【更新停止】魔剣大陸スノーブレイザー   作:無題13.jpg

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雪と炎

 ――遡ること150年前。

 人間達は虚空の彼方より現れた侵略者・魔族によって絶滅の危機に瀕していた。

 絶体絶命の窮地においてレムナント大陸の各国は、歴史上初めて連携して新機軸の兵器を完成させる。

 

 魔剣。

 

 使用者そのものを巨大な自立兵器へと変革させる超兵器は、絶大なパワーと堅牢な装甲によって圧倒的不利であった戦況を覆し、ついには侵略者の軍勢を壊滅せしめた。

 

 だがしかし。

 外敵の消えた後、魔剣は人間同士の覇権争いに用いられることとなる。

 英雄の象徴は血に飢えた破壊者に堕落し、弱者を踏み躙る暴虐のアギトと化した。

 

 大陸中で国家と国家が大小問わず相争い、大国ですら疲弊して自然と休戦に至るまでの約100年は「統一『出来なかった』戦争」という蔑称で歴史に刻まれた。

 

 かつて高度に栄えていた文明も後退し、無人の荒野には都市の残骸ばかりが果てしなく続く。

 大戦で流出した数多の魔剣も深刻な社会問題となり、徒党を組んだ魔剣使いが新たな国を建てることも珍しくなくなった。

 辺境では無法者ののさばる危険地帯が大多数を占め、文化も秩序も意味を忘れた。かつての摩天楼も砂と塵に埋もれては、ただの墓標だ。

 

 欲望のまま振るわれる暴力の濁流は、魔族の侵略すら生温い混沌となって世界を押し流している。

 

 

 

『うわははははーーっ!! これがボクの魔剣、フレンドリー・ファイアさ! 美しいだろう? カッコいいだろう? 何より強そうだろう?』

 

 片腕三門、両腕合わせて六門のガトリングガンがシンクに照準を重ねる。ついでに両肩と背中のコンテナも口を開き、いつでもミサイルが発射可能だ。

 

 魔剣は持ち主と細胞レベルで融合し、生体金属の鎧を纏う個人携行型の兵器だ。

 本体であるナイフを身体に突き刺し、神経や代謝系とも完全に同化することで、装着者は操縦から火器管制までを感覚的に行える。

 むしろ難しく考えないのが魔剣使いには重要で、ロクな教育も倫理観も持ち合わせない無法者(バカ)の方がスペックを引き出せる傾向にすらある。

 

 魔剣使いとなった悪党が平然とのさばり続けているのも、各国の力が落ちている以上に、純粋な戦闘力に由来する部分が大きいのである。

 

 ノゾムくんも、そういった暴君の一匹だ。

 

「うへへ! ザマぁねえぜ、あの姉ちゃん⋯⋯!」

「ノゾムくんにゃ誰も敵わねえってのによ!」

 

 フレンズ達も口々にシンクを嘲った。

 圧倒的な力に屈服し、媚び諂う生き方を選択した彼らにとって、どんなに恐ろしくても暴君は絶対だ。

 靴の裏さえ舐めていれば、甘い汁だって吸わせてくれる。気分次第で殺される危険性より、見返りの方がずっと大きい。

 

「けっ。くだらねえ」

 

 一言吐き捨てたシンクもまた、腰のナイフを引き抜いた。

 艶消された鈍銀の刀身に、ノゾム君を含めた全員の表情が凍りつく。

 

『き、貴様も魔剣使いだったのか!? さぁせぇるぅかぁーっ!!』

 

 慄きながらも冷静だったノゾムくんは、速攻を仕掛けるべくフレンドリー・ファイアのガトリングガンを回した。

 同時にロックの外れたミサイルが、噴煙を吐いて宙へ放たれる。

 

 魔剣の刃はシンクの掌を突き刺したが、そこに一瞬遅れた銃撃とミサイルの雨が降り注いだ。

 

『うわははは! 装着などさせるものか、死ね死ね死ねぇぇぇぇぇーーーっ!!』

 

 爆炎と轟音、無数の火柱と黒煙が噴き上がり、衝撃が局地的な地割れを引き起こす。

 トドメとばかりにモノアイが熱線を撃ち出す。獰猛な閃光が闇夜を引き裂く。

 不運にも爆撃に巻き込まれて吹き飛ぶフレンズもおり、火柱も麓の村からでも確認できるまでに立ち上った。

 

『はァー、はァーッ、はァーー⋯⋯ッ』

 

 射撃を止めたフレンドリー・ファイアが、装着者の呼吸に合わせてモノアイを明滅させる。動くものがあったら即座に撃たれるので、残ったフレンズ達も死んだように動かない。

 

『……うわははは、魔剣の戦いは先手必勝ぉーっ!! 呑気してっからこうなるのだ、間抜けがァ!!』

 

 ノゾム君の勝ち誇る声だけが響き渡る。

 それを断ち切るように、一陣の旋風が吹き荒れた。

 

『うわははは⋯⋯は、はうわっ!?』

 

 横薙ぎに引き裂かれた炎の残滓が消し飛び、爆心地に立つのは鋼の異形。

 

 全長は3メートルにも満たず、常人の倍程度だ。だがシルエットは完全に人型を逸している。

 シミ一つない純白の装甲を持ち、二足歩行する鋼の(ケダモノ)だ。

 

 前傾姿勢を取る、肥大化した上半身。

 後方に鋭く伸びた頭部は流線型。後頭部からは蛇腹状のテールが長く伸び、先端がリズミカルに地面をタップしている。

 光沢のない装甲は無機質ながらも、正面からの意匠は凛々しくも威圧的なドラゴンだ。

 殴打に特化し、バランスを欠くほど大型化した両拳は、頭部と同じくドラゴンを象った流線型の手甲だ。こちらも正面からだと、乱杭歯を剥き出しにした有機的で獰猛な顔付きだった。

 各部の関節と、装甲を縁取った青く光るラインは緩やかに明滅し、まるで呼吸をするかのよう。

 下半身は上半身に対してスリムを通り越し、華奢だ。針のように鋭い蹄を、地面に突き刺すように直立している。

 

『――――、ぷっ』

 

 視界が完全に晴れ、シンクの魔剣が全貌を露わにした時、ノゾム君はフレンドリー・ファイアの中で噴飯した。

 

『うわははははーっ! なぁーんだ、そのチッポケな魔剣はーっ!? うわははははーっ!!』

 

 嘲る中に微かな安堵を滲ませた高笑いが響く。

 

『知ってるぞぉ! 旧式の魔剣はパワーが弱く、魔装も人間サイズにしか出せなかった、と!』

『だから?』

 

 白き獣が、シンクの声で冷たく返す。

 ノゾム君が両腕のガトリングガンを構え、銃口を再び回転させ始めた。

 

『ふはっ! そんな旧式じゃ、ボクのダインスレイブ・インダストリーの最新モデルには勝てないってことさァーーーッ!!』

 

 再び銃弾が吐き出される刹那。

 

『駆けるぜ、スノーブレイザー!』

 

 リズムを取っていたテールが鋭い動作で鎌首をもたげる。先端の噴射口に青白い炎を灯し、背後の空中を打ち据える。

 

 銃撃の爆音を塗り潰す炸裂音が轟き、シンクの魔剣――スノーブレイザーの姿が掻き消えた。

 

『なぁっ!?』

 

 何も無い空間を撃ち抜いた銃弾を余所に、ガトリングガンの直上に再出現したスノーブレイザーは、鋭い脚部で銃身を蹴り抜いた。

 微かな青い炎を纏う一蹴りは、抵抗なく銃身を半ばから切断せしめる。

 

『は、速っ!?』

 

 相手の機動力に戦慄しながらも、ノゾムくんは即座にモノアイからの熱線で反撃に出た。

 

 スノーブレイザーはテールノズルから青白い炎を噴射させ、その反動で垂直方向へ急上昇。熱線が残像を貫いた。

 

『そ、その尻尾、ただの飾りではないな! 大出力のスラスターか!?』

 

 ノゾム君が上空に逃げたスノーブレイザーに、残った片腕の照準を合わせた。

 だが射撃されるより先に、スノーブレイザーは再び加速をつけてフレンドリー・ファイアに肉迫している。

 急降下した勢いのまま、敵の脳天を無造作に殴りつけた。

 

『おぐっ!?』

『もういっちょ!』

 

 頑丈な頭部を凹ませ、続くボディへのフックパンチで9倍近い体格差をものともせず、軽々と殴り飛ばした。

 

『ぬおおおおおおっ!?』

 

 無限軌道が地面を抉り、フレンドリー・ファイアが豪快に横滑りしていく。

 それを追うスノーブレイザー、テールスラスターから極太の噴炎を吐き出した。

 

『ど、どこに!? どこだ! うおおおおおっ!!』

 

 舞い上がった粉塵に視界を奪われたフレンドリー・ファイアは、自らが抉った地面に無限軌道を埋没させて傾いたまま、残ったガトリングガンとミサイルを、ロクに照準も合わせずばら撒いた。

 

 無作為な弾幕の中を突っ込むスノーブレイザーは、上下左右に軌道を変え、変幻自在の軌道で獲物へ迫っていく。

 

 その時だ。フレンドリー・ファイアの胸部装甲が左右に開口した。

 

『うおおお! ブレストバーニングぅぅぅっ!!』

 

 切り札である極大の熱線砲が、完璧なカウンターとも呼べるタイミングで放たれる。

 それすらも、スノーブレイザーは垂直への急上昇で易々と回避してみせた。

 

『ま、また消え――』

『ノロマが』

 

 もはや急降下という表現すら生温い。墜落する勢いのスノーブレイザーが、フレンドリー・ファイアの懐に飛び込んだ。

 鋭い両脚が青の炎をまとい、刃となって両腕を肩口から斬り落とす。

 空中で流れるように一回転し、拳から青白い炎を噴出させてモノアイを打ち貫いた。

 

 衝撃の余り敵の背後で地面が弾け、フレンドリー・ファイアの上半身は丸ごと爆裂させられた。

 

『うぎゃあああああああッ!?』

 

 ノゾムくんの断末魔の悲鳴が、フレンドリー・ファイアの機体から起こる無数の爆発にかき消えた。

 

『よっと』

 

 とっくに離脱を済ませていたスノーブレイザーは、爆発光を背にしてニヤリと嗤った⋯⋯ように視える。

 

『せっかくの最新式も、中身がヘボじゃ話にならねえな、おい』

 

 スノーブレイザーが自らの右掌に視線を落とす。そこには懸賞金の掛かったノゾムくんの生首が、絶望と恐怖の表情で文字通り氷漬けにされていた。

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