米花町でちんちん出したら逮捕された件について。   作:ひつまぶし太郎

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シャンディーガフ。
カクテル言葉は、無駄なこと。
あるいは、ここではない何処かへ焦がれた話。


シャンディーガフが飲み足りない。

 

 

逃げることで得られるものがあるなら逃げればいい。

でも、逃げることが最善になる時は、得てして状況は最悪なことが多い。

だから立ち向かうべきだ、なんてとても口が割けても言えないけれど。

 

逃げる以外の選択肢は用意しておくべきだ。

 

「…いや、野菜は残らず食べなさい」

「えー…にんじん嫌い。あとなんか全体的にしゃらくさくて食欲が失せる」

「これ、一流シェフが作ったフレンチよ?何が不満なのかしら…」

「一流って言葉も嫌い」

「もう、好き嫌いしないの!」

「お母さんごっこ楽しくていいたいだけでしょそれ」

「…ふふっ、否定はしないわ」

 

夜。

たまにあるうちの保護者が、なんの気まぐれか知り合いに僕の世話を頼む日。

まるで他の日は自分が世話をしてるかのような言い方をしてしまったけど、基本放置だ。

適当にコンビニかピザ屋で食事を済ませている。

…ネグレクトか?

 

でも、眼の前で妖艶に微笑む女性との夕食よりはマシかも知れない。

なんかフレンチの一流シェフを誑し込んで作らせたというケータリングの数々を前に、マシとか言うのは失礼かもしれないけど。

 

「あなたは銀の弾丸にはなれない」

「いやもう百回くらい聞いたよそれ」

「だから好きなのよ」

「嬉しくないなぁ」

 

なんでこの人、僕の自尊心のことやたらと削ってくるんだろうか。

それもめっちゃいい笑顔で。

 

「でもいつか、あなただけの輝きが見れる日も来るのかしら。…その時は一晩くらいなら一緒に寝てあげる」

「知らないしいらない。というか添い寝て。別にそんな年じゃないんだけど…」

「…え?…ぶふっ、あはは!添い寝…添い寝ね?ええ、そうよね。あなたまだ子どもだもの。そりゃ知らないか。ふふっ、なら子守唄もつけてあげる。…って、こら。さり気なく私の皿ににんじんを移すのはやめなさい」

 

 

 

 

しーちゃんが見つけたある女の人の嫌がらせのせいで不快な気分になり、挙げ句嫌な思い出も蘇ったけど、とりあえずそれは置いておこう。

バスに揺られる僕らは、意外と色んな人に話しかけられた。

近所のおばちゃんとか、おじさんとか。

知らない人まで話しかけてくる。

 

お嬢ちゃんたち、学校は?

デートです。

坊主、おしゃれしてるな?

デートです。

その年でデートなんだって?

デートです。

 

僕がデートですって言うたびにしーちゃんに耳を引っ張られるけど、むしろそれが楽しくてわざとデートって言ってる節があったのは否めない。

僕の友人って本当可愛い。

 

「あ、見て見て。あの爺さん鳩にたかられてる」

「そう…」

「なに?お腹へったの?カエルチョコ食べる?」

「…いらない。あなたこそよく食べれるわね。それ、さっき見ず知らずの大人にもらったものでしょう?」

 

ふーん、そんなもんかね。

僕、タダで貰えるものはなんでももらってきたんだけど。

とりあえず、見知らぬおじさんに貰った映画のパチモンのチョコを口にする。

 

そのチョコに、僕は目を見開いた。

 

「…うえ!これ本物のカエルじゃん!あのおっさん適当な仕事しやがって!」

「ちょ、バカ!吐き出しなさい!」

「んぐ、らだ(やだ)。きちょうなおはん(ごはん)

「ペッ、しなさいっ!しなさいってば!」

「べー、もう食べちゃったもんね」

「あなたねぇ!?」

「ちょ、ぐびがじまって」

 

ようやく笑った。

そんな感想よりも息が苦しい。

 

「ギブギブギブ!」

「ああもうほら、バスを降りる!どっか公園で口ゆすがないと…!」

「あははっ」

 

行こうと思えばもっと遠くに行けたけど、バスを降りた。

僕達の逃避行はゆっくりと、丁寧に。

その足跡わざと砂浜に残すように、一歩ずつ進んでいった。

 

 

 

 

「…しーちゃんならお花摘みに行ってるぜ…って言っても知ってるか。ちなみにあんたが足を向けようとしてるそっち女子トイレだけど?」

 

しーちゃんは今、側にはいない。

僕が陣取る場所の背後にあるトイレに入っている。

 

そして、眼の前には黒尽くめの男。

その男は帽子を目深に被り、女子トイレの方をやばい目つきで眺めている。

 

「…ガキが、どうなってやがる…!」

「なにが?カエルの毒の話?」

「とぼけやがって!」

「いや、ほんとに。心当たりが多くってさ。例えばバスに乗る前にあんたが仕掛けた手榴弾回収したことだとか、例えばバスの運転手がグルだったけど人が集まってきたせいで何もできなかったことだとか、カエル僕に食われて何も起こらなかったことだとか…具体的に言ってもらわないと」

「もういい…死ね!」

 

怒り心頭って感じの男が、僕に向かって飛びかかってくるが、走り出した直後足を取られたように前につんのめる。

 

「ぁあ!?」

 

紐にカラビナを使った簡単な罠。

家出グッズ大活躍だ。

さらに追い打ちをかけるように顔面に赤色のスプレーをぶっかけ、石をくくりつけた靴で顎を蹴り上げた。

 

「づぅぁ゛……!」

 

ぐしゃり、と骨が砕ける音ともに男が崩れ落ちたので、その男を僕は池に向かって蹴り落とす。

直後、背後から振り下ろされた鉄パイプを既のところで躱し、逆に男の足に石を叩きつけた。

 

「ぎゃぁ!」

「うわ、唾かかった!きったねぇ…!」

 

パキャっという軽い音と、男のうめき声を聞く前に無理矢理腕を掴んで池の中へ投げ飛ばす。

受け身も取れずに背中を叩きつけられた男の脳天に石付きの足を振り下ろしたことでこちらも無力化。

 

「あー肩外れた…最悪…」

 

来るとわかっていてもヒヤヒヤする。

とはいえ、うちの保護者のお陰で並の相手じゃもはやそうそう遅れは取らない。

そういう意味じゃ感謝しなくてはならないのだろう。

 

「でも絶対頭下げてやんねぇ」

「そうかよ、なら無理矢理にでも下げさせてやるよ!」

「あぶな!っていうか多!?」

 

咄嗟に地面に伏せたことで事なきを得たが、サイレンサー付きとは言え普通に銃ぶっ放してきやがった。

目線を上げれば、人相の悪い男たちが1ダースほど立っている。

自分の眉間に拳銃の照準が定められるのを眺めながら、僕は現実逃避気味に思わず笑った。

 

「あはは…あのさ、タイマン勝負とかにまからないかな…一人ずつ勝ち抜きで」

「おもしれぇ事いうな、坊主。言いたいことはそれで全部か?」

「…とりあえず立っていい?」

「好きにしな。ちょっとでも動けば引き金を引くがな」

「わ、わーい…やさしーなぁ…」

 

にこり、と地面に伏せたまま笑う僕。

にこり、と拳銃を構えたまま嗤う男たち。

 

拳銃の照準はこの間も僕の眉間からまったく動いていないのが答えだろう。

…仕方ない。

僕は、石をくくりつけていたのとは反対側の足を思いっきり振り上げることで、裾に仕込んでいた手榴弾を放り投げる。

 

「ちょ、おま…!」

「パイナップル抽選会!なんと当選者には大火傷をプレゼント!!」

 

僕は動揺した男たちの隙を逃さずに、そのまま池に飛び込む。

 

───爆発。

 

僕と男たちによる、命懸けの追いかけっこが始まった。

 

「舐めんじゃねぇぞコラー!」

「ザッケンナコラー!」

「ッスゾコラー!」

「やばいやばいやばい!全然元気じゃん!?」

 

逃げる以外の選択肢?

ねーよそんなもん!

 




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