教室に入り目に入ったのはスマホを見ている冬樹の気持ち悪いニヤケ面だった。
「朝から何ニヤニヤしてんだ、通報するぞ」
「絶対するなよ?オレは何も怪しくねぇ。それより見てくれ!」
冬樹が見せた画面には『当選』の文字が写っていた。
「当選?一体何に・・・・・・μ'sへインタビューの記者?いつの間に応募してたんだか」
「沼津から帰った次の日にスクールアイドルの情報を集めてたら見つけてな。条件反射みたいな感じで応募したら当たったってわけだ。せっかくだし、一緒に行くか?」
「行かない。そもそもそれは仕事なんでしょ?普通にアウトだから」
前回の沼津に行った時のようにプライベートならともかく、仕事として行くのに部外者を連れて行くわけにはいかないだろ。一発で摘み出されるに決まってる。
「それもそうか・・・・・・」
「当日はおとなしく一人で行ってこい」
「「「「「「「「「μ'sにインタビュー!?」」」」」」」」」
部活動の時間になり、冬樹が朝と同じ話をするとみんなも驚いた様子だ。
「あぁ!Aqoursだけじゃなくμ'sにも会えるなんてこんなチャンス滅多にないからな!」
「そうだったの!?その実行力・・・・・・さすがだね♪」
「後先考えてないだけだと思うけどな」
「勢いで応募したのは認めるがそれだけじゃねぇよ。みんな少しずつだが成長してるんだ。オレも負けてられねぇよ」
冬樹のこういうところは、俺も見習わないといけないかもな・・・・・・
「私たちの分までμ'sをいっぱい見てきてね♪」
「おう!」
「話が一区切りついたことですし、今日の活動を始めますよ」
「うん」
「そういえば・・・・・・秋介先輩が運動着なんて珍しいですね」
「確かに、一体どうしたんですか?」
かすみが言う通り、今の俺の格好は制服ではなく全身をジャージで包んでいる。今までは着替えるのも面倒だし汗をかくわけではないからと思っていたが、Aqoursのライブを観てもっとスクールアイドルというものに向き合う必要があると思い、まずは格好から入ってみた。それともう一つ・・・・・・
「沼津に行った時に体力の無さを痛感してね。体力トレーニングだけでも一緒にやろうと思ったんだよ」
「そうだそうだ、ただでさえヒョロっちい見た目してんだから鍛えとけ」
「秋介って男の子にしては小さいわよね。身長っていくつなのかしら」
「人が気にしてること言わないでくれません?」
「私も気になるな〜。果林ちゃんと同じくらいだよね?果林ちゃんの身長っていくつだっけ?」
「私?167cmくらいだったかしら」
「えっ・・・・・・マジ?」
「ここで嘘言ってもしょうがないでしょ。それで秋介はどうなの?」
果林さんと同じ・・・・・・女の子と変わらない・・・・・・俺は教室の角に行き蹲った。
「何やってるんですか!?」
「うるさい、ちょっと受け止めきれないだけだ。俺のことなんか気にせずレッスン行ってこい」
「ハッハッハ!果林と身長一緒なのがそんなにショックか?」
コイツ・・・・・・後で殴ってやろうか。
「えっと・・・・・・私は可愛らしくていいと思うよ」
「エマっち、今のシュウにそれ言っちゃダメっしょ」
「ほらほら、秋介は放っておいてランニング行ってこい」
「「「「「「「「「はーい」」」」」」」」」
「お前も、そんなとこにいても身長は伸びないぞ」
「うるせぇ、お前には一生わからん悩みだろうな」
俺の両親は別に背が低いわけではないし遺伝ではないはずなんだけどな・・・・・・
「いいからとっととランニング行ってこい。多分みんなお前を待ってるはずだ」
「・・・・・・ヘーい」
冬樹に追い出される形で部室を出て昇降口に向かう。外には冬樹の予想通り、みんな俺を待っていたようだ。
「あ、やっと来た。秋介さん、こっち」
「別に先に行ってくれてよかったんだけど・・・・・・」
「そんなこと言わないの!」
「そうそう、彼方ちゃんたちが待ちたくて待ってるんだから」
「それに、一緒にって言ったのは秋介先輩ですよ!」
「それを言われたら俺は何も言えないなぁ」
「秋介さんも来たことですし、行きましょう!」
せつ菜の声によってランニングが始まった。俺は普段彼女達がどんなコースを走っているかは全く知らないから後ろをついて行くことにしたのだが・・・・・・
「ハァ・・・ハァ・・・・・・ちょっと・・・・・・みんな速くない?」
開始からものの数分でついて行くことができなくなった。そもそもの話ステージ上で歌って踊るみんなと同じペースでやろうとしたことが間違いだったのかもな。みんなの邪魔をするわけにもいかないし先に言ってもらうことにした。そのあとは自分のペースで大幅に遅れて学校に戻ることになった。
「秋介先輩、いくらなんでも体力無さすぎません?」
「運動不足のレベル超えてますよ・・・・・・」
「だからこうして一緒にやってるんだけど・・・・・・」
「体育の授業とかどうしてたの?」
「あんま興味ないし端の方で適当に時間潰してる。最低限しか参加する気はない」
「成績は大丈夫なの?」
「実技テストは平均以上できるし問題ないですよ」
「むしろ授業態度の方が心配になるのだけど・・・・・・」
そんなの教師の目を掻い潜ってやってるに決まってるだろう。教師一人で常に全員見るなんて不可能、いかに視線に入らないようにするかを計算すれば造作もない。
「今度からは合同体育の時はしっかり監視させてもらいますからね!」
せつ菜、この場合は菜々と言った方がいいだろうか。彼女のクラスとの体育にはなってほしくないなぁ・・・・・・
それから数日、冬樹がμ'sにインタビューする日になった。
「いよいよμ'sに会えるんだな・・・・・・」
「くれぐれも警察沙汰は起こさないでくれよ」
「起こすか!一体お前はオレのことをなんだと思ってるんだ」
「スクールアイドル馬鹿」
「間違ってねぇけど!」
「ほら、さっさと行ってこい。俺は・・・・・・・・・・・・学校が休みなのに自主練したがる奴らのお守りか・・・・・・休みたい」
同好会がスタートした時に冬樹が『一人で練習しない』とルールを作ったのだ。一人しかいないと怪我をした時に対処ができなくなるからと言ってみんなも納得して決めた。平日は居残りをして休日も学校に来て自主練、ブラック企業かな?大体、毎回二人以上いるのに俺が行く理由ってあるのか?
「みんなを見守るのもオレ達の役目だ、頼むぜ」
俺の脳内を見透かしたように言ってくるこいつにもなんかイラッとくるな。
「はいはい」
「それじゃあ行ってくるわ」
冬樹を見送り学校に向かいレッスン室のドアを開ける。
「おはようございます!本日もよろしくお願いしますね!」
「やっと来た、秋介先輩遅いですよ!」
レッスン室にいたのは自主練の常連であるせつ菜、かすみの二人だ。他のみんなは来たり来なかったり、特にしずくは家が遠いこともありあまり来れない。歩夢は冬樹が来ない日はいないがいる日は皆勤である。歩夢は冬樹に気があるように思える。冬樹は全く気づいてないみたいだけど・・・・・・
「冬樹の見送りしてたんだよ」
「そういえば今日でしたね。冬樹さんがμ'sに取材するの」
「今回は仕事として行ってるわけだし、何もないと思いたい」
「でも冬樹先輩ですから、絶対何か起きる気がする・・・・・・」
「フラグを立てるんじゃない。この話はやめて練習しよう、うん」
「そうですね。時間を無駄にするわけにもいきませんし、今日も張り切ってやりますよー!」
「怪我には気をつけろよー」
「はい!」 「はーい」
2時間ほど二人の自主練を見守り、冬樹が用意した活動日誌に記録をとる。Aqoursの練習を見学したときにダイヤさんがノートに書いているのを見て真似をしてみることにしたのだ。みんなのやりたいことや課題を言語化するのは想像以上に面倒臭いが後から読み返せるという点では真似してよかったと思える。
「今日の練習は終わり、クールダウンして帰るよ」
「もう少しだけ待ってください」
「かすみんも!もうちょっとやらせてください」
「午後の活動の前に一度帰りたいから終わり」
「帰りたいって」
「それに、二人ともただでさえ練習時間が長いんだから、しっかり休息を取りな」
「でも・・・・・・」
「これ以上何か言ったら活動停止にするぞ」
「それはいくら何でも横暴ですぅ!」
「今は俺がルールだ。いいから終われ」
この二人、特にせつ菜は一度集中し始めると休憩を忘れることも多い。自分でも気付かない疲労があるに決まってる。二人とも渋々ではあるが練習を切り上げストレッチを行ってくれた。冬樹が言うとすんなり聞き入れることが多いのは人徳の差かそれ以外の理由か・・・・・・興味ないしどっちでもいいか。
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午後になり部室にみんなが集まり始める。冬樹がμ'sのインタビューを終え、学校に戻ってくるぐらいの時間を開始時間にしたからもうすぐ冬樹も来る頃だ。
「そろそろ冬樹くんも来る時間だよね」
「そのはずです」
「μ'sは普段どんなことをしてるのかな・・・・・・」
「案外普通のことだったりして」
「私達にもできることなら取り入れていきたいですね」
「待たせたな」
噂をすれば何とやら、冬樹が部室に入ってきた。だがその面持ちはよくないように見える。
「おかえりなさい。・・・・・・なんだか疲れてる?」
「μ'sへの取材はどうだった?どんな話を聞いたのかわたしたちにも教えてよ〜」
「大丈夫ですか?少し様子が変ですよ」
「先に謝っておく、すまん。実は・・・・・・μ'sと勝負することになった」
・・・・・・・・・・・・はい?
秋介の身長が果林さんと同じって気づいたの1話を投稿してから結構後だったんですよね。ってことで少しそこに触れてみました。