――救助基地
「おはようハルト! 今日は早起きだね」
「ローリエ、おはよう。今日は夢見が良かったからかな、自然と目が覚めちゃって」
基地の前で、さわやかな朝の空気を感じながら笑顔で挨拶を交わす二人。ローリエはふと視線を移し、ハルトがポストの中に手を差し入れているのに気付くと、弾んだ声で呼びかけた。
「あっ! ポスト、調べたんだね。……どうだった? 救助の手紙、来てた?」
期待に満ちた眼差しに、しかしハルトは首を横に振る。
「ううん、今日は1枚も来てなかったよ」
「う~~ん、そっかあ。私たち、まだ始めたばかりだからねぇ……」
そう言いつつも、ローリエの表情は隠しようもないほどしょんぼりしていた。なまじ昨日は救助の仕事があったばかりに、今日もまた依頼が来ているかもしれないと期待していたのだろう。
「……仕方がない。ポケモン広場に行ってみようか」
「ポケモン広場?」
「ポケモンたちが暮らしている町だよ。ペリッパー連絡所に行けば仕事もあると思うんだ」
ペリッパー――昨日、手紙を届けてくれた青年の姿が脳裏をよぎる。もしかすると、そのペリッパー連絡所というところが救助の依頼を取りまとめている場所なのかもしれない。そんなふうに思いを巡らせていたハルトに向かって、ローリエが軽く歩み寄り、すっと手を差し伸べた。
「ポケモン広場はこっちだよ。行こっ、ハルト!」
「あ、ちょ、ちょっと待ってってローリエ」
ハルトの返事を待つこともなく、ローリエはそのまま手を引いて駆け出した。あまりに唐突なその勢いと、掌に伝わる温もりに戸惑いつつも、その手を振り払うことはせず、引かれるがままに足を速めていく。すぐに歩みは、駆け足へと変わっていた。
――ポケモン広場
「ここがポケモン広場だよ!」
「わぁ……ここが」
広場の入口で足を止めたローリエが、ぱっと振り返って楽しげに指を差す。促されるままにその先へ視線を向けたハルトの目に飛び込んできたのは、多くのポケモンたちが行き交う、活気に満ちた光景だった。ポケモンの姿を模して建てられた特徴的な店々に、怪しげな品々を並べた屋台の数々が所狭しと軒を連ね、眺めているだけでも心が踊るような魅力に溢れている。
「ここはカクレオン商店! 道具の売り買いができるお店だよ。向かって左側にいるのが店長のアニマさんで、右側のシュティレちゃんはわざマシンを専門に扱ってるの」
「フヒ♪ カクレオン商店の店長にして看板娘、アニマだゾ。今日はどんな道具をご所望カナ?」
喋りながら身を乗り出してきたのは、右目が赤、左目が金色のオッドアイを持つ紫髪の少女だった。緑色の尻尾はゆるく丸まり、彼女の動きに合わせて微かに揺れている。やや芝居がかった胡散臭い口調ではあったが、どこか憎めない愛嬌を感じさせる。
「お初にお目にかかります。私はカクレオン商店の美少女看板娘2号。紫カクレオンのシュティレと申します。ぶい」
その隣では、水色のショートヘアに、丸く巻いた紫色の尻尾を揺らすもう一人の少女が、無表情のまま小さくピースをしてみせた。声にこそ抑揚は乏しいが、言葉の端々には隠しきれない自意識と癖の強さが滲んでいる。
「わざマシン……”かえんほうしゃ”と”ドラゴンクロー”のわざマシンは売ってるかな?」
「もちろんです。”かえんほうしゃ”は2300ポケ、”ドラゴンクロー”は1700ポケとなります」
合計で4000ポケ――決して法外な値段ではないのだろうが、この世界に来たばかりで、まだ十分なお金を持っていないハルトにとっては、簡単に手が出せる額ではなかった。
技の習熟を考えれば早めに手に入れておきたいところだが、もう少し資金を蓄えてからにしようと、今は購入を諦めてローリエの案内に従うことにした。続いて訪れたのは、猫耳の少女が店先に立つ建物だった。
「次はペルシアン銀行。ここではお金を預けることができるよ。ダンジョンの中で倒れると持ってたお金が全部なくなっちゃうから、町を出る前にちゃんと預けておこうね。……いつもはニャースのセツニャちゃんが受付してるんだけど……」
「今日は留守……だからワタシが代わりをしてる。……それより、そっちのヒトカゲ、はじめましてだよね? ワタシはラウラ。ラウラ雑貨店の方もよろしく」
左耳の上にピンク色の羽飾りのような部位を持つ黒い猫耳のポケモン――おそらくニューラと思しき少女は、ちゃっかりと自分の店の宣伝も忘れていなかった。ニューラといえば、非常にずる賢いことで知られるが……なるほど、彼女もその例外ではないらしい。
ラウラの抜け目なさに小さく苦笑いしつつ銀行を後にすると、ローリエが「次はね」と呟いて、広場の奥へと小走りに駆け出していった。どうやら、この案内はまだまだ終わらないらしい。
「ここ、ゴクリンの技教え屋! 技を連結したり、皆伝させたりできるの!」
「連結に……皆伝?」
皆伝――それは、『Pokémon LEGENDS アルセウス』で実装された技使用時のシステムだ。技を皆伝すれば、その技は早業や力業といった特別な形で繰り出すことが可能となる。早業は威力と効果が弱くなる代わりに相手の行動順が遅くなり、連続で行動しやすくなる。力業は威力・効果・命中が強くなるが、味方側の行動順が遅くなり相手ポケモンに連続で行動されやすくなる。
ポケダンシリーズ最新作の発売日は2020年3月6日、LEGENDS アルセウスは2022年1月28日に発売されたゲームソフト――すなわち、本来であればポケダン世界に存在し得ない概念なのだ。そう考えれば、ハルトが疑問を抱くのも無理はないだろう。
「せやで! そしてウチがこの店の主――技教え屋を仕切っとるカズハちゃんや! 好きなものは体を動かすこと、修行すること、修行をつけること! ほんで甘いもんや! よろしくな!」
そんな思考の渦を吹き飛ばすように、頭の天辺に黄色い鶏冠のような部位を持つ小柄な少女が、元気いっぱいに声を上げた。褐色肌――と言うよりは、まるで夏の陽射しの下でこんがりと焼けたかのような肌色が、彼女の快活な印象をさらに際立たせている。
「連結や皆伝の説明はな、実際に店を使う時にな! その時にバッチリ教えたるさかい、楽しみにしといてや!」
にかっと歯を見せて笑うカズハ。太陽のように眩しいその笑顔に、ハルトもつられるように口元を綻ばせた。続けて軽く会釈を返すと、「また今度」と声をかけてカズハと別れる。
そして次に案内されたのは、広場の一角にどっしりと構える建物だった。三角に尖った耳に、大きなお腹、優しげな目元――それらを模して形作られた外観は、一目でガルーラを象ったものと分かる。逞しい体と両腕で包み込むような造形は、どこか母性を感じさせるものがあった。
「そして、ここがガルーラの倉庫。持ちきれない道具や大切な物を預けておけるの。親子でやっててね、アングルさんとクランちゃんが管理してるよ!」
「ガルーラのアングルよ。預かった物は、しっかり大事に管理するから安心してちょうだい」
「私はクランです。必要な時は、気軽に声をかけてくださいね!」
毛先が青い長い金髪に水色のアンダーリムメガネをかけた、知的な雰囲気の女性と、幼い外見に似つかわしくないほど豊かな胸元が目を引くアンバランスな体型の少女が、それぞれ笑顔で自己紹介をする。二人とも、横に張り出した耳と、腰の辺りから伸びる怪獣のような尻尾を備えており、それらは背後に構える建物の意匠とよく似ていた。
「あとね、広場の南のほうにマクノシタ訓練所があるんだ。修行したい時はそこ! 訓練所ではシショーが稽古をつけてくれるよ!」
後にハルトが聞いたところによれば、そのシショーというマクノシタは、かつて名の知れた救助隊の一人であり、今は第一線を退いた身ながら、なおも実力は衰えていないのだという。とはいえ、長い冒険に耐えるほどの体力はもはや残っておらず、現在は件のマクノシタ訓練所で後進の指導に当たっているのだとか。
「どう? いろんなお店があるでしょ?」
「うん。今度は一人でもじっくり見て回ってみたいな。気になるお店もあったし」
広場の中央に戻ったところで、ローリエはふと立ち止まり、東――自分たちの来た方向とは逆の方角へと目を向けた。その視線の先にあるものこそ、今日ここへ訪れた本来の目的地だった。
「そして、ペリッパー連絡所はこの先を真っ直ぐ行ったところにあるよ」
「この先に……」
「そこに行けば、救助の情報が聞けると思うの。まずはペリッパー連絡所に行ってみようよ」
小さく頷いたハルトは、ローリエと並んでペリッパー連絡所を目指して歩き出す。広場の喧騒を背に、賑やかな大通りの真ん中を進むうちに、自然と足取りが軽くなっていくのを感じていた。
チーム:アーカイブス
ハルト(ヒトカゲ) Lv.5
・りゅうのいかり
・はじけるほのお
・かみつく
・ひっかく
ローリエ(チコリータ) Lv.6
・げんしのちから
・はっぱカッター
・たいあたり
・くさむすび
ポケモン広場
カクレオン娘 :アニマ 元ネタ:ティンクルスターナイツより『アニマ』
紫カクレオン娘:シュティレ 元ネタ:ティンクルスターナイツより『シュティレ』
ニューラ娘 :ラウラ 元ネタ:あいりすミスティリア!より『ラウラ・ケリリ』
ニャース娘 :セツニャ 元ネタ:超昂大戦より『猫屋敷せつにゃ』
ゴクリン娘 :カズハ 元ネタ:超昂大戦より『鬼神谷和葉』
ガルーラ娘 :アングル 元ネタ:ガールズクリエイションより『ドロテ・アングル』
子ガルーラ娘 :クラン 元ネタ:ガールズクリエイションより『クラン』
マクノシタ爺 :シショー 元ネタ:マリオストーリーより『シショー』