藍染惣右介は幻想を見ない   作:愛の下僕

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始まります。


第一話 『森に降る霊圧』

しんと静まり返った森の中、空気の流れすらも息を潜めていた。

その場違いな静寂は、まるで森そのものが“侵入者”に気づいているかのようだった。

 

藍染惣右介は一歩、また一歩と、森の土を踏みしめながら進む。

枯れ葉の音、風のざわめき。それら全てを、彼は目を細めて聞き分けていた。

 

「……生命の波長が異なる。“こちら側”の世界とは、また違った構造か。」

 

己の霊圧は周囲に浸透せず、まるで濾過されるように吸われていく。

この“結界”が世界を閉ざし、外界の理から守っていることに、彼はすぐに気づいた。

 

(……幻想郷。隔離された理想郷、か。愚かではあるが、面白い。)

 

そのとき───

 

ガサリ、と茂みが揺れた。

 

「……誰か、いるのか?」

 

低く響く声に、うさ耳を揺らしながら一人の少女が顔を出す。

赤い目に銀色の髪。警戒心を滲ませながら、彼を睨んでいた。

 

「あなた、外の人間ね……。ここは、普通の人が来る場所じゃない。」

 

──鈴仙・優曇華院・イナバ。

 

彼女は永遠亭の使いとして、この森に異常霊圧の調査に来ていた。

 

「その瞳……月の波長を帯びている。月から来たのか?」

 

「……なんでそれを……あなた、何者?」

 

「名乗るべきか迷うが……そうだね。私は、かつて尸魂界に“神の座”を築こうとした者。」

 

彼の声には、威圧も誇張もない。だが、その存在そのものが圧倒的だった。

 

「警告するわ。ここはあんたの好きにしていい場所じゃない。今すぐ、この森から立ち去って。」

 

少女の声は明確な拒絶と警戒を帯びていた。

だが、それこそが藍染の興味を引いた。

 

「君は……ただの妖怪とは違うようだね。波動、いや…“精神波”に似た反応がある。」

 

鈴仙は一歩、後ずさる。こめかみをつたう汗は、彼の言葉に対してではない。

理由のない不快感。見つめられるだけで、思考が削がれていくような圧迫感。

 

(なに、この感じ……? 空気の“重み”みたいなものが……)

 

「君のような存在には、私の力がどう作用するか……少し、興味があるんだ。」

 

藍染は、ゆっくりと右手を上げた。

その手には一本の刀──鏡花水月。

 

「見せてあげよう。私の“始解”を。」

 

スッ…と静かに抜かれる刀身。刃が月光を受けるように煌めいたその瞬間───────

 

 

 

「砕けろ、鏡花水月。」

 

 

 

その言葉と同時に、空気が波紋のように揺れた。

鈴仙の赤い瞳が、その輝きを確かに見た。

 

(ッ─!? 視界が……歪む!?)

 

鈴仙は一瞬、何もないはずの空間に“もう一人の藍染”を見た気がした。

いや、それどころか……自分の背後にも、頭上にも、どこかに「気配」が散っている。

 

「……っ、な、にこれ……!」

 

彼女の持つ波長感知能力が、完全に混乱していた。

異常なまでの感覚ノイズ。“位置”も“存在”も、“真実”が判別できない。

 

「君は精神を操る力を持つ。だが、“真実を誤認させる”という意味では、私の力の方が一枚上だ。」

 

藍染は微笑む。だがその笑みに、悪意はなく、ただ純粋な「比較」として語っている。

 

「安心するといい。今のは試験的な使用にすぎない。君を傷つけるつもりはなかったよ。」

 

その言葉を聞いたときには、鈴仙の目の前には──

もう誰もいなかった。

 

ただ、風が吹き抜け、森が元の静寂を取り戻す。

 

鈴仙は膝をつき、呼吸を整えながら呟いた。

 

「……“見ただけ”で……こんなに……」

 

彼女はすぐに立ち上がり、永琳への報告へと向かった。

“幻想郷に現れた、異質すぎる存在”

その名も、まだ知らぬままに。




1話目から砕けちゃいました。
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