【更新停止】魔剣大陸スノーブレイザー   作:無題13.jpg

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過去からの刺客

 ボニーが振る舞う新しいお茶とお菓子でクールダウンした会議室にて、アンスリアムは再びの口火を切った。

 

「局長。やはり現在の師団の練度では、魔剣使いが関わる軍事活動に参加させるのはリスクが高すぎます。保安部隊の足並みすら見出しかねません」

 

 そりゃそうだ、とシンクが大きく頷くのを横目に、アンスリアムは迷いなく続けた。

 

「ですが戦闘以外の補佐であれば、喜んで帯同させて頂きたく」

「おい、ちょっと待て」

 

 が、掌返しにも等しい論理跳躍を披露され、すかさずシンクが待ったを掛けた。

 だがアンスリアムは退かないどころか、堂々とシンクを説き伏せに掛かった。

 

「準騎士ストレイド、これは上級騎士としての決定です。今の師団にとって最も必要なのは武勲と実績。作戦に参加したという事実こそが重要なのです」

「捨て駒にもならねーのに、どう手柄を立てろって?」

「でしたら貴方が指揮をなさい。もともとルベルオルクの追跡は貴方の発案。ならば事ここに至った責任ぐらいは理解しているでしょう?」

「……そりゃまあな」

 

 そこを突かれると弱い。シンクが保安部隊と接触しなければ、ガービン達が乗り込んで来ることもなかった。それが動かしようのない事実だ。

 

 ルベルオルクを追うのは、行方不明の妹を探すというシンクの個人的な目的が発端だ。可能な限り無関係の人間を巻き込みたくないし、指図されたくもない。

 だがアンスリアムの立場上、ガービンの提案を断れないことも理解できた。なにしろ相手はスポンサーも同然、打診があれば首を立てに振らざるを得ない。

 そしてシンクはアンスリアムの雇われなのだから、雇い主の意向には最大限に配慮せねばならない。それは契約以上に、シンクが抱く傭兵としての信念と誇りであった。

 

「……作戦はこっちで立てるぞ」

 

 1秒半の熟考の後、シンクは固い口調で答えを返した。

 

「ええ、どうぞ。現場の判断を信じます」

「話はまとまったかね?」

「ええ。詳細は後ほど。今は作戦に当たって情報の共有を」

 

 議題も次に進んだ。シンクも頭を切り替えて、自分の役割に集中する。

 

「大人やね」

 

 いつの間にやら背後にいたボニーがニマニマ囁いてくるが、応える気にはなれない。まだまだ俺も甘いな、と込み上げる自嘲を茶とともに飲み下した。

 

「では、説明は私から」

 

 進み出たイエスマン中尉が、資料を片手に咳払いをした。

 可能なら全員に向けて発信してほしいところ。しかし残念ながら、ヴィステージ王国にはまだ情報を投影するモニターや、資料を刷る印刷機すら誕生前だ。

 

「ルベルオルクというのは、元はルメインの下層市民区画で結成された神秘主義サークルでした。今は過激化していますが、元は没落した貴族の子女や商家の不良少年が屯するだけの集まりでした」

 

 淡々と資料を読み上げるイエスマン中尉。抑揚のない口調といい、無味乾燥な内容といい、呪いでも掛けているように眠気を(いざな)う。

 

「最初こそ近隣住民が迷惑する程度の存在でしたが、今は違法薬物や横流しされた銃器パーツの取り扱いといった犯罪行為でシノギを得ています」

「なんか転機があったの?」

 

 眠気に耐えかねたシンクは、話の腰を折らない程度に口を挟んだ。その声に反応してか、立ち眠りしていたルヴィとジェズが同時に肩を跳ね上げる。

 イエスマン中尉が最小限に頷く。

 

「指導者として『レイン・アルバス』を名乗る人物が加わり、一気にカルト化が進んだらしい」

「れいんあるばす?」

 

 聞き覚えがあるような、無いような。シンクは首を傾げるも、霞む意識が記憶の発掘を妨げる。

 

「よりにもよってレイン? 偽名にしたって趣味が悪いわ」

 

 アンスリアムも眉間に皺を作って顔をしかめている。その実、欠伸を堪えたせいで苦い顔になっただけで、レインという人物に不快感や嫌悪を覚えている訳ではない。

 

「誰だったっけ? 聞き覚えあるけど」

「裏切り者の勇者よ。聖剣に選ばれながら、魔族側に寝返ったっていう」

「……あー、魔族戦役だっけ? 確か、兄貴夫婦に刺されたとかいう」

「どうしてそこで記憶してるのかしらね」

 

 アンスリアムの冷静なツッコミはさて置いて。

 レイン・アルバスとは、150年前にあった魔族戦役の最重要人物で、歴史的な裏切り者として悪名高き魔女だ。

 当時の支配階級への反発から魔族側への全面降伏を画策し、敵戦力の誘致や機密情報の漏洩、市民を扇動した大規模な反戦デモ、補給部隊の抹殺など、働いた悪事は枚挙に暇がない。

 魔族ならぬ魔物が与する組織のボスには相応しいのかもしれない。

 

「話を戻しますが、ルベルオルクの関わったと思しき事件は増加傾向にあります。組織の人数と装備を合わせれば、都市ゲリラと呼ぶに相応しい脅威。ただのマフィアと捨て置くことは出来ないと、今回保安部隊が動く運びとなりました」

「その指揮は、局長が自ら?」

 

 苦々しく目を細め、欠伸を噛み殺したアンスリアムの質問に、ガービンは組んだ両手で気怠い表情を隠して答える。

 

「いやいや。今日ここに来たのは、飽くまでも上級騎士殿と約定を交わす為だよ。作戦は全てイエスマン中尉ら、現場の指揮官に任せる。私自身は、争い事が不得手でね」

 

 笑い返したガービンは、大量のアクセサリ群をジャラジャラさせ、ギャグか冗談のつもりだろうか。

 面白くないのでスルーして、シンクはイエスマンに視線を向けた。

 

「じゃあ、今後はあんたの指示で動けばいいのか?」

「そういうことになる。もっとも、さっきの口振りからでは雑用ばかりになりかねんが」

「構わねえよ。参加させてもらえれば十分らしいからな。そうだろ、アンスリアム」

「ええ。()()()()ねだったら欲張りすぎだわ」

 

 真顔で言ってのけるアンスリアムも、冗談のつもりだったのだろうか。

 誰一人クスリとも笑わない空気の中、会談は尻すぼみに終わった。

 

 

 

「で?」

 

 保安局御一行がお帰りになり、ルヴィがヒヨッコどもの世話に戻ったのを見計らい、シンクはアンスリアムに呼び掛けた。

 

「なによ、『で?』って?」

「もう部外者はいねえ。本音で話せ」

「何についてよ。言っておくけど、あなただって十分に部外者よ? 我が物顔してるけど」

「だが師団の運用に口出す権利はあるはずだぜ。実績が欲しい? 馬鹿を言え、捨て駒で充分だったら親父や俺を雇った意義がねえ」

 

 シンクが険しく目を細めると、アンスリアムはボニーに目配せをした。そうして淹れさせた茶のお代わりを一息に飲み干し、重い口を開く。

 

「私だけの思惑で、この組織が運用されるわけじゃない。曲がりなりにも軍隊なんだから」

「あの局長のことか?」

「いいえ。確かに大口のスポンサーではあるけど、他にもいるわ。……送り出した娘に『名誉の戦死』を遂げてほしいってご当主とかがね」

「……ちっ、そういうことかよ」

 

 以前に自分で口にした言葉が、シンクの脳裏に蘇る。

 

 令嬢騎士を送り出した貴族の本家は、最初から娘の戦果になど期待していなかったのだ。

 婚姻に使えなくなった令嬢達も、騎士団に入ったことで体面よく「役目を果たした」ことになる。

 周囲がそう納得したのなら、後は不祥事を起こす前に、静かに誰の負担にもならず消えてくれればいい。

 鍛えて使えるならそれに越したことはない。だが派手に散ってもまた、体面を保つ材料になる。

 当人たちがその理屈に気付かないままでいてくれれば、確かに誰にとっても都合がいい。

 まさしく産廃業者のやり口だ。

 

「酷い話だな」

「因習なんてそんなものよ。貴族が家を守る為には、(あい)も情けも捨てなきゃならない」

「ブランドがそんなに大事かねぇ」

「さあ? 私は考えたこともないわ。まあ、今回送り出す子は()()()()()()()()()から、あなたは自分の目的を果たせばいい。フォローしろとまでは言わないわよ、無駄だし」

 

 シンクは短く「そうかい」と言い残して、部屋を出て行った。

 二人きりになったところで、アンスリアムはまた茶の代わりを催促しながらボニーに溢した。

 

「案外とまともな神経してるのね、シンクって。傭兵なんて損得だけしか考えないもんだと思ってたわ。結構本気で怒ってたわよね、今?」

「ええ男でしょう? うちももう、メロメロや」

「……え? あ、あれ本気だったの……?」

 

 ボニーはそれ以上何も言わず、ニンマリしながら自分のカップに茶を注ぎ、勝手に一服し始めるのであった。

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