【更新停止】魔剣大陸スノーブレイザー   作:無題13.jpg

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黒の海

 フェリセドナ王朝は、約二千年前にハイエルフによって起こされた、大陸で最初の文明だ。

 エルフは大陸を支配していた不老不死の種族だった。ニ千年前、彼らは歴史上最初の魔族侵略に対抗するべく「とあるもの」を生み出す。

 

 とあるもの、とは即ち、人間だ。

 

 エルフの王族であるハイエルフ達は、現代の技術水準ですら解析不能な魔法を用いて、魔族と戦わせる兵器として人間を造ったのだ。

 

 結果、フェリセドナ王朝は400年ほどで増殖した人間達に乗っ取られ、エルフ達は中央から追放された。

 それからの約1600年間を歴史学では「新フェリセドナ朝」と呼び、それまでの「古フェリセドナ朝」とは区別している。

 フェリセドナ王朝は幾度もの分裂と統合を繰り返し、今やヴィステージ王国に文化の一部を残すだけとなった。

 

 

 

 その一部でもあるルメインの地下遺跡は、全長約18メートル(尻尾除く)のカイマンダーでも余裕を持って進めるほどに水路は広く、奥行きもある。

 

『この地下都市はのう、ハイエルフの魔法が創り出したんじゃ! 建築じゃのーて、1から10まで魔力による物質変換で創られとる! 分かるか、このスゴさが!』

「ふーん」

 

 悠々と暗く臭い通路を進むカイマンダーの背中で、簀巻きにされたシンクはヤナギサワの講釈に生返事で応えた。

 それなりに面白い味のする話なのだが、残念ながらゴブリン達は興味がないらしく、欠伸を噛み殺してボケーッとしていた。

 

 魔剣を使う隙もなくカイマンダーの前脚の一撃で叩き伏せられたシンクは、魔剣もゴブリン達に取り上げられて、文字通り手も足も出ない状況だ。

 素性や目的についての質問に答えた後は、適当に話を合わせて頷くシンクであった。

 

 武装解除の際には「ゲェーッ!! オトコだったのかよ、オメー!?」というゴブリンの悲鳴も轟いたが、シンクの現状には一切の関係がない。

 

「物質変換って、確か魔剣が人間と合体する時のアレだっけ?」

『うむ。もう遺失しちまった技術じゃが、根本はワシらが普段使いしちょる魔法と変わらん。小難しい儀式やら詠唱がのうなっとる分、むしろ魔剣に近いとワシぁ睨んどる』

「エルフも魔剣みたいのを使えたのか?」

『いや、使えとったら奴らも根絶やしにはされんかったじゃろう。飽くまでも魔剣技術の根幹がハイエルフの魔法っちゅーだけじゃ。坊主は聖剣って知っちょるか?』

「そりゃ昔話程度なら」

 

 つい最近も話題に出したなと、シンクはレイン・アルバスを思い浮かべて頷いた。

 

 新古フェリセドナ王朝における権威の象徴だったと同時に、幾度となく侵略者からの脅威を打ち払ってきたのが聖剣だ。

 最初にフェリセドナが興った際にハイエルフが創ったとされる聖剣は、最も強く賢い人間に授けられたと伝わる。それが聖剣の勇者の始まりだった。

 レイン・アルバスの代で途絶するまで、聖剣は時代時代の魔族侵略から世界を護ってきたという。

 

『だぁが知っての通り、150年前の魔族戦役で勇者レインが人間を裏切って魔族に与した。そのレインは粛清されたが、聖剣の力を失った人類は一気に窮地となってもうたんじゃ』

「そっから魔剣で大逆転だろ?」

『そう簡単な話じゃあない。後の魔剣技師んなった当時の錬金術師や魔導学士が大勢集まり、知恵を絞った成果じゃ。遺された聖剣を分解し、戦闘能力だけを抽出してコピーしたんじゃ。誰でも扱えるよう改良してのう』

 

 それは初耳だ。シンクは「へえ」と感嘆した。

 すっかり舟を漕いでいるゴブリン達を余所に、ヤナギサワは続ける。

 

『しかし王権の象徴じゃった聖剣を勝手に弄ったんじゃ、バレとったら頸を刎ねられる。じゃから魔剣技師達は水面下で開発を行う必要があった』

 

 不意にカイマンダーが立ち止まった。

 目の前には、片羽根の鴉が刻まれた壁画がそびえている。だが注意深く観察すると、紋章を象った門であった。

 紋章は現王家ディルノーグのものに似ているが、より複雑だ。

 

「なに、ここ?」

『ルメイン地下遺跡の中枢じゃ。ちょうど王城の真下じゃのう。こここそ最初の魔剣が造られた鍛冶場じゃァ』

 

 ヤナギサワが答えると、続いてカイマンダーが低く唸り声を上げた。

 地鳴りのような振動が大気を震わせ、共鳴するように扉がゆっくりと開いていく。

 巨大な門扉がゆっくりと、上方向に滑り登っていった。

 

「そっちに開くのか」

『おそらくセキュリティの一種じゃ。他にも4階に進むのに落とし穴で2階に一度落ちないと進めないとか、七面倒な仕掛けが山程ある』

「本当にセキュリティ?」

『趣味と半々かのう』

 

 扉の先は急速にドブ臭さが薄れ、香を焚いたような香りに空間が満たされる。シンクもよく使う虫除けの香と似ていた。

 

「ゲホッ、ゲホッ」

「相変わらずクセーっ」

「嫌な臭いだ」

 

 ゴブリン達も嫌がっている辺り、虫除けは魔物にも効果があるのかもしれない。

 

『さて坊主。この先、お前はワシらのボスと会うことになるが、その前に話を合わせてもらう』

 

 後方で再び門が閉じていく最中、ヤナギサワが圧し殺した声でシンクに告げた。

 

「ん、ああ。なんだよ?」

『貴様は崩落した地区を調査しとった、保安局の小僧……いや小娘の下士官じゃ。何も知らん捕虜として振る舞え』

「拷問とかされない?」

『はなっから組織を探っちょった言うたら、それこそ殺されるぞ。ボスはレインを騙るだけあって、人間にゃ特別容赦がねえ』

「人間にゃ? ……分かった。謀反でもする気?」

『お前さんは気にせんでええ。わざわざ生かしてやった礼と思うんじゃな。ゴブリンどもも、分かっとるな?』

 

 口々に「ガッテンだ!」「おう!」と威勢良く応えたゴブリン達に、カイマンダーも頷き返す。赤の他人であるシンクから見ても、楽しそうであった。

 

「仲いいな〜」

『意外と賢いし、ワシの知らん古代語も知っちょるからな。こいつらァ話に聞いとったゴブリンより、かなり達者な連中じゃぞ?』

「そう! 何を隠そうオレらはゴブリンの中でもエリート中のエリートだからな!」

「他の同類には会ったことねーけど!」

「絶滅しちまったんだからしょーがねー!」

 

 やがてカイマンダーは、虫除けの充満する通路から強い潮の臭いのするだだっ広い空間にまろび出た。

 広大な浸食洞窟を改造したらしいフロアの奥は、波打つ黒い水面がどこまでも続いていた。潮騒が反響する暗闇には、カイマンダーよりも遥かに巨大な影がいくつも並んでいた。

 何事かと目を凝らすが、見えてきたのは朽ちた木製のドームで、それらが水面から数十メートルも突き出している。何の用途の建造物か、皆目検討がつかなかった。

 

『おーい! 帰ったぞー!』

 

 得体の知れない空間を、カイマンダーが呑気に声を張り上げながら進んでいく。

 

『誰もおらんのかー? おーい!』

『こんなところで大声出すんじゃあないぞ、ヤナギサワ。地盤がこれ以上崩れたら収集がつかんだろうが』

 

 頭上から返ってきた威圧感のある冷たい声に、シンクは目を見開いた。

 首だけ動かして見上げれば、闇に溶ける漆黒の甲冑騎士が、ゆっくりと舞い降りるところだった。

 

『おう、すまんすまん。軽く調べた限りだが、もう地盤の浸食は取り返しがつかんじゃろうな。遠からず城よりこっちの旧市街は一斉に崩落するじゃろう』

『まずいな。そうなったら、この秘密基地も露見してしまう。アレの完成も先だというのに』

 

 カイマンダーのすぐ横に着地したシルエットは、間違いない。ルメインに来る直前に交戦した黒騎士の魔剣だ。

 今は背中にマウントされている盾にも、しっかり紋章が刻まれているので間違いない。

 

 そのスマートなフルフェイスヘルム型の頭部から、射抜くような視線がシンクに突き刺さった。

 

『で? ソレはいったい何なのかな?』

 

 抑揚のない口調だが、機嫌の悪さがヒシヒシと伝わる。夏の夜に沸き出た蚊に向けるような殺意だ。

 

『不運にも上から落ちてきてのう。可哀相じゃから拾ってやったんじゃ』

『捨て置けばいいものを。ま、生き残って報告されても厄介か。処分は責任持ってやってくれよ。逃がしたらボクが君を殺すよ、ヤナギサワ』

 

 黒騎士は肩を竦めると、再び上昇していく。カイマンダーの灯りも届かない暗闇へ、溶けるように飛び去っていった。

 

「……おっかねー。なんなん、あれ?」

『ヤツこそレイン・アルバス。その魔剣レックレスエントじゃ。正面から戦う気がまるでせん、おっとろしい怪物じゃあ』

 

 圧し殺したヤナギサワの言葉に、ゴブリン達も唾を飲み込んで頷いた。

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