真木姉弟にはご用心   作:リゼロッテ

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6話 中間と期末の間を執行猶予と呼ぶ

 

 学生の本分は勉強であるという話は以前出たが、ボーダーにおいてそれを守れている隊員は決して多くはない。

 

 ボーダーの頂点たるA級1位太刀川隊の隊長に至ってはボーダーの推薦で大学に行けると決まると両親が泣いて喜ぶほどの馬鹿っぷりだ。ランク戦のやり過ぎで単位を落としたりレポートを溜めて同隊の後輩に手伝わせたりと大学生になっても相変わらずの有り様である。

 

 そしてそれは冬島隊のリーゼントも例外では無い。ボーダーNo.1スナイパー当真勇。真を当てると書くその名字を持つ男が当てられるのは人と的だけ。テストの正答を当てることは叶わない。そもそも答えが分からない。授業はサボり気味の上、出席していても寝ているか外の雲を眺めている始末。

 

 

 

 

「お前こんな成績で卒業する気はあるのか?」

 

冬島隊の隊室に女王の尋問が響き渡る。事の発端は先の中間テストの結果があまりに悪かったため期末テストでやらかした場合、進級を保証できないという知らせがボーダーに報告され、忍田本部長経由で真木理佐にも伝えられたからだ。その際の真木理佐の表情は忍田本部長すら冷や汗を流すほどの憤怒の形相だったと後に沢村本部長補佐は語っている。

 

 

「私の隊に留年する馬鹿が居るなんて風評が流れたら殺すだけじゃ済まさないからな。」

 

「いや……太刀川さんとか米屋だって俺と同じくらいひでぇぜ……?」

 

当真は何故かここで反論をする。何故反論するのかはまるで謎だが、俺以外にもヤバい奴居るんだから別に良くね?という含みを持った意見にも聞こえる。事実、真木理佐はそう受け取った。

 

「他人を引き合いに出して論点をズラすな馬鹿当真。太刀川さんは本人がボーダーの汚点みたいなもんだからもう手遅れなんだよ。」

 

「太刀川さんボロクソに言われすぎだろ。」

 

「問題はお前だ。とにかく次の期末は死んでも点を取れ。取れないなら死ね。

 

 般若の如き冷たい目付きと憤怒の表情に流石の当真も反論する意思を砕かれる。そもそも「人に死ねとか言っちゃいけないんだよ」とか言いそうになったが「は?お前が人な訳ないだろ」と罵倒されるだけだと悟って黙った。

 

 冬島隊の隊室には重すぎる空気が流れている。ちなみに隊長の冬島は雰囲気を察したのか彼女が入室するとほぼ同時に退出、いや避難したのだった。そこに幸か不幸か、1人の男が入ってくる。

 

「お疲れ……って何だこの空気。また何かやったのか当真先輩。」

 

「理央ー助けてくれよ。真木ちゃんが俺に死ねってさ。」

 

「おいおい流石に可哀想だろ。もうちょい手心というか……何があったんだ?」

 

「この馬鹿が留年しそうなんだ。おかげで私が本部長に呼び出された。」

 

は?留年?くたばれクソリーゼント。

 

「ひでぇ!姉弟揃ってもっと他人への労りとか無いのか!?」

 

「真っ当に人として扱って欲しいならテストの点数くらいどうにかしろ。大体授業聞いて軽く予習復習してたら点数なんていくらでも取れんだろ。」

 

 当真は絶句した。当真は生まれたから予習復習なんてものしたことが無いし何なら授業もあまり聞いていない。だが授業を聞いて軽くやれば点数が取れる……って何が?

 

「お前……マジで言ってんのか……?」

 

「こいつ外面だけは一人前だからな。──そうだ。おい理央、お前この馬鹿に次のテストを乗り切らせろ。」

 

「はぁ?何で俺が。大体お「出来るよな?」やります。」

 

あまりの圧に同意させられた。後で母さんに言い付けてやる。マジで最近ヤーさんみたいになってきてねぇかあいつ。側から見てたら怖すぎんだろ。

 

「お互い頑張ろな理央。」

 

「おめぇが頑張んだよ!」

 

 俺たちはラウンジで勉強することになった。隊室は理佐が作業するから出てけと言われた。ボーダーには自習スペースが設けられているが、大声は出せないしこいつに教えると考えたらツッコミは避けられない。それに周りの監視の目があった方が良いこともあるからラウンジを使う。

 

 当真先輩に勉強を教えているが、相変わらず理解度も考え方も悪い。ただ一から順序立てて教えれば最低限マシ程度には出来るようになって来た。それは良いのだが、やはり何が悲しくてリーゼントと相席で面倒見なきゃならんのかは分からん。

 

「お前教えんの上手いなぁ。めっちゃ分かりやすいぜ。」

 

「そいつはどうも。感謝してんなら結果で示してくれよ。俺の献身を無駄にしたらそのリーゼント丸坊主にすんぞ。」

 

「何でお前ら姉弟揃ってヤーさん気質なの……?」

 

 誰がヤーさんだ。理佐だけだろそれは。

 

 

 

 

 

 

「なぁ弾バカ。あそこで勉強してるの当真先輩じゃね?」

 

「はぁ?何言ってたんだ槍バカ。当真先輩が勉強なんてする訳が──」

 

 そんな感じで勉強をしていると偶々その場面を2人の隊員が目撃した。

 

「マジで勉強してんだけど。てか隣に居るの理央じゃね?当真先輩、年下に勉強教わってんのかよ。」

 

「だから言ったろ?でも当真先輩にしちゃ珍しく真面目にやってんなぁ。」

 

 2人はそそくさと退散した。そもそもこの2人元来から勉強は好きではない。蕁麻疹は出ないが、身体が拒否反応を起こす程度には嫌いだからだ。

 

 弾バカことA級1位太刀川のシューターである出水公平は自隊の隊室へ戻っていた。そこにはゲームに勤しむ太刀川隊オペレーターの国近柚宇が居た。

 

「柚宇さん。当真先輩がラウンジで勉強してたんですよ。」

 

「え〜当真くんが〜?何かの見間違いじゃないのぉ?」

 

「いやぁ俺も最初はそう思ったんすけど、理央が隣で教えてて結構ちゃんとやってたんすよ。」

 

「──今、理央くんって言った?理央くんって真木ちゃんの弟のだよね?」

 

「え、えぇ。冬島隊のおっかないオペレーターの弟っす。」

 

「こうしちゃおれん!」

 

 そう言うとゲームもそこそこに国近は隊室を飛び出していった。部屋には「これが修羅場かぁ」と検討違いな事を考える出水だけが残されたのだった。

 

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