元童貞現TS処女が色欲担当に選ばれただって〜〜〜〜!? 作:ちんとまんの境目の子
この作品についてる「主人公最強」タグ……これなに?
この主人公を一体どうやって最強に仕立て上げるんだ……!? 性技で勝る要素なんてひとつもないだろ……!
無理くり現状の主人公くんちゃんの性要素あげるにしても、…………自殺するほど末期の鬱だから常に賢者タイムみたいな抑鬱状態にあるとこ、ぐらいしか思いつかないぞ……!? サキュバス側が無限賢者タイム突入してたところで何になるんだよ……!!
この主人公のどこを最強と見做すつもりだったんだよ…………教えてくれよ、昔の私……!
セックスとは、軍事であり、パフォーマンスであり、スポーツである。
それが、サキュバス内での共通認識だ。
「まず、始めに軍事があった。次に、そのプロパガンダの一環としてパフォーマンスができて、最後にスポーツとして広まった。サキュバスの歴史を紐解くと確かにこうだ」
サキュバスの指導者は、そのように威厳を持って語る。妖艶な体つきも色気のある容姿も吹き飛ばすような その堂々さたるや、まさしく指導者に相応しい装いである。
「しかし、サキュバスの代表者として、私はこの施策に異議を申し立てねばならない。この、色欲の大罪の選出。これでは、セックスの、軍事としての側面ばかりが優先されてしまっていて、パフォーマンスもスポーツも蔑ろにされている。
如何に、もとはそれらが軍事から生まれ出たものであると言えども、普段の生活に近しいのは後者たちなのだ。このままでは市井の反感を買いかねないだろう」
その威圧は交渉担当者のほうへ。
鞄を抱え、提出した資料を上記の通りに却下された軍部のエリートサラリーマン魔族は、以下のように言い返した。
「されど、あなた方サキュバスは既に一度、我々の案を棄却しているであろう。熟練のサキュバスから選出するという方法を。
ダメ出しばかりされるようでは敵わない。どうだ、あなた方から立案されてみては?」
表面上は強気の態度。しかしながら、その内実に目を向けてみると、『軍上層部が下部組織に問答無用で命令するトップダウン方式』の体裁を繕いきれていない、つまり、十分に支配できていないものと言えるだろう。
上層部の命を、時に拒否できるほどの多大な権力。
それは、ひとえに この偉大なサキュバスの政治的手腕によってもたらされている。
「ならば、こういうのはどうだろうか。
公の場で、誰でも参加できる開かれたオーディションを催し、選出基準は軍事 パフォーマンス スポーツすべてを測るようにして、採点方式を公表し、さらには監視も容易にできるよう観客席も用意する、というのは。
これでこそ、公平というものだ」
明らかに、事前に用意されていたであろう内容量と発案速度。
明らかに、公平さ以外の目的があって為されている、その提案。
裏があることが目に見えていながらも、軍部の交渉役程度の立場では表立って指摘すること叶わない現状。
できることと言えば、当たり障りのない枝葉末節の追求ばかりである。
「時間がかかるのでは」
対して、そのサキュバスは妖艶に笑った。
「問題ない、問題ないよ。皆 真面目なのがサキュバスというものだ、準備などすぐに終わる」
交渉担当は訝しむ。嘘をつけ、と心で毒づく。
すぐに終わるのは、既に準備をある程度 進めているからであろうに。
「開催は二週間後に間に合うだろう。開催日程となんらかの予定と被ってしまった市民が悲しまないように、専用の部署の配置もしよう。相談室だ」
あたかも これから部署を作るかのように語るが、もう設立されているのだろう?
「心配はいらない。不満なんて大して出ない。むしろ、予定が被っていなかったことを残念に思うくらいの、大幅な補填をするから」
その費用は何のため? その思惑に、いったいどれほどの価値を見出しているのか。色欲の大罪の選出という建前のもと、これから何が行われるというのか。
「だいじょうぶ、大丈夫だ。どんな結末になろうと、君が責任を負わされることはない……」
サキュバスの代表者は こう囁く。
「私が自分勝手に要求を押し通して、君には為す術がなかったと、上司にでも説明すればいい……。強いのも悪いのも私のほうで、君は被害者だ……」
サキュバスの代表者は、そのように色気を醸して誘う。自身の立場も仕事に励む精神も忘れさせるような その艶やかさたるや、サキュバスを代表するに相応しい立ち振る舞いであった。
「君はただ、この話を持ち帰るだけでいいんだ……」
担当者は思い悩む。たとえ自分がここで何か反発したとして、どのような幸運も事態を好転させるに至らないのではないか?
数秒の沈黙のもと、果たして交渉は相成った。
「お祭りだ、史上最大の祭りが始まる!」
お調子もののサキュバスが、通りで叫んで走っている。なんとも嬉しそうな声、なんとも楽しそうな声で。
「だれだって参加できる! だれだって観戦できる! 無料で、資格もいらない、なのに、景品はなによりも誇らしい! 夢のある、お祭りが!」
なんだなんだと顔を出すと、腕いっぱいに抱えたチラシを一枚くれる。
魔王軍のお墨付きを示す特殊な魔術印と、企画の概要説明が簡潔に印刷された紙。夢と希望が大真面目に詰め込まれたかのような、世の他のどんな文学よりも面白い、たった1ページだけのノンフィクションノベル。
「設営はもう始まってる! トンカチもって、ノコギリもって、みんなで手伝いに行こう! 仕事なんか ほっぽり出して、習慣なんか捨て置いて、この楽しい祭りを少しでも長く!!」
瞬く間に、抱えたチラシは減っていく。渡し手は笑顔を伝えて、受け取り手はやがて みな同様の表情へ。
すべてを渡し終える頃には、お調子ものの後ろに行列がなっていた。各々の持ちうる設営道具を持って、祭りの開催予定地まで いざ行かんと。
「どうした!? 何事なんだ!」
新たにひとり家から出てくる。
「これを見なよ!」
「この上ないイベントが、来週に!」
「ここ見てくださいよ! 優勝すると、色欲の大罪になれるって!」
「腕に自信があればチャンスに手を伸ばせる! べつに、実力がなくても観戦はできるんだ!」
こうしてまたひとりぶん行列は伸びて、街に熱狂が溢れる。
幸福が、街の大通りを迸っていた。
「すみません、なにが起きているのですか」
奥まった場所。大通りから視認ができないわけでこそないが、その賑わいから随分 離れたところにある路地のなか。
誰かが誰かに質問をしていた。
「ああ、わたしは運良く受け取れたから、あなたにも見せてあげるよ。ほら、こんな内容」
『サキュバス最優秀者選抜の開催のお知らせ』と書かれた見出しを見て、彼女は「ああ」と呟いた。
「ごめんなさい、僕も持ってました、すみません。こんなに盛り上がるものだとは思わず……。すみません、ごめんなさい」
――盛り上がるものとは思わず? 一大イベントとして騒がれて当たり前の物事のようには感じられるが……。
そもそも、謝りすぎではないか? この程度で怒るはずもないというのに、怯えている……。
大丈夫だろうか。
そうやって心配になって、なにか声をかけようとする。しかし、気づいた頃には彼女は逃げるように走り去ろうとしていて、迂闊に引き留めるのも躊躇われた。
結果、ふたりはそのまま別れることとなる。
羽も尻尾もついていて、スタイルだって悪くない。なのになぜだか、そのサキュバスからは色気というものが感じられなかった。
街の喧騒に似合わない、いまにも死にそうな目をして歩くひとがいた。