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魔法が蔓延る現代、剣や弓、盾などの武器や防具は全て廃れ、武力は魔法のみとなっていた。人々は魔法を学び、そして魔法とともに生活をする。
そんな中、その魔法を極めた魔女達が、東西南北それぞれに勢力を拡大させていた。その者たちは魔女の『四権』と呼ばれ、カルト的とも言えるほどの信仰を集めている。そしてその勢力を使った領土争いが、各地で絶えず続いていた。
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「魔女様、魔女様」
そそっかしい弟子の声でいつも起こされる。まだ朝も早いじゃないか。魔法時計が11時を示そうとしているのが薄目に見えて私は寝たフリを続けた。私は夜型なんだ。朝早くから行動するなんて、魔女のやることではない。
「もー、起きてくださいよーっ!」
だが毎日の繰り返しで鬱憤が溜まっていたらしい。そいつはやかましい声と同時に小さな『火の魔法』を私に向かって放った。
「熱っ! 何しやがる!」
「だって、魔女様が起きないから! …じゃなくて、これを見てください」
弟子は薄汚い紙切れを1枚私に見せびらかすと、それはどうやら私宛の郵便物のようで、内容を要約するとそれは、魔法裁判への出頭依頼だった。
「えー、またかぁ」
魔法裁判…魔法が一般人にまで浸透した現代に、魔法を使った犯罪を裁く為の場。私達魔女はいわば魔法のプロフェッショナル。その観点から、しばしば裁判へ出頭し罪人を公正に裁くことについて、意見を求められるのだ。何も、私自身が裁かれに行くのでは決してない。
そもそも私達魔女は法律により、一般人とは比べ物にならない数の魔法の使用を許可されている。そしてその中には、一般人は使うだけで死刑になるレベルの魔法もある。まあ、いわば魔女というのは資格のようなもので、これがなければ、日常生活で使うようなほんの小さな魔法しか使うことは許されない。先の弟子が使ったような小さな火の魔法ですら、一般人には使用が制限される。
「開廷まで、あと30分しかないんですよ! 『天秤』の名を持つ魔女が、裁判に遅れるなんて…」
こいつは本当に声がデカい。その口にカエルの干物を詰め込んでやってしばし黙らせる。
『天秤』の称号は何も私が名付けた訳では無い。『四権』などというくだらん肩書きも誰かが勝手に付けたものだ。ただ私は、他の魔女より"比較的"温厚で、中立の立場である為に付いた、いわばあだ名のようなものだ。
「んなもん別に、テレポートでもなんでもすりゃいい話じゃないの」
私は最近伸ばしっぱなしで切ってない髪を、少々雑に後ろで結んだ。その間弟子がローブやら書類やらを用意するが、別にこんなもの引き寄せれば自分でも取れるのにな、と内心思う。だが唯一、私の好物のプラムの砂糖煮を、毎朝用意していることだけは褒めてもいいだろう。私はそれを1つ口に放り込んで、目の前に作り出した次元空間へと足を踏み入れる。
「じゃ、留守番よろしく〜」
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『王立中央魔法裁判所』…通称"王裁"。各地の村や街にある裁判所の総括にあたる、一番大きな裁判所だ。地方の裁判所から流れて来た被告人達を裁く、最後の場となっている。
裁判所の中は、病院の中のような辛気臭い香りが充満している。周りを見るといかにも真面目そうな顔の奴ばかりで、私はここが本当に嫌いでさっさと帰りたいくらいだった。
「おい、あれセーラか?」
「本当だ、『天秤』の…初めて見た」
人々の噂する声が聞こえる。そしてその話題の中心はどうやら私らしかった。ひとたび外に出る度、会う人会う人にこうして噂されるのももう慣れた。
セーラ、それが私の名だ。東の魔女と言ってまず名が挙がるのが、何を隠そうこの私だった。私は東の地を治めつつも、程々に弟子を取りながら(何故か勝手に弟子を名乗っている奴もいるが)、こうして日々のほとんどは裁判のような雑用ばかりをこなしている。
「お」
法廷へ入ると久々に見る顔がいて、思わず声が上がってしまった。真っ黒なボブヘアを、ばっさりと横一文字に切ったような髪型の小柄な女性。北を治める魔女、『石版』の名を持つプロトの姿がそこにあった。
(珍しい面子…今日のは重そうだな)
久しくその顔を見ていなかったので忘れていたが、プロトはその称号通り、"歩く石版"とも言われるほどの知識人だ。魔女の中では一番と言っていいほど、魔法や法律への知識も豊富で、その彼女が呼ばれるということは、今回の裁判が複雑なものになると予想されているということだ。
「それでは開廷致します。被告人、前へ」
裁判長が声を上げると、被告人が前へ出てきて本人の確認をされる。その後裁判長は、つらつらと流れるよつに罪状を朗読していった。
今回のケースは、一般人が魔法を使い人を殺めたというもの。ただし、使用が禁止されるような危険な魔法ではない。聞く限りだと、物を引き寄せる魔法を使った際、誤って人に向けて魔法を使用してしまい、錯乱した被害者は転んで階段から転落。そのまま死亡した、という事例だった。
「北の魔女、プロト。これを踏まえ、刑期の宣告を」
裁判長がプロトへと向くと、彼女もまた表情を1つも変えず、分厚い本を取り出して口を開いた。
「はい。被告人は直接人を殺めたことにあらず、落ち度は少ないと言えます。但し人に向けて魔法を使用することは魔女以外禁止されており、周囲の確認を怠ったことは被告人の落ち度となります。つきましては…」
プロトの長ったらしい話を聞いていると眠くなってくる。これ私、来た意味ないんじゃないのか? こんなことならばっくれて、家でそのまま寝とけばよかった。そんなことを思ってうとうとしていると、裁判はいつの間にか終わっていた。やはり私の出番はなかったようだ、と胸を撫で下ろし法廷を後にしようとすると、後ろから声が掛かった。
「セーラ」
後ろから冷たい刃で刺されるような、透き通った真っ直ぐな声。先程から散々聞いていた、プロトの声だった。
「あ、プロト。見事な演説だったよ。その…物知りだね」
「無理しなくていい。どうせ寝てたでしょ」
「えー? 人聞き悪いなあ。てか、私呼ばれたのに出番なかったし。むしろ同情して欲しいよね」
プロトは私の冗談にふっ、と鼻で笑いながらも、次の瞬間には真剣な顔になり私へと向き直った。
「セーラ、気をつけた方がいい。最近、南の魔女が何やら企んでる。近々何かのタイミングで攻撃を仕掛けてくるかもしれない」
プロトが憂いていたのは、南の魔女、『車輪』の名を持つアルタについてだった。アルタは四権の魔女の中でも気性が荒く、ちょくちょく他の魔女ならず、村や街に出向いては悪さをすることで有名だ。私達にとっては日常の話だから何とも思っていなかったが、最近輪にかけてその度合いが酷くなっているらしい。その為、私達魔女への攻撃も激化するのではないか、というのがプロトの目算だ。
「またアルタかぁ…まあ、あの子ならやりかねないかもね。ありがと、気をつけとくよ」
プロトはそれ以上何も言わず、軽く手を振るとそのままあっという間に姿を消してしまう。相変わらず、魔法の練度もピカイチだ。私もさっさと戻ろう。こんな場所、他に用もない。そう思ってまた次元空間を作り出し足を踏み入れ、家へと戻る。するとまたけたたましい声が聞こえてきた。
「魔女様おかえりなさい! お昼ご飯出来てますよ!」
相変わらずバカみたいに元気な弟子だ。うるさいし、やかましくもあるが、私にはこいつを一人前の魔女にする役目がある。
「ミラ、良く聞いて」
小柄で元気の良い茶髪の少女、弟子のミラは、はい! とまた威勢の良い返事を返してきた。だから私も彼女の目を真っ直ぐ見て伝える。
「今すぐここを出るよ」