――電磁波の洞窟
「ガスけつーはらへりー」
「やっと戻れた……」
幼気な体格に、うぐいす色の軽くウェーブがかったロングヘア、そして金色の瞳が印象的な双子の姉妹――腰の辺りまで髪を伸ばした姉のヒカリはお腹を抱えてぐったりとしており、ツインテールに結った妹のノゾミは、疲れたように溜め息を吐いている。
「帰ったら……アレ、頼んじゃう?」
「ペパロニピザー」
「パヒャヒャッ! やっぱお腹空いた時はピザだよね!」
あの状況に陥ってから、いったいどれほどの時間が経っていたのか。B6Fで保護された彼女たちは、すっかりお腹ペコペコの状態だった。
会話だけを聞けば、まだ余裕があるように思えるかもしれないが、実際には――空腹と疲労のダブルパンチで、もう少し遅れていれば、冗談抜きで倒れていた可能性もあるほどだった。
「こ、この声は……もしかして、本当にあの二人を助けてくれたんですか!?」
洞窟の出口を抜けると、今回の依頼人――アオバが目を見開き、驚きの声を上げた。立ち上げたばかりの救助隊という事情もあり、本音では信用しきれていなかったのだろう。彼女の視線は自然と、救助対象だったヒカリとノゾミの二人へ引き寄せられる。
「もちろん! 困っているポケモンたちを助けるのが救助隊だからね!」
「……え、えぇ?」
「また困った時は私たちを呼んでね。いつでも駆けつけて、必ず力になるから!」
「うん、僕たちに出来る限りのことはする。だから、遠慮せずに僕たちを頼ってほしい」
ハルトもローリエも、困っているポケモンを助けたいという気持ちは変わらない。その真っ直ぐな思いは、言葉を超えて、アオバの胸に深く届いていた。
「はぁ……だ、ダメだって分かってるのに……こ、こんなの、期待しちゃうじゃないですかぁ……」
「……ん?」
「な、なんでもありません……そ、それより、これが依頼のお礼なんですけど……」
小さく何かを呟いたのを誤魔化すように、アオバは道具袋からいくつかの品を取り出した。差し出されたのは、瑞々しい大きなリンゴとオレンの実、そして小さな布袋に収められた650ポケ分の硬貨――どれも、無事の喜びと感謝の気持ちが込められた、ささやかな報酬だった。
「きょ、今日は本当にありがとうございました。このご恩は、忘れません……」
「パヒャヒャッ! いつまで喋ってんの! アオバ、行くよ!」
「しゅっぱーつ」
ヒカリとノゾミに急かされるようにして歩き出しながらも、アオバは振り返っては頭を下げ、また振り返っては頭を下げ――何度も何度も、深くお辞儀を繰り返しながら、木々のざわめきに包まれるようにして森へと消えていった。
「ねぇ、ローリエ。僕たちも帰ろうか」
「うん!」
眩しい笑顔を向けるローリエにつられて、ハルトの顔も自然とほころぶ。二人の少女を救助するという初仕事を果たしたハルトたちは、またどこかで彼女たちに会えるだろうという予感を胸に、軽い足取りで救助基地への帰路を辿り始めるのだった。
――救助基地
「今日の救助、うまくいって良かったよね」
「そうだね、頑張った甲斐があったよ」
やがて帰り道を歩ききった先に、夕日に照らされた救助基地が見えてきた。入口の前で足を止め、くるりと振り返ったローリエが明るく声をかけると、ハルトもうんうんと頷いて応える。
「実は私、救助隊を作って初めての仕事だったから、すごくキンチョーしてたの」
言われてみれば、ローリエの表情には、どこか張り詰めた糸が緩んだあとのような疲労の色が浮かんでいるように見えた。緊張が解け、ようやく実感が追いついたのかもしれない。……落ち着くにつれ、自分の中にも、遅れてやってきた疲れがじわじわと滲み出してくるのを感じた。
「今日はちょっと疲れたから、もう帰って寝るね」
「そっか。……ローリエ、本当にお疲れ様」
「ハルトもお疲れ様。明日も頑張ろうね。……おやすみ」
ローリエの姿が見えなくなるまで見届けたあと、ハルトは息をひとつ吐き、小さく頷いて建物の中へと入っていく。昼間の熱気は既に引き、屋内にはほのかに冷えた空気が漂っていた。
荷物を部屋の隅に置き、寝床に体を預けると、自然と瞼が降りてくる。思い返すまでもなく、長い一日だった。心地よい疲れが全身を包むのを感じながら、ハルトはそのまま、夢の世界に沈み込むように眠りへと落ちていった。
――???
「……。ここは……」
どこまでも澄んだ空気の中、柔らかな光が、春の陽だまりのように辺り一面を包んでいた。輪郭の曖昧な、透き通るような世界にあって、ただその温もりだけが、確かなものとして肌に伝わってくる。空と地面の境もわからず、けれど不思議と怖くはない――それはまるで、誰かに優しく抱かれているような、懐かしさを孕んだ光景だった。
「ここはどこ? もしかして……夢の中……?」
ふと、光の揺らめきの向こうに、人影のようなものが見えた気がした。姿ははっきりせず、ぼんやりと霞んでいたが――青く長い髪と、白いドレスらしきものを纏っていることだけは、かろうじてわかった。
「……あれ? 誰か、いる……誰だろう。……知ってる人、かな……?」
目を凝らしてみるが、やはりよく見えない。けれど、それでも確かめたくて、もう一度、人影の方へ視線を向ける――その正体を探ろうと見つめ続けているうちに、温かな光に包まれた世界は次第に薄れ、周囲の景色が波のように遠ざかっていく……。
やがて……夢の残影から温もりが消え、代わりに朝の冷気が頬を撫でる。目を開くと、そこには未だに見慣れない、けれど、どこか安心感を覚える天井が広がっていた。
「なんか、夢を見てたような……」
差し込む朝日の眩しさに、思わず目を細める。なんとなくだが、自分が何かを見ていたことだけは覚えているのだが――それがどんな夢だったのか、もう思い出すことはできなかった。
「ふわぁ~……まあいいや。今日も救助、頑張ろうっと」
それでも不思議と不快感はなく、むしろスッキリと目が覚めた気がする。ハルトは体を起こして大きく伸びをひとつし、さっと着替えを済ませてから部屋を出た。
チーム:アーカイブス
ハルト(ヒトカゲ) Lv.5
・りゅうのいかり
・はじけるほのお
・かみつく
・ひっかく
ローリエ(チコリータ) Lv.6
・げんしのちから
・はっぱカッター
・たいあたり
・くさむすび