カイザーの女帝は奇跡を否定する   作:緑川翼

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今回の更新はここまで。また何話か書き上がったら更新します。


Likes:Pelor,Heist/趣味はペロロと強盗

「と言うワケでぇ……」

「やってきました、カイザー自治区~!!」

「ちょっ、ちょっと先輩! そんな大きな声を出したら見つかっちゃうでしょ!」

 

 ホシノとノノミの悪ノリにパチパチパチと拍手を送るのがシロコであり、戦々恐々といった様子で周囲を見ているのがセリカである。

 廃校対策委員会はいま、アビドス自治区を飲み込む形で成立したカイザー自治区へと、カイザーエンプレスの依頼で訪れていた。

 

『見つかるもなにも、そこは大通りの真ん中だよセリカちゃん』

「“それに私たちが罰せられる理由は今のところ無いし、仮に咎められたとしても私がいるから大丈夫だよ。コレでも権限だけはあるんだ”」

「そ、そんなの分かってるわよ! 一応、警戒してただけだし!」

 

 セリカからの第一印象が最悪だった先生ではあるが、持ち前のコミュニケーション能力を活かして今では他の生徒同様に受け入れられている。

 今ではセリカのバイト先である『柴関ラーメン』へアビドスの生徒と一緒に冷やかしに行っても、罵声を浴びせらずに渋々給仕してもらえる程度には、先生の好感度は高い。

 

『それで……、今回の目的地はカイザー学園の校長室でしたよね? これで本当にヘルメット団の襲撃が止めばいいんですけど……』

「ん。しかも失敗すれば、債権者の校長に利息を跳ね上げられるかもしれない。ハイリスク・ハイリターン」

 

 ユメの眠る病室にてホシノが受けた依頼。カイザー学園の校長室に潜入して、校長とヘルメット団の関係を証明する情報を盗み出す。その為に、アビドス廃校対策委員会と先生は遠征してカイザー自治区までやって来た。

 委員会の中で、オペレーターであるアヤネだけはこの場にいない。先生は後でお土産を買っていく約束をしていた。キョロキョロと、ノノミは周囲の光景を見渡す。

 

「それにしても……」

 

 

『甘味料が倍!カフェインも倍! つまり……? 美味しさも倍! ニューフレーバー、カイザー・コーラ・クアンタム新発売!』

 

『自治区の皆さまこんにちは。カイザー街頭ニュースのお時間です。まずは気になるアビドスの天気予報から……』

 

『みんなもカイザー・ランドにぜひおいで♪ 休暇でリフレッシュ、最低限の安全基準も満たしてる!』

 

 

「久しぶりに来ましたけど、相変わらず賑やかな街ですね☆」

 

 防塵加工の施された高層ビルが所狭しと建ち並び、その間を毎分ごとに路面清掃車が走っていく。

 大企業であるカイザーコーポレーションならではの資金力に飽かした砂塵対策あり、そんな街並みで殊更に目を引くのは各々のビルに設置された()()()()()()であった。

 広告、ニュース、地理情報。

 乱立する街頭ビジョンが雑多な情報を絶え間なく垂れ流し続けてる光景は先生にとって衝撃的だったものの、生徒たちに戸惑う様子はない。

 先生は前回アビドス学園前駅から校門前まではタクシーを利用したし、入ってからは事務ロボットに案内されていたので、あまり風景を見ていなかった。

 

「“みんなこの街に慣れているんだね。私は2度目だけれど、全然慣れないや”」

「そりゃ……、放課後に遊びに行ける範囲だとここが一番充実してるし……。カラオケとか、ゲームセンターとか……」

『学割がスゴくお得なんですよね……。この盛況を見てると、私たち以外にも他校の生徒が通ってるみたいですけど』

「駅前のショッピングモールにはちょーデッカい水族館もあるんだよ~。うへへ、お魚……、お刺身……」

 

 借金に抗うアビドス生でも青春の誘惑には抗いがたいらしく、オフィス街に見えて学生向けの施設が多数あるこの街には良く訪れるとの事。

 カイザー自治区に存在する娯楽施設は全てカイザー系列の企業が運営している事からも、カイザーコーポレーションが手広く事業を展開している事が覗える。

 

「それでも校舎に入った事はないから、女帝の地図以外に情報はない。分かってるのは、校舎で遭難者が出たくらいには広いってウワサぐらい」

『他に風紀委員の巡回ルートやターゲットのタイムスケジュールが分かっていても、不確定要素も多いですからね……』

「何にしても、とりあえず学校まで行ってみようよ。このネームタグが有れば、校門前の検問は抜けられるって話だしさ」

 

 ホシノがヒラヒラと手で弄ぶのは、カイザーエンプレスから多種の情報と一緒に渡された機械的な文様の入ったネームタグ。

 それはアビドス生と先生の全員が首から掛けていた。

 

「個人情報を誤魔化した来賓者用のネームタグらしいですけど、効果はあるんですかね~?」

「まあ、女帝は下らない嘘はつかない。校門まで行けば分かる」

 

 そもそもそんな回りくどい根回しが無くとも、先生が持つ権限があればシャーレの部員となった対策委員会を連れて堂々と敷地内へと入ることができる。

 しかし一度先生が権利を行使すれば、校長にまで情報が行ってしまうだろう。

 今回の目的のためにも、存在すら悟られない隠密行動が好ましい。

 

(──とりあえず、先生と私たちがいるのにこの警戒の薄さなら、カイザーの警備局まで情報は行ってない。ちゃんとエンプレスも仕事をした、って事かな~?)

 

 ビジネス上の仮想敵としてか、後輩と一緒にカイザー自治区へ訪れる度に感じていた監視の目が無い事に、ホシノは気付いていた。何をやったにしろ、女帝はサポートの約束を守ったらしい。

 これは報酬も期待出来るな、なんてとりとめの無い事を考えながら、ホシノはカイザー学園の校舎へと急かす。

 

『そうですね。女帝から渡されたスケジュール表によると、校長は風紀委員会との会議でしばらく部屋を空けているそうです』

「なら、今は好機。サクッと終わらせよう。ちゃんと先生分の覆面も用意してきた」

「“あはは。それを使う機会がない事を願うよ”」

「さ、準備はいい? 噂のカイザー学園がどんな所なのか、見てやろうじゃない!」

 

 

 

 

「とか言ってたのに……」

 

 

『ナニニシマスカ? 2つで十分、今日の夕飯はタカハシのパワーヌードルに決まり!』

 

『カイザーコーポレーションからの伝達です。弊社の通信機器『エコー2』に自然発火の不具合があると判明したため、以降はグレネードとして販売──』

 

『部活対抗球技大会への参加を希望する生徒のみなさん! 志願票の準備は出来ましたか? もう受付は開始してますよ!』 

 

 

「何にも変わってないじゃない!」

 

 天すらも覆い隠す高層ビル群に、その合間を走り回る洗浄車。そして全てのビルに設置された街頭ビジョンは、校門の内と外で共通した光景であった。

 しかし特筆するべきは、その広さ。

 以前先生が来るまで通り抜けたカイザーの工業地帯に匹敵するだけの土地が、『カイザー学園』の学舎として宛がわれている。

 校門前の検問を抜けてすぐの大通りにて、先生は辺りを呆然と見渡す。

 

「“この建物の全部が校舎や学生寮なのか……。凄い広さだね”」

「流石は在席生徒数だけならゲヘナやトリニティに並ぶマンモス校ですね。これで銃声や爆発音が聞こえてこないのは、ちょっと異常ですけど……」

「以前TVで宣伝してたけど、図書館とか博物館だけじゃなくて、ここには生徒専用のアミューズメント施設なんかもあるらしいよ? しかも、外以上に学割が効くんだってさ」

「そう言えば校内専門のバイト広告もネットで沢山見かけるのよね。経済が学園内で回ってるなら、入学から卒業まで1回もここから出ない生徒もいるのかも」

『露骨な生徒の囲い込みですけど、この光景を見てると間違いだとは言えませんね……』

 

 そう呟くアヤネの目に映るのは、何処へ行こう何を買おう、いや今日はバイトだと『青春』を謳歌するカイザー生たちの姿。

 その表情には当然、借金への憂いや明日への不安など存在しない。

 なるほどこれが依頼を出してまでエンプレスが見せたかった光景かと、ホシノは1人納得する。

 廃校対策委員会に校長の不正を暴かせるのと同時に、『大人』の庇護の元で何の憂いもなく日常を送る同世代の生徒たちを見せつける事で、あわよくばカイザーに反抗する気力を奪う。

 遠回しで、さりとて効果的にストレスを与えるやり口。病室でホシノが警戒していた、合併買収部門部長としてのカイザーエンプレスが得意とする手法であった。

 

「……フンだ! 私たちは私たちのやり方で、アビドスを復興させるわよ!カイザーになんか負けないわ!」

「ん。モグモグ。それぐらいの……モグモグ、威勢は大事。モグモグ」

「良いコト言うね~……って、シロコちゃんは何買い食いしてるのさ。無駄遣いはよくないって言ったでしょ~?」

「買ってない。モグモグ、ゴクン。貰った」

『貰ったって……。もしかして万引きしたんですか?! カイザーが相手でも犯罪は駄目ですよシロコ先輩!』

「ち、違う。本当に貰ったの。そこのコンビニで」

 

 いつの間にかいなくなり、いつの間にか戻ってきてコッペパンを齧っていたシロコは慌てて弁明する。

 先生も合わせて「ついにやったか」とでも言いたげな顔をしていた事にショックを受けるシロコは、銀行強盗の計画が趣味だと言って憚らない生粋のアウトロー。

 人はこの濡れ衣を、自業自得と言った。

 

「ええ……? ホントにお茶とパンがタダで置いてあるじゃない。これ、勝手に持っていっていいの……?」

「個数制限はあるみたいですけど……。わっ、飲食物の他にも、生活用品が置いてありますね~。これ普通に買うと、結構高いんですよ!」

 

 無実を主張するシロコに連れられて校門すぐ横のコンビニに入ってみれば、そこには確かに無償の商品が陳列されている。

 内容物を確認しても、何か問題のある不良品や消費期限の切れた廃棄品でない。

 学外のコンビニでもカイザーのプライベートブランドとして安価で販売されているのを、先生が見た事がある商品ばかりであった。

 

「“懐に余裕の無い学生向けのサービスなのかな? 正直、シャーレのコンビニにも導入して欲しいかも”」

「それにしても、切り詰めればここにある物だけで生活出来るわよ。大企業にしたって、太っ腹過ぎない……?」

「他のお店でもやってるのかな? ってそんな事より、早く校長室まで行こうって。校長が帰ってきちゃうよ~」

「ま、待って。折角なら貰えるだけ……」

 

 購入に学生証か職員・来賓用ネームタグの提示が求められるシステム上、巡り巡って校長が自分たちの存在に気付くかもしれない。

 そんな心配を胸に、ホシノはこれから潜入ミッションだと言うのに大量の食パンを持って帰ろうとする後輩たちを先生と共に説得するのだった。

 

 

 

 

「“うーん、これは……”」

『たった今横切った『ガイドポータル』の管理番号から推測すると、もうすぐランドマークの管理センターが見えてくる……、ハズなんですが……』

「どうせ建物の見た目は一緒なんでしょ? ゼッタイ分かんないわよー!」

 

 コンビニから出てから、アビドス一行は歩き続けた。カイザー学園内の移動はバスかタクシー、もしくはシェアサイクルが一般的だが、それらの使用にもやはりネームタグの提示が必要な以上、コンビニと同じ理由で利用できない。

 地図があれば徒歩でもたどり着くだろうと高をくくっていたものの、碁盤の目のごとく完全に規格化されたこの学園は、現在位置を非常に見失いやすい。

 端的に言えば、迷子になっていた。

 

 

『アビドスと言えばこれ! カイザー・コーラ! 愛が弾ける♪』

 

『サポートセンターからのご案内です。学生支援機構奨学金の申請受付期間が延長されました。公式サイトで詳細を確認の上──…』

 

『カイザー生のみんな!今日はお手軽で強力なグレネードの作り方を紹介するよ! 材料はこの起爆しやすい『エコー2』と……』

 

 頭上で延々と色とりどりなコマーシャルを流している街頭ビジョンたちもまた、混乱の一因だった。

 無意味に広大で判で押したかのように同じ風景が繰り返されるカイザー学園で迷子になるのはなにも訪問者だけではないらしく、ここの学生が「バイトに遅刻するーッ!」と叫びながらバイクを爆走させて、スピード違反で事務ロボットに取り押さえられている光景を度々目にしている。

 この様子だと、学園内で遭難者が出たというウワサも嘘ではないのかもしれない。

 カイザーのコンクリートジャングルで干からびている姿を、一行は幻視した。

 特にホシノにとっては笑えない冗談である。

 

「流石に疲れてきましたね~。そろそろ何処かで休憩を──…」

「う、うわああ! まずっ、まずいですー! ついてこないでくださいー!!」

「待てー!!」

「このブロックから出すな! 『テレスクリーン』に見つかるそ!!」

『銃声?! コッチに向かっています!』

 

 更に歩いてしばらく。

 比較的学生が少ない一画で、悲鳴と怒号が響き渡る。

 音源を探して視線を回せば、身奇麗な白い制服の少女が『首輪』を着けた数人のスケバンに追われていた。

 隠れて行動しなければならないアビドス生だが、ここで見捨てるのも目覚めが悪い。

 カイザーの生徒らしい不良と逃げる少女の間に割って入る。

 

「なんだお前らは! 他校の連中が邪魔すんな、どけ! アタシたちはそこのトリニティ生に用があるんだ!」

「あ、うぅ……。わ、私は特に用がないのですけれど……」

「トリニティ……? キヴォトス1のマンモス校の生徒が、なんでここに……?」

「そしてトリニティはキヴォトスで一番金を持っているお嬢様学校でもある! だから拉致って、身代金をたんまり頂こうって訳さぁ!」

 

 なかなかの財テクだろぉ?と笑うカイザー生の制服は不良らしく改造されているが清潔であり、マスクの下から覗える顔色が悪くない事からも、衣食住に困っている訳ではなさそうだ。

 そんな生徒が何故、他校の生徒を誘拐してまで大金を求めているのかと、先生は問う。先生は皆の先生であり、不良であっても真に困っているなら助けたいと思っているがために。

 

「何で金が欲しいかだと……? ()()()()()()()()()! お菓子が食いたい、ジュースが飲みたい! もうコッペパンと水だけの生活には飽き飽きなんだッ!」

「チョコ! ポテチ! コーラ! 山菜定食はもうイヤだ!! 何処の学生だか知らないが、お前らも拉致って身代金をせびってやる!」

 

 先生の質問に突如発狂する不良たちは、構えた銃の引き金に触れるのより早く、シロコとノノミによって制圧される。

 前に立った先生に気を取られて2人が背後に回った事に気付けなかったのが、不良たちの敗因である。

 

「“えっと、何だったんだろう……?”」

「借金がどうとか言ってた。カイザーが何かやってるのかも」

「もしかしてカイザーの生徒さんがよく着けてる『首輪』にも、事情があるんですかね? ただのファッションだと思っていましたけど……」

「あ、あの……」

 

 様子のおかしかった不良について考えていれば、トリニティの少女が先生たちを見つめている。幸い、その姿に怪我はなさそうであった。

 

「あ、ありがとうございました。皆さんが居なかったら、学園に迷惑を掛けちゃうところでした……」

「良かったよ~。それでつい助けちゃったけど、トリニティのお嬢様がどうしてこんな所に?」

「あはは……。それはですね、実は探し物がありまして──…。はっ! ごめんなさい、実は私、PMCが来る前に退散しないといけなくて……」

「ん。それは私たちも一緒。追っ手を撒いてから、詳しい話を聞いてもいい?」

 

 トリニティの少女は少し驚いたものの、シロコの提案に承諾する。

 カイザー学園の地理に詳しいという彼女に連れられて、一行は通報を受けたPMCが表れる前に現在のエリアから脱出した。




・カイザー総合学園
カイザーエンプレスによって元アビドス自治区に設立された中高一貫校であり、『支配』と『平等』を校風とする。
自治区・校舎内の施設はすべてカイザー系列の所有物であり、ビル全てに1つ以上の街頭ビジョンの設置が義務付けられている。
在学生数がトリニティやゲヘナに並ぶマンモス校であるものの、そのほとんどは他校を様々な理由で中退や退学した生徒である。しかし生徒によるテロや事件の発生率は他校に比べても低く、その秘密は生徒が酷く恐れている『首輪』にあるらしいが……。
また奨学金制度や格安の学生寮の他にも無料の生活用品の提供といった学生サポートが充実しているために、生活面で極度の貧窮に陥っている生徒はいない模様。
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