サマーフェスティバル当日。俺達は浦の星女学院スクールアイドル部の部室に集まっていた。
「サマーフェスティバル、中止になっちゃったね」
理由は明白、台風が進路を変えて天候が悪化したことによる暴風と大雨だ。
「途中で進路が変わったって天気予報で聞いたとkは、まさかと思ったけど」
「自然が相手だから仕方ない・・・・・・って割り切れるものじゃないわよね」
「おのれ神よ・・・・・・このヨハネだけでなく、リトルデーモン達にまで苦しみを強いるとは、許すまじ・・・・・・!」
許すまじって今時使う子いるんだな・・・・・・
「でも・・・・・・まだ全部だめって決まったわけじゃない。今日が中止になっちゃったのは、もうしょうがないけど、まだ・・・・・・まだ明日がある!」
「とは言っても、沼津は海が近いし明日も荒れるはずだよ。たとえ雨が止んでも風が強ければ開催できない」
「どうかしら?台風が気まぐれを起こして、今夜のうちにラン・アウェーイ⭐︎ってことも有り得るでしょ?」
「実際、台風は予想より速い速度で進んでいるようですし、今朝の連絡でも、明日については未定とのことでした」
「可能性は低いかもしれないでけど、千歌の言う通り、まだ全部がだめと決まったわけじゃないよね」
「・・・・・・そうだよね。私たちが不安がっても仕方ないもんね!」
「そうそう♪どん時もポジティブシンキングがミラクルを連れてくるのよ♪」
「最悪の展開を考えるより今できることをやろうぜ!」
「今日のことも、準備や練習の時間が1日増えたって考えれば、それほど悲観することはないのかもしれないわ」
「可能性が少ししかなくても、私達は私達に出来ることを、精一杯やり切る。『あの時、ああしていればよかった』、そう思うことだけは絶対にしたくないから・・・・・・最後まで、希望は捨てないよ!」
みんなすごいな・・・・・・
「本当に泊まらせてもらって大丈夫なの?」
「大丈夫!お姉ちゃん達からもちゃんとオッケーもらってあるから!」
千歌の計らいでAqoursは十千万に宿泊することになり、今はAqoursの部屋にお邪魔している。
「ジャパニーズオフトン・・・・・・ベッドとは違う不思議な安らぎ、マリーの中のジャパニーズマインドが満たされていくわ〜♡」
「こうしてみんなで旅館のお部屋に泊まるなんて、修学旅行みたいで楽しいずら♪」
「修学旅行・・・・・・こうやってみんなで寄り添って寝るのね・・・・・・うぅっ、楽しかったんだろうな・・・・・・!」
「修学旅行行ってないの?」
「中学校の時は風邪で行けなかったんだっけ?大丈夫だよ、次は絶対行けるって」
「・・・・・・外、雨が降ってきたみたいだね。すごい音がする」
「今が暴風雨のピークの時間帯なのかもしれませんわね。今夜中に通過してくれればいいのですが・・・・・・」
「こればっかりはなぁ・・・・・・明日晴れてることを祈るしかねぇ。というわけでこんなものを作ってみたんだ」
「さっきから何かしてると思ったけど何してたの?」
「じゃーん!てるてる坊主!Aqoursをイメージしたんだが、なかなかいい感じだろ?」
「んー、でも、これだとちょっと・・・・・・足りないんじゃない?」
曜の言葉に乗っかるように鞠莉さんがティッシュを取り出し、
「ハイ!マリー特製テルテルボーズ!この子達も一緒に吊るしましょ。明日の太陽を願うのは。9人だけじゃない、でしょ?」
「ちゃんと全員でお願いしないと、てるてる坊主も力を発揮できないかもしれないからね」
「晴れますように、って一緒にお願いしよう」
「てるてる坊主なんてぶっちゃけ迷信でしょ?」
「こういうのは気持ちが大事なんだよ」
「はいはい」
「早速吊るそう!みんなが楽しく盛り上がるお祭り・・・・・・明日こそ、出来ますように!」
「二人とも起きて!起きてー!」
「わっ!なんだ!?」
「うるさい・・・・・・」
朝っぱらから千歌の大声で目が覚めた。時間を見たらまだ5時半過ぎ、世間は寝てる人が多い時間だぞ・・・・・・
「外見て!晴れてるよ!」
「マジか・・・・・・」
「よっしゃー!」
昨日からは想像もできないほどの快晴、まさか本当にてるてる坊主が?
「鞠莉ちゃんが今運営の人と連絡してると思うから、二人も早く準備してみんなのとこに来てね!」
「おう!」
台風を乗り越え奇跡の快晴、これならサマーフェスティバルは開催できる。誰もがそう思っていただろう。だが、現実はそうそう甘くはなかった。
「中止!?」
「な、なんで・・・・・・?こんなに晴れてるのに!風だってほとんどないよ!」
昨日の台風の影響で町にはゴミや木の枝が散乱してみたいだ。それだけでなく装飾やテント、ステージも破損が多く開催できないと言われたそうだ。
「鞠莉ちゃん・・・・・・中止は、もう決まっちゃったことなの・・・・・・?」
「・・・・・・ええ。もうすぐ正式に発表されるわ。今日は町のみんなで片付けと撤去作業ってことになるわね」
「これから発表されるってことは、まだ運営しかこのことを知らないんだよな?」
「そういうことでしょ。何当たり前のこと・・・・・・」
「だったら今から町と会場をみんなで修繕すれば間に合うんじゃないのか?そりゃ、完全に元通りってわけには行かなかもしれないが・・・・・・」
・・・・・・はぁ、言うと思った。けどそれが冬樹らしいか。
「まったく、無茶を言う・・・・・・しょうがない、やるだけやってみるか」
「珍しいな。秋介が乗るなんて、台風でもくるのか?
「縁起でもないこと言うなばか」
「でもお前が乗るってことは、無理ではないんだな?」
「運営が冬樹の言ってることに賛同するのが大前提だけど。千歌、希望はまだ残ってる。それでも諦めるの?」
「千歌ちゃん・・・・・・」
「千歌ちゃん、どうする?」
「・・・・・・やだ。諦めたくない。みんなで一生懸命準備したんだもん。それが全部無駄になっちゃうなんて嫌だ・・・・・・!お祭り・・・・・・ちゃんとやりたいよぉっ!」
「・・・・・・その言葉を待ってたわ。チカッチ」
「!ま、鞠莉ちゃん・・・・・・」
「全く、千歌さんだけでなくあなた達まで・・・・・・無茶を言いますわね」
「けど、そういうの嫌いじゃないよ♪」
「台風だって1日でどうにかなったしね!お祭りもどうにかなるよ」
「今日は忙しくなるわね」
「いっぱい働くために、まずは腹ごしらえずら」
「言うと思ったわ・・・・・・。でも、まぁ今回はずら丸に賛同してあげる。ヨハネも晴天祈願で消費した魔力を充填しないとね」
「ルビィも、今日はいっぱい、いーっぱいがんばルビィするよ!」
「うわー、想像以上に散らかってるな」
鞠莉さんが運営を説得し、町の修繕が終わり次第開催できるようになった。Aqoursが町内放送で呼びかけをし、集合場所に集まりゴミ拾いの準備を始めている。
「放送、聴いてもらえたかしら。集まってくれるかな・・・・・・」
「私達の想いは精一杯伝えたもん。あとは・・・・・・やれることをやるだけだよ!」
「心配しなくてもAqoursの想いは伝わってるはずだ。じゃなきゃ運営も許可しねぇよ」
「すみませーん、ゴミ袋ってコンビニでも買えますか?」
「えっ!?あ、ええっと、よかったらこれどうぞ!予備いっぱいあるので!」
「いいんですか?ありがとう。さっき放送を聞いたんです。私もサマーフェスティバル、とても楽しみにしていたから・・・・・・がんばって協力しますね!」
「ありがとうございますっ!」
「ねぇ、今の人ってもしかして、観光客の人・・・・・・?」
「すごいよ、沼津の人達だけじゃなくて、観光客の人まで手伝ってくれるなんで!」
「オレたちも観光客寄りだけどな」
町の人でも、そうじゃなくても手伝いたいと、そう思わせてくれるのがAqoursなんだろうな。
多くの人の助けもあり、町の復旧作業が終わり、オープニングセレモニーとともにサマーフェスティバルは無事開催することができた。Aqoursのライブは祭りの最後に行われるということで、冬樹とともに屋台巡りをすることにした。曜と善子がやっている屋台で焼きそばと、善子がブラッディムーンスティックと言っていた串に刺さったたこ焼きを食べた。何を入れたら黒いたこ焼きができるのか、安全面とかいいのか?別のスペースでは果南さんと鞠莉さんがAqours盆踊りなるものをやっており、冬樹がノリノリで参加している様子を俺は遠くから見守った。お祭りということで色々と割高で、でも自然に買ってしまう。祭りの罠に悉くハマってしまったな・・・・・・。
「いよいよAqoursのライブだな」
Aqoursの特別ライブ、ステージ前にはAqoursのステージを楽しみにしている人が多くいる。彼女達がサマーフェスティバル開催の立役者であるからか、予定していた観覧スペースには入りきらず急遽スペースを広げるほどだ。
「来てくださった皆様に最後まで楽しんでいただけるよう、全力を尽くしましょう」
「楽しい祭りの記憶は、ヨハネ達が織りなす闇の饗宴で塗り潰されるのよ!」
「それだと、マル達が作った料理や盆踊りまで忘れられちゃうことになるずら」
「開始時間までもどかしいよ〜。フライングして出ちゃだめ?」
「じゃあスタートまでジャパニーズ・マンザイでもしちゃう?コントとか」
「お笑いライブにしてどうするの」
「スクールアイドルがいきなりそんなことしたら観客もビビるだろ」
「インパクトはすごいけどね」
「だめですわ。決められた時間はしっかりお守りなさい」
「浮足立つのはわかるけど、本番前だからこそ落ち着いて、ね」
「Aqoursと一緒にライブを待つのはなんか不思議だな。ここに来る前は想像すらできなかったってのに」
「そりゃ、ライブがあること知らなかったし」
「ライブができるかどうかも危なかったものね」
「一度は中止が決定したのにそれを覆すなんで、誰にも予想出来なかったと思いますわよ」
「人生何が起こるか分からないよね〜」
「台風が1日で通り過ぎたこと、実行委員会の説得が成功したこと、町の人や観光客の人が片付けに協力してくれたこと・・・・・・お祭りを愛するたくさんの人の心と、いくつもの奇跡が重なって、サマーフェスティバルは開催出来たんだよね」
「そうだね・・・・・・おっよ、そろそろ」
「サマーフェスティバルスペシャルライブ、ビギニングの時間ね!」
「オレ達もそろそろ客席に移動するか」
「だな」
『━━━━━━みなさん、こんにちは、Aqoursです!今日は集まってくれてありがとうございます!最後までみなさんに楽しんでもらえるように、精一杯歌います。聴いて下さい━━━━━』
楽曲が流れ、Aqoursのライブが始まるとそれに呼応するように客席の熱が上がっていくのを感じる。この前の果林さんのステージよりも大きな熱だ。全員がAqoursだけを見にきてるからこその一体感もあるだろうけどそれだけじゃない。Aqoursの、観客に楽しんでほしいっていう気持ちが客席に伝わって、客席からも楽しいって返すような声援とコールが、会場全体でライブを作ってるのか・・・・・・
「冬樹」
「なんだ?」
「こんなライブを作りたい。同好会のみんなのライブで
「オレも同じ気持ちだ」
「みんな、今回はありがとな!」
「急なお願いだったのにありがとう」
サマーフェスティバルが終わって夕方、俺と冬樹は東京に帰るために沼津駅に来ていた。
「お礼を言うのはわたくし達の方ですわ」
「そうそう、2人のおかげでサマーフェスティバルは開催できたんだし」
「そんなことないですよ」
俺達はただのきっかけに過ぎない。Aqoursのみんなが町の人と観光客を繋いで、一つにしたからこその成功だ。
「たった3日間なのに、ずっと一緒にいた気がする」
「寂しいな・・・・・・」
「もっともっとお話ししたかったずら」
「もっと時間があれば、2人をリトルデーモンにすることだってできたのに!」
なんだそれは、絶対にならんからな。
「学生の財布事情なんてこんなものだよ」
「ホテルに住むようなお嬢様は違うだろうけどな」
「あら、誰のことを言ってるのかしら?」
「鞠莉のことでしょ」
「さて、そろそろ行かないと遅くなる」
「名残惜しいが仕方ないか」
「沼津に来てくれて・・・・・・私達を好きになってくれて、ありがとね」
「秋介くん」
「どうしたんですか?」
果南さんに呼ばれて向き直る。
「スクールアイドルは好き?」
「別にどっちでも。けど興味はあります」
一昨日と同じやりとり、果南さんにどんな意図があったかは分からない。けど今の俺は・・・・・・
「それに、やりたいことができました」
スクールアイドルを通して、俺のやりたいことが見えた。
「そっか・・・・・・いい顔してる。頑張れ!」
「はい!」
冬樹に連れてこられて来た沼津で、俺は確かな変化と目標を見つけることができた。
Aqours編終わり!なんとも駆け足な・・・・・・秋介にとって本格的な始まりになったんじゃないかと