剋盾神聖譚《シールド・オラトリア》   作:ソレルス

5 / 6
 書いてみたけど、想像してたのより《鋼蜘蛛》の戦闘での自由度が高すぎる………
 
 強くし過ぎてないかの調整が難しいけど、糸の戦闘は書いてて楽しいんですわこれが。

 そして、まだこの前書きで書いてなかったものをここはひとつ……………



 高評価、よろしくお願いしますっ!(「狛荷屋」の猫又の元素爆発風)


新たな・・・

 

「モンスターが?」

 

 

 あの本音から二週間が過ぎたころ、またバルメテウスとの約束通りにアルは騎士団へと訪れていた。

 しかし様子がおかしい。いつも優しく接している騎士団の人たちが、あわただしく駆け回り装備や点検や作戦を立てている。

 誰もかれもが緊迫してい、アルは訳を尋ねることができなかったが

 そこで、アルがバルメテウスから告げられたのは、カルモネアへのモンスターが近づいている危機。

 

 

 

 

 

 ここで、このアルが送られてきた世界の話をしよう。

 

 

 この世界のはるか数千年以上前、『大穴』と呼ばれるその名の通りの()()()()が開いていた。

 そこから無限に産み出される、人類にとっての『絶対悪』モンスター、その醜悪な怪物によって多くの人々が蹂躙されていた。

 ある賢者は立ち向かう術がないと嘆き、ある戦士は一人で飲み込まれ、只々絶望が世界を覆っていた。

 

 だが、およそ千年前に一人の大英雄が、後世に()()()に『道化』として伝えられている彼が、現れる。

 それを契機に、多くの古代の『英雄達』生まれているとされ、そこからモンスターへの人類の大反抗が始まったとされている。

 

 そしてある日、その大英雄がなし得た偉業『始まりの英雄』をたたえて、天界から本物の()()が降臨する。いまだ抗い続ける人類に超越存在(デウスデア)ある存在が、祝福を授けんと下界へと降りてきたのだった。

 

 彼ら彼女らは、自らの眷属達(子供ら)にほんの少しの圧倒的な力『神の恩恵』(ファルナ)をもたらし、その力をもってして人類は見事に現代まで『大穴』をふさぎこんでいる。その地こそ、バルメテウスがいた迷宮都市、オラリオである。力の後付けが可能な『神の恩恵』(ファルナ)が存在するからこそ、アルがこの世界へと送られた理由でもある。

 

 そのことによって、新たにモンスターが地上に出ることはなくなった。

 しかし古代に地上へと進出したモンスターの子孫が、未だに力なき人類の脅威となっているのである。

 

 

 

 

 「おう、前アルに言ったその子孫どもだよ。この町に逃げてきた商人からの話だと、隊長は言ってたな」

 

 

 バルメテウスは久方ぶりに自身の装備を確認しながら、アルの疑問に是と答える。

 階位を超越した彼なら、何も武器もなくとも地上のモンスターなど屠れるだろう。

 だが、バルメテウスは『英雄』であった。油断も慢心もしない彼だからこそ『英雄』となった。

 

 むしろ今までとは違う地での戦いに、より入念に準備をしているのである。

 

 

 「それでなんだが………」 

 

 「俺も行く」

 

 

 バルメテウスはアルに、同行に対して告げようとしたが、間髪入れずにアルは同行を求める。

 なぜこの少年は、そんな食い気味になってまで答えたのか。

 強くなったから?力を誇示したいから?

 

 いや違う。そう彼は、

 

 

 「………理由は?」

 

 「次は、守りたいから」

 

 

 アルの夢は変わっていない。

 そう、彼の『大事』を今度こそ守るとゆう夢は、まだその胸のうちにそびえ立っている。

 

 

 「そうか………だがな?連れて行くとは決めていたぞ?修行だ修行。また、お前を追い込むには丁度いい事件だよ」

 

 「えぇぇ……………」

 

 

 自分のあくまで真面目にした宣言。ちゃんと聞いてはくれたのだが、またこの『英雄』はすぐ茶化す。

 ………まぁ、聞いてくれるだけでもうれしいのだが。

 だが、バルメテウスが生み出したお茶らけも、すぐ彼がブッコワス。

 

 

 「それにアル、お前は相対しといたほうがいい」

 

 「なにとぉ~?」

 

 「お前を、本気で殺しに来る存在と」

 

 「っ!!」

 

 

 シロを守ったときは例外に、この半年弱の間、アルはバルメテウス、そして騎士団員としか戦闘をしてない。しかも、怪我はするがあくまで軽め。

 アルには『駆け引き』が足りないとマールが言ったが、それはアルの実戦経験の少なさからも来ているものであった。

 アルが強くなりたいなら、今回の件は丁度いいとまでバルメテウス思っていた。

 普段からボッコボコにしていても、ちゃんとアルのことを考えているのである。彼は。

 

 

 「うん………………というか、前も思ったけど、茶化すのと真剣をコロコロ変えるの、やめてくんない?いきなり真面目になって疲れるよ……………」

 

 「はっはっはっは!もうおっさんと呼ばれている、俺には無理だな!」

 

 

 

 

 「バルメテウス殿、ここいいたか………と、アル君もいたのか」

 

 「………なんか()()()()だな」

 

 「………デジャブだね」

 

 

 どこか既視感ありまくりの、隊長が来た状況に一人は神々からの言葉で、一人は前世の知識で突っ込んでしまう。それができるほど、もうアルには余裕もできていた。

 

 

 「その言葉について、今は深堀はしないでおこう。それで突然だが、バルメテウス殿には、万が一の事態が起こる可能性を0にしたいため、町の防衛のほうに助力願いたいのだが………」

 

 「ん?あ~~それは無理だな。こいつ連れて俺も外に行くからな」

 

 

 隊長の嘆願を、だだのそよ風とでも思っているのか、元々強者のバルメテウスはこうだったのか…一蹴してしまう。

 

 

 

 「………アル君もか?」

 

 「うん。おじさんが、殺しに来るやつらと戦っておいたほうがいいって」

 

 「で、俺はその監督だな。アルのその万が一のための」

 

 「………正直、バルメテウス殿と一緒にいるのが、この町の中でも外でも一番安全だろう。どこまでいくつもりで?」

 

 「本隊避けて、奥の裏っかわのほう。アンタらが見つけるのが難しい、はぐれてるやつらをアルに倒させるつもりだ。……………だから、この町は守ってくれよ?それに、あんたらが守るんだったら、万が一じゃなくて億が一ぐらいだよ。俺と、自分たちのことなめ過ぎだっ」

 

 

 

 

 そう皮肉を込めながらもバルメテウスは、彼にしては珍しく教授している存在達への賛辞をあらわにする。

 なぜなら彼は、この町に来てからずっと見てきたのだ。

 愛する自らの故郷を守ろうと、夢を掲げて強さを求めるこの騎士団員たちを。

 さらにそいつらを自分が訓練もしたことも覚えている。

 

 そんな強者の賛辞に隊長は白い毛が混じり始めている両眉をつり上げる……が、すぐさま笑いと安堵がこみあげてくる。

 もうこの町の危機への憂いは、隊長の余裕がここで消滅させた。

 

 

 「フフッ、あなたが0にできることは否定はしないのだな」

 

 「まぁ、まだ事実だしな」

 

 「………ならば、あなたに大口をたたいた私も、それを実現するとしましょう。アル君も、君の健闘を祈る。」

 

 「うん、隊長も頑張って!」

 

 

 互いに守りたいものがある同士、励ましを送りあう。

 アルも隊長も、自分たちの『大事』を守りたい。それは、同じなのだから。

 隊長は全体への指揮のため、またすぐに駆けて行った。

 

 

 

 「んじゃあ、ここでアルの装備かくに~ん。その武器と俺がやった衣類とかも、全部不備がないか確かめとけ」

 

 「わかった!………鋼蜘蛛も汚れなし………剣も刃こぼれはなし………服も外装もポーチも手袋も……………よし、おじさん、全部Okだよ」

 

 「んならこれも。ポーションだ、ポーチに入れとけ。食料と水は俺が持っておく」

 

 「あ、ありがと………じゃあ、おじさん」

 

 「おう、騎士団(あいつら)が攻め入る前に、とっとと裏に回るか………行くぞ?」

 

 「うん!」

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 カルモネアの北東側にはうっそうとした木々で覆われている山がそびえ立っている。

 その山の下部、段丘上に町は位置している。

 

 今回の騒動はその山から下ってきた、あるモンスターの大きな群れが引き起こしたものだった。

 

 そのモンスターの名は『ヘルハウンド』。

 『ダンジョンの』13、14階層に出現するとされる仔牛程の大きさをした黒い犬の姿のモンスタ   ター。放火魔(バスカビル)の異名を持つが、地上の劣化種は、もう口からは火炎を吹き出せなくなっている。

 それでも、無辜の民には犬非ざる巨躯と、鋭く光る牙だけでも十分な脅威となる存在である。

 

 奇しくも、アルがこの世界で初めて亡き者にしたモンスターと同種でもある。

 

 

 

 町から離れた山の中腹。

 そこに黒髪の少年と、黒毛の一匹の『ヘルハウンド』が対峙している。しかしその周りには三つの()の山が一人と一匹を囲んでいた。

 

 その少年、アルは皮の靴を履き、全身をつつむ漆黒の外套、そして黒の手袋に糸を握りしめ完全な戦闘の構えを取っている。

 目の前のモンスターから、自分を殺しうるものから目を離さずに、冷静に次手を探っている。 

 

 そんな状態にしびれを切らしたのか、

 咆哮とともに、アルとの数メドル距離。『ヘルハウンド』が一気にそれを駆けて詰めようとする。 

 

 

 『グルルッルァァァァァァl!!!』

 

 「四体目…………ふっ!…………よし、ここはこれで全部かな」

 

 

 浅い息が吐き出された数瞬後、アルの黒の手袋をしている両の手から伸びる()

 それがまっすぐに、『ヘルハウンド』の首へと走る。

 あの初めての邂逅と同じ技、しかし今回は明確にアル自身が狙いを定め放ったものが、やはりその頭と胴体を離れ離れし、新たな灰の山に変えた。

 

 

 アルが操る《鋼蜘蛛》。その鋼鉄の糸の強さは、ずばり『汎用性』にある。

 横に薙ぎ払えば肉を立つ刃となり、編み込めば攻撃を防ぐ盾になる。

 遠距離はその長くしなる糸を飛ばし、近距離は無数の糸を鎧として敵に押し付ける。

 

 欠点は、習得が他の武器種より圧倒的に難しいことだ。

 が、アルは今の体の記憶が習得の補助となり、更にバルメテウスのしごきもあり、早くにも《鋼蜘蛛》を操れるようになっていた。

 

 アルが最後の一匹を倒すと、邪魔にならぬようにと隠れていたバルメテウスが、アルの後ろの茂みからはい出てきた。

 

 

 

 「順調だな、アル………どうした?手ごたえがないのか?その顔」

 

 「いや、その~自分の成長は感じるけど、モンスターが相手だから、今回こそ死ぬ寸前までやられると思ってて………でも、思ったより楽に倒せたから、おじさんにしてはって感じてて………」

 

 「……………わりぃが、それについては何も言えねぇわ」

 

 

 

 半年弱の訓練の間、命のやり取りをアルはしたことなく(一方的に取られそうなことは、幾度もあったが………)自分のこの世界での相対的な強さをつかみかねていた。

 そう!アル少年はとある女神の贈り物と、バルメテウスおじさんの楽しい楽しい強化訓練(practice in hell)でのおかげ(?)で神の恩恵(ファルナ)を宿していない、しかもまだ二桁の時間も生きていない子供にしてはありえないほど強さを秘めていたのである。

 

 

 

 「うおっほん!まぁ、助言をするならそうだな………多くの技を使ってみるってことか?」

 

 「今使えるやつ?」

 

 「せっかくの実戦なんだ。俺もいるし………試せるもんは、すべて試して勝ちに行けよ?」

 

 

 

 バルメテウスと話しながら《鋼蜘蛛》に付着した、モンスターの血を拭き取り終わり、二人は再びその犬っころを捜索を再開する。

 

 太陽が、まだ真上に位置している真昼間だが戸建ての家よりも高い高い木々が、

光を食らってしまい地上はうっすらとほの暗くなってしまっている。

 

 

 

 「モンスターの気配っつう曖昧なとらえ方なんてものはまだ良い。呼吸音だったり、影の動きだったり、匂い………とりあえず五感を使って探してみろ。先に自分が見つけたほうが……」

 

 「不意打ちされる危険がなくなる………ってこと?」

 

 「合ってはいるが……………それで1匹だけに意識を向けすぎるなよ?2匹目3匹目が出てこないなんて、誰も言ってねぇからな」

 

 「あ、そっか。……………うん、おぼえた」

 

 

 

 捜索をしながら、アルは戦闘以外の知識………索敵の方法、行進から戦闘への切り替え、休息の取り方などをバルメテウスからついでに学んでいた。

 

 不謹慎だが、バルメテウスとゆう冒険者の、そして『英雄』がいるときに件のモンスターの進行が起こってくれたことにアルは内心ありがたく思った。

 やはり、教え導く師が存在するのは、まだまだ『英雄』よりも弱者なアルが速く成長するのに必要な存在なのである。

 

 

 「そろそろ休息をはさ………アル」

 

 

 不意にバルメテウスの木々に響いていた教鞭が声が止まる。

 それに続き、アルも気づいたのか表情を固くし警戒度を上げていく。

 外套の内ポケットにしまってあった《鋼蜘蛛》をすぐさま両手に装着する。

 

 

 「うん………呼吸音が聞こえた」

 

 「どこから、いくつだ?」

 

 「………俺たちの前から、三…四………七つ聞こえる」

 

 「残念、あと後ろに三つだ」

 

 「え?………ほんとだ、十匹か………」

 

 

 

 アルの反省の言葉の後に木の陰から、前回の戦闘時より二倍以上の『ヘルハウンド』達が地に落ちている枯葉や枝を踏みしめながら姿を現した。

 低くうなりを上げ狩りの獲物を見つめている眼光を十匹すべてがアル達に向けている。

 

 

 「今回は………そうだな、木の上から見てる………ぞっと!」

 

 

 アルの経験のためにも、バルメテウスはあくまで今回は万が一の保険である。

 

 Lv7の人知を超えた脚力で一気にすぐ近くにあった高い高い木のてっぺんまで、地を踏みしめた轟音とともにひとっ飛びし、観戦に回る。

 カルラやレームが見たら目を輝かして褒めちぎる()()だが、モンスターと対峙しているアルにあいにく余所見をする余裕はない。

 

  

 「ウルルルルル………ウアオウゥゥゥゥ!!!!」

 

 

 人類の殺戮のためだけに生み出されたモンスターは、対象が一人消えたことはお構いなしに、眼前の人類、アルへの殺意が咆哮となって溢れ続ける。

 

 アルの、本日2回戦の火蓋が切られた。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 四つの車輪と二匹の馬の蹄が、土の道を踏みしめる音が馬車の中にまで聞こえている。

 

 

 そんなカルモネアに向かう途中の、南東の道を走るとある馬車の中。

 

 

 

 「アストレア様!何処かからモンスターが叫んでる音が聞こえたので、ちょっと見てきます!」

 

 「え?あら……もう馬車から降りてしまったのね……」

 

 

 

 「これがあの子の『正義』なら、一柱の神として見守るとしましょうか。それに、もう止められないものね………」

 

 「でも、無事帰ってきたら()()()は……必要かしらね?フフッ」

 

 

 

 活発でいまだ旅の途中の少女と、一人の眷属を想う『正義』の女神の声がこだました。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 地上の『ヘルハウンド』は炎を操れぬ代わりに、未だ健在の牙と爪で敵を嚙みちぎり人を殺す。

 どちらが当たっても、背に神の血(イコル)を宿していないアルにとっては容易に命を絶つシロモノだ。

 アルはそれらの獣の武器を、頭を下げ腰を落とし横へ大きく飛び、かわし続けている。

 

 だが、その数が多すぎる。

 

 アルが一番近くにいる『ヘルハウンド』の首へと糸を走らせようとするが、

 

 

 「ギャオぅぅぅ!!!」

 

 「っ!!」

 

 

 振りかぶっていた手を下ろし、左側から噛み付いてきたモンスターへの回避に切り替える。

 

 (数が多いから、攻撃の間隔があかないな………)

 

 一匹目がのどを狙い、二匹目と三匹目がそれぞれ左足と右足に牙をあげ、四匹目と最初の一匹目が今度は前後から再びのどを狙い………

 

 雪崩のように死が次々と続く状況、回避にだけ体を使っている。このままでは、長引けば長引くだけ体力を削られそのままあの世へ真っ逆さま。

 先の戦闘と違い、難易度が一気に跳ね上がっている。

 

 

 たが、アルの顔に焦りはない。

 彼はバルメテウスとの訓練でもう知っているのだ。

 焦りを持つのはいいが、それを上手く使い体を動かすことを。

 

 そしてもうわかっているのだ。

 いつもの訓練でそれができていることと、いつもの訓練より()()()()()()()()でもできることを。

 

 

 

 

 またしても同時にのどを狙う黒犬共に対し、アルは『ヘルハウンド』にではなく彼の真上に向かって《鋼蜘蛛》を投げる。

 投げ上げられた《鋼蜘蛛》はそのまま進む先にある、木の枝に巻き付きアルの手と木をつなぐ。

 その糸の幾本の橋を、向きを変え交差させ糸の隙間を刹那の間に埋めてゆき、鋼鉄の糸同士がかん高い音をまき散らしながらアルと《ヘルハウンド》達の間の宙に一枚の布が織り上げられる。

 

 この地は、深い森に覆われ多くの木々が存在している。

 それは《鋼蜘蛛》を、糸を()()()()()ことができるものがアルより高い場所にあり、技が繰り出しやすくなっているとゆうことでもある。

 

 木とアルの手を結ぶ糸が幾重にも重なり強固な()となり、突進をしてきた二匹の『ヘルハウンド』をアルから弾く。

 

 「ギャベェ!??」「グルぉ!??」

 

 弾かれた『ヘルハウンド』がアルとは逆の方向へと宙を舞う。

 アルはその盾に使った《鋼蜘蛛》を数本の糸に瞬時にほどき 宙を舞う犬どもにそのまま巻き付かせる。二匹が宙を止まったのも束の間、アルが糸を縛りあげ数枚の肉の輪切りに変える。

 

 しかし、まだこの場にモンスターは8体もいる。同胞が目の前で殺されたことも歯牙にかけずアルに死を与え続けようと攻撃の手をやめることはない。

 何度も常人の肉をたやすく切り裂く牙と爪が降りかかるが、バルメテウス(Lv7)より圧倒的に遅い速度のそれらをアルは一度も被弾せずに戦闘が続けられる。

 

 (試してみたけど、自分以外に糸がおけるものがあるっていいな………)

 

 アルの体に迫り続ける()とは裏腹に、やはりいつもの訓練の方がキツイのか彼の思考は極めて平静を保ててる。

 冴えきっている脳はアルの次点の行動を決定づける。

 

 再度《鋼蜘蛛》を真上に、木の枝に放り括り付け今回は布を作らず『ヘルハウンド』達の攻撃をよけながら合間を駆けぬけ枝ではなく幹に巻き付け………気づけばモンスターは一か所に追い立てられて周りの木々の枝や幹を縦横無尽に走る、糸の牢獄に閉じ込められる。

 

 アルの元の世界で例えるなら、スパイ映画で定番の赤外線レーザー………それが鉄の線になり物理的に対象の行動を阻害している。

 

 実行者のアルは牢獄に使った《鋼蜘蛛》を手から離しポーチ中の予備を装備し、檻から抜け出そうとするモンスターと距離を取り次の技の()()を開始する。

 右手で数本の《鋼蜘蛛》を一束にまとめ上げ、左手で出来上がった通常の《鋼蜘蛛》より寸胴な()()()()を支える。

 

 (この………【蜘蛛の大鞭】だっけ?は、強くまとめ上げないとばらけるから、時間がかかる………けど!)

 

 「もう遅い」

 

 体が覚えていた技の名前を胸の内につぶやく。

 ようやく檻から切り傷を作りながら『ヘルハウンド』達がはい出てくるが、もう技を止められないことをぽつりとつぶやく。

 しかし()()()()()()()()()()()なんてものが、この場においてはいるはずもなくアルの言葉などお構いなしに距離を詰めていく。

 

 アルは居合の姿勢でワイヤーを構え横並びに走っている怪物どもに、精一杯の力で横薙ぎに打ち出す。子供の力で振られたその先端は音速を超え空気を斬っていく。

 音速を超える鋼鉄の塊が、地上のモンスター程度の肉の壁で威力を落とされることはなく黒い犬の体を()()する。

 骨を砕かれ、臓物をねじ切られ、自分たちの体で宙に()の文字を作るのを最後に五匹の『ヘルハウンド』が大きな一つの灰の山に変わる。

 

 

 今日、初めての命のやり取りをした少年とは思えないほどの動きと判断。

 しかしアルは、ただの()()()の戦闘の出来に満足も慢心もしていない。

 

 まだ高みを、『英雄』を目指す少年は、眉間にしわを寄せ糸目をさらに鋭くし厳しい顔つきのまま戦闘を続ける。

 

 その顔が、何に向けられているのかはアル自身でさえわからないものであった。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 「やっぱあの《鋼蜘蛛》、戦闘中に別の形になれるのが良いな………ん?」

 

 「何かが走っきてやがる。それにこの速度、この地上のモンスターじゃねぇ……………神の恩恵(ファルナ)もちか?」

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 残りの『ヘルハウンド』は、感知しているのは三匹。向かってくる牙と爪の本数も減り、アルが感じる死のプレッシャーが薄れていっている。

 体力も十二分に温存しているアルには焦りはなく、どの技を試そうかとゆう余裕すらも持っている。

 

 (今の俺だと、どうしても防御と攻撃に隙間ができる………じゃぁ!)

 

 

 「じゃぁ……同時にやってみるか!」

 

 

 少年らしい自由な発想と、この半年で得た戦闘の知識を知恵に、アルの体の中にはないモンスター(人を殺す怪物)専用の容赦のない技を想像し、才能あふれる今の体がが実現のために応えてくれる。

 

 再々度、《鋼蜘蛛》を木へとなげ、周りの木々で糸が向きを変え、アルと『ヘルハウンド』の間に《鋼蜘蛛》で今度は格子状の一枚の網が作られた。

 防御のみの時の糸の編み込みより、()()()拳一つほどの隙間を開け敵の勢いで自滅するトラップが仕掛けられる。

 仕掛けられた細い糸に気づかず、残りの『ヘルハウンド』が自ら命を絶ちにアルへと向かい走っていく。

 

 アルを殺しにかかるモンスターが相手だからこそ、アルは今ここで容赦のない新しい技を生み出すことに成功した。

 

 肉塊になってもその慣性のまま、突っ込んでくるモンスターを避けようとアルは足に力を込める。 

 しかし、アルはモンスターへのとどめごと、ある人物に止められてしまう。

 

 

 

 「アル!糸をしまえ!!!」

 

 

 「っ!!!」

 

 

 

 なぜか、バルメテウスがその防御と攻撃を中断しろと緊迫した声でアルの頭上から叫んできた。

 

 

 バルメテウスの愛のバチ(ドンダフルボッコだドン)を、毎回の訓練で味わって、脳に地獄が刷り込まれているアル。

 すぐさま条件反射で《鋼蜘蛛》のトラップを解いてしまうが、『ヘルハウンド』はのアルの柔肌を切り裂く牙はこの数瞬の間にも迫っている。しかし、

 

 (このくらいなら……………間に合う)

 

 すぐさま回避のために横に飛ぼうと、アルは腰を落とすが………

 

 

 

 

 

 「あぶなぁぁぁぁぁぁぁいぃぃぃ!!!」 

 

  

 「っっ!!?」 

 

 

 

 突如として耳に入ってきたバルメテウスのものではない警告の言葉に、アルは驚き固まってしまう。自らの命に危機が迫っているのに、不覚を取る。

 対象に、人の言葉を理解できないモンスターはそのまま攻撃を止めずにアルに近づいている。

 

 いよいよ回避も防御もできない距離に迫る死に、アルは息をのむが……………

 

 

 「ほいほいほおぉぉぉぉい!」

 

 

 アルの背後から飛び出してきた警告の声の主、赤髪の少女が可憐な掛け声を発する。

 

 声とともに少女の手が握る子供用の短さのロングソードが、少女が扱ったとは思えない速さで三匹のモンスターに連続して振るわれる。

 三匹すべてがその三振で討たれ、少女が動けずにいたアルの目の前に危なげもなく降り立つ。

 

 ロングソードを鞘にしまいふふ~んと鼻を伸ばす少女。そんな自慢げな顔をしながら、アルへと後ろにまとめた長い髪を揺らしながら振り向く。

 

 少女の髪は燃え盛る炎のように紅く輝いてい、振り返ってアルを見つめた目は草原を吹く風を思わせる緑の色に染まっている。

 背丈もアルと同程度。年も同じほどだと見た目から見られる。

 

 

 

 

 

 何よりもその少女からは、彼女がもつ誇りが、未だ探し求めている『正義』が輝いている。

 

 彼にしては珍しく、アルはその少女の強さに、少女に見惚れていた。

 

 

 

 

 

 先ほどからの急展開についていけず動けもしていないアルに、その赤髪の少女は年齢相応の屈託のない笑顔でアルに近づきながら話しかけてくる。

 

 

 「よし!モンスターはもう倒したわ!君、怪我は……なさそうね!」

 

 「………………………………誰?」

 

 「あら?確かに自己紹介してないわね。それなら!せいせいどうどう思いっきりしてあげるわ!!」

 

 

 初対面のはずなのに勢いがすごい少女に、アルはたじろいでしまい短い疑問を返すことしかできない。

 自分と同じ目の高さで見つめられながら、少女はアルの疑問にここぞとばかりに声を上げ、言葉に違わず名乗りを上げる。

 その発達途上の胸を張り、腰に手を当て宣誓を開始する。 

 

 

 

 「今は『正義』探して、そしていつかは見つけるのがこの私!」

 

 「願うは秩序、思うは笑顔!この背に宿すのは、え~~と…………そう!正義の剣と正義の翼!!」 

 

 

 まだ慣れていない宣誓に、自らの道と願いを乗せる。

 少女が助けた少年に、彼女の想いを知ってもらうために。

 この会ったばかりの少年に届けようと、一段と声を上げ森を彼女の『正義』で震わせる。

 

 

 

 ここでアルは初めて他の『英雄の卵』と出会った。

 

 

 そして、彼と共に歩もうとしてくれる未来の『英雄』と。

 そして、長い付き合いになる可憐な少女と。

 

 

 

 

 「私は、アリーゼ!アリーゼ·ローヴェル!!正義を司る【アストレア·ファミリア】の最初の眷属よ!!!バチコーン☆」

 

 

 

 

 

 

 




 ロリのアリーゼ………………略して、ロリーゼ!!!



 ※この話でのアリーゼは9歳になる直前です。ダンまち本編の7年前の「アストレア・レコード」では16歳だったので、15年前の黒竜討伐失敗から半年たっているので、そこに誕生月を考えて9歳直前にしました。

 アルより3か月ほどお姉さんです。同い年のお姉さんです!!(重要)
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