嫌われ者の生徒
ゲヘナ学園の、校舎へ向かう途中の道。多くの生徒たちが登校する中、一か所だけ人がいない場所がある。
その中心には、目が隠れるほど長い前髪、腰まで伸びる長髪、全体的に暗い服装をした少女『瑠珠アザミ』がいる。
「うわ、疫病神といっしょじゃんサイアク」
「ね、少しは気遣って時間ずらしてほしいよね」
アザミを避けて歩く周りからはそんな声が聞こえてくるが、彼女にとってはいつものこと。
校舎の前まで歩いてきたところで、突然視界いっぱいに地面が映る。
「痛い……」
知らぬ間に解けていた靴紐を踏んで転んだしまったようだ。
体を持ち上げて立ち上がろうとしたとき、上方から爆発音がした。その直後に自分の目の前には吹き飛んだ校舎の壁とガラスが降り注ぐ。
瓦礫の雨に巻き込まれた生徒たちから悲鳴があがり、中には体中にガラスが刺さり痛々しい姿の者や、瓦礫が頭に直撃して血を流し倒れている者もいる。
あそこで転ばずに進んでいればアザミも巻き込まれて、彼女たちと同じような目にあっていただろう。
傍から見れば、なんとも幸運な状況に心配や安堵の声が出るものだが、彼女のことを知る周りの反応は違っていた。
「またあの子だけ…」
「知っててわざと転んだんじゃない?」
「えぇほんとなら最低じゃん」
「自分さえ良けりゃそれでいいわけ?」
アザミを心配するどころか、批判するような声ばかりが溢れる。
もちろん彼女にはそんな意図はなく、本当にたまたま転んだだけなのだ。しかし周囲は彼女の事情など知らないし、周囲にとっては見たことがすべてでありとらえ方は人それぞれだ。
彼女の不幸は昔からであり、なにかと事件に巻き込まれるが自分への被害はほとんどない。ただし、自分に被害がないだけで周囲はそれ相応の被害を被るのだ。
事件が発生する場所に頻繁に表れ、偶然にも一人だけ何の被害も受けていないという偶然が続けば噂の一つでも立つものだ。例えば「自分で事件を引き起こし、それを安全圏で傍観し楽しんでいる」など。
そんな勝手な風評被害が独り歩きを続け、何度も同じようなことが起こった結果、瑠珠アザミという生徒は不幸を呼ぶ存在とされ、誰かが言い始めた疫病神という呼び名が定着した。
「わた…私は、なにも……痛っ」
目の前で起きたことを呆然と見ていたら、突然腕に痛みが走り足元に拳ほどの大きさの石が転がる。
「あんたのせいよ!疫病神!どっかいっちゃえ!」
頭から流れた血で片目が開けられない生徒が怒鳴り、アザミに石を投げつける。
「っ……」
これくらいなら前にもあったので、前回と同じように誰かが止めに入るだろうと思っていたが、今回は悪い方向に事が進んだようだ。
「……そうよ…あの疫病神が悪いのよ」
「毎回毎回、あんたに巻き込まれるのはうんざりなんだよ!」
「いい加減にして!」
皆溜まっていたものが爆発するように、集団で一人に罵詈雑言を投げつける惨状になってしまった。
言葉だけじゃなく、石を投げる者もいる始末。はじめは数人だったのが、集団心理によるものかだんだんと人数が増えていき、大人数で一人を叩く騒動は歯止めが利かなくなっている。
そんな大荒れの状況を一変させたのは、重く激しいマシンガンの銃声だった。
「原因に察しはついてるけど、これはやりすぎよ」
風紀委員長、空埼ヒナによる面制圧により、周囲は一瞬で静寂に包まれる。
瓦礫による負傷者は救急医学部に運ばれて、風紀委員長によって気絶させられた生徒たちはそのままに、ヒナはアザミに近づいていく。
「大丈夫?」
「ぁ…は、い…申し訳ありません」
「……こんなことは言いたくないのだけど、このままゲヘナに居続けるのは難しいと思う」
「……申し訳…ありません」
完全に下を向いてしまい、トボトボと校舎とは反対に歩いていく。
「どこへ行く気?」
「………」
少女は黙ったまま、どこかへと歩いていく。その背中をヒナは黙ってみていることしかしなかった。
「……ヒナ委員長」
「アコ、私はただ」
「わかっています。あの子のためを思ってですよね」
「ゲヘナにいれば、いずれあの子のヘイローにも危険が及ぶ。放っておけば取り返しのつかないことになる」
しかしヒナはわかっている。これは問題を先送りにしただけで、根本的な彼女の性質、神秘はどうにもならないことを。
誰もいなくなった通路を見ながら、ヒナは内心で次に会えた時にはできる限り彼女の力になろうと決意するのだった。
基本的にはメインストーリーをなぞっていく予定です。いづれ掲示板形式もやってみたい。
瑠珠アザミの情報①
身長は163cm
羽、角、尻尾などはない。