装着者との融合を強制的に剥がされた魔剣は実体を保てなくなり、急速に
その際に発せられる熱量は凄まじく、爆発と呼んで相違ない。
だが最期は花火のように儚くもあり、七色の粒子となって飛散したフレンドリー・ファイアの残照は、風に乗って消えていった。
「う、うそだろ⋯⋯!?」
「ノゾム君が手も足も出ないなんて⋯⋯」
夢にも思わなかった暴君の敗北。それを眺める生き残りフレンズは魂が抜けたようだが、同時にどこか安堵したようにも見えた。
「イカれているけどクソ強かったノゾム君が⋯⋯」
『ひでぇ物言いだな』
その背後から現れたスノーブレイザーは、魔法で凍らせたノゾム君の生首を彼らに差し出した。
断末魔に叫ぶ表情で固まった生首は、素手で触れたら呪われそうだ。
「ぎゃあああっ!!」
「こ、殺さないでぇ!?」
『んな一銭にもならねー殺しなんてするかよ。ま、野放しにしてやる理由もねえがな』
V字ゴーグル型のアイカメラの奥で、シンクはニヤリと微笑んだ。
弄ばれるノゾム君の首は、ただ凍っているだけでない。厚さ1ミリの氷でコーティングされていて、表情や髪型が崩れることはない。これを傭兵ギルドに持ち込めば、懸賞金はシンクのものだ。
傭兵ギルドを運営するのは、国を支配する企業だ。
国家の衰退した今の時代。軍事力も巨大企業が保有するところとなり、旧時代的な騎士団などは象徴的に名前を残すだけだ。
その在り様も軍隊で、平時は治安維持を担い、犯罪者の捕縛や辺境での防衛活動に従事。戦時では正規兵として大規模に動員され、荒々しい現場仕事が主任務だ。
だが傭兵にとっては、名前がどうだろうと一番の大口客であることは、今も昔も変わらない。
発注される任務に実働部隊として参加したり、ノゾムくんのような賞金首を収めることで、傭兵は稼ぎを得るのだ。
また賞金首ほどではないが、捕らえた犯罪者を生きたまま連行しても懸賞金は出る。稼ぎとしても少額だが、そういった精度が無ければ辺境の治安維持など成り立ちはしない。
『さて、お前ら。死にたくねえなら黙って着いてこい。安心しろ、ケチな盗賊なんて何年かの強制労働で解放してもらえるさ』
シンクの言葉は軽いが、有無を言わさぬ威圧感がある。フレンズ達もそれを察して、血の気が引いた顔で互いに顔を見合わせた。
そして、やっぱり殺されるよりマシだとフレンズ達が頷いた、その時。
真っ赤に燃えた榴弾の豪雨が降り注ぎ、周囲一帯を焼き払った。
『うおあっ!?』
スノーブレイザーは咄嗟に右腕を前に半身で構えた防御姿勢を取った。直撃されても微動だにしない堅牢さで耐えるが、その横で生身のフレンズ達が何も分からないうちに燃え尽きていく。
僅か数秒の間に周囲は溶鉱炉へと変貌し、焦熱地獄の様相を呈していた。
『ちぃっ!! なんだ、一体⋯⋯って、あああぁぁぁぁーっ!?』
砲撃にひと段落ついたのも束の間、シンクが絹を裂くような悲鳴を上げた。
スノーブレイザーは全くの無傷だが、手にしていたノゾムくんの生首は無残にも左半分だけになっている。
『⋯⋯い、いや待て、半分だけでも証明にはなる! これ以上崩れねえよう慎重に⋯⋯あああっ!!』
再びの凍結を試みるも、残った半分も虚しく灰となって崩れてしまった。これでは賞金もパーである。
『んの⋯⋯っ!! よくも人の食い扶持を!』
怒りに燃える瞳で上空を睨むシンク。視線の先には、漆黒の装甲を持つ魔剣の姿があった。
遠景で分かり辛いが、フレンドリー・ファイアと同じく常人の8〜9倍の巨影だ。現行機では一般的サイズである。
シルエットはスマートで、甲冑を纏う騎士のよう。直線的に角張って折り重なる装甲は、触れただけで斬り裂かれそうに鋭い。菱形のヘルムから突き出す一本角も槍のようだ。
一方でフェイスガード部分には女性的な白いマスケラで、空虚かつ不気味に微笑んでいた。
左手には大型の盾を構えており、先の榴弾はそこから射出されたものだ。
その盾に刻まれた紋章に気づき、シンクは目を見開いた。
『!! あのマークっ!?』
赤々と輝く紅玉を中心にして、四枚の羽が十字に、刃を外向きにした四本の剣がX字に組み合わされている。
テールスラスターを点火させ、スノーブレイザーは拳を固めて身を沈めた。
『見つけたぜ! 親父の仇ッ!!』
地面を陥没させる推進力で跳び立つと、標的との距離を一瞬にして詰め切った。
青い噴射炎を纏った拳で紅玉を打つ。
直撃と同時に巻き起こった激しい爆発が、体格差など物ともせず黒騎士を盾ごと押し返した。
『――――!?』
漆黒の甲冑から、僅かに動揺の気配がする。
スノーブレイザーはスラスター出力をさらに上昇させ、一気に押し切りに掛かった。
『吐いてもらうぜ! どこの誰様だ、テメェら!!』
『邪魔しないで、劣等種が!』
(女の声!? ――ぬおっ!?)
微かに聞こえた、まだ年若い女性の声。
キュートな声色に意識を取られた一瞬、紅玉から発せられた眩い光が壁となってスノーブレイザーを弾き返した。
反動で真上に吹き飛ばされたスノーブレイザーだったが、即座に反転してマスケラの笑う頭部に蹴り掛かった。
展開されたままの光の壁と、青い炎をまとった両脚が激突し、夜空に火花が瞬いた。
『バリアっ!? だぁが……無駄だァッ!!』
青い炎が螺旋を描いて高速で回転し、ドリル状に変形して光の壁を削っていく。
炎のドリルが食い込むに連れ、光の壁には縦横に亀裂が走っていく。
『フン!』
『ん!? あ、あんにゃろう……!』
障壁を砕くまであと一息、のところで、黒騎士がスノーブレイザーから顔を背けた。
見下ろす先は、ロマンスがアジトにしていた遺跡だ。額の角を赤熱させ、そこから三日月型のビームを連射した。
ビームは遺跡の外壁を突き破り、内部で無数の爆発を連鎖させた。高熱と衝撃が岩山の基礎ごと破壊して、激しく地鳴りを起こして崩壊させていく。
それを見届けた黒騎士は、シンクを無視してその場から離脱を始めた。背面から翼のような噴射炎を吐き出して、高高度まで一気に舞い上がる。
『待てこら!!』
光の壁を破壊したシンクも、スラスターを噴射して再度殴りかかろうとする。
しかし黒騎士の飛翔速度はそれ以上だった。
猛烈な勢いで夜空の果てへ消えて行く。
離脱する間際、マスケラの虚ろな眼窩がスノーブレイザーを見つめた……ような気がした。
『……ちっ。魔剣が空飛ぶ時代かよ。都会は進んでんな』
スノーブレイザーは瞬間的な速度こそ出せるが、長距離を飛行する能力は無い。奥歯を噛み締めたシンクは、やがて大きく息を吐くと地上に降下した。
地面に足を付けるや魔剣を解除して、甲冑の飛び去った方向を睨みつける。
「目的は遺跡の破壊だったか。何のつもりか知らねえが……へへっ、だがよ! 尻尾は掴んだぜ」
満天の星の一つに紛れた甲冑の姿は見失ったが、方向はキッチリ記憶した。シンクの目指していた王都方面で間違いない。
「親父を殺した一味、思ったより早く会えて嬉しいぜ! 絶対に……逃さん!!」
決意と拳を固めて、シンクは夜空に手を伸ばす。
背後で岩壁が真っ二つに崩落していくのも意に介さない。闘志の燃ゆる瞳で、彼方を見据え続け、粉塵に飲み込まれたのだった。
「ゲェっ!? ゲホッ、目に砂が……ッ!!」