4月は移ろいの季節。新入生が入って来たり学年が1つ上がったりと変化する日常への対応を求められる。期待と不安が入り混じるなどとよく言うが、不安感と先行きの果てしなさに気が滅入る人間の方が多かったりする。
そんな4月はここ六頴館にも新入生が入学してくる。ボーダーの入隊式は来月だが、学校は4月から普通に始まる。俺も学年が一つ上がって2年生となる。つまり在校生側に回るから入学式には参加せずに一部の生徒を除いて学校はまだ始まっていない。俺も当然参加などする気もなかったのだがな。
「何故俺が参加する必要がある?生徒会のメンバーでもねぇのに。」
「いやぁ真木くん成績優秀者だし。」
「答えになってるのかそれ?」
「済まないな真木。面倒事に付き合わせて。」
「蔵内先輩は何も悪くありません。悪いのはこの女です。」
どういう訳か俺は入学式で在校生側で参加するハメになった。在校生側で参加するのは生徒会に属する面々くらいなものである。ボーダーからだと同じクラスで副会長の綾辻と会長の蔵内先輩がこれに当たる。
入学式の準備とやらで学校もないのに登校させられて気分が悪いのを晒すぬように表面上は取り繕うのもダルい。
新入生は入場まである一角に集められているのだが、そこを綾辻と打ち合わせしながら通るとウワサ話程度に色々聞こえてくる。
「なぁあそこにいるの綾辻先輩だろ?俺ファンなんだよ!」
「可愛いよなぁ。同じ学校なんだし話す機会あるなもな。」
「ねぇ隣に居る先輩イケメンじゃない?」
「もしかして付き合ってるのかなぁ?」
菊地原の耳で無くとも聞こえてくる会話。俺はこの手の噂話には興味がないからどうでも良いのだが、まさかこいつ──
「俺を虫除けに使ったな。」
「え〜何のことかな?」
「こういうことなら会長を使えば良いだろ、あの人なら嫌な顔せず一芝居打ってくれるだろ。」
「──でも君になら気兼ねなく頼めるから。」
「なんだそりゃ。人を風除けにするのは結構だが、使われるのは癪だ。今度何か奢れ。」
「うん、じゃあ今度ね。」
「もうすぐ時間だな。さっさと終わって欲しいな。」
先に体育館に入っていく理央を背中越しに見送った。ただ独り言だけがその場に残った。
「──こういうの頼んでも良さげな男子って他に居ないんだけどなぁ。」
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入学式が始まった。六頴館に入ってくるだけあって全員それなりに賢そうな面々だ。とはいえ俺の学年は成績上位をボーダー隊員に占領されている。Aクラスに4人、Bクラスに5人と精鋭揃いで勉強1本の連中からしたら面白くはないのだろうが、俺からすれば知ったこっちゃない。1本でやっても負けてる連中が間抜けなだけだ。今年の1年にそういうアホが少ないことを精々願う。
司会は生徒会長である蔵内先輩が進めてくれる。真面目で実直な人柄で頼りがいのある感じて式を進めていく。そして綾辻が壇上に上がって男子側から歓声めいたものが漏れる。一応はボーダー内外に多数のファンを持つマドンナ?らしいからな。俺からしたらちょっと怖い女に映るのだが、多分誰とも共有は出来ない。
俺が登壇する。女子側から少し声が上がるが無視してさっさと終わらせる。
「新入生の皆さん。ご入学おめでとうございます。などという形式の挨拶には飽きている頃だと思うので手短に申し上げる。この学校に入学した以上、俺は君たちの良識を信じる。先に挨拶した綾辻などはボーダーの広報として知ってる者も多いと思うが、同時にこの学校に通うただの学生だ。それは他のボーダー隊員も同じだ。過度な接触等は君たちの良識ではしないものと信じている。節度と常識を持った学校生活を送って欲しい。以上だ。」
これは釘刺しだ。ある程度ボーダー側からもやんわりと頼まれていた案件だが、俺はボーダーだのなんだので色眼鏡を使う連中には反吐が出る。新入生の中にもそういうミーハー精神を持つ連中がゼロとは考えていない。
もう一つはヘイト管理。俺に向く分には良い。俺に喧嘩を売るほどの身の程知らずは相手にもならないし価値もない。同じ学年にもボーダーに快い感情を抱かない者もいたが、成果で黙らせてきた。こうやって釘を刺しておくのは大事だからな。
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入学式が終わってようやく帰れるタイミングになったのだが、六頴館に入ってきたボーダー隊員に話しかけられる。
「何あの挨拶。釘刺しのつもり?」
「釘刺しとヘイト管理だ。文句があるなら聞くぞ後輩。」
「別に。相変わらず偉そうだなって。」
「おやおや3位の菊地原くんどうしたのかな?」
「何て?聞き取れないけど?もう少し謙虚に喋ったら聞こえるかもよ?」
「聞こえてねぇ訳ねぇだろが。しばくぞ。」
「すいませーん、ここに暴力隊員がいますー。」
「おいその辺にしとけ菊地原。すいません真木先輩。」
少し腰の引けた歌川が来た。俺何かしたっけ?ランク戦解説で一緒になっただけだよな?
「よう歌川。お前頭良かったんだな。まあよろしくな。」
「もう行くよ歌川。ここはうるさい。」
「あ、おい!すみません失礼します。」
菊地原たちは去っていった。というか菊地原もここに来てるのは意外だな。口だけじゃなくて頭も良かったのか。
「菊地原とは相変わらずですね真木先輩。」
「古寺か。こっちで会うのは初めてだな。」
A級三輪隊のスナイパー古寺章平。三輪隊の中でも随一の戦術眼を持つ秀才。そう考えると三輪隊は米屋以外は全員頭が良い。──あいつは……いや考えないようにしよう。
「真木先輩はAクラスですよね?──宇佐美先輩と同じクラスの。」
「そうだな。だが何故宇佐美を?氷見や綾辻も一緒だが。」
「いえ真木先輩には分からなくて良いです。むしろ少し安心しました。では自分はこれで。」
一体何の話だ?宇佐美とは結構な頻度で話すがそれが宇佐美経由で古寺に漏れてる、とか?だとしても古寺が気にする必要性が見当たらない気がするが……。もういいや面倒くさい、早く帰ろう。