夏休み。それは学生にとって代え難い長期休暇。それはボーダー隊員とて同じである。ボーダーといえど隊員たちに纏まった休みを取らせるくらいの配慮性はある。というか取らせないと世間はそこを攻撃してくる。
だが夏休み前に立ちはだかる壁が期末試験だ。これを越えぬ者に夏休みという解放は訪れない。
俺の通う六頴館は成績でクラス分けがされている。A組は学年で1番勉強が出来る所謂特進クラスでD組は進学校の中ではあまり成績の奮わないクラスという風になる。
勘違いしてはいけないが、D組でもそこらの高校生より確実に勉強が出来るし、頭も良い。三門第一のレベルで赤点をギリギリ回避するような連中とは比べようもない。それだけ六頴館はレベルが高い。まあ変な意識とプライドがあるから良い事ばかりでは無いが。
そして自慢では無いが、俺は昔から勉強で苦労した経験が無い。30分程度の予習復習と宿題を片付けていれば済む話だし、テスト前に多少時間を取って勉強すれば点数を取ること自体は大して難しくない。
米屋にこの話をしたら「予習ってなに?」と言われて思わず頭を引っ叩いた。こいつ宿題もまともにやってないみたいだし、この先大丈夫かと不安を覚える。
期末テストが終わり採点が終了すると順位表が張り出される。普通の学校なら「あいつ頭良いなぁ」とか「よし勝ったぜ」みたいな有りふれた感想が飛び交うのだが、この学校だとこの順位表に己の進退を賭けてる連中が多い。プライドなのか内申点なのか知らんが、勘弁してくれ。
そして俺の順位は2位だった。1位で無くて惜しいと捉えるか2位は凄いと捉えるかは人それぞれだが、俺は後者だ。テストの1位なんてそこまで重要な要素じゃない。要は通った上である程度に順位ならそれで良い。
「おぉ理央くん。相変わらず凄いですなぁ、今回も勝てなかったよ〜。」
順位表を見ていると眼鏡教の宇佐美が来た。宇佐美は今回のテストは5位なので普通にめちゃくちゃ優秀である。ちなみにあの米屋とは従兄弟同士なのだが、本当に近い血統なのかと疑いたくなる。
「そういう宇佐美も5位なら十分だろ。やっぱり眼鏡は頭良いんだな。」
「そうだよ眼鏡は偉大だよ。ということで理央くんも眼鏡──「いやだから掛けないって。」
何かに付けて眼鏡を勧めて来る極度の眼鏡教である。
「にしても遥ちゃん凄いよね。広報とか大変なのに1位だもん。」
「──そうだな。」
そう、俺の一つ上の順位、つまり学年1位に居るのが嵐山隊のオペレーターである綾辻だ。広報もやって学年でも1位とか頭が下がるというかハイスペック過ぎて苦手というか。仕事を一緒にするなら綾辻は適役だと思う。ただあいつを上司にも部下にも持ちたいとは思わないが。
てかボーダーという二足の草鞋を履いてる連中にTOP5で3人独占されてるのは学生一本の連中からしたら面白く無さそうだな。まあ知ったこっちゃねぇけど。
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「真木、少し良いか?」
昼休みの終わり際に奈良坂が俺のクラスに来た。奈良坂はBクラス、成績は普通に優秀だし、同じスナイパーということで結構交流がある。訓練も真面目に参加するし、古寺や日浦を弟子にして技術の伝授もしてる。No.1のリーゼントがあのザマだからボーダー的な貢献度なら奈良坂の勝ちだ。
「ボーダーの話か?」
「ボーダーの話ではあるが……陽介に勉強を教えてやって欲しいんだが……。」
「ちょっと待て、一体何処からそんな話になった。」
「当真先輩が自慢気に話してたぞ。赤点回避したって。」
ほんとあのクソリーゼント余計なことしか言わねぇな。しかも赤点回避って普通に恥ずべき点数なんだよ、自慢するなアホ。
「とりあえず米屋本人が土下座でもしに来たら考えてやるわ。」
「三輪と一緒に菓子折り持って向かわせて貰う。」
「お前らどんだけ米屋に悩まされてんだよ。大体何で今更?期末は終わったんだろ?」
「陽介の追試が確定したと三輪から連絡が来た。」
「洒落になってねぇじゃねぇか。」
追試ってことは赤点かよ。そもそも追試させてくれるの優しいな。流石はボーダー連携校。うちだと追試ってあるんだっけってレベルだからな、そもそも赤点取るようなら此処へは来ないか。
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「言われた通り来たぞ。これは菓子折りだ。」
「そしてこれが馬鹿だ。」
いやそんなメロンです、請求書ですみたいなノリで言われても。というかどうしてこうなった。
確かに俺が言ったけどさ。菓子折り持って土下座するなら考えるって。でも社交辞令的な何かかと思うじゃん。それに土下座って外聞悪いし……そしたらちゃんと土下座強制要員を用意してくるとは三輪隊は侮れん。
「すまん真木。この馬鹿は手に負えん、何とかして欲しい。陽介、頭を下げろ。」
三輪に首根っこを掴まれながら冬島隊の隊室に連行されてきた米屋は強制的に頭を下げさせられている。表情は窺い知れないが、明らかに不満タラタラである。
「まあ来客を無碍には出来んな。とにかく座れ。」
そう言われた3人は隊室のソファに座る。
「おい米屋、誰がそこに座れと言った、お前は床だ。」
「え、ちょ、ちょっと流石に酷いんじゃないの理央……?」
「ひでぇのはお前の頭の中だ、何だこの点数は。」
俺は事前に三輪たちから貰っていた米屋の答案用紙を取り出した。そのほとんどにバツが付いていて点数なんて見れたもんじゃない。二桁ならまだ良い方、普通に一桁を取りやがる。馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、想像を遥かに越えてくる。ハッキリ言ってあのクソリーゼントより酷い。そもそもこいつ1年のテストはどう乗り切ったんだ?
「当真先輩よりひでぇ答案用紙を拝める日が来るとは思わなかったぜ。とりあえず基礎的な所から見直すか──って何で不満顔なんだよ、文句言いたいのはこっちだわ。」
「だってよー将来的にこんな知識使わねぇつーか……。」
何だその小学生みたいな理由は。
「ふざけんな。成績はそいつの学習能力と課題に対する忍耐力の証明書だ。進学にも差し支えるぞ。」
「それは大丈夫、俺ボーダーに就職する予定だし。」
「寝言は寝て言え。そうだ、そんなに眠いなら三輪隊とオペレーター交換するか。月見さんがウチに来て理佐をそっちに──」
「「「勘弁してくれ。」」」
3人でハモってるよ。どんだけ怖がられてんだアイツ。まあ残念でもないし当然の反応だけど。
「そんなに嫌ならせめて追試くらい何とかしろ。」
姉の恐怖をチラつかせてようやくスタートラインに立たせたからには追試は突破させる。理解力が正直終わってるが、まあどうにかするしかない。てか出来ないなら知らん。
翌日も米屋に悪戦苦闘していた。流石に部屋を変えて三輪隊の隊室でやっていた。
「あれ、真木先輩じゃないですか?どうかしましたか?」
「察しろ。」
そもそも三輪隊って米屋以外全員頭良いんだからそっちで何とかしてくれよ。いやほんと頼むから。
「つか古寺とか奈良坂が何とかしろよ。」
「いやぁ僕は高校入って最初の期末試験だったのでちょっと……。」
「俺はもう面倒を見るのに疲れた。」
「古寺はともかく奈良坂は別れ際の夫婦みたいなことを言うな。」
まあ気持ちは分かる。俺もあのリーゼントとゲーム中毒女の世話はもうしたくないからな。
その後米屋は何とか追試をパスして無事に夏休みを迎えることが出来たらしい。ちなみに追試合格点数スレスレで危ねぇとか笑いながら言ってたので顔を引っ叩いておいた。何であれだけ教えてギリギリなんだよどいつもこいつも。
「あの理央くん〜ウチのヒカリちゃんも正直ヤバいんだけど何とかしてくれない?ゾエさんのお願い。」
「お願いしますもう勘弁して下さい。」