【更新停止】魔剣大陸スノーブレイザー   作:無題13.jpg

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魔剣

「おぉ〜。ホントに壁に埋まってらぁ! 変なの〜!」

 

 村で聞いていた通りの珍しい景観に、観光客のようにシンクがはしゃぐ。

 人差し指と親指で作った円に魔力でスクリーンを貼り、望遠鏡の代わりにする『遠見』の魔法を用いて、背の高い針葉樹の先端から盗賊団の砦を偵察する。

 高さは20メートルを超え、落ちたらタダでは済まないが、シンクは平然と片足で直立していた。

 

 

 

 ミーナを送り届けた村で、ついでに捕らえた盗賊を傭兵ギルドに引き渡したシンクは、村長宅の夕食に招待された。

 ミーナの祖父である村長は、シンクが提示した護衛料の実に10倍もの謝礼金を差し出した。

 受け取ったシンクはとても気を良くし、盗賊本隊の討伐までも申し出た。

 

 しかし。村長は沈痛な面持ちで首を振った。

 

「実は⋯⋯ヤツらのボスは魔剣使いなのです。公社からの応援が着かないことには、どうしようも……」

 

 そう聞いたシンクは間髪入れず、自信満々に切り返す。

 

「安心しなよ。俺だって魔剣使いだ」

 

 そして盗賊が住み着いていそうな場所を教えてもらい、裏山深くの遺跡へ夜も更けた時間にも関わらず出撃したのだった。

 

 

 

 砦正面の拓けた場所に、正門と思しき場所を見定めた。上手く隠したつもりだろうが、見張りの姿が丸見えではカモフラージュも無意味である。

 樹上から飛び降りたシンクは音も立てずに着地すると、木陰に潜みながら接近していった。

 

 見上げた砦はなかなかの規模だった。尖塔の高さが40メートルを超えており、岩壁から山中への奥行きもかなりある。遠目で見るより遥かに大きい。

 ただ外壁のほとんどが長い間に風化してしまったようで、あちこちに麻袋を広げて応急処置に苦心している跡も見て取れた。占拠した盗賊のてによるものだろう。

 

「たくっ、盗賊風情には不釣り合いな豪邸だぜ。文化財をなんだと思ってんだ、まったく」

 

 ブツクサ言いつつ、侵入経路を探そうと側面へ移動しようとした、その時だった。

 砦の正門が、地響きを立てながら開き出したのだ。

 

「おっと〜? へへっ、こいつぁツイテるか?」

 

 忍び込む手間が省けたと、シンクはほくそ笑む。

 開かれた門からは、太い両腕を大きく振り、脚を振り上げる満面の笑みのガチムチ男が、汚らしい男達を引き連れて現れた。

 

「さ〜ぁいざ進めぇ〜♪ 暗黒の大河に漕ぎ出すのだぁ~♪」

 

 調子外れに行進曲を歌い上げるガチムチ男。

 身の丈2メートを優に超えながら、子供が着るようなTシャツに短パン、運動靴という奇妙な出で立ちである。似合っていないとかの次元を遥かに超越した奇抜さと不気味さだ。

 

「あいつがボス? ……ギルドの手配書にあった顔だな。へへ、ツイテるぜ」

 

 シンクの口元に笑みが浮かぶが、別に男のセンスがツボに嵌ったからではない。

 

「確か『希望の略奪者ノゾムくん』だったな。盗賊団『ロマンス』のヘッド、懸賞金15万フレイヤ。へへへっ、マジでツイテるんじゃねーか、俺♪」

 

 思わず声を弾ませたシンクに気付いた様子もみせず、ノゾムくんは背後の手下(フレンズ)達に振り返った。

 

「みんな、準備はいいね? もちろんだとも! 捕まった仲間達を救出に行くぞぉーっ!! おぉーっ!!」

『お、おぉー⋯⋯!』

 

 やる気ムンムンなノゾムくんに対し、手下達のテンションは軒並み低い。明らかに乗り気でない様子だ。

 

「な、なあノゾム君? 救出はいいけど、クライアントからの仕事はどうするんだ? もう納期も近いんだぜ?」

 

 常識は知ってるが恐れを知らない(でも盗賊)手下から水を差されると、ノゾムくんは拳を突き上げた格好のままスンッ、と表情を消した。

 

「⋯⋯フレンズ55号。君は不当に貶められた仲間の身柄よりも、あんな最悪な陰気な女を優先するのかい?」

「で、でも公社の騎士団に捕まったからってすぐには殺されねーけどよぅ。あの女は平気でオレたちを皆殺しにするぜ!? オレぁ、それが心配で⋯⋯」

「うわはははは! なぁーんだ、そんなことかよ。気にしすぎだ、55号!」

 

 フレンズの不安を豪快に笑い飛ばしたノゾムくんは、右掌に気合を集中させて炎の球を作り出した。

 火球は熟れたカボチャほどのサイズだが、ノゾムくんの手にあってはリンゴくらいにしか見えない。

 

「ボクの強さは知ってるだろう? 強いヤツはねぇ、何をしたって許されるんだよ!!」

 

 オーバースローに振りかぶったノゾムくん。振り返りざま、シンクが身を隠す針葉樹へ火球を投げつけた。

 

「うわっとぉ!?」

 

 バレていたことに驚きつつも、シンクは冷静に火球を回避しつつ、盗賊団『ロマンス』の前へ躍り出た。

 背後の針葉樹に激突した火球が爆発し、周囲の木々を熱波で薙ぎ倒す。

 熱さを背中に受けながら、シンクはノゾムくんと正面切って対峙する。

 

「おやおやぁ〜? これはまた、可愛らしいお嬢さんだ。ボクのお友達に加わりたいのかな?」

 

 シンクの姿を認めたノゾムくんが、ニンマリと上機嫌に微笑んだ。同時に両手を左右に広げ、初弾よりも一回り大きな火球を準備している。今度のは西瓜のサイズだ。

 シンクは恐れず、かといって侮らず、ストレートな怒りで応える。

 

「誰がお嬢さんだ、馬鹿野郎。用があるのはテメェの首に掛かってる懸賞金にだけだぜ」

「ん、ん〜? 懸賞金?」

 

 小首を傾げたノゾム君は、すぐ隣のフレンズ4号に尋ねた。

 

「懸賞金ってなんだい? ボク、何か悪いことしたかな?」

「へぁっ!? え、えーっと、そりゃあ⋯⋯」

「けっ。テメェの自覚なんて関係ないぜ。実際に金が掛けられてんだ、さぞあっちこっちで恨みを買ってるんだろうさ」

 

 答え難そうな雰囲気の4号を無視したシンクが言い放つ。

 その途端、寸前まで和やかだったノゾムくんが豹変する。

 

「貴様ァァ!! ボクらの楽しいお喋りを邪魔するんじゃあないぞぉーっ!!」

 

 顔中の血管がブチギレそうなほど激昂し、歯を食いしばった赤鬼の形相となったノゾムくんは、火球をまとったままの右手で4号の顔面をむんずと掴んだ。

 

 瞬間、4号の身体は爪先まで一挙に燃え上がる。

 

「ギャアァァァァァーーーーーッ!?」

「友情のフレイミングダァァァァーーートッ!!」

 

 火達磨にされた4号が、先の火球以上の速度で投擲された。

 シンクはドン引きしながらも横へステップして危なげなく躱す。直後、さらに2人分の火達磨がぶっ飛んできた。

 

「友情はどうしたっ!?」

 

 思わずツッコミを入れつつも、シンクは逆方向に跳んで一投目を回避、もう一つをぶん殴って強引に軌道を逸らした。

 

 刹那。

 炎のフレンズを隠れ蓑に間合いを詰めてきたノゾムくんが、突進しながら燃え盛る拳をシンクに振り下ろしていた。

 

 両腕を交差させて受け止めるシンクの両足が、あまりの衝撃力で地面にめり込んでしまう。

 

「貴様ァァァ! フレンズを殴り飛ばしやがってぇぇぇぇっ!!」

「火ぃ付けてぶん投げたヤツが言うことか!?」

「友情の為に命を懸けるのは当然だ!!」

「救えねえな、あんた!!」

 

 押し潰そうとばかりにノゾムくんの筋肉が膨張する。

 シンクはそのパワーをさらなるパワーで押し返し、力任せに両腕を開いて弾き飛ばしてのける。

 

「う、うおっ!?」

 

 体格も重量も無視した怪力に慄くノゾムくんの鳩尾に、追撃の爪先蹴りがめり込んだ。

 

「がごっ!?」

「そぉーらよっと!!」

 

 鳩尾を踏み台に巨体を駆け上がったシンクは、厳つい顎に膝を食らわしつつもう一段跳躍。拳を固く握りしめ、魔力をスパークさせて眉間を殴りつけた。

 

 小爆発を起こし、ノゾムくんの巨体が砦の方向へぶっ飛ばされる。

 

 地面で一度バウンドしたノゾムくんは、何度も転がりながら正門に激突。土煙を巻き上げながら壁面にめり込んで爆音を鳴らし、ようやく停止した。

 

「ひぃぃっ!! なんだ、あの女ァ!?」

「ノゾム君をぶっ飛ばしちまいやがったぞ!?」

 

 いつの間にか散り散りに逃げていたフレンズも、狂暴ながら強さだけは認めていたリーダーの苦戦に戦慄する。

 そこに一発、シンクの魔法弾が掠め飛んでいく。

 

「おい、誰だ今『女』っつったの!? 俺は男だよ、馬鹿野郎!!」

 

 耳聡く聞きつけたシンクはフレンズに詰めようとするが、

 

「⋯⋯い、痛いじゃあ、ないか⋯⋯」

 

 ノゾムくんのゆらりと立ち上がる気配を察するや、即座にそちらへ向き直った。

 

「も、もう怒ったぞ⋯⋯うわはははっ! お、お前とはもう、友達になってやんないぞぉ〜、うわはははは!」

「の、ノゾムくんが、笑ってる⋯⋯」

 

 空気がピンと張り詰める。

 

 門戸板を無理やり引き千切って抜け出したノゾムくんの手には、黒光りするフルタングナイフが握られていた。

 艶消しされた鈍い銀色で、持ち手のカバーすらない質素な刃物だ。ノゾムくんの大きな手にあっては、彫刻刀のように頼りない。

 

「ひぃっ! で、出るぞ!!」

「ノゾム君の『魔剣』が!」

 

 場の緊張感が急激に高まり、フレンズ達が一斉に息を呑んだ。

 シンクも後腰に吊り下げたナイフに手を伸ばし、口許をニヤリと歪めて敵を見据える。

 

「友情パゥワぁぁぁぁっ!!」

 

 虚ろな瞳でナイフを振り上げたノゾム君が、その切っ先を躊躇なく自分の脇腹に突き刺した。

 

 瞬間。

 

 毒々しく赤黒い光がナイフから放出され、ノゾムくんの全身を飲み込みながら肥大化していく。

 みるみる膨張した光が楕円球を形作り、元の背丈の10倍近い全長に達するや、内側から弾けるように砕け散る。

 

 その間、僅か1秒。

 

 現れたのは鋼の巨人。

 重装甲をまとった黒光りする上半身、ガトリングガンを三門束ねたメタルシルバーの両腕、両肩と背中にはミサイルコンテナを搭載。下半身は方向自在の無限駆動だ。

 両肩と一体化したモノアイの頭部でシンクを見据える、その姿は、半人型の機動戦車だ。

 

 これこそが魔剣。

 科学と錬金術の粋を結集させた、レムナント大陸の最強兵器。その戦闘形態が、シンクの眼前に立ち塞がった。

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