俺にとって読書の時間は癒しの時間だ。そんな憩いの時間をこの女はいきなり部屋に入ってくるなり邪魔してきやがる。
「理央、お前いつになったらチームに所属するんだ?」
「いきなり何だ理佐。それはこの本を読むのを止めさせてまで聞くことか?」
「当然だ。貴重なB級スナイパーが隊に所属もせずにモラトリアムとか舐めんな。」
「何故俺の自由なボーダーライフを邪魔されなければならない?今更、出来上がってる隊に入るのは面倒くさい。」
「コミュ障気取りすんな。なら新しく作った隊になら入るのか?」
「弱いチームなんて真っ平だ。あと面白くないのもごめんだ。その隊だけの戦い方とかが無いとつまらない。」
この言葉を聞いた時、理佐という少女はニヤリと口角を上げた。とても邪悪な笑みだ。
「なら強くて面白いチームになら入るんだな?」
「ああ入るね。そんなチームが本当にあるんならな。──もう良いか?本の続きを読ませろ。」
「もう良い。──それとそれは何だ、随分と熱心に読んでいるが。」
「『その舞踏に喝采はあがらない』結構面白いぞ?」
「読み終わったら私にも読ませろ。」
「はいはい分かりましたよ。」
理央はまだ知らない。この何気ない会話で発した言葉の責任を取る事を。それが双子の姉にとって引き出された罠である事を。
───────
「働け。」
開口一番にそう言われたリーゼントの男は絶句していた。
男の名前は当真勇。ボーダー内では少しだけ名の知れたB級スナイパーである。入隊後はほぼ最速でB級へ昇格するもチームなどには所属せず、フラフラと気ままに過ごしていた。またB級になってからは合同訓練はサボりまくり、偶に参加したかと思えば狙撃でマークを書いて遊ぶ始末。良く言えば感覚派の天才、悪く言えば根無し草の変わり者だった。
そんな男を初対面で罵倒してくる女が勧誘している。チームに勧誘されたのも初めてではない。いや、そもそもこれは勧誘なのかと流石の当真でさえ考えた。
「えっと……どちらさん?」
「中央オペレーターの真木理佐だ。単刀直入に言う、私の作るチームに入れ。」
「いやぁ、俺チーム戦とかは興味ない…….」
「あんた程の腕がソロとかボーダーにとって損失だ。少しは働け。私が当真先輩をちゃんと使ってやる、私の理論をあんたなら形にできる。」
「いきなりそんな事言われ──」
「入るよな?」
「入ります。」
彼女の覇気に気圧されて当真は思わず同意してしまった。どう考えても歳下が出していいオーラじゃない。こちらの反論を意に介さず叩き伏せた上で半ば強引に同意させられた。字面だけならヤーさんだろと当真は思ったが間違っても口には出さない。
「私のチームってことはよ、真木……ちゃんが隊長やんのか?」
「隊長は面倒事が多いから私はオペだ。目を付けたエンジニアが居てな、戦闘員に転向させて隊長をやってもらう。」
「うわぁ気の毒だなぁその人。でもなんか面白そうじゃん。」
当真は面白がっているが、完全な巻き込み事故にあったそのエンジニアは堪ったものじゃない。そしてそのエンジニア、自分たちの隊長になる人を拾いに行くらしい。開発室へ向かい中に入ると後ろで束ねた長髪と顎鬚が特徴的な男がいた。
「なぁ真木ちゃん。もしかしてこのおっさんが隊長なの?」
「初対面でいきなりおっさん呼びは悲しいから辞めてくんない……?」
「戯れるな。単刀直入に言う。私らの隊長になれ。」
「え、いやでも──」
「なるよな?」
「なります……。」
その間僅か数秒。何の需要も無い即落ちである。
「おいおっさん弱すぎだろ。一回り以上は歳下の女の子にタジタジじゃねぇか。」
「いやもう俺、女子高生に話しかけられるだけで犯罪なんじゃないかって不安になるんだよ……。」
「……悪かった、おっさんもおっさんで大変なんだなぁ。」
「よし、これで駒は揃った。最後の盤上を拾いに行くぞ。」
真木に連れられた髭とリーゼントはラウンジを通って座席スペースのあるエリアに向かう。そこのテーブルにはクッキーと紅茶が置かれており、テーブルに座る男は本を読み耽っていた。
「フリーの隊員が優雅にティータイムか。お前合同訓練には行ったのか?」
「行ったに決まってんだろ。それより何の用だ、俺は今忙しい……当真先輩?」
「あれ、理央じゃん。そういやお前の名前って真木……お前ら姉弟だったのか。しかしめっちゃ顔似てるなぁ。」
「改めて紹介する。双子の弟の真木理央だ。それにしてもお前ら知り合いだったのか。」
「あぁ、合同訓練サボってる時に同じような奴が居てさぁ。それからちょくちょく話すようになったんだよ。」
空気が変わった。恐ろしく冷たい黒いものが沸き上がる流れがする。年長者の髭はこういう場面をある程度知っているので戦々恐々としている。
「──訓練をサボってると聞こえたんだが?」
「偶にだ、偶に。訓練に出るメリットとサボるメリットを比べた結果だ。」
「減らず口を叩くな。根無し草に加えて職務怠慢か、いい度胸だな。」
「合同訓練の何が職務だ。防衛任務すっぽかした訳じゃあるまいし、一々細かいんだよ年齢詐称女。」
「あぁ?」
「はぁ?」
「ストップストップ!まあ落ち着けって。」
「誰のせいでこうなったと思ってんだ。余計なこと口走りやがってこのクソリーゼント。」
「うん、間違いなくこいつ真木ちゃんの弟だ。」
「その話は後でするとして。これで面子は揃ったな。お前を入れれば私のチームは完成だ。」
「は?聞いてないんだが?大体後ろのおっさんは?どう考えても戦闘員じゃなくね?」
「この人は冬島さん。エンジニアから転向させて隊長やってもらう。」
「あぁ冬島慎次だ。よろしく。」
「あ、どうもよろしく……じゃねぇよ。俺とリーゼントがスナイパーでエンジニアが戦うって尖りすぎだろ。」
「お前言ったよな、新しく作った強い面白いチームなら入るって。だから入れ。」
「……やべぇ終わったわこれ。しかもこれ理佐が考えた布陣なんだろ、じゃあ強いんだろうな。……さらば、俺の気ままなボーダーライフ。」
「分かればいい。さぁ馬鹿なこと言ってないでさっさとチーム申請するぞ」
こうして俺のボーダー生活は口走った言質によって波乱へと変わっていくのだった。