタフリーと見て間違いないだろう。弟妹か、或いは実子か。いずれにせよ、幼い子供が洞穴に落ちたとなれば、このまま放っておくわけにはいかない。

 

「本当は、私が迎えに行ければいいんすけど……」

 

 ちらりと視線を向けた先には、大きな黒い眼状紋と赤いY字飾りの帽子を被り、緑のパーカーに身を包んだ、前髪で目元を隠す双子のように瓜二つな少女たちが控えていた。怯えるように肩を震わせ、赤に淡いピンクを溶かしたような色合いの瞳で、不安げにこちらを見つめている。

 

「お姉ちゃん……」

 

「この子たちを置いてはいけないっす」

 

「……わかった。それなら、私たちが助けに行くよ!」

 

「……へ? お二人が……?」

 

「うん! ね、ハルト!」

 

「そうだね。早く助けに行かないと!」

 

 思わぬ申し出に驚いたように大きく目を見開いたバタフリーの少女は、どう返答すべきかと唇に言葉を探していたが、そんな彼女の迷いを払うようにハルトとローリエは力強く頷いて応える。二人の姿を見て、バタフリーの少女は遠慮がちに尋ねる。

 

「……じゃあ、お願いしてもいいっすか?」

 

「「もちろん!」」

 

「恩に着るっすよ! 私はイチカ。名前を出せば、キャタピーちゃんも安心すると思うっす!」

 

 そう言ってイチカは、ひらりと羽のように揺れる青い着物の裾を整え、胸の前で両手を重ねて深く頭を下げた。その慎ましくも真剣な所作には、彼女の感謝と信頼がはっきりと滲んでいる。

 

「それと、洞穴の入口から探った感じっすけど……中では、ポケモンたちが暴れてるみたいっす」

 

「ええっ!? 暴れてるだって? ポケモンたちが!??」

 

「そうっす。多分、地割れで我を忘れてるだけだとは思うっすけど……用心するっすよ!」

 

「……分かった。気をつけるよ」

 

「じゃあ、行ってくるね!」

 

 見守る視線を背に受けながら、ハルトとローリエは小さな決意を胸に洞穴へと駆け出した。




ハルト(ヒトカゲ) Lv.5
・りゅうのいかり
・はじけるほのお
・かみつく
・ひっかく

ローリエ(チコリータ) Lv.5
・げんしのちから
・はっぱカッター
・たいあたり
・くさむすび
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