米花町でちんちん出したら逮捕された件について。   作:ひつまぶし太郎

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カーディナル。
カクテル言葉は、優しい嘘。
あるいは、一番の大嘘つきは誰なのかという話。


カーディナルは去り際に。

 

 

鬼、改め。

そのいかにも悪そうな男は、本当に悪い男らしい。

なんという頭の悪い状況分析。

テストなら赤点間違いなしだ。

 

それでも、生存の為になら必要最低限な情報でまとめられているので百点。

僕ってば超天才。

 

「ごぼっ…おげぇ…ゴホッ!」

「おら立て、まだまだこんなもんじゃねえぞ」

 

痛い、じゃない、思考を止めるな。

なんだっけ、僕が天才って話だっけ。

苦しい、カット。

そりゃそうだ。なんせ、僕、は。

嘔吐感、カット。

出血は止められないが、感情をコントロールしろ。

自分を騙せ。

カット、カット、カット。

イメージはトイレの電灯のスイッチ。

一つ一つ、落とせばいい。

切ればなくなるのは人間の感覚と一緒だ。

 

「へっちゃら」

「そうかよ、便利な頭してて助かるぜ」

「どうもありがとう」

 

褒めてねえよ、そんな言葉とともに蹴りが体に突き刺さり。

僕は大きく後ろに飛ぶことで衝撃を殺す。

壁にぶつかるよりも早く受け身を取って、跳ぶ。

皮肉なことに、どれだけこの訓練が嫌だと思っていても身体は教わったことを忠実に再現する。

お陰様で、シームレスに感情抜きで暴力を振るえるようになった。

全然嬉しくない。

それのせいで、いつぞやだっていじめっ子に睨まれることになったのだからほんと勘弁って感じ。

 

「切るだけじゃねえ。無理矢理繋げて、溢れさせられるようになれ」

「意味、わからん!」

「なら身体で覚えろ」

 

カット。

カットして、繋げる。

失敗。

カット。

カットして、繋げる。

また失敗、カット。

カットして、繋げて、溢れて。

 

出来たと思ったときに、僕は気がつく。

自分の輪郭がないことに。

ドロドロと溶けて、壊れて。

 

いったい僕は、誰だっけ───?

 

 

 

 

グラサンの男改め、ウォッカ。

ウォッカは眼の前でピクリとも動かない子どもの身体を雑に持ち上げる。

 

最初こそ死んだかもしれない、なんて心配をしたものだが、慣れた今はそんなものもない。

このガキは丈夫だ。

身体もそうだが、何より心の強さが普通の子どもを逸脱している。

こんなのが一般家庭出身だというのだから世の中わからない。

ウォッカは、哀れみと同時に恐ろしさすら感じていた。

あるいは、このガキが全てを懸けて組織に噛みついてきた時、組織は無事では済まないかもしれない。

そんなわらえない冗談は口にせずに、一つの疑問を兄貴へと投げかける。

 

「しかし兄貴、このガキのことをどうしたいんで?」

「さて、な。このガキがただの林檎で終わるか、猟犬になるか。それを決めるのはこいつだ」

「は、はぁ…」

 

よくわからない。

思えば最初からそうだ。

そもそも兄貴が子どもを拾ってくるというのがまずおかしい。

 

だが、あの方のお気に入りであるベルモットも気にしていないようだし、何より眼の前の男が無駄なことはしないことも知っていた。

 

哀れだと思う。

よりにもよって、兄貴に目をつけられたこのガキの末路は、きっとろくなものにはならないだろう。

その恐ろしさを誰よりも近くで見てきたからこそそう思う。

 

兄貴は自分の寝室へと向い、ウォッカは子どもを部屋につれていくため歩き出す。

部屋というか、階段下の物置に雑にベットが置かれているだけのスペースなのだが。

あれは部屋と呼んでいいのか?なんて考えるウォッカに話しかける人物がいた。

 

「ハーイ、元気してた?…って、なによ。子犬、寝ちゃってるじゃない」

「あんた…こんな時間にわざわざこいつに会いに来たんですかい?」

「ええ、そう。私、犬って結構好きだから」

「へぇ…そりゃ、ファンが喜びそうだ」

「でも、寝てるならいいわ。これ、起きたらあの子に渡しといて」

「へ、へい…」

 

ぽい、とその女から渡されたのは首輪だ。

こりゃ兄貴への挑発か、なんて邪推がよぎるが、とりあえず黙って受け取る。

 

ろくなやつに好かれねえな、このガキ。

やっぱり末路は暗いな。

 

ウォッカはため息をつきながら、子どもを部屋まで連れて行くのだった。

 

「…やっぱこれが部屋は無理ありますぜ兄貴…適応してるガキもガキだ」

 

 

 

 

なんか昨日の夜、悪口言われてた気がしてきたな…。

 

「聞いてる?」

「超聞いてる」

「………」

「…ほんとはあの雲うんこみてぇだなって思ってました」

「あなたねぇ…今日は快晴で、()()()()()()()

 

お昼休み。

毎晩繰り返される保護者との熱烈なコミュニケーションと学校での日常の齟齬に酔いそうになっていたら、しーちゃんが怪訝そうな顔でこちらを覗き込んできた。

無言の圧に負けて、適当にはぐらかすと彼女は呆れたようにため息をつく。

 

全く本当に。

この子は私がいないとダメなんだから、みたいな。

そんな優越感が見えたけど、いつものことなので僕は何も言わない。

というか現在進行形で彼女の手作りサンドウィッチをお腹におさめたのに、どうして口答えできようか。

 

「はぁ、それで。本当なんでしょうね」

「あー昨日の話?あれなら、本当」

 

僕は口ではつんけんしながらも、少し怯えたようにこちらを見上げるしーちゃんに向かって笑った。

 

「逃避行しよう。僕はどこまでだって一緒に行くよ」

 

きっかけは、しーちゃんのこぼしたここから逃げ出したいという呟き。

 

『ここではない何処かへ』

 

きっとそれは本当にたまたま溢れただけの本音。

とは言え僕としても家での環境を思い返せば、別に特に思い入れもないわけで。

いや、むしろ5年も我慢してた僕がおかしいのか。

階段下の物置に押し込まれて、たまに帰ってきたと思ったら暴力。

いや、本人曰く牙を研ぐための必要な訓練らしいけど。

どんなバイオレンス想像してんだ。

やめろ、巻き込むな。

そして、何度も立ち上がる僕を見て男は嗤うのだ。

なんだこら、こちとら都合のいいセフレとちゃうぞ。

欲求不満に付き合わされるこっちの身にもなれ。

 

「あなたなら」

「うん」

 

彼女は躊躇いがちに、縋るように僕を見ている。

 

「地獄の果てまでついてきてくれる?」

「もちろん。地獄行きのチケットならもうもってるからね」

 

なんとなく。

本当になんとなくだけど。

この可愛い友人のためなら、地獄に行ってもいいなと思った。

 

「キスしていい?」

「ダメ」

「えー…」

「でも、そうね。…いいわ。逃げ切れたら、してあげる」

「まじか、めっちゃ頑張ろ」

 

それくらい、僕の言葉に安堵した彼女の笑顔は綺麗だった。

 

 

 

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