冬島隊の隊室には幾つかのルールがある。俺は完全には納得していないが、他の男衆はこの隊の女王たる姉に逆らえないので実質遵守されている。
まず理佐のデスクがある部屋に勝手に入らないこと。隊室を汚さないこと、騒がしくしないこと等とにかく細かい。お前は姑かと突っ込みたくなる。
「以上だ。これが守れない奴は殺すからな。」
「なぁ理央。殺すってどっちの意味だ?ベイルアウトの方か?」
「この世界からに決まってるだろ。」
「あーやっぱそっちかぁ。」
そっちかぁって受け入れんなよリーゼント。抵抗活動を終えたら独裁政権が始まるぞ。
「おい理佐。言っとくが俺はそんなもんは守らんからな。」
「は?姉の言うことが聞けないとはいい度胸だな。」
「このクソ度胸は姉譲りでな。大体デスクのスペース取りすぎなんだよ。」
「お前らは別に何もしないだろうが。当真が寝て隊長が麻雀やるだけの部屋にスペースなんか要らん。」
「クソこの隊の男衆ロクな奴がいねぇ……。」
「分かったらさっさとそこの本の山を片付けろ。持ち込み過ぎだ。」
「あ、家に無いと思ったら隊室に置きっぱだったのか。ラッキー。」
「ふざけてるのかお前。」
「大真面目だわ。もう良いか?お小言はもう聞き飽きたから帰るわ。」
小姑がやたらとうるさいのでさっさと退散だ。あ、そういやこの本借り物だったのを忘れてたわ。あとで返しに行くか。
「……理央のやつ最近どうも生意気だな、一度絞めるか。」
「なあ隊長。理央ってよく真木ちゃんにあそこまで強気に出られるよな?」
「俺には絶対無理過ぎる。まずあの目で睨まれるだけで泣きそうになるもん。」
「あ、分かるわー。なんか人じゃないもの見るような目向けてくるよな。」
「──お前ら聞こえてないと思ってるのか?何ならお前らから絞めるぞ。」
「「申し訳ありませんでした。」」
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「ちわっす。諏訪さんいる?」
「おぉ理央じゃねぇか。お前俺の本借りパクしてったろ?」
「人聞きの悪いこと言わんでくださいよ。ほら、だから今日は返しに来たんですよ。めっちゃ良かったですこれ。」
「だろう?お前に合うと思ってたぜ。お前に借りたやつもなんつーか新鮮だったぜ。」
俺と諏訪さんは読書仲間である。と言っても諏訪さんは推理小説がメインで本の貸し借りはよくしている。今回俺が貸した「偽りのアリゲーテ」だって癖の強い推理小説であるが、ちゃんと読み切れてる。話が噛み合うというのは実に心地が良い。
「あれぇ理央っちじゃん、おっはー。」
軽い挨拶をしてくるのは諏訪隊のオペレーター小佐野瑠衣だ。中学まではファッションモデルをやってたらしく三門市だとボーダー隊員である前に其方の方が有名だったりする。
「あ!その小説気になってたんだぁ、貸してよ理央っち?」
「別に構わないぞ、ほれ。」
「ありがとう理央っちー。」
諏訪さんに貸してた本を再び貸す。基本的に本の貸し借りは信頼関係のある人間としかしない。小佐野は意外とこういうことには几帳面な方なので問題はない
「あ、そうだ、理央っちも今度麻雀やろうよー。諏訪さんとか一緒にさぁ。」
「えっ、小佐野って麻雀とかやるのか。そういやよくウチの隊長も麻雀しに行くなぁ。理佐が怖すぎて隊室じゃ絶対出来ないけど。」
冬島さんは煙草を吸う。何が悲しくて寿命を削る毒ガスを吸引してるのか分からんが、ストレスやら何ならでもう戻れない所まで来ているから気にしたら負けだ。当然麻雀中も吸うんだろうが、ウチの隊室は禁煙である。部屋から煙草臭がした日には理佐がどんな般若面するか分かったもんじゃない。
「あれ、でも冬島さんって確か女子高生が無理なんじゃ……。」
「だから小佐野が居る日は勝負になんねぇんだよ。」
あのおっさんそこまで免疫無いのかよ。まあ女子高生相手に変な気起こすよりは遥かにマシだわな。
「時間ある時にな。」
「やったー。じゃあ今度よろしくねー。」
そう言うと小佐野は退出してしまった。──いやあいつ何しに隊室来たんだ?
「諏訪さん、小佐野は何しに来たんですかね。」
「お前に会うためじゃねぇか?」
「でも俺アイツとあんま接点ないっすよ。」
「おいおいお前マジかよ……鈍感系主人公はベタ過ぎだしもうウケねぇだろ。」
何だよ鈍感系主人公って、知らんわ。
「てことでおっさんの代打ちに来ました。」
「「その言い方は止めろ。」」