カイザーの女帝は奇跡を否定する   作:緑川翼

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(Don't Fear)The Reaper/死神なんて怖くない

「まったく……。暑いからお茶を用意すると言っておいて、渡すのがペットボトルだなんてね」

 

 先に先生との用件を済ませるからと案内された、来賓室という名の空き教室で私は護衛相手に愚痴を言う。客人を待たせて優位性をアピールするなんて、ここの生徒も侮れない相手になったものね。

 

「そんな大層な理由じゃあない気もしますがね。お茶が気に入らんのなら、そこらの自販機で缶コーヒーでも買ってきましょうか?」

 

 空気を読んで先生の前では一言も喋らなかった護衛が、気安く言葉を返す。

 護衛の言う自販機とは『転送システム』を組み込んだ我が社のSCSM(自律型欲求充足機)の事であり、商品を補充する必要が無いために辺境かつ過疎化しているこの地域にもそれなりの数が設置されている。

 消費電力に対しての費用対効果は見込めないものの、アビドスでは毎年一定数発生する遭難者を見越したカイザーコーポレーションの社会的貢献として、アビドス砂漠にすら自販機を設置しているのだ。

 これが実際に馬鹿にできないだけの成果を上げていて、何年か前にはここの生徒会長も……。って、そんな話はどうでもいい。

 

「アビドスからの贈り物を無碍に扱うつもりはないわよ。ふふ、以前は後先考えない門前払いだったのに、涼しい部屋に案内してお茶を出すだなんて、彼女たちも随分と成長したじゃない」

「……アビドスのガキンチョどもにそんだけ愛着があって、なんで学校を追い詰めてるんです? アタシはてっきり、連中をそりゃあもう目の敵にしてるのかと思ってやしたが」

「……そうね。私は、人は誰しも幸福になる権利があると思ってるわ。だからこそ、アルバイトから賞金稼ぎまで、アビドスを立て直そうとここまで頑張ってきた彼女たちは報われるべきだと考えてる」

 

 ソファすら無いただの空き教室で、対面の学習椅子に座る護衛の質問に答える。チラリと横を見れば、そこには砂に埋もれた校庭が見えた。

 砂まみれの校舎だけが彼女たちの努力の結晶だなんて、到底認められない。

 だからこそ、彼女たちにはさっさとこの学校を見限って私の下に帰順してほしい。そう、本心から思っている。カイザーコーポレーションにつくのなら、アビドスを再興する名目を与えられる。

 そうすれば、権限も、金も、労働力すらも、彼女たちの思うがままなのだから。

 

「……まあ、お嬢がここの生徒に歪んだ感情を向けてるのは分かりましたがね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。矛盾してません?」

 

 確かにカイザーコーポレーションは詐欺紛いな方法で借金を背負わせてアビドスの土地を強奪したし、その土地を使ってアビドス生たちにプレッシャーを与え続けた。

 それは間違ってない。

 でも、その行為が悪意からくるものだと思われるのは心外ね。私が言いたいのはそういう事。

 彼女たちは報われるべきだという言葉に、一切の嘘はないわ。

 お茶を飲みながら、護衛にそう語る。この気温で汗ばんだ身体が水分を欲していたのか、半分ほどを飲み下す。

 

「その過程でガキンチョからの好感度が地に落ちた事については、どうお考えで?」

「私がどう思っているかと、企業がどう動くは別問題でしょう? カイザーの意に従わないのなら、アビドスは敵よ。敵を潰すのなら、徹底的にやらないと」

 

 鳥インフルエンザに罹患していれば、長年連れ添ったペットであろうと処分する。

 愛情をいくら注ごうと、経済動物を最後には解体して市場に卸す。

 それが、社会を生きる大人としての『責任』よ。

 最後の一口を飲み込んで、護衛にそう語る。

 ……気持ちよく語らされたけれど、冷たい飲み物を飲んでから冷静に考えてみれば、付き合いの長いコイツが私の信念を理解していない筈が無いわよね。

 

「……貴方。私を試したわね?」

「いやはや。あの甘っちょろい先生に絆されて、考えが変わったりとはしてないようで何よりでさァ。お嬢が中途半端だと、コッチまで迷惑被るんでね」

「ふん。その小賢しい事を言う首を落としてやりたいけれど、今回は忠義に基づいた行動って事にしといてあげる」

 

 真意を詰め寄りたい所ではあるけれど、その時間は無さそうね。飲み終えたペットボトルを空き教室のゴミ箱に放り投げて、椅子から立ち上がる。

 ヘラヘラ笑っていた護衛も私の後に続き、扉の前で私の眼前にバリケードを召喚した。

 

 ───次の瞬間、壁が吹き飛んだ。

 

『襲撃せよ! 奴らの元には()()()()()()()()()! 攻撃、攻撃だ! 学校を占領するのだ!!』

 

 声明を聞くに、報告に上がっていたカタカタヘルメット団どもの襲撃らしい。窓を破壊した攻撃は、バリケードに阻まれて私たちまでは届かなかった。しかし、ミサイルとはね。HGやSMGと違って、直撃すれば未改造の人間は普通に死ねるんだけど。

 

「つまり、この状況はキヴォトスにおける正当防衛が成立するわよね?」

「ええ。連邦裁判所だってこんな明白な事で起訴するなと言いまさァ」

 

 シャーレの権限でも無い限り、他自治区での戦闘行動は原則禁止されている。軽率な戦闘は、カイザー・アビドス間の緊迫した状況下では戦争の引き金になりかねないけれど、これほど露骨に喧嘩を売られたのなら問題はない。

 

「アビドスに任せて放置しておいても良いんだけれど、連中がどうにも見覚えのある『首輪』をつけてるのよねぇ……」

 

 校長から強請った情報とも一致している。つまりカタカタヘルメット団は、カイザー学園の生徒の集まり。腰に佩いた刀を抜きながら、護衛に言う。

 

「これ以上騒がれる前に潰しましょう。今なら、カイザー学園の不手際を被害額の装填と幾らかの賠償金で誤魔化せるわ」

 

 これから交渉だというのに、これ以上カイザーの印象を落とされたらたまらない。

 嫌なタイミングで現れた襲撃者たちに向けて、私は風穴の空いた壁から飛び降りた。

 

 

 

 

 少し時を溯り、先生が『アビドス廃校対策委員会』の部室に案内された後の事。

 依頼されていた支援物資を提供した先生は、自己紹介を兼ねてアビドスの生徒たちと雑談に興じていた。

 

 1年生は先生に依頼を出した張本人である奥空アヤネとネコ耳とツインテールの黒見セリカ。

 2年生にはオオカミ耳で暑い中マフラーを巻いた砂狼シロコと、何処がとは言わないが豊満な十六夜ノノミ。

 そしてピンク髪とオッドアイが特徴的な3年生が、小鳥遊ホシノ。

 

 以上の5名が『アビドス廃校対策委員会』のメンバーであり……、砂嵐や借金があってなお、カイザー学園ではなくアビドス高校を選択した生徒たちである。

 

「“そうか……。それが、君たちとカイザーコーポレーションの間で起こった事なんだね”」

 

 そんな彼女たちとの雑談の中で、先生は2校の間にある因縁を知る。

 詐欺紛いな方法で借金を背負わされている事、その借金の抵当にアビドスの土地を奪われた事、その土地を使って様々な策略を受けた事。

 そして何より……、借金を帳消しにするからと、学校の統廃合を求められている事。

 

「女帝は統廃合に応じれば私たちの内から生徒会長を選出すると言っていましたが、正直それすらも信用できません」

「アイツの甘言には何度も騙された。どうせ今度も裏がある」

「法的に効力のない文書や権利義務の範囲を曖昧にした契約書は、メガコーポの方々の十八番ですからね」

 

 先生として幸いであったのは、物質の提供やその後の会話によってアビドス生からの猜疑心が薄れた事か。

 生徒に尽くす“覚悟”があったとしても、その生徒たち全員から敵視されるのは、流石に辛いものがある。

 

「……ふんだッ!」

「うへへ。前の生徒会長がポンコツでさぁ、その時にかなりの土地を奪われちゃったんだよね~」

 

 視線が合えば明け透けに自分への不満を態度に表すセリカと、警戒を表情に出さずとも本心を頑なに隠しているのだろうホシノを見ながら、先生は考える。

 どうすれば、この問題を解決できるのだろうかと。

 

「ここにきて厄介なのは、借金の債権が『カイザーローン』から『カイザー総合学園』に譲渡されていて、借金が学校間のものになっている点です」

「“うん……。これじゃシャーレの先生として借金返済のお手伝いは出来ても、統廃合を求めるカイザーへの干渉は出来ないね”」

「まあ正直、それが一番『現実的』な解決策だもんねぇ……。絶対嫌だけど」

「悪質な嫌がらせはあっても、大々的に批判できるだけの大義名分を与えるような違法行為をカイザーはやりませんからね……」

「カイザー学園の不良が自治区を越えて暴れることはあっても、それはどこの学校にもある話。大企業を訴えられるほどの事じゃない」

「なによ! エンプレスはそんな事を考えて学校を作ったってワケ?!」

 

 セリカが憤るが、カイザーエンプレスは脱法をしても違法はしない。

 遵法だからこそ、アビドスは『借金を返済する』か『統廃合に応じる』の二択を迫られているのだ。

 

「ならやっぱり、問題は借金よ! それさえ無ければカイザーのヤツらも口出しできないんでしょ!?」

「そうは言っても、()()()()()借金なんてどうしたものか……」

「ん。一般的な利率でも、元の借金が大きいととんでもない数字になる。毎月利息の返済だけで精一杯」

「アビドスはよく他所の自治区から逃げてきた賞金首が隠れてましたけど、カイザーコーポレーションが取り締まりを始めてからは、高額な賞金首も滅多に捕獲できなくなっちゃいましたしね……」

「カイザーのニンジャ軍団が見回りをしてくれるから、その分アビドスの治安は良くなったんだけどね~」

 

 先生を交えても状況を打破するだけの金策は閃かず、アイデアは次第に『銀行強盗』だの『スクールアイドル』だのと現実性のない物へと流れていく。

 

 衝撃と共に校舎が揺れたのは、そんなタイミングだった。

 

『襲撃せよ! 奴らの元には戦えない大人がいる! 攻撃、攻撃だ! 学校を占領するのだ!!』

「わわ、武装集団が学校にし接近しています! これは……、カタカタヘルメット団です!」

 

 校舎前で叫んでいるのは、アヤネの手紙にもあった武装集団。カイザーへの借金とはまた別にアビドス高校を追い詰めている要因の一つ。

 不良や退学した学生で構成された団体であり、数日おきにアビドス高校を襲撃しては撃退されるサイクルを繰り返しているらしい。

 

「アイツら……! 性懲りもなく!!」

「どうせまた、カイザーからウチへの嫌がらせの依頼を受けたんでしょ!」

 

 カイザーコーポレーションも一枚岩ではない。交渉によって穏便に統廃合を求める革新派(エンプレス派)と、アビドス生を力尽くにでも追い出してしまおうとする保守派(プレジデント派)に分かれている。

 ヘルメット団によるこれまでの襲撃は保守派の策略の内だと、以前の対談でエンプレスが謝罪とともに明かしていた。

 もっとも、エンプレスは法に反さないだけで嘘を付くし騙そうともするので、エンプレスの言うことも全面的に信用もできないとは、企業のやり口に造詣が深いノノミの言葉。

 

「状況を確認……。エンプレスが既に戦闘を開始しているようです!」

「“そんな! なら、私たちも急がないと!”」

「ん。先生の前で、女帝にばかり良い格好はさせない」

 

 オペレーターのアヤネが報告する。キヴォトスの外から訪れた先生にとって、武器を持ち屈強な護衛を連れていたとしても、ヘイローを持たないカイザーエンプレスは生徒たちと同じく庇護の対象であった。

 

 

 ゆえに急ぐ先生。校庭へ飛び出した彼の目に映ったのは───

  

「まさか、こんな所で……ッ!!」

「“……え?”」

 

 不良の持つミニガンにより、ハチの巣が如く全身を撃ち抜かれたカイザーエンプレスの姿。

 そして───

 

「ああまったく、久々に死んだわ……ッ!!」

 

 即座に復活して下手人を斬り倒す、穴だらけになったはずのカイザーエンプレスであった。

 

 

 

 

「いや、違うのよ。少し油断していただけというか、ちょっと位置取りを間違えただけというか……」

 

 弾丸を弾き飛ばす。不良を気絶させる。そんなことの繰り返し。このスピードなら、アビドス生が駆け付ける前に終わらせられるかもしれない。

 そんな事を考えていたのが不味かったわ。デセプション(デコイと透明化)のクールタイムも終わってないのに、うっかりミニガンを持つ生徒との射線を切り損ねるなんて……。

 いつもの私ならこんなところでミスはしないはずなんだけど、先生がいるせいか今日は何だか調子でが悪いみたいで、ミスが目立ってて……。

 

「まあどう言い訳しようが、格好つけた挙げ句に調子に乗って事故死したわけで。無茶な突撃をかまされると、護衛としても護りようがないんですが」

「くっ、今のは私が悪いからって、護衛のくせに好き放題言ってくれるわね……」

 

 それにしても、久しぶりに死んだわ。苦痛を遮断するインプラントを神経に埋め込んでいても、身体中が穴だらけになる気持ちの悪い感覚は残る。

 

「アンタたち! 今日という今日はとっちめてやるんだから!」

「エンプレスだけでなくアビドス生まで……ッ!退却するぞ、センリャクテキ退却~!!」

「後発部隊と合流するぞー!」

 

 駆け付けたアビドス生たちが残兵を片付ける。彼女たちに気負いした様子はない。ヘルメット団の対処に苦戦しているとの前情報があったけれど、優秀な指揮官と潤沢な物資があれば手間取るほどの相手ではなかったらしい。

 こっそりと、アビドス高校の戦力を上方修正する。そんな打算を働かせていれば、顔面蒼白となった先生が私に問い掛ける。

 

「“君は……、その、大丈夫なのかい?”」

「大丈夫……? 何を言って───ああ、そうよね。外から来た先生には、不気味な光景よね」

 

 ヘイローを持たない大人であっても銃で撃たれて気絶で済むキヴォトスだからこそ、殺傷沙汰は御法度。そんな世の中で、いま間違いなく私は『死んだ』のだから。

 ならば、私の身に何が起きたのか。

 カイザーコーポレーションの『デジタル転送システム』は、デジタル化した物品を転送先に『再構成』する事によって物質化する。つまりは、転送による完璧な修復と再生(オーバーホール)が可能だということ。

 

「骨折、出血、欠損……。一定以上の外傷を条件に、負傷を回復させた上で最後に立ち寄ったガイドビーコンへと転送させる。それが例え、()()()()()()()()()()()()()

「“そんな、まさか……、君たちは死者の蘇生を実現していたと言うのか……ッ!?”」

「ええ、その通り。生徒のみが『特権(ヘイロー)』を持つだなんて不平等でしょう? だからこそこの『New-U』は、私が作り上げた大人のための『特権』なのよ」

 

 この技術の実現により、我々大人は自然死以外の死因をほぼ全て否定した。無謀な身体改造も不利な戦闘も、命の危険がないのならデメリットにはなり得ない。

 気楽に人体実験が出来るからこそ、カイザーコーポレーションのインプラント技術は飛躍的に向上して、金さえあれば誰もが超人的なパワーを得られるようさえになった。

 

「まぁとにかく、生徒たちが撃たれても気絶で済むように、我々大人は……、と言うか私は、()()()()()()()()()存在なのだと理解してちょうだい」

「“うん。がんばるよ……”」

「ええ、先生ならすぐに耐性がつくわよ。───いや、この騒動が終わったら先生もNew-Uに登録しましょうよ。脊髄へのナノマシン注射一本で済むわよ」

 

 そうか。獣人やオートマタですらやっている施術を、先生はまだやっていない。New-Uは体内のナノマシンによって制御されているから、先生は殺されても復活もできないのね。

 それなのに銃を持たず護衛もつけないで1人で出歩くだなんて、先生は危機管理能力が低いのか、それともよっぽど肝が据わっているのか。

 

「私が言付けしておけば、最寄りの病院ですぐに施術できるわ。都合の良い日程を教えてくれるかしら?」

「“いや、私は……”」

「───進撃するぞ! 奴らは既に疲弊している! 先遣部隊に続け!!」

「おっと。もう話している暇はなさそうね」

「“うん……。第二波が来たみたいだ。人数も多そうだし、此処は二手に分かれた方が良いと思う。片翼を任せていいかい?”」

「ええ、もちろんよ」

 

 挟み撃ちのつもりか、左右から襲い掛かるヘルメット団。アビドス生たちは既に、先生の指揮によって右から攻め来る敵に対処している。

 

「これ以上先生に格好悪い所を見せられないわね。私たちも行くわよ」

「へいへい。お嬢が死なない程度にやらせてもらいまさァ」

 

 アビドス生が駆け付けた以上はもう戦う必要もないんじゃ?と面倒くさがる護衛を背に、私は向かい来るヘルメット団へと刀を構えた。




New-U
・カイザーエンプレス率いるカイザーコーポレーションの研究開発部によって発明されたサービス。
・登録者が一定以上の損傷、もしくは死亡した際に、傷の治療と生命の蘇生した上で最後に立ち寄ったデジタル転送システムのガイドビーコンまで転送する。つまりはゲームのリスポーン機能である。
・その場での復活は『予備心臓』と称される使い捨てビーコンを体内へ埋め込む事で可能だが、使い捨てのビーコンは単価が高く、現状カイザーエンプレスのみが使用している。
・一切の『奇跡』を交えないシステムであり、再現性のある『現実』の元に成り立っていることから、損傷箇所の治療はその部位の再生成によって行われている。



・つまり実際には死亡したら蘇るのではなく、自分と同じ記憶と自我を持つクローンを生成しているだけである。『──カイザーコーポレーションはスワンプマン問題について深く考えない事を推奨しています!』
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