カイザーの女帝は奇跡を否定する   作:緑川翼

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また3話か4話更新します。


OUTLOW LYYYFE!/ アウトロー最高ーー!

「ですから、その条件は承諾しかねます」

 

 カイザー自治区にある高級レストランの個室にて。私は獣耳でギザ歯の生徒と食事をしていた。

 相手はヴァルキューレ警察学校の公安局長の尾歯カンナであり、私の目的は、カイザーコーポレーションによるヴァルキューレ警察学校の合併吸収。

 砂糖を、食後のコーヒーに注ぐ。

 

「何か勘違いしているようだけれど……。私はただ、ヴァルキューレの民営化を勧めているだけ。別に、カイザーの私兵になれとは言っていないわ」

 

 私的に動かせる兵力なら、PMCのニンジャどもだけで事足りているもの。

 そう伝えても、カンナの表情は優れない。コーヒーにもう一匙の砂糖を加えながら、更に言葉を重ねる。

 

「警察組織は、充分な予算があって初めて機能する。それは身に染みて理解しているでしょう? 私たち企業とべったり癒着している、カンナ公安局長?」

「それは……、ええ、そうですが……」

「何度も言うけれど、貴方を責めたい訳じゃないの。ええ、私は理解しているわ。貴方には()()()()()()()()()

 

 ヴァルキューレは警察でありながら弾薬が不足するほどに予算を絞られ、しかし出動には煩雑な手続きが求められる。だからこそ全てにおいて行動が遅れ、更に社会的な信用度が低下する。

 そんな悪循環。

 その裏には、私たち有力企業と繋がりたいという、ヴァルキューレの統括管理者である連邦生徒会の防衛室長の思惑が潜んでいるのだから、中間管理職であるカンナの苦悩は想像に難くない。

 

「確かに、今の体制に思うところがないとは言えません。しかしだからと言って、法執行機関が行政の手から離れろと?」

「一個人の飼い犬をやっているよりはマシでしょう? それに生徒会長が失踪した現在、連邦生徒会の社会的信頼もまた失墜しているわ。そんな組織が、貴方たちの正当性を担保できると本気で考えているの?」

「………。」

 

 何も言わず、ただ特製ウーロン茶を飲むカンナ。

 沈黙が続く中で、コーヒーに口を付ける。まだ、苦い。

 

「……アナタの言うとおりに民営化したとしても、結局はスポンサーという名の企業からは逃げられない。いや、それがカイザーの目的ですか」

「そうね。隠す必要を感じないから明かすけれど、最終的には公安局も警備局も廃止して、キヴィトスでの警察権をPMCで担いたいと考えているわ」

「なんて……、なんて恐ろしい事を! それでは全ての自治区での治安維持に、『大人』が介入する事になる!」

「PMCが治安維持活動を行っているウチの自治区における犯罪率は、この不安定な情勢においてなお低下している。私たちのやり方が間違っているとは言わせないわよ」

 

 更に2度、まだ湯気の立つコーヒーに砂糖を加える。

 そもそも、子どもがテロや強盗の鎮圧だの犯罪者の確保だのに駆り出されていることの方が間違いなのよ。

 物騒な事は酸いも甘いもかみ分けた『大人』がやれば良いと私は信じているし、PMCによる治安維持もその思想の元に動いている。

 

「そうね、カンナ。私は何も生活安全局まで潰そうって訳じゃないわ。貴方は元々、そこを志望していたんですって?今からでもなればいいじゃない。迷子の手を取り、お年寄りの荷物を背負ってあげる。そんな、犬のお巡りさんに」

 

 貴方が頷いてさえくれれば、ヴァルキューレの民営化へ向けた行動を開始できる。それだけの根回しは済んでいるわ。

 そう語れば、ようやくカンナの目から意固地な拒絶の色が消える。

 ええ、そうよね。組織の腐敗に触れ続けた貴方には抗いがたい言葉でしょう?

 反応を確信しつつ、ジャリジャリとしたコーヒーを飲む。

 これでもまだ、少し苦い。

 

「……ハハッ。恐ろしい人だ、カイザーエンプレス。アナタの下にいれば、きっと私は何も考えずに済むのでしょうね」

 

 しかしと、カンナは続ける。良くない流れ。

 その目には、私のコーヒーカップが映っている。

 

「やはり、その言葉は承諾しかねます。そのコーヒー、ブルーマウンテンの高級品でしょう? そんな飲み方をしていい豆じゃあありません」

「……コーヒー豆に一家言があるのね。でも、どんなに高級な豆であっても飲んで初めて価値が生まれる。そうでしょう?」

「ハハッ、その言葉で確信しましたよ。貴方の本質は()()()()()()()()。指導者でも、科学者でもない。実利のためであれば、貴方は何もかもを踏みにじれる」

 

 そんな人に、私がかつて信じた正義も可愛い後輩も託せません。

 そう声明するカンナの目には、意地堅な色が戻っている。私の言葉だけで今すぐ再考させる事は難しいでしょう。

 ようやく甘くなったコーヒーを一口啜って、思考を落ち着かせる。

 今日の所は、ここまでね。

 

「……そう、残念ね。正直断られると思っていなかったわ。気が変わったら連絡してちょうだい。貴方の意地と無能な警察に泣かされる人々の涙を、よくよく天秤にかけることね」

「そうですね。ようやく、アナタ本来の言葉を引き出せた気がしますよ。それでは」

 

 特製ウーロン茶を飲み干して、カンナは個室を出て行く。

 私は掛ける言葉もなく、ただその背を見送った。

 少ししてから、携帯を取り出す。

 

『はい?』

「もしもし? 私よ」

『ああ、女帝さんでしたか。そう言えば、今日がカンナ公安局長との対談でしたね。首尾はどうでしたか?』

 

 電話の相手は、連邦生徒会の防衛室長。

 カンナには黙っていたけれど、管轄であるヴァルキューレを引き抜こうと画策していたのだから、彼女に話が通っているのは当然の事。

 私は防衛室長と、1つの賭けをしていた。

 

「コーヒーの趣味が合わないってフラれたわ。良く躾けられた犬だこと」

『ふふ、それはいい知らせですね。飼い犬の牙は抜いておくに限りますから。それでは……?』

「分かってる。賭けは私の負け。借りを作ってあげるわ」

 

 ───D.Uに、『ガイドビーコン』の部品を製造している小さな町工場がある。

 その部品は町工場が特許を有しているために、カイザーコーポレーションは少なくないライセンス料を払わなくてはならない。

 だから、合併買収部はその会社を丸ごと吸収することにした。

 でも従業員にはこれまでの倍の給料を出すと言っているのに、社長はいまだに首を縦に振ってくれない。

 

「ええだからこそ、彼らは()()()災難に見舞われるんでしょうね。例えば、そう。事務所にトラックが突っ込んだり、自宅が火事になったり……」

『そしてヴァルキューレはロクに調査もせず、その災難は不幸な事故だったと断定するでしょう。当然その不幸には、カイザーが何の関与もしていないのは明らかです』

 

 次の連絡を楽しみにしていますよ。

 それだけ言って、防衛室長は電話を切る。これが、彼女と賭けた内容。まあつまり利権に絡ませろという事で、まったく、要らない借りを作らされたわ……。

 きっと事件を揉み消すよう命令されるのは公安局でしょうね。私の誘いを蹴った彼女は、被害者の涙ながらの訴えを握り潰しながら何を思うのかしら。

 そんなことを考えながら、コーヒーを一口飲む。いつの間にか冷めていたコーヒーには、中途半端な甘さだけが残っていた。

 これ以上飲む気にならず、私も席を立つ。

 

「……さて、カンナ公安局長。私たちは暗躍を続けるわよ。貴方は何時まで、企業の悪意に耐えられ続けるのかしら?」

 

 願わくば、一刻も早く彼女の正義とやらがへし折れる事を。

 その時はちゃんと、貴方にぴったりの『首輪』を着けてあげるわ。

 

 

 

 

 

 公安局長の勧誘に失敗しても、私の仕事は終わらない。

 傘下企業との交渉に始まり、お父様の派閥である保守派との睨み合いまで。

 最近だと他には、家財を失って泣き付いてきた小さな町工場の社長を、従業員ごと低賃金で買い叩いたりとか。

 

「ハァ……。さっさとお父様を蹴落として、気楽な開発室に戻りたいわ……」

「相変わらず、親子仲が良いとは思えない発言だ。これで毎年、誕生日と父の日のプレゼントを欠かした事がないってんだから」

「お父様だって、私はもうそんな歳じゃないのに桃の節句には部屋に豪勢な雛人形を飾ってお祝いしてくれるのよ? 私もお父様も、仕事とプライベートを分ける性格なのよ」

 

 アビドス高校への訪問やカンナとの会食から数日後の夜。

 ようやく時間が取れた私は、護衛をつれてカイザーの工業地帯の一画を歩く。ガイドビーコンからそれなりに離れた、人気の無い大通りの中心。

 指定された場所に、彼女たちはいた。

 不敵な笑みを浮かべる『便利屋68』社長の陸八魔アル。そしてその隣に控えるのは、同じく便利屋の鬼方カヨコ。

 

「待たせたみたいね。これでも、5分前行動を心掛けていたんだけれど」

「フフ……。気にする必要は無いわ。クライアントより先に到着するのは、アウトローとしてのマナーだもの」

 

 便利屋68はゲヘナ学園の生徒4人から構成された何でも屋であり、私も何度か雑用を任せている。普段なら子どもに仕事をやらせたりはしないのだけれど、彼女たちはちょっと事情が異なる。

 スマホに耳を傾けていたカヨコが、警戒した視線を私たちに向けたままアルに言う。

 

「社長、ムツキとハルカから連絡が来たよ。ちゃんと約束通り、2人だけで来たみたい。一応、この後も周囲のビーコンを見張っとくってさ」

「あら、心外ね。後ろに軍隊を控えさせているとでも思った?」

「フフ……。ごめんなさいね。クライアントの警戒もまた、アウトローの嗜みなのよ」

 

 便利屋68は現在、本拠地であったゲヘナ学園の風紀委員会から指名手配されている。

 カイザー学園を通じてゲヘナ学園とも関係のある私を、彼女たちが警戒するのは当然の事。だからこそ、ガイドビーコンからも離れた見晴らしのいいこの場所での密会を望んだのでしょう。

 直情的なアルらしからぬリスクヘッジは、参謀役の進言かしら。

 

「ふふ。貴方も大変ね、カヨコ。ゲヘナからは距離を置けても、この手の策略からは離れられないみたいね?」

「……知らないね。何か勘違いしてるんじゃないの? 依頼の報告は社長から聞いて」

「ええ。貴方がそう言うなら、そうしましょうか」

 

 私が今回便利屋に依頼していたのは、アビドス高校の襲撃したヘルメット団の後始末。依頼を投げ出して敵前逃亡を行った団員の捕縛と尋問を任せていた。

 広く荒廃したアビドス自治区にはアジトになる無人の建物が無数にある。PMCが定期的に『掃除』しているけれど、数多くの指名手配犯が潜んでいるアビドスの廃墟を探索するのは、それだけで一苦労だわ。

 

「それに逃亡した不良はそれなりの数がいたはずだけれど……、その様子なら、何の問題も無かったようね」

「ええ! 全員捕まえて、カイザーの護送車に引き渡したわ! それで、これがご所望のリストよ」

「ありがとう。見させてもらうわ」

 

 渡されたのは、捕獲後にヘルメットを剥がれたヘルメット団員たちの顔写真の一覧。

 キヴィトスの不良間ではヘルメットを剥ぐのはタブー視されているらしいけれど、流石は「金さえ払えば何でもする」と謳う便利屋68。

 かなり渋ったけれど、多額の報酬と引き換えにこの依頼を引き受けてくれたわ。顔写真と載せられた情報を確認する。

 

「……ええ、やっぱり。護衛(ガード)、この顔とこの顔、見覚えがあるわよね? 」

「ええ、体格とエモノから見ても間違いないっすね。コイツらが、()()()()()()()()()

「え、殺したですって!?」

 

 リストを受け取った護衛の口から飛び出た物騒な言葉に、格好つけていたアルの顔が引きつる。それを無視してあげる程度の優しさは、私にもあった。

 まあとにかく、いま問題なのはアビドス高校で捕まってカイザー学園へと護送されたはずのヘルメット団の中から、よりにもよって私を手にかけた2人が脱走しているという事実。

 

「『首輪』もつけていないという事は、アビドス高校の襲撃には校長が介入しているわね。あのタヌキにまんまとしてやられたわ」

 

 『首輪』からの解放を餌にカイザー学園の不良を動かして、私とアビドスとの交渉決裂を狙っていたのでしょう。それに合わせて、襲撃に怯えた先生がアビドス高校の援助から手を引けば万々歳、って所かしら?

 このリストを持って校長を問い詰めたとしても、警備の不備を突いて逃げたのが()()その2人であり、その逃げた先に()()()()首輪を外せるだけのキャッシュバックが落ちていたのだ、とでも白を切られて終わりでしょうね。

 とは言っても、私の派閥を動かして集めさせている証拠と合わせれば、このリストも校長を弾劾する手札の1つにはになる。

 

「依頼は文句なしの達成よ。報酬は色をつけて振り込んでおくわ。それで話は変わるけれど……、この前の依頼は考えてくれた?」

「依頼って……、どれのことかしら?」

「もしかして引き抜きのこと? アレ、本気で言ってたの?」

「当然でしょう? ()()()()()()()、貴方たちのためにまだ空けているわよ」

 

 カイザーの自治領における事件や騒動の鎮圧は、PMCの兵士やカイザー製のロボットが行っている。

 私はこれでいいと思っているのだけれど、学園都市なのに生徒が治安維持に関われないのは不健全だとの声が大きくなってきた。

 その不満を解消するためにも、カイザー学園でも『風紀委員会』を設立して幾らかの権限を預けることとなったのよね。

 

「噂には聞いてるよ。アンタがヴァルキューレに編入されるはずだったSRTの生徒を無理やり奪い取ったんだって?」

「その認識で概ね違いないわ。貴方たちには、その元SRTの生徒たちを率いてもらいたいのよ」

「えっ?! SRTって、連邦生徒会長肝いりの法執行機関だったあの!? キヴォトス最強の兵力じゃない!」

 

 責任者である連邦生徒会長の失踪に伴って解体された、SRT特殊学園。

 そこの生徒たちはヴァルキューレ警察学校に編入される予定だったけれど、私が間に入って生徒のいくらかをスカウトした。

 それが、カイザー学園の風紀委員会よ。

 

「……風紀委員は名ばかりで、実際には職権も何も無い見回りボランティアだって噂だけど? 私たちに、そんな所の委員長をやれって?」

「職務に必要な権限は与えているわ。彼女たちに足りないのは熱意よ。元SRTのエリートがパトロールなんてやりたくないって気持ちは分かるけどね」

 

 SRT再建に協力しないのは契約違反だ何だと喚いていたけれど、書面にも残していない空手形に騙されたのは自分たちでしょうに。

 で、やる気の無い彼女たちを率いるリーダーとして白羽の矢が立ったのが、カリスマ性と指揮経験のある陸八魔アルとその仲間たちだということよ。

 

「──やられた。自前の戦力でどうにでも出来そうな仕事が不自然に回されてたのは、そういう理由か……」

「ええっ?! それじゃあ、これまでアナタから受けてきた依頼は……」

「そう。委員長の任命に必要な実績作りよ。完璧に遂行してくれたおかげで、貴方たちの評価は社内でも悪くないのよ?」

 

 お世辞を言ってみれば、アルは顔をほころばせるけれど、隣のカヨコの表情は余計に険しくなった。やっぱり、強敵ね。

 

「もう少し実利の話をしましょうか。ゲヘナの風紀委員会に指名手配されて以降、口座を凍結されているんですって? 資金繰りも大変でしょう」

「え、ええそうね。最近はいつもカツカツだわ。でもそんな話よりも、ハードボイルドじゃない仕事は引き受けな──」

「やってくれるなら、もちろんただ働きはさせない。部費の名目でこれまで以上の報酬を支払うし、住処だっていま使っているオフィスの数倍良い場所を用意すると約束するわ」

「ッ!! 多額の報酬……、格好いいオフィス……!」

「ちょっと社長! そんな重大な決断を何時ものノリで決めるつもり!? ちゃんと皆で考えてから──」

「そ、そうよね。何も、今すぐ応じる事も無いわよね…。危なかったわ……」

 

 惜しい。アル1人だけだったら、どうとでも言いくるめ自信があったのだけど。まあだから、カヨコがわざわざ付いてきたんでしょうね。

 私がアルのカリスマ性を認めているのは本当だし、どの学園にも所属していない戦力として便利屋68に注目しているのもまた事実。

 なるべく、嫌われる行為は避けないと。2人とも警戒しているし、これ以上の言葉は悪印象を与えるだけね。

 

「もちろん無理にとは言わないわ。それでも、転校は何時でも歓迎している。その気になったらここに連絡してちょうだい」

 

 そう言って、プライベート用の連絡先をアルに渡す。

 便利屋の所属がカイザー学園に移れば、ゲヘナ学園の風紀委員会による口座凍結は解除される。私も勧誘の機会が増えるし、移籍はお互いにwin-winのはず。

 

「大人が子どもを導いて、子どももまた大人の手助けをする。そうあるべきでしょう?」

「……白々しい」

「ま、まあ転校も候補としては考えておくわ。その、社員たちと一緒にね。それじゃ、これで失礼するわ」

 

 そう言って、アルとカヨコは立ち去っていった。

 便利屋が見えなくなってから、私は護衛に指示を出す。

 

「ゲヘナの風紀委員からカイザー自治区の通過要請が出てたでしょう。あれ、認可するよう行政部に伝達しておいて」

「いいんですかい。風紀委員の目的は──」

「『便利屋68』の捕縛でしょう? 他にも理由はありそうだけれど……、まあちょうどいいわ」

 

 カイザーコーポレーションに服属しないのなら、彼女たちの戦闘力は私たちにとって脅威になり得る。

 ならその他大多数の不良や犯罪者と同じく、叩き潰さないと。

 風紀委員会に捕まるならば、後顧の憂いを断ててそれでよし。庇護を求めてウチに転校するなら、それはそれでいい。

 その時は改めて、交渉を行いましょう。

 

「それにしても残念ね……。彼女が勢いに任せて判を押してくれれば、立地だけは良い欠陥物件と一緒に()()()()()()()()、『首輪』を嵌められたのに」

 

 多額の借金を背負わせて、相手をいいように操るカイザーコーポレーションの十八番。

 彼女たち便利屋68には借金返済を口実に、元SRTの生徒たちと一緒に治安維持の為に働いて貰おうと思っていたのに。

 以前アビドス高校にもやった使い古された手口に便利屋68が引っ掛かるとは思っていなかったけれど、やっぱり逃した魚は大きく感じるわ。

 

「……それが実力を信頼してるガキンチョへの態度だって言うんです? ホント、心情と行動が一致しないお人だ」

「言ったでしょう? 私、仕事とプライベートは分ける性格なのよね」

「気に入ってる相手でも企業の益にならないなら冷酷にって? 拗らせすぎでしょうに」

 

 やっぱアタシの審美眼は確かだな……。なんて呆れる護衛もやはり、目線は私と同じ方向を向いている。

 なんの変哲もない、大通りに面したビル。

 

「出てきなさい。そこで覗き見しているのは、何処の木っ端スパイかしら? 」

「ククク、やはり気付いていましたか。ご無沙汰しています、リヴァイアサン

 

 建物からぬるりと姿を現したのは、相変わらずダサいあだ名で私を呼ぶ黒いスーツの男。

 そしてその男の顔は、黒く無機質な異形であった。




・ガイドビーコン
カイザーコーポレーションの『デジタル転送システム』によって電波へと変換された物質を再構成する装置。『New-U』によるリスポーン地点でもある。
キヴォトス中に自販機と同じシステムで設置されており、大人は手持ちのアプリやデバイスを用いてテレポートできる。
なお一部の施設や私有地に設置されたビーコンへの転送にはパスワードが求められるなど、セキュリティがかけられている場合もある。
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