米花町でちんちん出したら逮捕された件について。 作:ひつまぶし太郎
カクテル言葉は、長い別れ。
あるいは、ただ幸せを愛していただけの少年の話。
※注意事項!!!!
過去編と現代編は別物です。
シリアスなコナン二次を楽しみたい方は過去編のみ読んでください。
そこで完結できます。
逆にギャグだけみたい人は現代編のみお楽しみください。
過去編の内容は第1章の1話目の最後に軽くまとめてあります。
作者的には過去編読んでから現代編を読んで、風邪をひくくらいの温度差を楽しんでもらえたらなとは思います。
ギムレットは一杯目。
幸せが壊れるのは、いつも雲一つない晴れの日だ。
だから僕は、快晴が嫌いだ。
大事にしていたおもちゃが壊れたのも、楽しみにしていたお弁当がリスに食い荒らされたのも、街に来たサーカスを結局見に行けなかったのも、全部快晴の日だったから。
その日も、やけに天気の良い日だった。
抜けるような青空で、風は穏やか。
センチメンタリズムに襲われた僕がその青は、まるで海の底を覗き込むような怖い深さがある、なんて言えば妹に笑われてしまったけど。
妹が続けざまにチュウニビョウってやつだ!なんて言っていたが、僕はさっぱりわからない。
妹ほど日本文化に詳しいわけでもないのだ。
でもそれが罵倒の意味だということは妹の表情から伝わってきた。
小憎たらしい笑顔にデコピンを一つ。
「いたっ!お母さん!兄貴がいじめる!」
「あ、こら!言いつけるなよ!」
「ふふっ、二人とも仲良くね?」
妹と母から目線をそらして(決して拗ねたわけではない)、空港を行き交う人達を見ていれば、スーツのジャケットを脱いでいて腕まくりして歩く人達が、たくさんいる。
それもそうだ。
夏の兆しを感じさせる温かさは、道行く人たちの首筋に薄っすらと汗を浮かばせるほどの熱量になっていた。
屋外にいる時は半袖で良いかもしれないが、逆に屋内だと薄手の羽織ものがいるかもね、みたいな塩梅。
でも、朝はやけに冷え込んだので長袖ででてきてしまった人が多数。
可哀想に。
僕は天気予報を食い入るように見ていた母のお陰で、現在快適な格好だ。
いえーい、おじさんたち見てるー?なんて妹が言ったせいで視線が集まる。
恥ずかしくなった僕は思わず妹の袖を掴んで母の影に隠れた。
頭が可哀想な妹ですみません。
それに、今朝空港に向かって出発する時は、妹と揃って寒さに震えていたので僕らも可哀想かもしれません。
「お母さん、ずっと飛行機が飛ぶか気にしてたもんね」
「なんか、占いが良くなかったらしいよ」
「えぇ…こっども趣味」
「あ」
「───シホ?」
「ひぇ、ごめんなさいお母さん!お兄ちゃんが言えって!」
「僕を巻き込まないでよ!」
5歳で既に引きこもりの片鱗を見せる妹は、寒さ以外にも日差しが眩しいだの灰になるだの吸血じみたこと言っていたが、それでも。
僕ら兄妹は、二人揃って笑顔だった。
普段日本に行っていて会えない父の大きな腕に抱かれ。
久しぶりの父の体温に安心して身を委ねて、久しぶりの匂いを思いっきり肺に取り込む。
何故かいつもよりも強い消毒液の香りにむせた僕と妹が口を揃えて臭いと言えば、母が笑い、父は頬を掻く。
そんな幸せは、一瞬でなくなった。
「─────!」
「───!?」
「………っ」
閃光。
続いて衝撃。
体が浮遊感に襲われた直後、まるで洗濯機にぶち込まれたみたいに世界がシェイクされる。
そんな中でも咄嗟に掴んだ妹の体を庇うように抱きしめれたのは、5年ほどかけて大きくなってきた兄心のお陰だろうか。
一瞬前まで、暑さを恨みながら仕事に行こうとしていたサラリーマンがいたはずだ。
僕ら家族と同じように再会を喜んでいた老夫婦も、これから向かう先への期待に胸を膨らませていた男女もいたはずだ。
なのに、その日常はそこにはもうなかった。
誰もが泣いていた。
誰もがその手でもう助からない大切な誰かを、あるいはたまたまた居合わせた見知らぬ誰かを抱きしめていた。
「なんで…なにが…?」
死だ。
そこにあったのは夥しい死だ。
腕の中で妹の体温が徐々になくなっていく。
必死に抱きしめても、迫る結末は残酷だった。
「…置いてかないでよ」
「はは、兄貴。泣きすぎ。ウケる」
「うるさい、バカ。痛いくせに、笑うな。最後に嘘つくなよ…」
「いやなの?じゃあ、絶対泣いてあげない。嫌な方が記憶に残るもんね。…お兄ちゃんは生きてね。生きて、幸せになってね」
「やだ、やだよ…!一緒がいい…!」
「妹離れ、しなきゃだよ。愛してる、私のヒーロー」
飛行機に積まれた貨物が、科学由来のなにかだったらしい。
強烈な毒素が発生し、墜落事故の時点では生き残っていた人たちすら次々と絶命していく。
およそ人が輪郭と命を保っていられないその場所で、僕は見た。
片脚を失い、顔を爛れさせ、母の亡骸の前で泣き崩れる父を。
「父さん…?」
「ああ…神よ。どうして…!」
そして、父も僕も見た。
大きな破片に貫かれて息絶えた妹を抱きしめ、
悲嘆。
安堵。
そして、絶望。
気がつけば、僕は父に泣きながら首を絞められていた。
どうか死んでくれ、頼むから。
神様どうか、この子を殺してください。
ごめん。
うわ言のように、祈りながら首を絞める父。
『愛してる』
その言葉のせいで、なぜ?なんて単純な疑問すら浮かばずに、きっと僕は死ななくてはいけないのだ、そう受け入れた僕は意識を手放す。
天国で、また家族で笑えたらいいな、なんて思っていたのに。
あんな事言われたあとだから妹に怒られるかも、なんて気恥ずかしさすら覚えていたのに。
「───よぉ、お目覚めのようだな」
囚われた闇の中で、嘲笑うかのように口元を歪ませる銀髪の鬼が僕を見下ろしていた。
どうやら僕は、地獄に落ちたらしい。
暗闇で希望に向かってもがく話です。
暗い話ですが、ハッピーエンドに向かって突き進むので、エンディングまで読むのをやめるんじゃねえぞ…。