「初のランク戦お疲れ。中々良かったぞ。」
「ありがとう真木ちゃん!」
真木理佐はA級ランク戦を終えた三上と共に冬島隊の隊室で談笑していた。真木理佐にとっては何より心躍り和む時間でもある。
三上歌歩は可愛い。それはボーダーの女子であれば共通の認識である。年齢より幼い顔立ちと4人兄弟の長女で面倒見の良い性格から女子を虜にする魔性さを秘めている。無論それは男子もそう思うのだが、真木を筆頭に強烈なガードが張り付いていて近付くことは叶わない。そんな三上とのひと時はあの真木理佐さえも表情の緩む時間だ。
ちなみに冬島隊の面々に関しては強制退出である。隊長は開発室送り、当真は合同訓練でお絵描き、理央に至ってはボーダーに顔すら出していない。なのでこの空間を穢されることはない。そのはずだった。
「あ、そうだ。この間ね、理央くんにも話したんだけどね。」
真木理佐の時間が一瞬止まった。手にしていた紅茶のカップにヒビが入る勢いで手に力が入るのを必死に押さえ込む。
「……り、理央、くん?なんで弟の名前が出てくるんだ……?」
「風間隊の事でちょっと相談に乗ってもらったの。いきなりA級のオペレーターは不安だとかチームメイトと上手くやれるのかとかね。」
真木理佐をもってしても頭の処理が追い付かない。自分にはそんな相談は来ていないという寂しさもあったが、よりにもよってそれが弟だと言うのは看過出来ない。ボーダーの生き字引である東さんやオペレーターの草分け的存在の月見さんならまだ分かる。何故弟なのかと三上を問い詰めたい気持ちをなんとか抑える。
「真木ちゃんと風間さんが認めてるんだから自信持てって。チームメイト……主に菊地原くんの事なんだけど、何か言われたら真木ちゃんとか自分に言えって言ってくれて少し気が楽になったの。真木ちゃんに似て優しいよね。」
「そ、そうだな。あんなのでも私の弟だしな。」
弟の解答内容は自分でもそう答えたであろうものと一致している。それもまた腹立たしいのだが、何故三上は弟を下の名前で呼ぶ?それが一番引っ掛かってるし何なら一番問いただしたい。
「あ、理央くんの呼び方?真木ちゃんと被って紛らわしいかなって思って私から提案したの。」
三上からの提案と聞いてまた時が止まる。弟の方からだったら処刑も考えていたが、まさかそちら側からとは…… 。
「なら私を理佐と呼んであいつを真木呼びにしたら良い。」
「えぇ!?で、でも真木ちゃんは真木ちゃんだし……それにもう理央くんって呼ぶって言っちゃったし……」
「そ、そうか。すまない悪かった。」
この瞬間に弟を問い詰めることが確定したのだった。その日の紅茶はとうに冷め、味はもう忘れている。
───────
「おい。三上と話してたらいきなりお前の名前が出てきた時の私の気持ちを10文字以内に述べろ。」
「これが寝取りかぁ。」
「ふざけるな殺されたいのか。」
いやだって寝取り、じゃないの?楽しく三上さんと会話してたらいきなり俺が出てきて脳を破壊されたんだろ?完全に寝取りじゃん。
「いやそもそも知らねぇよ。三上さんからだって相談を受けたから乗っただけだし。」
「何故お前になんだ。分かるか?私がその相談をされていない事実が?お前を理央と呼ぶ三上を見た私の気持ちが?」
「別に仲が良いからこそ話しにくい事もあるだろ。仲が普通だから話せる事もあるし、お前に相談したらその日に風間隊の隊室乗り込んで菊地原に拷問の一つもやりかねないからな。」
「当たり前だ。私の三上に対する暴言は死罪に値する。」
「別にお前のものって訳じゃねえ……。菊地原に拷問するのはともかくそれじゃ隊のためにならねぇだろ。いざって時の
「それは確かにそうだが。まあもう良い。言っておくが三上に手を出したらお前といえど半殺しじゃ済まないからな。」
「安心しろ。少なくとも現状、三上さんに対してそういう感情は抱いてない。」
「は?三上の魅力が分からないとか頭大丈夫か?」
「俺はどう返答したら良いんだよ……」
三上さんの事となると途端にこの有り様である。というか三上さん、しれっと理佐に相談の事を話すのは勘弁してくれ。尋問されるのは俺の方なんだから。
何はともあれ三上さんは風間隊のオペレーターとしてちゃんとやっている。菊地原にも弟に接する気持ちで挑んだら案外上手くいったらしい。何故か偶にそれを嬉しそうに報告して来る。えーと、ほんとに何故?女心はよく分かりません。当然こんなことを理佐にも相談できるはずが無い。俺の平穏はやっぱりどこにもねぇ。