真木姉弟にはご用心   作:リゼロッテ

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16話 文化祭は全力でやった方が楽しい

 

 夏休みが終わると六頴館では文化祭の季節に入る。生徒が様々な出し物を催し、外部からお客を呼んで賑わうイベント、それが文化祭だ。

 

 六頴館はこういう学校行事には割と力を入れていて結構ちゃんとやる。俺は1年の時は遠征に出ていて文化祭は準備の段階から居なかった。今年は日程的にギリギリ文化祭をやってからの遠征なので今回が初参加だ。

 

 と言いつつクラスの出し物を決める日に防衛任務で欠席するとかいう前途多難な始まりなのだから始末が悪い。

 

 今日は決まった出し物について煮詰めるらしいが何をやるかを全く聞かされていない。宇佐美に聞いても「それはHRのお楽しみってことで」とか言われた。マズイ嫌な予感しかしない中でHRの音頭を取る綾辻が教卓に立つ。

 

「前回決めた男女逆転喫茶についてなんだけど──」

 

何それ?本当に何なんだそれは。

 

「あぁ真木くんは防衛任務で居なかったから知らないよね。簡単にいえば男子がメイド服、女子が執事服を着て接客するカフェって感じかな。」

 

何故逆転する必要があった……?いや冷静に考えると女子がメイド服で接客したらそりゃもうそういう店だ。風営法とか公序良俗に反するとか色々と判断した訳か。しかし野郎のメイド服なんて何の需要があるんだ。

 

「私としては真木くんの接客係は確定で良いと思うんだけど皆はどう?」

 

「俺は賛成。」

「私も。」

「まあ真木くんなら当然だよね。」

 

「うん。じゃあ1人真木くんで決ま「ちょっと待て何故勝手に決まるんだ?」

 

「まあまあ理央くんは美人顔だから絶対似合うと思うよ。それに去年は参加出来なかったんだから今年は主役をやらせてあげようという優しさだよ。」

 

 

宇佐美よ、それの何処が優しさだ。男子まで挙って賛成しやがって。どうせ俺が枠に入れば自分がメイド服着ないで済む確率が上がるからとか考えてるんだろう。ただまあ前回は事情はどうあれ完全なボイコットではあるからな。断ると流石に外聞が悪過ぎるか。

 

「分かった分かった。受け入れよう。」

 

 何故か響く拍手。というかさっき美人顔とか言ってなかったか宇佐美のやつ。この顔が美人なら理佐も美人ってことになるぞ?まさかそんな訳あるか。あんな怖い顔しててそりゃあない。

 

 その後はメニューを決めたり調理班と接客班の組み分けを行った。来年は受験生になる俺たちにとっては気兼ねなく楽しめるひと時というやつなのだろう。偶にはそんな時間も悪くない。そんな時間がいつまでもあるとは限らないからな。

 

 やるからには完璧を目指すべきだ。だから手段を問わずに完璧なメイド姿を模倣することにした。それにはメイドらしさ以前に"女"らしさが必要だと思う。生憎女らしさをどう出せば良いのか分からんからとりあえず化粧という手段を講じることにした。

 

「という訳で俺に化粧を教えて下さい。」

「何がという訳なのか分からないのだけど、何故私なのかしら?」

 

「俺が知る限りボーダーで一番美人なのは月見さんだと思います。勝手ながら顔の雰囲気も近いので適任かと。」

 

「あら嬉しいこと言うわね。良いわ、基礎的な部分だけだけど叩き込んであげる。」

 

頼ったのは月見さんだ。まず同級生は無し。相談をネタにされたくないし、普通に気まずくなりたくない。そうなると月見さんが適任だ。美人で優しいし教え方も上手い。それに良識のある人だから無闇に口外はしないだろうという安心感もある。

 

「それでそのメイド服はどうするつもり?もし良ければ羽矢のを借りることも出来るけど。」

 

「羽矢……って橘高さんですか?」

「えぇ、彼女そういう趣味があるからちょうど良いかなって。」

「是非お願いします。」

 

橘高さんは自分のそういう趣味をバラされて狼狽えていたが、口外しないことと引き換えにメイド服を借り受けることにした。ちなみにコスプレ用ではなく実用目的らしいから汚してもクリーニングしてくれれば良いとのこと。それは有り難い話だが実用目的って一体なんだ?何をどう実用するんだ?

 

 月見さんに化粧の基礎を教わりながら橘高さんにメイドの振る舞いとやらを凄い早口でレクチャーされた。半分くらい何を言ってるか理解出来なかったが、まあこの場限りの知識程度に聞いておこう。そして試しとして化粧、服、ウィッグまで付けた完全武装をした。

 

「これは──磨いた甲斐があったわね。」

「えっ、何この美少女、本当に真木くん?」

「俺です。じゃなかった、そうですよお嬢様。」

「ヤバい、尊みと美しさでSAN値が振り切れる。──写真取って良い?使えそうな感じが凄い。」

 

「人に見せないなら良いっすよ。」

 

相変わらず何を言ってるか分からん。使えそうって何に?いや聞くの怖すぎるなこれ。深い沼に嵌って抜け出させそうにない。

 

 

 

─────────

 

 文化祭の日にちが近付き、クラスでは本番に向けたデモンストレーションが行われる。実際に提供するメニューの試食会をしたりメイド服と執事服のお披露目会なんかをやってる。

 

──当然男子共の需要ゼロな女装も繰り広げられる。明らかに似合っていないメイド服。そもそも男子の骨格と肉付きで女装をすると違和感が凄い。そのアンバランス具合で笑いが起きる。

 

「理央くん遅いねー。まさか逃げたとか?」

「あいつに限ってそれはないでしょ。覚悟決め──」

 

「悪いな、準備に時間が掛かった。」

 

そこに現れたのはメイド服を完璧に着こなした理央であった。ウィッグでやや長めにした黒髪、控えめだがチークとアイシャドウのメイク、肩幅を隠すように少し大きめの服、何より洗練された動き。何処からどう見ても完璧なメイドがそこには居た。

 

 月見は素材の良さを活かすために敢えてナチュラルに近いメイク技術を施した。それだけで十分に化ける、そういう下地が理央にはある。

 

「──何でこんな全力出しちゃうのさ、私たちの立場がないよ……。」

「知るか。何故本気で挑んで疎まれなきゃいかん。」

 

 男子からは歓声、逆に女子から「えぇ……」みたいなやや引き気味の反応をされる。真面目にやってやったのにこれは解せん。

 

 

 

─────────

 

 真木理佐は三上に招待され六頴館の文化祭に来ていた。三上と校内を巡りながら過ぎゆく時間を楽しんでいた。

 

「次はA組行ってみようよ!」

「A組ってことは理央のクラスか。アイツらは一体何を企画したんだ?」

 

「うーんとね、確か"男女逆転喫茶"だったかな。」

「──そういえば最近、理央のやつが女性向け雑誌を読み漁っていたな。そういう訳か。」

 

そうこうしているうちに2年A組の教室まで辿り着く。入り口では執事服に身を包んだ氷見が受付担当をしている。男女逆転喫茶とはそういう意味かと内心納得した三上とマキリッサ。

 

「あれ、真木さんに三上さん。どうもー来てくれたんだ。」

「あぁ、今は空いてるか?」

「うん大丈夫。さっきまでは大忙しだったけどね。」

 

「へぇ盛況だったんだ。ちょっと期待しちゃうかも。」

「まあ期待しても良いよ。2名様入ります。」

 

 店内に新たなお客様を知らせるコールが入る。そして入り口までやって来た理央と三上一行は邂逅した。無論メイド服で。

 

「お帰り下さいませご主人様。」

「仮にも客に対してその態度か。躾がなってないな。」

 

「り、理央くん……?凄い、一瞬真木ちゃんが2人になったかと思っちゃった。」

「「それは勘弁してくれ。」」

 

 ハモってしまった。確かに双子ではあるが、理佐に似てるとか褒め言葉では無いだろ。

 

「とにかく三上は客だ。それは無碍にしたら分かってるんだよな?」

「理央くん、ダメ?」

 

三上が甘えたような声と上目遣いで問いかける。並みの男子ならイチコロ、辻なら卒倒レベルのそれを軽く流しつつ、姉の機嫌が最悪になることを避けたいだけの理央は頷くしかなかった。

 

「──2名様ご案内です。エスコートしましょう、お嬢様。」

 

これはロールプレイングの一環なんだ。だから三上さんの手を取ったからといって何かがある訳じゃない。あと理佐は睨むな。あと三上さんは何でそんな和かなの?理佐の機嫌がヤバいからちょっと控えたりとかは……無理?なんで?

 

 

 

────────

 

「辻ちゃん俺と一緒で良かったの?女の子とか連れてくれば良いのに。」

「──犬飼先輩分かってて聞いてますよね?性格悪いですよ?」

 

「冗談だって。あ、A組だ。男女逆転喫茶なんて面白そうなこと考えるね。──辻ちゃん大丈夫?」

 

辻は女子が苦手である。それは生物学的に女子であることもそうだが、見た目が女子というだけでも緊張してしまう。以前同チームの氷見が髪型を僅かに変えた時期があるのだが、それだけで氷見に対してすら緊張して瞬ぎしてしまうほどだった。

 

「まさか男子の女装がダメとか言わないよね?大丈夫だよ、女子って言っても男装だし女装って言っても野郎だよ?男なら問題ないでしょ?」

 

「そ、そうですよね。大丈夫ですよね。」

 

A組の前まで行くと氷見が執事服で待ち構えていて普段と違う氷見にあたふたしてる辻を犬飼が面白がったり氷見を褒めたりしてる間に席が空き案内人がやって来た。

 

「いらっしゃいませご主人様。」

「───────────。」

「あれ理央くんじゃん。というか凄いねそれ。なるほどこりゃ大盛況なのも頷ける」

 

「犬飼先輩ですかどうも。それより辻がフリーズしてます。」

「──ああ理央くんの女装が下手な女子より女子っぽいからダメみたい。」

 

「さぁ行きましょうご主人様♪」

 

辻の手をエスコートのように取ったが辻のキャパシティがオーバーヒートを起こしていよいよ言葉すら出なくなる。そこへ休憩から戻った宇佐美が来ればもう言うことはない。

 

「あ!理央くんが辻くん拐かしてる!」

「もういい加減にしろ。」

 

 

 

 

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