【更新停止】魔剣大陸スノーブレイザー   作:無題13.jpg

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アツい友情

「俺ぁシンク・ストレイド。さっきも言ったが傭兵だ。他にも報酬次第じゃ色々と引き受けてる」

「ミーナ、です……」

 

 自己紹介をする傍ら、リアカー引きの傭兵シンクは、殴り倒した盗賊を慣れた様子で縛り上げていた。首にロープを掛け数珠繋ぎにして自由を奪うと、荷台へと乱暴に放り込む。彼にとっては盗賊も廃品の一種なのだ。

 

 ミーナの村では麦わらの工芸品が主要産業の一つで、熟練した職人は機械のような早さと精密さで麦を編み上げる。

 盗賊を縛るシンクの手付きからは、そういった職人の技が感じられた。

 

 完全に気を失ってはいるものの、盗賊達は生命まで奪われていない。シンク曰く、死体を残すと獣が人間の味を覚えて危険だし、生かしておけば傭兵ギルドで換金できるから、だそうだ。無闇な殺生は損でしかないのだとか。

 

「よっと」

「ひっ!? ちか……、待って!?」

 

 いきなりシンクに抱えられて、ミーナは何事かと取り乱す。

 なんてことはない、荷台に座らされただけなのだが、間近に迫った端正な顔で頭が瞬時に茹だってしまった。

 

(お姫様みたい……あ、男の人って言ってたっけ。……本当かしら?)

 

 などと、メルヘンな空想に耽溺する。

 

「いだぁっ!?」

 

 挫いた足首に触られる痛みが無かったら、そのまま戻って来られなかったかもしれない。

 

「骨は無事だな、ただの捻挫だ。安静にしてりゃ、すぐ治る」

 

 いつの間にやら靴を脱がされ、細長く引き裂いた布(元は盗賊の服)で足首が固定されている。

 布地は魔法によって凍らされており、治療の手際もいいらしい。

 シンクはミーナに背を向け、梶棒を掴んで発車態勢に入る。

 

「家まで送るよ。近くに住んでんだろ?」

「え……な、なんで?」

「んな靴で遠出するアホはいねえよ」

 

 シンクの言う通り、ミーナの住まいはここから1キロほど先の村だった。

 指摘された靴は軽くて動きやすいものだが、保温性や耐水性が皆無で、材質も脆くて擦り減り易い。長距離どころか、今日の全力疾走で破損してしまう強度では、確かに長距離など歩けまい。

 

 とはいえ、シンクの服装も厚手のチュニックとレザーパンツだけで、靴こそ編み上げのレザーブーツだが武装や装甲などが一切見受けられない。

 唯一、後腰に頑丈な鞘に収まったナイフを吊り下げているが、武器というよりサバイバル用品だ。

 

「道だけ教えてよ。その代わり助太刀両の350フレイヤ、着いたらちゃんと払ってくれよ?」

「むっ! は、払いますよ! これでも村長の娘、なんですから!」

「なら安心だな」

 

 既に荷車を引いて歩き出していたシンクは、背中を向けたまま茶化すように笑った。

 

 

 

 乾燥した冬の森に、車輪の転がる乾いた音が木霊する。

 晴れ渡った空は青々と澄み渡り、ほんのついさっきまで差し迫っていたミーナの危機など知らないように、縮れた雲が流れていた。

 

「何の用事だったか知らんけど、若いお嬢さんが一人で出歩くもんじゃねーっての」

「すみません……村からも近いし、慣れた道だったんですけど」

「安全が欲しけりゃ強くなりな。もしくは、走り込んで足腰を鍛えることだ。弱けりゃ餌にしかならねえ」

 

 実に体育会系のアドバイスだが、ミーナもその通りだと感じた。

 

 シンクの分析だと、盗賊にはまだ仲間がいる可能性が高く、近い場所にアジトを構えているらしかった。

 冬の間に消費量の増える薪を集めるのは、ミーナを含む村の若者の仕事だ。治安が悪くなると外出に支障をきたし、特に高齢者の家に配る薪が不足するかもしれない。

 複数人で行動するとしても、追われる恐怖は思い出すだけでも身が竦む。戦える備えは必要だ。

 

 剣呑になるミーナの気配を察してか、シンクは振り向いて笑いかけた。

 

「安心しな。俺は『ギャラが破格なストレイド』で通ってるんだ。盗賊団の一つや二つ、良心的な値段で潰してやるって」

「っ!?」

 

 肩越しに見せるシンクの野性的な微笑みに、さっきよりもさらに熱くミーナの胸が高鳴った。

 王子様、とさっきは思った。だが今は、軍馬を駆る凛々しい騎士のようで……。

 言い知れぬ焦燥が、ミーナの中で激しく渦を巻く。

 

(も、もうすぐ、村に着いちゃう……)

 

 数十メートル先には、見慣れた村の門と、見張り櫓が迫っている。

 見張りの兵士がこちらに気付き、年忌入った櫓の梯子を慎重に下りて来ていた。

 二人で会話できる時間は、もう一分と無い。

 

「あ、あのっ、シンクさん!」

「ん?」

 

 何か話がしたい衝動のまま口を開くも、何を言おうか考えがまとまらない。

 

「……シンクさんは、王都へ行く途中なんですよね?」

 

 結局、絞り出せたのは当たり障りのない質問だった。

 

「そうだよ」

「お仕事、ですか?」

「いんや。妹を探しに行くんだ。あと、親父の仇討ち」

 

 あっさり答えたにしては、他人が触れていいのか困るような内容だったが。

 

「ミーナ!」

 

 村門に近づく荷車へ駆け寄ってくる兵士の、ミーナにとっては馴染み深い声が、二人の時間に幕を引いた。

 

 

 

 平地とは異なり、山間部の森には針葉樹の枝が鬱蒼と青い葉を付けていた。昼間でも暗く、夜になると天の灯りは何一つ届かなくなる。

 冷たく湿った冬の空気の中に、生き物の気配はしない。

 緩やかな登山道が続いた先には、麓を一望できる切り立った岩壁が現れる。

 岩壁には根本と一体化した砦が、歴史から取り残されるように埋もれていた。

 

「ノゾム君、大変だぁぁぁ〜〜!」

 

 その砦を勝手にアジトとして使っている盗賊団『ロマンス』のリーダー・ノゾムくんは、彼が『フレンズ』と呼ぶ手下からの報告に作業の手を止めた。

 

「んん〜? どぉ〜したんだい、フレンズ23号。トラブルかい?」

 

 地を揺らすようなバリトンでありながら、妙に甘ったるい喋り方をするノゾムくんは、手にしていた木製の椀とスプーンをテーブルに置いた。

 ノゾムくんの正面には丸太のような杭が一本打たれていて、そこに身動き出来ないほどギチギチに拘束された手下(フレンズ)が、懸命に『何か』を咀嚼していた。

 うっかりノゾムくんの前で「ちょっと具合が悪い」と溢してしまったそのフレンズ、通称11号は、友達想いのノゾムくんによる手厚い看病を受けている最中だ。ヘドロ以下の臭いと味がする手製の薬草粥を、ボロボロ泣きながら嚥下している。

 

「と、友達探し(略奪)に出ていたフレンズ達が、駐在の騎士に捕まっちまった! い、今は麓の村の留置所だ!!」

「なんだって!?」

 

 大きなショックを受けたノゾムくんが、拳を固く立ち上がった。

 決して低くはない天井に迫る、2メートルを超える巨体、そこにパンパンに張り詰めた筋肉を積載したマッチョマンなのに、着ている服が半袖Tシャツと短パンにスニーカーなのが異彩を放つ。報告するフレンズ23号も、迫力に慣れずたじろぐほどだ。

 スポーツ刈りで両眼をギョロつかせた厳つい姿からは、他者への友好性など毛ほども見出だせない。

 

「心優しくて仲間想いなボクのフレンズを、捕まえて監禁だなんて!! 絶対に許さないぞ、すぐに取り戻しに行く!!」

 

 義憤に燃えている風なノゾムくん。23号は、室内で拘束されている仲間を見て複雑な表情になる。

 

「ところで、23号」

 

 しかし話の矛先が自分に向いてきた瞬間、23号の顔から一気に血の気が失せた。全身に震えが走り、脂汗まで噴き出す。

 

「君は仲間が捕まるのを黙って見過ごしたのかな? 助けようともせずに。ん?」

 

 ノゾムくんの質問に、心臓が潰さそうになる。

 仲間想いのリーダーは、裏切り行為を決して許さない。

 

「お、オレだって助けたかったさ! でも……お、オレ一人じゃどうしようもなかった!! いち早くノゾム君に知らせるのが最善だって考えたんだ!!」

「ん、ん〜? ボクはそんなに頼り甲斐があるかい?」

「え……あ、ああ! 最高のリーダーだよ、ノゾム君は!!」

 

 23号のリップサービスに、ニンマリと満面の笑みを浮かべたノゾムくんは、

 

「よせよ、照れるぜ」

 

 と顔を背けつつ23号の背中を張り倒し、猛スピードで壁までぶっ飛ばして紅いシミに変えたのだった。

 

「さあ、行くぞ23号ぉ! ……23号? ……死んでる。うわあああああああっ! なんでだ、誰がこんな事をぉぉぉぉ……まあいいか。よーし、生きてるうちにみんなを助けに行くぞぉー! 魔剣だって出しちゃうぞーっと!」

 

 動かなくなった23号をゴミ箱に放り入れたノゾムくんは、意気揚々と出撃の準備に取り掛かる。

 幸か不幸か、すでに11号の姿がノゾムの視界に入ることはなかった。

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